ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

委員長と白百合 2

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kawauson

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委員長と白百合2


 三時間目は技術の時間だった。
 少し早めに終わって教室に戻ってきたのだが、どうもクラスの男子全体の様子がおかしい。
 やたらとそわそわしている。
「何だって言うんだ……?」
「そりゃあれだよ。女子の手作りクッキーを待ちわびてるんだよ」
「うお! 長岡!」
 本当にコイツはどこから湧いてくるんだろう。
「手作りクッキーって何だよ?」
「男子が技術の時間だったら女子は家庭の時間だろ? 今日の授業はクッキーを作るって話だった」
「そうなのか……」
「それで、クラスの男子は、気になる女の子のクッキーゲットを目指してるのだよ」
 なるほど、それでこの浮ついた雰囲気か。
 普段何でもない顔で過ごしてても、やっぱりみんなそれぞれ気になる子はいるようだ。
「稔は誰のクッキーを食べたいと思う?」
「俺は別に……そういうお前はどうなんだよ」
「俺はおっぱいしか興味ないよ」
「そ、そうか」
 何だろう。
 まったく尊敬できない言葉なのに、他の男子の浮ついた雰囲気の中で超然としている長岡を、少し尊敬してしまった。
 そうこうしているうちに、女子が授業から戻ってきた。
 各々の手に、可愛らしい紙の袋を持っている。
 いつにも増して騒がしい休み時間になった。
 ざわめくクラスを見ていると、隣の席に委員長が戻ってきた。
 クッキーの入った紙袋が机の上に置かれる。
 委員長が気になるとかそういうわけでもないが、つい目が行ってしまった。

「委員長……そのクッキーさ」
「はい?」
「いや、もしよかったら、食べてみたいなー、なんて……」
「ごめんなさいね」
 答えたのは委員長ではなかった。
 いつの間に来たのか、白水さんが委員長の席の脇に立っていた。
「あ……りぃちゃん、こんにちわ」
「こんにちわ、百合。朝も可愛いかったけど、昼も可愛いわね」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
 戸惑いながら、委員長は白水に礼をする。
「お礼なんかしないでちょうだい。わたくしは見たままを言っただけだもの」
「は、はあ……」
「白水、どうしてここに……? というか、ごめんなさいって……?」
「どうしてここに居るかというと、理由は一つね」
 白水は委員長の机に置かれていた紙袋を、慈しむように手に持ち、にこりと笑った。
「百合の作ったクッキーを持ち帰るためよ」
「りぃちゃん、昼休みに持っていく約束ではありませんでしたっけ?」
「ふふ、待ちきれなかったのよ」
 白水はクッキーの袋に頬擦りをする。
 うっとりとした目をして、時折香りをかいだりもした。
「う、嬉しそうだね」
「え? あ……ほほほ……ちょっと我を忘れてしまったわね」
 コホン、と小さく咳をする。
 白水は居住まいを正して、こちらに向かって頭を下げた。

「ごめんなさいというのは、こういうこと。百合のクッキーはわたくしがもらうって、ずっと前から約束していたのよ」
「そうなのか」
「ええ、恨まないでちょうだいね」
 一つ二つ分けてくれても良さそうなものだが、委員長のクッキーを手にした白水の喜びようは相当なものだ。
 普段の凛とした雰囲気はどこかへいって、今にも跳ねだしそうな様子である。
 余程楽しみにしていたに違いない。
「白水は、本当に委員長が好きなんだな」
「え、あ……ま、まあね」
 当然よ、などといつものように言うかと思ったら、白水は妙にもごもごとしてしまった。
 微妙に頬を赤らめながら、委員長の顔をちらちらと見ていたりする。
 よくわからないけど、照れてるんだろうか。
「わたくしは、百合が大好きよ……百合は……大切な親友だもの」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、嬉しいです」
 どこか歯切れ悪く白水に、委員長は丁寧にお礼を言った。
 白水はまだ何か言おうとしたが、言葉にならず、授業開始の鐘が鳴ってしまった。
「……それじゃあ。百合、また昼休みに会いましょうね」
 手を振って、白水は教室を出て行く。
 以前も思ったが、委員長と白水は、本当に仲が良いのだろう。
 さすがにあの嬉しそうな白水に、クッキーを分けてくれとは言い出せなかった。
「委員長のクッキーは失われてしまったか……」
 呟いた俺に、委員長が声をかけてきた。
「藤宮君、クッキーが食べたかったんですか?」
「あ、いや、食べたかったけど……先約があったなら仕方ないし、気にしないでくれ」
「いえ、まだありますよ?」
「え?」
 委員長はごそごそと、スカートのポケットから紙袋を取り出す。
 袋の大きさはさっきのより小ぶりだが、クッキーの香ばしい香りがした。

「え? あれ? 何で?」
「恥ずかしながら、あまり上手く作れなくて……何度も作り直したんですよ。それで、皆さんよりずっとたくさんの出来上がりになってしまいました」
「そ、そうなんだ」
「よろしければどうぞ」
「ありがとう……嬉しいよ」
「喜んでもらえて幸いです」
 早速袋を開けて口に入れる。
「あ……」
 委員長が何か口を開きかけた。
 ――と思ったら俺は思い切り咳き込んでしまっていた。
「ぐっ! ごほっ! ごほっ!」
「ご、ごめんなさい……! あまり美味しくないから、覚悟を決めて食べた方がいいと言おうとしたのですが……」
「あ、いや、そんな。結構いけるよ」
「ありがとうございます。でも、無理はしない方がいいですよ」
 確かに、上手く作れなくて何度も作り直したというからには、味の方は覚悟しておくべきだったのかもしれない。
 食べられなくはないが、表現しがたい凄い味だ。
 結局俺は、クッキーを三つほど食べて、後は家で食べると言って鞄に入れた。
「すみません……本当に」
 そう、委員長は謝ってきたけれど、この場合謝るべきは俺の方なのだろう。
 ごめん、委員長。

 昼休み、弁当を食べ終えて購買に行く途中で中庭を見ると、いつものようにベンチに並んで座っている委員長と白水の姿があった。
「あ……あれは……」
 白水の膝の上には、例のクッキーの袋が置かれている。
 そこから摘み取って、白水はクッキーを食べていた。
 白水は満面の笑みを浮かべていた。
 咳き込みもしない、三個目で挫折するということもない。
 本当に嬉しそうに、委員長の作ったクッキーを食べていた。
「あの、りぃちゃん……無理はしない方がいいですよ」
「無理って、何がかしら?」
「あまり美味しくないでしょう」
「確かにちょっと変わった味だけど、最高に美味しいわよ。百合が一生懸命作ったクッキーだもの」
 寒空の下、白水は委員長に身を寄せて、幸せそうにクッキーを頬張っていた。
「……何か、負けた気分だぞ」
 何に負けたかはよくわからない。
 けど、無性に委員長のクッキーが食べたくなった。
 購買に行くのはやめて、そのまま教室に戻った。



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