ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

委員長と凜々

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kawauson

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委員長と凜々


 ようやく昼休みになった。
 ただ机の前に座って話を聞いてるだけなのに腹が空くんだから、人間ってのは不思議だ。
 弁当を取り出して机の上に置く。
「あ……」
 いかん、水筒を忘れた。
 んーむ、温かい紅茶を飲みながらの昼食がまた乙なのになあ。
 仕方なく、購買に適当に飲み物を買いに行くことにした。
「あ、そうだ、委員長……」
 隣の席の委員長に声をかける……が、委員長の姿は既にそこにはなかった。
「あれ? 委員長は?」
「ああ、さっき教室から出てったけど」
「ふーん」
 そういえば委員長、いつも昼休みは教室に居ない気がするな。
 この前付き合ってもらったお礼に、飲み物をおごろうかと思ったんだけど……。
 さすがにクレープ一個だけというのもなんだし……。
「まあ居ないものは仕方ないか……」
 教室を出て、購買に向かう。
 渡り廊下を歩いているとき、ふと中庭の方を見ると、委員長の姿が見えた。
「あれ? 委員長?」
 委員長は中庭のベンチに座り、膝の上にお弁当を広げていた。
 そして、その隣には、一人女子生徒が座っている。
 黒髪を横に結んで流した、少しきつい目つきの女の子だ。
「うちのクラスの子じゃないな……」
 ともかくも委員長を見つけたわけで、ちょっと急いで中庭に下りた。

「委員長!」
「あ、藤宮君」
「探したよ。気付いたら教室から居なくなってるんだもん」
「それでわざわざここまで……すみませんでした。何か用事ですか?」
「いや、用事っていうか、この前のお礼に、何か飲み物でもおごろうと思ったんだけど……」
 そこで、視線に気がついた。
 委員長の隣に座った女の子が、やたらときつい目で俺のことを見ていた。
 いや、これは、見ているというか睨んでるというか……。
 何だろう、俺、この子に何かしたことあったっけ?
「百合、この男は誰かしら?」
 うん、それを聞いてるということは、俺とこの子は初対面だよな。
 何で俺、こんなに睨まれてるんだろう。
「凛々さん、この人は、私の隣の席の人ですよ。藤宮稔君です」
「ふーん……隣の人ねえ……」
「は、初めまして。藤宮です」
「百合の大親友の白水凜々よ」
 大親友とは凄い言葉だな。
「で、隣の人が何しに来たのよ。これから百合は私と昼食をとるのだけれど?」
「いや、だから、委員長にこの前の放課後付き合ってもらったお礼をしに……」
「付き合ってもらった……ですって?」
 白水さんはきりきりと眉を吊り上げたかと思うと、突如俺の襟首を掴んできた。
「ちょ……苦し……!」
「あなた……百合が断らないのをいいことに、百合に不純異性交遊の強制を……!」
「いや、違う! 違うって! ただ放課後一緒に本屋に行くのを頼んだだけで……」
「それが不純だというのよ!!」
「うお!」
 視界が回転して、背中に強い衝撃を感じる。
 呼吸が一瞬できなくなった。

 何が何だかわからんが、どうやら投げられたらしい。
 痛みと苦しみに、地面の上で悶えてしまった。
「ちょ、俺が一体何を……」
「お前のような薄汚い男と出歩かされるなんて……百合がどれほどの苦痛を味わったか、わからないの!?」
「わからねえよ!」
 白水は苦しむ俺は完全無視で、委員長の頬に手を当て、心の底から心配する声で尋ねた。
「百合、大丈夫? あの男に何か変なことをされなかった?」
「え、ええ。大丈夫でしたよ。それに、そんな苦痛というものは……クレープをご馳走になりましたし」
「百合、人が良すぎるわよ。男は生殖行為のことしか考えていない、鬼畜の集まりなんだから。クレープごときで心を許しちゃダメ」
「鬼畜……ですか。でも、本当に本屋さんに行っただけでしたよ?」
「無理してない? あの男に何か変なことをされて、口止めされているんじゃないの?」
「いえ、藤宮君は紳士でしたよ」
 ようやく呼吸がまともにできるようになり、俺はふらつきながら立ち上がった。
「ほら……委員長も言ってるだろう? 俺は何もやましいことはしていない。謝ってもらおうか」
「あ……でも……」
 委員長は唇に指先を当て、にこりと笑った。
「カップル喫茶に行こうと言われましたね」
 ちょ……!
 それを今言いますか!?
「ま、待て! それは……」
「死ね」
 白水の目がギラリと光った。
「いえ、でも、冗談だったんですよ……あら?」
 委員長が言葉を言い終えるまでのほんの数秒の間で、俺はボコボコにのされていた。
「ふ、藤宮君、大丈夫ですか? 凜々さん、さすがにこれは……」
「ごめんね……私、我を忘れてしまって……」
「いや、俺に謝れよ……」
 白水はまた鋭い目で俺を睨んできた。

 俺の血がついた拳が固く握られている。
 エスパーではないが、消えろと言われているのがわかった。
「……いや、その、委員長、また後で」
「はい、また後で」
 俺はすごすごと中庭を後にした。
 一体何なんだ、あの自称大親友は。
 委員長の友人とは思えない苛烈さだった。
 いや、美人だったけど……。
 また渡り廊下から中庭を見ると、二人はベンチに並んで座って弁当を食べていた。
「ねえ百合、私が食べさせてあげるから、口を開けて。ほら、あーん」
「え、あの……自分で食べられますから」
「……あのね、百合。この前お爺様がお倒れになられて、ひょっとしたら私が食事の介助をしなければならないかもしれないのよ」
「まあ、そうなんですか?」
「でも私、そういった経験がないから不安で……できればここでその練習をしておきたいのよ」
「そうですか……そういうことでしたら。あーん……」
「はい、どうぞ。美味しい、百合?」
「ええ、とても美味しいですよ」
「その……介助される側の気持ちもわからないといけないし……今度は私に食べさせてくれるかしら」
「ええ、いいですよ」
 白水は委員長にお弁当を食べさせてあげたり、食べさせてもらったりして、満面の笑みを浮かべていた。
「いずれにせよ……常人ではなさそうだな……」
 というか何であんなに強いんだ?
 殴られたところがずきずきと痛む。
 まあでも……委員長に仲の良い友達がいたのには、少し安心したかな。
 教室に戻って、口の中の傷の痛みに耐えながら、頑張って弁当を食べた。


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