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頼まれ委員長 2

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kawauson

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頼まれ委員長 2


 今日はまた一段と冷え込んでいる。
 窓の外には、どんよりと重たい雲から、この冬何度目かの雪が舞い降りていた。
「やれやれ……寒いなあ……」
 いつものごとく、昼食後に購買に走る。
 渡り廊下から見える校庭は、降り積もる雪に覆われて、一面真っ白な雪原となっていた。
「すごいな。どこまで積もるだろう……」
 雪が降ると、正直困ることの方が多いのだが、何故だか無性にわくわくしてしまう。
 誰も居ない校庭を眺めていると、視界の隅に、女子生徒が一人歩いているのが見えた。
 この雪の中だというのに、傘を差していない。
 遠目にだが、その後ろ姿が、委員長の三つ編みによく似て見えた。
「委員長が……こんな雪の日に外に?」
 委員長らしき女子生徒は、校庭と校舎の境を歩き、校舎裏に消えていった。
 さすがに気になって、後を追うことにした。
 傘を差さず、とりあえず靴だけ履いて、転ばないよう注意して走る。
 校舎裏につくと、白い雪の中にうずくまった、委員長の姿があった。
「委員長……!?」
 慌てて駆け寄ると、委員長はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「あれ? 藤宮君?」
「委員長! 大丈夫か!? どこか気持ち悪いのか!?」
「え? はあ……大丈夫ですけど」
 何をそんなに慌てているのかといった反応だ。
 しかし、雪の中に女の子がうずくまっていて、慌てるなという方が無理な話だ。
「いや、何か……様子がおかしかったからさ。具合でも悪くしたのかと……」
「ああ……ご心配おかけしてすいません。ちょっと、こちらを見ていたものですから」
「ん?」
 指差す先を見ると、委員長の体の陰になって、小さなダンボール箱が置かれていた。

 中には、一枚のぼろ布と、小さな皿。
 そして、一匹の子猫の姿があった。
 子猫は小さく身を丸めたまま、ぴくりとも動かずに居た。
「え……この猫……」
「生きていますよ。このままじゃ死ぬでしょうけど」
「……委員長が面倒見てるの?」
「いえ、違いますよ。私はこの猫を回収に来ただけです」
「回収?」
「はい。日向先生が、調査したいそうですよ。宇宙からの寄生体を宿している可能性があるとかで……」
「またか……」
 相変わらず妙なことを口走るお人だ。
「それで、この猫の回収を頼まれたわけです。先生は今、実験室で解剖の準備をしていますよ」
「あの人はまた……本気かよ」
「本気なんでしょうね」
 眉の端を下げて笑い、委員長は子猫を両の手でそっと抱き上げる。
 子猫は微かに体を動かし、小さな声で鳴いた。
「え、おい、委員長、まさかその猫、日向先生のところに持って行っちゃうのか?」
「はい。そのつもりですけど……」
「でもさ、連れて行ったら、その……殺されちゃうわけだろ? 日向先生に切り刻まれて」
「まあ、そうなりますね」
「可哀想だし、やめておかないか?」
「それはちょっと……無理ですね。頼まれましたから」
 言いながら、委員長は子猫をぼろ布でくるくると包みこむ。
 あまりにもあっさりとした答えだった。
「なあ、日向先生の変人趣味に付き合わされて死んじゃうなんて、さすがに酷いと思わないか?」
「私に言ってもどうしようもないことですから、そのあたりの抗議は、日向先生にお願いします」
 日向先生が言って聞くようなまっとうな人でないことは、重々承知している。
 俺は委員長に食い下がった。

「委員長、猫が逃げてたことにしても問題ないだろ」
「でも……頼まれたことですし」
「頼まれたから頼まれたからって……可哀想だとは思わないのかよ!」
 思わず大きな声を出してしまった。
 猫がそれほど好きというわけでもない。
 ただ、委員長の反応が余りに酷薄な気がして、それがどうにも気になった。
 委員長はしばらくきょとんとしていたが、やがて困ったように笑った。
「すみません……不快にさせてしまったようですね」
「いや、ごめん。興奮しちゃって」
「……この猫は、何人かの女子生徒が、冬休み明けからこの校舎裏で飼っていたものなんですよ」
「……」
「女子生徒たちは、持ち回りでこの子に餌をやることに決めて、毎日様子を見に来ていました」
「じゃあ、その子たちに引き取らせるべきだろ」
「でも、その女子生徒たちは、四日前から来ていないんですよ」
 気付いたら、委員長の肩にも、俺の肩にも、雪がうっすらと積もっていた。
「飽きてしまったんでしょうね」
「……そうかもな」
「愛されず、捨てられたこの子にとって、日向先生に使ってもらうことは、悪いことでは無いと思うんですよ」
「え? どう考えたらそうなるんだ?」
「このままでは、単なる無駄死にで終わっていたのが、日向先生の役に立って死ねるわけです。少なくとも日向先生には好いてもらって命を終えることができるでしょう?」
「それは……おかしいだろ。死んで好いてもらうよりかは、生きて好いてもらった方が、この猫には幸せだろうし」
「でも、この猫は、生きていても何の役にも立ちませんよ?」
 相変わらず、微笑を絶やさずに聞いてくる。
 冗談で言ってるのだろうか、それとも本気なのだろうか。

「委員長、今日は何だか……おかしいよ」
「そうですか?」
「役に立つ立たないじゃなくて、引き取り手が見つかれば、普通に可愛がってもらえるだろ」
「ああ……そうかも知れませんね」
「それでも、日向先生の頼みを断る気は起きないか?」
「そうですね……すみません」
 同じ人数なら先の頼み。
 一人よりかは二人の頼み。
 やはりそれが、委員長の考えなのだろう。
「じゃあさ、その猫を先生に渡した後で、先生に猫を返してもらうように一緒にお願いしてもらいたいって言ったら……聞いてもらえるかな」
「ええ。それでしたら、喜んで」
 委員長はにこりと笑って頷いた。
「……じゃあ、行こうか」
「はい」
 日向先生が説得できるかはわからないけど、やってみるしかないだろう。
 歩きながら、自然と体が震えてしまう。
 気付いたら結構な時間が経っていて、体はすっかりと冷えてしまっていた。


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