円周率はこれまで無理数であるとされてきたが,ある条件下においては有理数になることが,マサチューセッツ工科大学のオニオシダシ教授によって発見された.よく知られた定数に疑問を投げかけられた数学界に,衝撃が走った.(39面に関連記事)
円周率とは円の周と直径の長さの比のことで,その値3.14159265……は,近所の大人たちから神童などとおだてられて調子にのっている小学生を中心に,これまで長い間親しまれてきた.円周率はただ無理数なだけでなく,代数方程式の解にならない「超越数」であることがドイツの数学者リンデマンによって既に証明されているが(1882年),しかし今回の発見は,その証明に欠陥があることを浮き彫りにした.
円とは「ある定点Cからの距離が等しい点Pの集合」として定義される図形のこと.平面上の2点 , の距離は
と定義するのが一般的だが,数学では「距離の公理」を満たす関数は距離とみなしてよいため,その2点の距離を他の数式で定義することも可能である.そこで,平面上の2点 , の距離を
と定義してみると,Cを定点とし,Cからの距離が定数 r であるような点Pの集合は,一辺の長さが 2r の正方形となる.しかし見た目は正方形でも,この図形は円の定義を満たしているのである.そして,この図形の周の長さ 8r と直径 2r との比の値は 4 となり,無理数ではなくなる.
オニオシダシ教授によれば,「これはあくまで一例に過ぎない.距離の定義を変更すれば,円周率はさまざまな値を取り得る.」
そもそも円周率は,すべての円において円周の長さと直径の比が一定となることを前提として定義されているが,今回の発見は,今までの円周率の定義が Well-defined(=矛盾なく定義された状態)ではなかったことを明らかにした.もっとも基本的な図形の1つである円に関する定義が曖昧だったことを白日の目に晒された数学界はいま,蜂の巣をつついたような騒ぎになっている.しかし一方で「距離の定義を変更すれば値が異なるのは当然」という冷ややかな意見もあり,数学界の今後の動きが注目される.
また,前回の学習指導要領改定で「円周の長さを計算によって求めるときには円周率は3としてよい」としていた文部科学省では,次期改定にて円周率の値を4とすることを早くも検討し始めた模様.
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