ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話01

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nwxss

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少女は静かに暮らしたい


静かに暮らすこと。それが少女に与えられた使命だった。

日曜日。
全学園の生徒が一斉に休みになるこの日、学生たちが行きかう町並みを、少女は1人静かに歩いていた。
少女に友はいない。
この世界に無数にある“学園”の中ではごく普通、と言う評価の少女通う学園の中で、少女は孤独だった。
別段それを気に病んだことは無い。いなかったからと言って困ったことも無かったし、普通の女の子と慣れ合う気にもなれなかった。
以前は休みの日には時折図ったように現れる青年と約束し、出かけることもあったが、こちらに来てからはそれも無くなった。
…青年は“学生”では無かったから。

少女はただ静かに暮らしたかった。父に言われたとおりに。
だからこそ。
「も、モンスターだぁ!?」
街中に突如怪物が現れ。
「グハ…に、逃げろ…」
吹き飛ばされた極上生徒会の執行委員が息も絶え絶えに少女に声をかけ。
「ひゃっほう!女…女だぁ!」
少女が逃げられないよう怪物が結界を張った時。
「…はぁ」
1度だけ、溜息をついて見せた。

少女を取り巻くのは2mを超える“鬼”とそれよりは小柄な数体の“子鬼”たち。
「うまそうだ…」
「くっちまおうぜ…」
「右腕は俺のだ…」
「じゃあ俺は左脚を貰うぜ…」
子鬼たちが少女を取り囲み舌舐めずりをしながら誰がどこの部分を食らうかを算段する。
「おっと逃げようなんて思うなよ?」
「異界化させたぜ?逃げられねえよ」
「精々うまそうな悲鳴を上げて俺らに食われろよ?」
脅しの言葉を口にして少女をおびえさせようとする子鬼たちを、少女は冷めた目で見つめる。
「なんか喋れよ!」
「ぶるっちまったか?」
「助けを呼んでみちゃどうだ?誰も来ねえけどな!」
子鬼たちの言葉を聞き流しながら、少女は自らのやるべき行動を取った。
足もとに落ちていた剣(先ほどまで執行委員が使っていたものだ)を拾い上げ、構えたのだ。
「…!ひゃっほう!おもしれえじゃねえか!」
「馬鹿だろ?怖くておかしくなったのかい?」
「いいぜやってみブヒャ!?」
返答の代わりに放った一撃が瞬時に子鬼を絶命させる。
「こ、このアマ!?」
「よくもやりゲヒャ!?」
流れるように、もう1体。
「死、死ねよてめえ!」
ようやく事態を飲み込んだ子鬼が振り下ろした棍棒を半身をそらしたのみでかわす。
「な!?」
驚愕に目を見開いた子鬼が最後に見たもの。
それは眉間に迫りくる紅の混じった銀色の刃だった。
「…ウガァ!」
一拍遅れて振り下ろされた巨大な拳をバックステップでかわす。
その場に残された子鬼の死体が一瞬にして肉塊に変わる。まともに当たれば少女も同じ運命をたどるだろう。
だが、それを目にしてなお、少女の目は冷めたままだった。
「…モンスターと言っても、斬れば死ぬのね」
冷めた目のまま、ポツリとつぶやく。
少女のいた世界では、おとぎ話の中の存在にすぎなかった、モンスターと言う存在。
だが、それは大して恐ろしいものではない。少なくとも、今、この場にいる連中は。
これなら充分な訓練を積んだ傭兵辺りの方がよっぽど強いし、少女の“仲間”と比べればそれこそただ力が強いだけの木偶に過ぎない。
そう判断し、少女は終わらせるべく再び構えを取る。
「…プレシズ・ヘル」
呟くように技の名を口にし、剣と共に舞う。流れるような連続攻撃。それが終わった時。
「ガ…ガヴァ…」
切り刻まれた巨体の“鬼”が血泡を吐きながら倒れ伏し、淡く光る緑の液体へと変わる。
よく見れば先ほど少女が倒した子鬼たちも同様に緑の液体に変わっていた。

「…終わったみたいね」
辺りを包んでいた“異様な気配”が消えたのを確認し、少女は持っていた剣をその場に捨て、身を隠して、気配を断つ。
「おい!大丈夫か!?」
その直後、恐らくは執行委員の仲間であろう少年たちが倒れた少年に駆け寄る。
「あ、ああ…?確か俺は」
目を覚まし、状況が分からないと言うように辺りを見渡す少年。
「すげえじゃねえか!1人であいつら全部倒すなんて!」
「え?いや俺は確か…あれ?あの子は?あの、お下げの女の子」
「は?そんな子いないぞ?もしかして、頭でも打ったのか?」
「つうかひでえ怪我じゃねえか!よっし、すぐに運ぶぞ」
「おう!行くぜ」
「あ、おい…いてえ!?もっと優しく運べよ!」
慌ただしく去っていく少年たちを黙って見送ったのち、少女はそちらへと視線を向ける。悟られぬよう、さりげなく。
先ほどから感じる強烈な視線の正体をそれとなく確認する。野次馬に紛れた、その気配を。
そこに立っていたのは人ごみに紛れて立つ、やせぎすの少年。手には本くらいの大きさの箱を持っている。
ねっとりとした嫌な気配。かつて、少女の“仲間”であった、爆弾狂のテロリストを思い出し、少女はわずかに眉をひそめる。
その少年は事件が解決し、波が引くように去っていく野次馬にまぎれその場を立ち去っていった。
そして、再び平穏を取り戻した町並みの中で。
「…はぁ」
この学園世界の厄介事に巻き込まれたことを自覚した少女が2度目の溜息をついた。

少女はただ静かに暮らしたかった。
己が正体を悟られないように。
…いつか、転移前、少女のいたあの国が滅ぶ、その日まで。


「お呼びですか」
輝明学園。多くの“ウィザード”を抱えた学園の校長である荻原総一郎に呼ばれ、斉堂一狼ははせ参じた。
「うむ。1つ、おぬしに頼みたいことがあってな」
一狼の問いに重々しく頷いて、荻原は一郎に問う。
「…先頃のモンスター襲撃の件は知っているかの?」
「…は。何でも昨日は白昼、居住区に現れ、一般人生徒6名が軽傷、執行委員1名が重傷。そう、聞いております」
「うむ。それなんじゃがな…」
言いながら荻原は懐から1つの瓶を取り出し、置いて見せる。
中に入っているのは淡く光る、緑色の液体。
「これはな、現場に落ちておったモンスターの“残骸”じゃ」
「残骸…なるほど。かすかにプラーナを感じます」
じっと観察し、一狼はすぐにそれの本質をつかむ。これは相当量のプラーナを含んでいる。
「うむ。調べてみたところ、これはワシらの言うところの“魔石”に近いものらしい」
「魔石ですか?と、言う事は…」
「ああ、そのモンスターは本来“この世界にいてはならぬもの”と言うことじゃろうな」
“魔石”それは第8世界に顕現した“異形”が残す、プラーナの塊。
“常識ならざる存在”が第8世界に存在するのに必要なエネルギーの電池と言った類のものである。
「これだけでは無い。これまでのモンスターの襲撃でも何度か同じものが残されておった。
 …どれも人が多い場所、時間に起こった“襲撃”でばかりな」
「つまり…誰かが“召喚”している可能性がある、と?」
「ワシはそうにらんでおる」
クリスマスの事件を経て大きく成長を遂げた少年を頼もしく思いながら、荻原は再度頷いて見せる。
「どこのものがやっているのかは分からん。それだけに厄介なのだ」
この学園世界にはモンスターの“召喚”を生業とするものたちも少なくない。
実際に輝明学園にもエミュレイターと契約し“魔王”を召喚する、侵魔召喚術師と呼ばれるものたちがいる。
それだけに、下手に生徒会に任せては、いらぬ軋轢を生むかもしれない。
「…了解しました。僕にお任せ下さい」
そこまで悟り、自分が呼ばれた意義を理解した一狼が、静かに荻原に告げ、その場より立ち去る。

この学園世界において、闇から闇に葬り去るべき案件。
それが発生したときに動く、いわば影の執行委員と呼ばれるべきものたちがいる。
執行委員になりうるだけの“力”とその力を明かせぬ“事情”を持つ学生たち。
あるいはひそやかに光の当たらぬ場所からこの世界を守る道を選んだものたち。
学園世界の長老、『ジジイ四天王』の指揮のもとに動く彼らには一つの名がある。

「うむ。頼んだぞ。“カゲモリ”斎堂一狼よ」
この学園世界において、下がる男にも匹敵する“力”とそれを明かせぬ“掟”をあわせ持つ、1人の学生忍者にちなんだ名が。


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