ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第15話

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匿名ユーザー

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ヴァレリアシャトー近辺の森。
タウンメリアで全員の無事を祝った翌日、正午。
無事を報告すると言ってバスカーの村へと戻ったティム、カノンとゴーレムの修理のため早々に
自らの居城へと帰っていったマリアベルを除く5人はそこへやってきていた。
「アガートラーム…」
2人の兄妹の墓標があったその場所は、今はその痕跡である穴が残っているだけであった。
「…お前のおかげで、世界は救われた。感謝はいくらしてもし足りない」
アシュレーは手にした魔剣に語りかける。
「けれど、お前に頼ってばかりじゃ、いけないと思うんだ。俺も、みんなも。
だから、お前はここで、2人と、世界の平和を見守っていて欲しい」
この魔剣はあまりに有名になりすぎていた。
もはやだれか1人の手にあり続けるのを許されないほどに。
アシュレーは自らの身を斬られるような、苦痛を感じる。1度は魔剣と心を通わせたのだ。
魔剣との別れを惜しまぬ、魔剣使いはいない。
(…気に病むな。我が主)
アシュレーの中で声がする。どこからしたのかとアシュレーは辺りを見回す。
(我が誓いは、果たされた。お前は強き男となった。私なしでもやっていけるほどにな)
「そうか…お前か、アガートラーム」
声の正体に気づき、アシュレーはほほ笑む。
(それに待つのは、慣れている。次の主を待つ間くらいどうということはない)
「ありがとう…アガートラーム」
そして、魔剣はあるべき場所へと戻った。

「ねえ…レンジ」
「なんだ?」
アシュレーがアガートラームを戻した後、リルカは柊に言う。
「アキラが話があるって、向こうに来て欲しいって言ってたよ」
「晶が?なんだ?」
そう言いながらも柊は晶がいる方へと向かう。
(アキラ…がんば)
リルカは友人の幸運を祈った。

少し離れた、人気のない場所。そこに晶はいた。
「晶、話ってなんだ?」
「柊くん、私に隠してること、ない?」
晶の直球な質問に、柊は目に見えて動揺する。
「うお!?い、いや、無いぞ」
「…柊くん、やっぱり嘘、下手だね」
苦笑。晶は知っている。目の前の男が嘘なんてつけない、馬鹿がつくほど正直な男だと。
「多分、私、帰れないんでしょ?異世界では、時間の流れが違うことの方が多いって言うし。
ミッドガルドとファー・ジ・アースじゃ、時間の流れが違う。違う?」
「…すまねえ。俺は…」
観念したのか、柊がそのことを認める。
そのことに少し痛む胸を抑え、晶は言った。
「あやまんなくていいよ。私が飛ばされて、それでも生きてたのは、柊くんのお陰だから。
…でもさ、悪いと思うんなら、1つだけ、お願い聞いてくれる?」
「おう、分かった!俺も男だ。何でも言ってくれ」
「…歯を食いしばって、目を閉じて」
「お、おう」
「ちゃんと、閉じた?」
「おう。いつでも、いいぞ」
殴られるとでも思ったのだろう。柊はギュッと目を閉じて歯を食いしばる。
「じゃあ行くよ」

ズキュウウウウウウウウウウウウウウウウウンッッッッッッッッッッッッッッッッ

(や、やった!流石アキラ!私に出来ないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるーッ!)
物陰でそれを見ていたリルカが思わずガッツポーズを取る。
そう、七瀬晶の、柊蓮司への熱いキスに。

「ふはははははッッッ!お前の初めての相手は赤羽くれはではなく、この七瀬晶だぁーッッッッッッッッッ!」
冗談めかして晶が叫ぶ。真っ赤な顔で。
「ななななな!?おおおお前、だだだだ駄目だろこう言うのは!?」
対する柊は悲しいほどに狼狽して言った。やはり真っ赤な顔で。
「何で?」
「こういうのは好きな人とするもんだ!」
「…柊くん、私のこと、嫌い?」
水に濡れた子犬のようにシュンとして俯く晶に、柊の混乱は更に加速する。
「そうじゃなくてお前の方が問題だろ!?」
混乱しながらも柊が言い返す。
「…う~ん、やっぱり鈍感だなあ。しょうがない。1回しか、言わないよ」
そして、少女は身体の震えを抑えながら、ただ一言、言う。

「ずっと前から、好きでした」

そのとき、柊の混乱は本日最高を記録した。
「な、なんだってーッッッッッッッッ!?」
どこぞの編集者のように思わず叫ぶ。
晶が後ろを向いて、言う。
「うん。すっきりした」
「おおおおお前だってそれって…」
柊蓮司は、未だに混乱していた。
「…本当はさ、言わないで、このままお別れしようかなとも思ったんだ」
後ろを向いたのは、恥ずかしさで柊の顔がまともに見れなかったのと、
「けれど、それじゃあ柊くんに忘れられちゃうって思ったら、言わずにいられなかったんだ。ごめんね」
勝手にこぼれてくる涙を見られたくなかったから。
「…バカ野郎。お前のこと、忘れるわけねえだろう!仲間じゃねえか!」
柊は忘れない。共に戦った仲間のことを。それゆえに柊は反論する。
「…ふう。柊くん、分かってないね」
溜息とともに頭を振り、晶は向きなおり、柊に指を突き付ける。もう、涙はもう拭っている。
好きな人に、無様な姿は見せたくない。
「私が忘れて欲しくないのは、魔剣使いで、柊くんの仲間の、七瀬晶じゃない!
1人の男の子としての柊蓮司を好きな女の子、七瀬晶のことを、忘れて欲しくなかったの!」
「んな!?」
もう一度、好きと言われて、柊は再び混乱の渦に巻き込まれる。
「私と柊くんはもう、別の道を歩み始めてる。だから、一緒にいられないのは仕方ない。
けど、だからこそ忘れないで欲しいの。七瀬晶って女の子がいて、その子は柊くんを好きだったって。
約束、してくれるかな?私のこと、忘れないって」
「お、おう」
勢いに飲まれて、柊は半ば反射的に頷いてしまう。
「…ありがとう。これで、心おきなく帰れるよ」
それを聞いて安心したのか、満面の笑顔で晶が言う。
一方の柊は、まだ混乱していた。今まで女の子にもてたためしのない(注:本人談)柊のことだ。
こんなことになるのも、当然初めての経験だった。
心の準備も何もなかった告白で、混乱して周りのことに気を配れるような状態では無かった。
…そして、それ故にかわすことが出来なかった。

ヒュー…ガシャン

「…ガシャン?」
「て、てめえこんな時くらい空気よめ!アンゼロッ…ト?」
唐突に振ってきた鉄製の檻。
その中に閉じこめられた柊と、晶が同時に上を見上げる。
「おい!ヒイラギ、アキラ!あれは一体なんなんだ!」
アシュレーとブラッドが、焦った様子でやってきて、空を指さす。
飛空機械。ファルガイアでは、既に失われた技術の産物。
かつて世界を揺るがしたテロリストが乗っていた空中要塞に匹敵する大きさのそれが空を漂っている。
「あれって、もしかして…」
何かに思い至った晶が、呟く。その時だった。
飛空機械より、女の声が響いたのは。
「ハーハッハッハッハ!ナーンデコンナ大事ナ事、忘レテイタノデショーウ!」
女に、柊はたった1人だけ、心当たりがあった。
「ヴィオレット!?」
「今日、コノ時、コノ場所デーゴ主人サマヲ迎エルヨウ、1万年ト9986年前カラ言ワレテイタノデース。
ウッカリ忘レッパナシ二スルトコロデシータ。アンゼロットニイワレナケバ、アト100年ハ思イ出サナカッタデショー!」
まるでそれが最高のジョークだとでも言うように、ヴィオレットが馬鹿笑いと共に言う。
「ファルガイアハ、最高デース。ココーデ、魂ノソウルブラザー、否、ソウルファーザートデアイマシータ」
「なんだそれは!?」
柊が突っ込みを入れると同時に、飛空機械から調子はずれの歌が聞こえてくる。宇宙戦艦ヤ○トのリズムに乗せて。

「さらば~♪ファルガイア~♪」
「げ~♪」

それは柊と晶にはまるで心当たりの無い声

「旅立つ船は~♪」
「げ~♪」

だが、ARMSの3人にはある意味で慣れ親しんだ声

「時空♪戦艦~♪」
「げ~げ~げ~げ~げ~げ~♪」

世界観の違う、リザード星出身

「レーヴァテイントカ~♪」
「げっげげ~♪」

宇宙蜥蜴人トカ&ゲー

「最後苦しすぎだろ!?」
「ていうか何であんたらがそれにのってんのよ!?」
アシュレーとリルカがほぼ同時に突っ込みを入れる。
そんな突っ込みにもめげず、トカ&ゲーは言い放つ。
「我々は、このファルガイアから飛び出し、新天地を求めるのだトカ!もう、住所不定無職トカ言わせないトカ!
具体的には、3食昼寝付き待遇で、ロンギヌス柊蓮司捕獲装置開発担当とやらになったトカ!」
「げー!」
「ゲーもお前たちには数え切れない恨みトカもあるが、新たな旅立ちに際してすべて水に流すと言ってるトカ!」
「長すぎるだろそれッ!?」
「ヴィオレットー!何怪しいナマ物と交友関係結んでんだこら!?」
柊が檻をガチャガチャ言わせながら必死に抗議する。主にトカの不穏当な発言を受けて。
それに、ヴィオレットは心底心外そうに言う。
「オーウ、ゴ主人様トイエドモ、ソウルファーザーノ侮辱ハ、イケマセーン。
ソレニ、アンゼロットト、約束シタノデース。ゴ主人様ヲ連レテ帰ルツイデニ、ナイスナ人材ガイタラ連レテ帰ルト。
6人時代ノドリフダイバクショーノ生テープヲ出サレテハ、断リキレマセーン」
「思いっきり買収されてんじゃねえ!?」
柊の突っ込みを華麗に無視して、ヴィオレットが言う。
「…オオウ。今思イ出マシータ。モウヒトツ、重要ナ、仕事ガ残ッテマース」
その言葉と共に真面目モードに戻り、優しい声で、そのメッセージを伝える。

「…七瀬晶様に、マスターからの伝言です。
『過去が今に繋がるように、今は未来に繋がってる。だから…自分の信じる道を真っ直ぐ進んで』
とのことです」

「それって…」
その言葉を聞いて、晶は気づく。それが、誰の言葉なのか。そして、確信する。これが何であるのか。
「サア、カエリマショーウ。イクデースヨー」
再び怪しい外人モードに戻りヴィオレットはレーヴァテインの時空航行モードを起動する。
「ちょ、ちょっと待てヴィオレット!晶に、一言だけ言わせろ!」
柊蓮司が上空に抗議する。その言葉にレーヴァテインが少しだけ、動きを止める。
そして、柊は檻の鉄棒をつかみ、晶の方をまっすぐ見て、言う。
「…俺、ぜってえ忘れねえ。お前が、俺のこと好きだってことも、初めての相手がお前だってことも!
だからよ、向こうに行っても、頑張れよ!晶!」
その言葉が終わると同時にレーヴァテインは時空の彼方へと飛び去っていく。
「ヴィ、ヴィオレット!せめて中に入れろおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
…柊蓮司を外につるしたまま。

「…うん。私も絶対忘れない。七瀬晶は柊蓮司が大好きで、君が初めてのキスの相手だってこと」
晶が空を見上げながら言う。涙が、零れないように。
涙を拭いて、3人の方に向きなおる。泣いてる場合じゃない。今を未来につなげる仕事が、まだ残ってるのだ!
「これで、私も帰ります。みんなも心配してるでしょうし」
その言葉と共に晶が光に包まれる。
ダン・ダイラムの力が、再び晶をあるべき場所へ戻そうとしているのだ。
「ああ、ありがとうアキラ!頑張ってくれよ!」
「大丈夫だ。お前ならきっと成し遂げられるだろう。元気でな」
アシュレーは感謝の言葉を、ブラッドは激励の言葉を贈る。
そしてリルカは…
「アキラあ…」
恐らくは今生の別れ。そのことを察したリルカが泣き出す。
「もう、泣かないでよ。もう会えないかも知れないけど、ずっと、友達なのは、変わらないんだから」
その涙を指でぬぐって、晶が言う。
「…うん!じゃあね、アキラ!」
そうだ、最後くらいは笑顔で、そう思ったリルカが精一杯の笑顔で。
「うん!じゃあね!リルカ!」
晶もまた、満面の笑顔で、20,000年前のミッドガルドへと帰って行った。

「ようやく、終わったか」
2人の異邦人が去り、再びARMSの3人だけになった所でブラッドが言う。
「なんだか、嵐みたいな2日間だったな」
アシュレーが感想を漏らす。
「ね、ねえ…アシュレー」
「うん?なんだ、リルカ?」
そんなアシュレーを見ながら、リルカが言う。
「こ、これからも、ちょくちょくタウンメリアに、遊びに来てもいいかな?ほ、ほら、おばさん直伝の焼きそばパンも食べたいし」
言い訳をしながらも、リルカははっきりと伝える。大事な友達の行動に勇気をもらって。
アシュレーはキョトンとした後、笑顔で応えた。
「…ああ、もちろん大歓迎だ!いつでも遊びに来てくれ!」
「良かった…」
うっかり涙ぐみそうになるのを必死で抑える。

まだ、マリナとのことは、割り切れてない。これから先、割り切れるかも分からない。
けれど、うじうじ悩んでいても何も変わらないのだ。だから、今は素直になる。好きな人と一緒の時間を過ごす。
いつか、笑顔で2人を祝福出来るようになる、その日まで。

そう、少女は心に誓ったのだ。

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