ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

プロローグ

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kawauson

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prologue|プロローグ

[cm]
[playse buf=1 loop=true storage="alarm.ogg"]
@texton
 響く電子音。[lr]
 時計。今日も有り難くないほど忠実に朝を教えてくれる文明の利器によって、この世の極楽浄土である羽毛布団から、肌に突き刺さる寒さという針のむしろへと引っ張り出される時間を告げられる。[lr]
 ほぼ完全に習慣付いた動作で、上半身のみを使い、頭の横で鳴る時計の頭を叩く。[pcm]

[stopse buf=1]
@bgm file="n07.ogg"
 普段は意識しないが、こうも見事に時計を見ずにアラームを止める自分に、今日は何故か感心した。[lr]
 きっと背後に立った人間を殴る某スナイパー的習慣も、彼にとっては時計のアラームを止めるのと変わらないはずだ。[lr]
 人間何事も慣れなんだな、などと濃霧の立ちこめる寝起き脳みそで、果てしなくどうしようも無いことを考える。[lr]
 なんで今朝に限って、こんなどうでも良いことを考えているんだろうか、俺は。[lr]
 まだ頭が寝ている? そうかもしれない。なにせ寝起きだ。[lr]
 でもそれにしては、随分とはっきりした思考だ。[lr]
 まるで果てしない困難の元に時計を止めるという動作を行い、それを成し遂げた自分に感心してるような。[pcm]
;↑原文 まるで、時計を止めるという動作が、果てしない困難の元で行われている自分を感心しているような。
 ……困難?[lr]
 一瞬の後、その理由はすぐに分かった。[lr]
 不気味な違和感。寝返りをうたずに、なぜ腕だけを使って時計を?[lr]
 それはすなわち、身体が動かない。[lr]
 正確には、腰から下に強烈なおもりを取り付けられているような感覚。[lr]
 一瞬、顔から血の気がサァッと引いた。[pcm]
「……んぇ!?」[lr]
 引く血の気とは裏腹に、急激に取り戻された意識と夢の狭間で、自分でもびっくりするほどの間抜けな声が飛び出た。[lr]
 それはまあ、びっくりするさ。だって腰から下が動かないのだから。[lr]
 驚くまま硬直するも束の間。すぐに我に返ると、自由な上半身を使って大慌てで布団をはねのける。[lr]
 冬の寒気が容赦なく俺を突き刺すが、そんなものに構っているような状況ではなかった。[pcm]
 めくった布団の中。そこには確かに、動かぬ体の原因がある。[lr]
 その原因は可愛らしく外気に反応して身じろぎした後、なにやらうわ言のように声を発した。[lr]
「ん~。稔くん……寒い……んー」[pcm]

@bg file="heya_m1.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=10 c=1

 俺の腰にしがみついて可愛く眠る、フリフリのドレスに身を包んだ小さな姉が居た。[pcm]
「…………!?」[lr]
 一気に気が抜けた。[lr]
;↑原文 血の気だけではなく、一気に気が抜けた
 一体何事かとは思ったが、まあ半身不随になったわけでは無さそうだったので、安心したら今度は腰が抜けそうだった。[lr]
 一度頭を落ち着かせる。[lr]
 寝起きからフルスピードでいろいろあり過ぎたので、寝起きにして既に就寝前並の疲労感がある辺りもう駄目かも知れない。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=9a m=7 c=1 t=2
「さ~む~い~」[lr]
 そうしている間にも、姉はギリギリと腰にしがみつく力を増していく。[lr]
 寒さに対する無意識の抵抗を、俺にぶつけないで欲しい。[lr]
 それにしても、この細い身体の一体どこにこんな力が眠っているのだろうか。[lr]
「姉さん、起きて」[lr]
 肩を揺する。[lr]
 ゆっさゆっさゆっさゆっさ。[lr]
「ん~、んん~、ん~?」[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=5 c=1
 やがて俺の腰から腕を放し、空いた手で寝ぼけ眼をぐしぐし擦る姉。[lr]
 その仕草は、フリフリの寝間着と相まって可愛らしく、今写真を撮ったならば、まるで陶器製のビスクドール用のカタログに使えそうだ。[lr]
 が、今重要なのは、姉が可愛らしいとかそんなことではない。[lr]
「姉さん……何で、俺の布団の中に居るの?」[lr]
 今最も重要なことはこれに尽きる。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=10 c=1
「ん~、んー?」[lr]
「姉さん、姉さんってば!」[lr]
 超が三つ付くほど低血圧な俺の姉、[ruby text="ふじ"]藤[ruby text="みや"]宮ひめは、どうやらまだ寝ぼけているらしい。[lr]
 さっきよりも強く肩を揺さぶる。[lr]
 ゆさゆさゆさゆさ。[pcm]
 揺さぶるたびにふらふらと彷徨う姉の顔がまた人形っぽくて可笑しかったが、それはどうでも良い。[lr]
 早く目覚めてくれ。[lr]
「姉さん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=5 c=1
 ゆっさゆっさ。[lr]
「姉さーん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=10 c=1
 ゆっさゆっさゆっさ。[lr]
「ひめ姉さ~ん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=9a m=5 c=1 t=2
「ん~、んっ……? 稔……くん?」[lr]
 やっと人間らしい言葉を喋り始めた。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=3a m=1 c=1
「稔くん……んぁ~っ、あ……れ?」[lr]
 徐々に姉の目に、理性の火が灯っていくようだ。まだ単語数は少ないが、人間の言葉を喋っている。[lr]
「姉さん、起きて」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=5 c=1
「稔くん…………何でおねえちゃんの部屋に居るの?」[lr]
 何故そうなる。[lr]
「姉さん、ここは誰の部屋?」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=8 e=8a m=11 c=1 t=1
「んもー、稔くんの~……えっち」[lr]
 会話が通じていない。まだ寝ぼけているな?[pcm]
「姉さん、起きてよ」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=10 c=1
「ん……起きてる」[lr]
 あ、通じた。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=3a m=1 c=1
「稔くん、おねえちゃんと寝たいならそういえば良いのに……」[lr]
 否。全然通じてなかった。[lr]
「姉さん、ここ俺の部屋なんだけど?」[lr]
 仕方がないので、今度は言いながら軽く頬をはたいてみる。[lr]
 やわらかいほっぺたで、ぺちぺちと実にはたき心地が良かった。[lr]
「姉さん、何で俺の部屋に居るの?」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=5 c=1
「ふみ…………あれ? 稔くんの部屋だ」[lr]
 やっと目が覚めたらしい。[pcm]
「姉さん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=5 c=1
「えと…………覚えてない」[lr]
 ようやく会話が通じた。が、何の解決にもならなかった。[lr]
 なんだか、途端にこれ以上聞いても無駄な気がしてきた。[lr]
 ちらりと時計に目をやる。そんなに時間的余裕がある訳ではない。[lr]
;↑原文 そんなに時間的余裕がある気もしない
 とりあえず朝食を作らなくては。[lr]
「姉さん、朝ご飯作らなきゃいけないから。ほら、自分の部屋に戻って」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=6 c=1
「…………もう一回寝る~」[lr]
 二度寝ですか。何とも羨ましい。[pcm]
「でも、寝るなら自分の部屋に……」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=3a m=1 c=1
「う~ご~け~な~い~」[lr]
 何というぐうたらな姉。[lr]
 というか、恐らく部屋に戻るにしても、俺の手助けが必要な気がする。[lr]
 朝の時間は貴重だ。[lr]
 すなわち、今は姉が布団に潜り込んでいた理由や、どうやって姉を部屋に戻すかを考えている時間は無駄でしかない。[pcm]
「分かったよ、姉さん。ご飯出来たら呼びに来るから」[lr]
 仕方がないので、姉を部屋に置き去りにすることにした。[lr]
 姉は布団の中から、気持ちよさそうに「うん~」と言って俺を見送った。[pcm]

@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg2 file="ribing.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" children=truel
@bgm file="aruhiA.ogg"

 顔を洗って朝食を作るのが、俺の毎朝の習慣になっている。[lr]
 今朝は少し順序が狂ったが、いつもは朝食を作り終わると姉を起こしに行き、一緒に食事を摂り、着替えてから登校する。[lr]
 あとは……そういえば、朝食が終わった辺りで、隣の幼馴染みも毎朝うちにやってくる。[lr]
 藤宮家の朝食は簡単だ。昨夜のうちにセットしておいた炊飯器からご飯をよそい、卵を焼くなり魚を焼くなりでおかずを作り、あとは気まぐれでみそ汁やスープを作るだけだ。[lr]
 基本的に姉は、朝に何かをするのが非常に苦手なので、当然のごとく朝食を摂るのも一苦労であり、その結果として朝はあまり食べないので、作る手間は最小限に済んで良い。[lr]
 ソーセージをちゃっちゃと焼き上げる。姉は朝から脂っ気の多い肉類を食すことを非常に嫌うが、こっちの手間も考えて欲しいので、構わず出す。[lr]
 それに、結局のところ、姉は食卓に出されたものを残すということはほとんどしない。[pcm]
 焼き上がったソーセージを小皿にのせると同時、タイマーを施しておいたIHヒーターが調理時間終了のアラームを鳴らす。スープも完成だ。[lr]
 実は単にお湯に突っ込むだけのインスタントなので、完成等という大げさな表現を使うのもどうかと思うが、達成感を出すためには良いだろう。[lr]
 ソーセージの小皿と、小さな鍋ごとスープをテーブルに移動させて、茶碗を伏せる。[lr]
 朝食の準備完了。我ながら、実に慎ましい朝食だと思う。[lr]
 しかしこの方が、朝食嫌いの姉も喜ぶし、俺も楽だしで一石二鳥なのだ。[pcm]
 ちなみに、朝食を摂らないという選択肢は我が家には存在しない。[lr]
 非常に胡散臭い厚生省の統計や、無駄に頭が良くなることを強調するテレビ番組に毒された、父、母、姉が揃いもそろって朝食を摂ることを主張するのだ。[lr]
 3対0、中立が1。我が家は民主主義の原則に則っているのである。[pcm]

@bg2 file="heya_m1.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

「姉さん、朝ご飯出来たよ」[lr]
 言いながら部屋のドアを開けると、姉は布団にくるまって二度寝を満喫しているようだった。[lr]
 俺のベッドの上に出来ている、丸まった布団。子供の頃によくやった布団星人を彷彿させる。[lr]
 何でそんな奇抜な格好で寝ているのだろうか。[lr]
「姉さん、朝ご飯」[lr]
 今回は肩がどこか分からないので、布団星人を直接掴んで揺する。[lr]
;↑ゆさゆさする
 ゆさゆさゆさゆさ。[lr]
 中ではなにやら姉が身悶えているらしいが、早く目を覚まして欲しい限りである。[pcm]
「姉さん、布団とるよ?」[lr]
 言うと同時、ぷよぷよ型……いや、これはぷよだったか? の布団を端からめくり上げる。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=10 c=1
「…………」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=3a m=1 c=1
「…………ふみ」[lr]
 なんだか可愛らしい声を出しながら眼を擦っている。[lr]
「おはよう、姉さん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=3a m=1 c=1
「…………うん、おはよう、稔くん」[lr]
 やっと目を覚ましてくれたようだ。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=3 e=4a m=9 c=1
 姉はフラフラと立ち上がり、[lr]
「…………姉さん?」[lr]
 俺の身体に向かって倒れ込んできた。[lr]
 再び腰をホールド。何か俺の腰に恨みの一つでもあるのだろうか。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=8 e=8a m=10 c=1
「う~ん……」[lr]
 うだる姉。心なし、頬の朱が強い気もする。[lr]
「姉さん、体調悪いの?」[lr]
 腰にしがみついたままの姉は、俺のお腹に顔を押しつけて首を振る。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=9a m=10 c=1 t=2
「違うの、稔くん……お布団にくるまってたら…………のぼせちゃったの」[lr]
 やはり。幾ら冬とはいえ、フリフリで飾られた姉のパジャマを着て、布団の中に立てこもっていたら、それなりに暑いであろう。[pcm]
 それにしても、朝からふらふらになるほど身体を暖めるなんて。[lr]
「姉さん、気温差が一番体調を崩す原因なんだって」[lr]
「う~ん……分かったよ。次からは加減するから…………あんまり長い間包まれていると危険なの……」[lr]
 微妙に会話が噛み合っていないのは気のせいだろうか。[lr]
「ほら、手貸してあげるから、歩いて。ね?」[lr]
 茹だった姉の、赤みがかった小さな手をとり、よちよちと歩くのを後ろから支える。[lr]
 なんだか、ドレスを着たお姫様に仕える執事みたいになってないか? 俺。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1 c=1
「んっ……稔くん、ありがとう」[lr]
 柄にもなく神妙な姉。[lr]
「はいはい、どういたしまして」[lr]
 漫画のように寝ぼけた顔の姉を支えながら、二人で居間まで降りていった。[pcm]

@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg2 file="ribing.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="n01.ogg"
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=9 rule="縦ブラインド(左から右へ)"

「いただきます」[lr]
「…………いただきます」[lr]
 顔を洗った姉は、そこと無く気難しい表情を浮かべていた。[lr]
;↑原文 顔を洗った姉は、そこと無く気むずかしい顔をしていた
 まあ大抵、朝は機嫌があまり良くないのだが、それに輪を掛けて顔をしかめているように感じるのは、やはり肉の並ぶ食卓のせいであろう。[lr]
「…………稔くん」[lr]
「何? 姉さん」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=8a m=11
「朝からお肉は嫌」[lr]
 俺、大正解。ひ○し君人形を三つゲット。[lr]
「じゃあ、姉さんが毎日作ってくれる?」[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=8a m=9
「うぅ…………」[lr]
 朝が弱い姉にとって、これ以上のウィークポイントはそうそうあるまい。[lr]
 姉さんには悪いけど、手間と品数を省みるとき、週一のソーセージは逃れることの出来ない、一種の強制イベントなのだ。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=9a m=11 c=1 t=2
「…………うぅ」[lr]
 うなりながらも、姉はソーセージを食べてくれる。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=3a m=1 c=1
「うぅ…………おいしい………」[lr]
 元々嫌いな食品ではないし、単に早朝の脂気に弱いだけで、毎回文句を言われつつも美味しいの感想を頂戴している。[lr]
 ソーセージを一本食べ終わると、途端に脂気をごまかすように、姉の希望でおにぎりにしたご飯にかぶりついた。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=1a m=1 c=1
「もぐもぐ」[lr]
 途端、しかめっ面が多少は幸せそうな顔になる。[lr]
 あっさりしたご飯、特に塩の味が効いたおにぎりは、朝の食事が苦手な姉の、朝から食べられる数少ない食品である。[pcm]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=4a m=6 c=1
「んぐんぐ」[lr]
 こっちはあっという間に平らげた。[lr]
 そして、スープをゆっくりと、まるで毒でも飲むようにゆっくりと飲み干せば、姉の悪夢とも言える朝食の時間は終了となる。[lr]
;原文 毒を盛るように
 俺は朝食を摂ることに大した苦労はないので、ゆっくりと姉のペースに合わせて食べるのが習慣になっている。[lr]
 なので、食べ終わるのは同時だ。[lr]
「ごちそうさまでした」[lr]
「ごちそうさまでした」[lr]
 一緒に食後の挨拶をし、そしてそれぞれの用事に取りかかる。[pcm]

@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg2 file="ribing.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="n19.ogg"

 しかしそれにしても、あんなに朝食が嫌いなのに、何で父さんや母さんと一緒になって、朝食の重要性を説くのだろうか。[lr]
 姉が嫌だといえば、朝食なんて作らないのに。[lr]
 そんなことを考えつつ、食後の食器を洗っていたところで、何か頭の隅に引っかかりを感じた。[lr]
 あれ? 何だろうかこの違和感。[lr]
 朝食嫌いの話が、何か頭の片隅に残っているものに触れたような……?[lr]
 朝食嫌い…………食事嫌い?[lr]
 …………そういえば、日向先生も食事が嫌いだった様な…………?[lr]
 …………日向先生!?[pcm]
「あぁっ!?」[lr]
 頭の中に刺さっていたトゲが抜けた瞬間、寝起きに続いてまたも間抜けな声を発してしまった。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=5 c=1
「ど、どうしたの稔くん!?」[lr]
 天気予報を見ていた姉も、俺の奇声に驚いてこっちを振り返っている。[lr]
「日向先生との約束…………忘れてた!」[lr]
「稔くん?」[lr]
「ごめん、姉さん! 俺もう学校に行かなきゃ!」[lr]
「え? み、 稔くん!?」[lr]

@cl
@bg file="heya_m1.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 洗い途中の皿を放り出し、部屋に向かう。[pcm]
 身繕いは大体済んでいるので、あとは制服を着るだけだったのが幸いした。[lr]
 急いでシャツのボタンをとめ、ズボンのベルトを締め、ブレザーを羽織る。[lr]
「稔くーん! ひまわり先生がどうしたのー?」[lr]
 一階からは、姉の声が響く。[lr]
 部屋を飛び出し、居間を通るついでに姉に伝える。[lr]

@bg file="ribing.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

「日向先生に、実験の準備を手伝うように言われてたの忘れてた! ごめん、姉さん。あとは一人で…………っと、そうだ」[lr]
 そういえば、そろそろ時間じゃないだろうか?[lr]
 残る朝の習慣を思い出すと同時、玄関のインターホンが、ぴーんぽーんと鳴る。[lr]
 何という良いタイミングだ。流石幼馴染み。[lr]
@ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=7 c=1
 感心するのも束の間。豆鉄砲を食らったような顔の姉を居間に放置し、玄関へと向かい鍵を外す。[pcm]

@cl
@bg2 file="genkan.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1 c=1

 ドアを開けると、そこには俺たち姉弟の幼馴染み、[ruby text="こ"]小[ruby text="がね"]金[ruby text="ざわ"]沢[ruby text="い"]伊[ruby text="ま"]万[ruby text="り"]里が立っていた。[lr]
「伊万里!」[lr]
 感極まった俺は、伊万里の名前を呼んで感激を示す。[lr]
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=8a m=10
「な、何!? おおおおはよう!?」[lr]
 不意打ちを食らって驚いたのか、伊万里はいつになくキョドっている。[lr]
 そんな伊万里には悪いが、今は伊万里が救世主に見える。[lr]
 とりあえず、俺は救世主の手をガッと掴んだ。[lr]
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=5 e=2a m=7 c=1 s=1
「えっ? えぇっ!? みみみみ、みのりん!? あ、朝から大胆……でも」[lr]
「悪い、伊万里。姉さんと家事を頼む。いつか埋め合わせするから! じゃっ」[lr]
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=1 e=5a m=2 c=1
「みのりんなら良いかなっ……てあれ? え? もう行っちゃうの?」[lr]
「ごめん、急ぎなんだ」[pcm]
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=8a m=10
 硬直する伊万里。状況が良く飲み込めていないのだろう。[lr]
 済まない、伊万里よ。救世主よ。[lr]
「姉さん! あとは伊万里に頼んで! ごめんね、行ってきます!」[lr]
@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=5 s=1
「え、ちょっと、みのり~ん!」[pcm]

@cl
@bg file="black.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 ぽかんとした顔で玄関までやってきていた姉と、何が起こったのか分からずに硬直する伊万里を置いて、家を飛び出した。[lr]
 わずか一分と少しの間に何が起こったのか分からない、といった二人の顔に見送られて、朝の通学路を走っていく。[lr]
 少し急げば、約束にはまだ間に合うはずだ。[lr]
 今日という一日は、とんでもないどたばたで幕を開けた。[pcm]

@fadeoutbgm time=1000
@bg file="bg088.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="gakkou1.ogg"

「はー、はー、はーーーっ、はあー……」[lr]
 帰宅部の身には、朝からのダッシュはキツかった。[lr]
 深呼吸、深呼吸。もう一度、深呼吸して息を整える。[lr]
 ちら、と時計に目をやると、歩いていけるだけの余裕ができていた。[lr]
――命拾い、命拾い。[lr]
 俺は上着を脱いで小脇に抱えると、ゆっくりと歩き出した。[pcm]
 二月――古語で言うと如月。冬真っ盛りとはいえ、さすがに通学路の半分以上を走り抜ければ汗もかく。普段は恨めしい朝の冷気が、今だけは逆に心地よかった。[lr]
 通学路にはまだ他の生徒もまばらで、荒く息を吐いているのは俺くらいだった。知り合いも見当たらない。[lr]
 することもないので、考え事をしながら歩くことにした。[lr]
「先生と仲良くなるのも考えものだよなあ……」[lr]
 物理の日向先生は、生徒への優しさと教育熱心さをバランスよく兼ね備えた人物だ。教師としては理想だと思う。[lr]
 おまけに美人、胸も大きい。長岡がよくあの胸に吸い寄せられていってるが、まあ同じ男子高校生として気持ちが分からないでもない。[lr]
 ただ、世の中に完璧無欠な人はいないのだ。誰にだって欠点くらいある。たとえば日向先生の場合――ちょっと言動が怪しい。[pcm]
 ちなみにこの『ちょっと』という言葉は人によって度合いが違ってくるものらしい。クラスのヤツらに言わせると、電波系なのだそうだ。[lr]
 そんな先生にどうも俺は気に入られてしまったらしく、委員でも係でもないのによく手伝いごとを頼まれている。周囲からはあの先生を『取り扱える』のは俺だけだ、とのことだ。[lr]
 世の中、無償の奉仕精神は美徳である。俺は見返りを求めることもなく先生を手伝うことで、それを体現してるといえよう。[lr]
――できれば、成績もちょっと、ほんのちょっと、できればだけど甘くつけてほしいな、なんて思ったりもするけれど。[pcm]
;;SE『自転車のタイヤが回転する音』……分かりにくいなぁ。ちりんちりんってベル鳴らしてもいいかも。
 スポーツサイクル独特の音が背後から急接近してきた。[lr]
 うちの学校でそんな自転車に乗ってるヤツと言えば、もちろん一人しかいない。[lr]
「あ、みのるだっ!」[lr]
 俺の傍らを風を巻いて駆け抜けると、前に回りこんで急ブレーキをかけつつドリフト。見事なテクニックで俺の前に横向きで停止する。[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「おはよっ、みのる!」[lr]
 無造作に二つに束ねた(ツインテール、と呼ぶらしい)生まれつきのクセっ毛がぴょこぴょこと揺れる。朝とはとても思えないハイテンションだ。[lr]
 苗字は二月――『[ruby text="きさ"]如[ruby text="らぎ"]月』。小学校時代からの友人で後輩のみずきだった。[pcm]
;↑原文 小学校時代からの友人であるみずきだった。→ 
「おはようさん。しかし相変わらず朝から元気だな」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=2a m=1
「あたしは毎日フルスロットルだもんっ!」[lr]
 ハンドルを回して『ぶぉん、ぶぉん』とバイクのエンジン音を口真似するみずき。愛用のMTBをひょいと飛び降りると、みずきは俺の横に並んで歩き出した。[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=7a m=4
「早くバイク乗りたいなぁ」[lr]
「いっつも言ってるよな、それ。一度、親御さんに言ってみたらどうだ?」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=6a m=4
「ダーメダメ。ゲームなんかとは値段が違うし、学校が免許とらせてくれないもん」[lr]
 と言いつつ、前者の理由は当てはまらないのがみずきの家である。[pcm]
 みずきのお父さんはいわゆる経営者というヤツで、街では名士の一人にも数えられている。和風の大きな家に住んでいるし、確か小さいながらも山を所有していたはずだ。小学生のとき、虫を捕りに入らせてもらった記憶がある。[lr]
 そのうえ、みずきは一人娘。言えば大抵のものは買ってもらえるだろう。小学生のときもみずきほどゲームを揃えているヤツはいなかった。[pcm]
「この前、ハマったよ! とか言ってたあのゲーム、もう終わったか?」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「ドラドラのこと? あれ、いちおう表ボスは倒したんだけど、隠しダンジョンがキッツくて。一フロアほとんど落とし穴のMAPとかあるんだよ!?」[lr]
 身振り手振りを交えつつ、ぷんすかとダンジョンの難しさを熱弁するみずき。とはいえ、難しければ難しいほど燃えるのが、ゲーマーの性らしい。目がキラキラと輝いていた。[lr]
「今はバードとアルケミのレベル上げしてるとこ」[lr]
「しばらくはまだ遊べそうだな。いい買い物したと思えよ、長く遊べるゲームってことで」[lr]
「そうかもしれないけどさー。他にもゲーム積みっぱなしなのに」[lr]
「無計画に買うからだ」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=2 b=1 e=1a m=8
「だってゲーマーなんだもん」[lr]
「理由になってな――」[pcm]
「みずきちゃん、おはよう」[lr]
 不意に声をかけられてそちらを見ると、みずきと同学年らしい小柄な女の子が手を振っていた。[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=2
「おはようー」[lr]
 みずきも手を振り返す。多分友達なんだろう。[pcm]
 気づけばだいぶ学校も近くなってきたせいか通学路にもうちの学校の制服姿がかなり増えていた。[lr]
「お、みずきおはよー」[lr]
「おっはよー」[lr]
 また一人声をかけられる。[lr]
「おう、如月おっす」[lr]
「おーす」[lr]
 更に別の男子とも挨拶するみずき。[lr]
「お前友達多いよなー」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=8 e=1a m=12
「え、そう? 普通だと思うけど」[lr]
「いや、絶対多いぞ。しかも男女問わずだし」[pcm]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=5 e=7a m=9
「んー、……でもあたしのこと嫌ってる人もいるよ?」[lr]
 気づいていた。[lr]
 別に今朝に限ったことではない。みずきと一緒にいると、たまにこちらを見ないよう顔を露骨に逸らす生徒がいるというだけだ。[lr]
「高校生なのにまだ反抗期なヤツがいるのか? 精神年齢低いな、ソイツ」[lr]
 俺は笑い飛ばすが、みずきの表情はすぐれない。[lr]
 面倒見が良いコイツは、困っている人を見かけると放っておけない性質なのだ。それが友人であろうが、たまたま通りかかった見ず知らずの他人であろうが、進んで手を差し伸べる。[lr]
 大抵の場合はそれで感謝される。実際、みずきを慕っているヤツも多い。とはいえ、それが仇になって嫌われることもあるというのが世の中だ。[lr]
 結局は自分自身の精神力で克服したらしく、みずきは笑顔を取り戻した。[pcm]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「まあ、あたしの場合は、一年多いわけだし、先輩なんだもんね」[lr]
「一年っていったって、お前」[lr]
「あ、一年分は言い過ぎかな? 一学期分くらい?」[lr]
「……お前なら一週間もあれば友達百人作れそうだな」[lr]
「あたしは小学一年生ですかい」[lr]
 コイツの明るさは……。俺は心配せずにはいられなかった。[lr]
 『あの事故』がコイツに残した傷痕は決して小さなものではない。だというのに、それどころか他人の心配までして。いつか耐え切れなくなって弾けてしまいはしないだろうか。[lr]
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「ん? どうしたのさ、急に黙りこんで」[lr]
 あはは、というみずきの笑い声に暗いものはなかった。[lr]
「なんでもない。ただ、百人いたらひっきりなしに電話がかかってきそうだな」[lr]
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「みのるってば鋭いっ。ホントよく鳴るんだよね」[lr]
 ポケットから携帯を取り出し、見せつけてくるみずき。と、ディスプレイを見て、慌てたような声を出した。[pcm]
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「ちょっとみのる、だいじょうぶなの?」[lr]
「大丈夫、って何がだよ」[lr]
「時間。今日、日向先生に手伝い頼まれてるんでしょ」[lr]
「んー、さっき走って時間稼いどいたからな。だいじょう――」[lr]
 時計を見ると、さっき稼いでいた余裕は綺麗さっぱりなくなっていた。というより、既にマイナスだった。[lr]
「なあああっ!? ちょっと油断しすぎた!」[lr]
 みずきに合わせてつい女の子速度で歩いてしまったせいか、もう約束の時間だった。[lr]
「悪いな、先に行くぞ!」[lr]
@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「はいはーい。転ばないように気をつけてねー!」[lr]
 手を振って返事をして、校門に向かって再びダッシュ。[pcm]

@cl
@bg file="soto.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 幸いもう校門は目の前だし、これなら数分の遅刻ですむだろう。[lr]
 危ない、危ない。みずきに言われなかったら、もっと遅れるところだった。[lr]
――本当によく気がつくヤツ、だ……?[lr]
 俺は脳裏にモヤモヤした何かが広がるのを感じた。[lr]
――俺、みずきに日向先生に頼まれ事されてるなんて話したか? なんでアイツが知ってるんだ?[lr]
 だが、それは先を急ごうとする意識に一蹴された。記憶にはないが、昨日一緒に帰ったときに話したのだろう。[lr]
「みずきはよく憶えてるよなぁ」[lr]
 俺はみずきに感心しながら、校門をくぐり昇降口に向かって走った。[pcm]

@bg2 file="rouka2.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="tam-n09.ogg"

 さて、急いで日向先生のところに行かなければ。[lr]
 既に約束の時間を少し過ぎてしまっている。[lr]
 日向先生は怖いわけではないが、妙な事を言い出すことがあるから、怒らせないに越したことはない。[lr]
 しかし、実験の準備で力仕事が必要って……何の実験なんだろう。[lr]
 まだ人の少ない廊下を、少し急ぎ足で物理の実験室に向かった。[pcm]
@bg file="rouka.jpg"
 特別教室棟に入ったところで、見知った姿が前方に見えた。[lr]
「……委員長?」[lr]
@fadeoutbgm time=1000
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
@bgm file="hidamarinonakade.ogg"
「あら、藤宮君」[lr]
 三つ編みの髪と、他の女子生徒よりも少し長めのスカート。[lr]
;↓原文 我がクラスの委員長だった
 紛れも無い、我がクラスの委員長、[ruby text="くろ"]黒[ruby text="かわ"]川[ruby text="ゆ"]百[ruby text="り"]合だった。[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「おはようございます」[lr]
「ああ、おはよう」[lr]
 頭を下げて挨拶をされ、こちらも挨拶を返す。[lr]
 やたらと丁寧な態度だが、委員長のこの態度は何も俺に対してだけというわけではない。[pcm]
 委員長は、クラスの誰に対してもこの丁寧な態度と言葉遣いを崩すことがなかった。[lr]
 俺は教室では隣の席なので、それなりに話す方なのだが、同じクラスになってから九ヶ月以上経ってもこの調子だ。[lr]
 まあ、委員長だし、他の人たちとは躾が違うのかもしれない。[lr]
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「良かった。無事だったんですね」[lr]
「え? 何が?」[lr]
 委員長は微笑みながら、わけのわからないことを言ってくる。[lr]
 何か心配をかけるようなことをしたのだろうか。[lr]
 思い返して見るが、そもそも冬休み明けで会うのは初めてだし、覚えは無かった。[pcm]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「いえ、どなたかにさらわれたと聞いていたので」[lr]
「何それ?」[lr]
「日向先生、ひどく嘆いていましたよ。『とうとう藤宮まで奴らの餌食になってしまった』って……」[lr]
「またか……あの人は……」[lr]
 [ruby text="ひ"]日[ruby text="なた"]向[ruby text="あおい"]葵先生。[lr]
 我が校の物理教諭で、今朝の実験の準備を手伝うようにと言ってきた人だ。[pcm]
「あの人おかしいよな。何かあるとすぐ『狙われている』だの『侵攻だ』だの言って。委員長も、まさか本気で俺がさらわれたと思ってたわけじゃないんだろ?」[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
「そうですね……何かあったのかな、とは思っていました」[lr]
「え?」[lr]
「藤宮君、今日は日向先生のお手伝いをすることになっていたんでしょう? それを何の理由も無くすっぽかすことはありえないと思っていますから」[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「そ、そう」[lr]
 え? あれ?[lr]
 ひょっとして信頼されているのだろうか?[lr]
 少し嬉しいかもしれない。[pcm]
「日向先生もそうなんだと思いますよ。藤宮君を信用しているから、約束の時間に遅れたのが心配で、それでさらわれたなんて思ったんじゃないでしょうか」[lr]
「……委員長、それはちょっと、善意に解釈しすぎじゃないか? 俺、あの人は真性でどこかおかしいと思うけど」[lr]
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「駄目ですよ。そんなことを言っては」[lr]
 怒られてしまった。[lr]
 思うに、委員長はいい人だ。[lr]
 穏やかで、優しく、他人のことを悪く言わない。[pcm]
「あれ、そういえば、委員長はどうしてこんなところに? 教室とは全然方向違うけど」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
「ええ、日向先生に呼ばれたんです。藤宮君を助けよう、級友の命を救うのも委員長の仕事だ、とのことで……」[lr]
「ごめん。俺が遅れたせいで」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1 c=1
「そんな、謝ったりしないでください。気にするほどのことでもないですから」[lr]
「もう戻ってもいいよ? 俺も来たわけだしさ」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=2a m=1
「これから実験の準備をするんでしょう? 一人でやるよりも二人でやった方が早いですよ」[lr]
 そう言ってにこりと笑う。[lr]
 眼鏡の向こうの色素の薄い瞳が、なんとも綺麗だった。[lr]
「ありがとう」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
「いえ。それでは、行きましょうか」[pcm]

@cl
@bg2 file="kyousitu2.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

「おはようございます」[lr]
 先生との約束の時間から十分ほど遅れて、物理実験室に着いた。[lr]
 黒い無機質な実験机が並ぶ教室は、暖房がきっちり効いていて、外に比べてずっと暖かい。[lr]
 教室の真ん中には日向先生が立っていた。[lr]
;;日向葵 基本
「先生。すみません、遅れました」[lr]
「ああ、稔君……」[lr]
 言いかけて、先生は手に持った何かをこちらに向けた。[pcm]
;;日向葵 怒り(あるのでしょうか?)
「フリーズ!」[lr]
「せ、先生?」[lr]
「あなただったのね。不覚……普段のいい子いい子した顔に油断したわ」[lr]
「先生、一体……?」[lr]
「稔君、離れて! その女は宇宙からの刺客よ!」[lr]
 日向先生の視線は、俺の隣に立つ委員長に向けられていた。[lr]
;;@cl
;;日向葵 基本 画面左
;;黒百合 制服 基本 画面右 眼鏡レンズ白色 (眼鏡を白くするのってできますか?)
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=5
 委員長はというと、教室の暖気に眼鏡を白く曇らせて、言葉もなくただ立っている。[lr]
 さすがの委員長も、先生の突然の狂乱に驚いてしまったようだった。[pcm]
「先生、何を言っているのかわかりませんけど、その手に持っているものを下ろしてください。というか何ですか、それは」[lr]
「TLC実験用の紫外線照射装置よ。当て続けると、目はちかちかするし、皮膚癌の危険性だってあるわ」[lr]
「早く下ろしてください!」[lr]
 先生と委員長の間を遮るように、慌てて立ちはだかる。[lr]
;;(立ちはだかると視点の変化があるから黒百合の立ち絵は消えそうなものだが、そのままで)
 皮膚癌なんてそう簡単になるものではなかろうが、そうでなくても委員長の肌の色は白い。[lr]
 紫外線なんて当たったら、傷んでしまうに違いない。[pcm]
「稔君……そう……洗脳されてしまったのね」[lr]
「違いますよ! というか、どうして委員長が宇宙からの刺客なんですか!」[lr]
「その女を見てみなさい」[lr]
 委員長を見る。[lr]
 相変わらず言葉もなく、ぴくりとも動かずに突っ立っていた。[lr]
「……先生が妙なこと言って脅すから、萎縮しちゃってますよ」[lr]
「違うわ。その女は教室に入った瞬間、何の前触れも無く動かなくなったのよ。そしてそれからまったく動いていない。ここから導き出せる答えはただ一つ……その女は宇宙からの電波を受信しているのよ!!」[lr]
;;日向葵の立ち絵を上下に揺らす(怒り、興奮の表現として)
 先生は肩をゆすり、声を張り上げる。[lr]
 露出の高い服から溢れた胸が、大きく揺れた。[pcm]
 随分な力説振りだが、まともには聞いていられない。[lr]
 ため息をついて、委員長の体をゆすった。[lr]
;;黒百合の立ち絵を緩く左右に揺らす
@cl pos=rc
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=5
「委員長、怖いのはわかるけど、いいかげん動いてやってくれ。先生を妄想から連れ戻してあげよう」[lr]
「……」[lr]
「委員長?」[lr]
 委員長は動かない。[lr]
 曇ったレンズの向こうの瞳は呆然と宙を見つめたまま、声をかけても、肩をゆすっても動かなかった。[pcm]
「……稔君、どきなさい。その女を破壊して、宇宙からの侵攻をとめなければならないわ」[lr]
 紫外線照射装置とやらを手に、日向先生はじりじりと近づいてくる。[lr]
;;黒百合の立ち絵を激しく左右に揺らす
「お、おい! 委員長! あの人本気だぞ! マジでヤバイから動いてくれ!」[lr]
@cl pos=c
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=6
「え? あ、はい。何でしょう」[lr]
;;黒百合の眼鏡を元に戻す
 必死の呼びかけに、はっとしたように答え、目をぱちくりする委員長。[lr]
 何が何だかわからない、といった様子だった。[pcm]
「おお! 動いた! ほら、先生、動きましたよ! もういいでしょう!?」[lr]
「駄目よ。そいつは宇宙人からの電波を受信していた……もう汚染されてしまったんだから」[lr]
「そんなわけ無いでしょう!」[lr]
「じゃあなぜ動かなくなったの!? ほかに納得のいく説明がある!?」[lr]
 俺は委員長の方を向いた。[lr]
「委員長……馬鹿馬鹿しいとは思うだろうけど、動けずにいた理由を説明してあげてくれ」[lr]
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=6 c=1
「え……それは……その……」[lr]
 委員長は困ったような顔をして俯いてしまった。[pcm]
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4 c=1
「い、言えません……」[lr]
「……! せ、先生、待って! ストップ!」[lr]
 金髪を振り乱して委員長に飛び掛ろうとする先生を、慌てて止める。[lr]
 やわらかい胸が顔に当たったけど、その幸せを噛み締める暇も無く、懸命に先生を抑えた。[lr]
「先生! お願いだから落ち着いてください!」[lr]
「ちょっと! 離しなさい! 私は稔君のことを守ろうと……」[lr]
「気持ちは嬉しいですけど、勘違いしてますからっ!」[lr]
 先生を抑えながら、委員長にも呼びかけた。[lr]
「委員長! 頼むから言ってくれ! どうして動かずにいたんだ!?」[lr]
;@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4 c=1 t=1
「い、言えません……」[pcm]
「稔君! どいてっ! どくのよっ! 何としてもここで……!」[lr]
「あ、わかりましたよ、先生! これこそ宇宙の陰謀ですよ! 俺たちを仲間割れさせて、先生に授業をさせないようにしてるんですよ! 地球の教育レベルを下げて文明の地盤沈下を起こそうという、恐ろしい陰謀ですよ!」[lr]
@cl
;;日向葵 基本 中央
「……! まさか……そんな……」[lr]
「いえ、間違いありません。今日実験の準備が出来なくて、俺たち生徒が先生の授業を受けられないとなったら、将来どれほどの損失になるかわかりません」[lr]
「それじゃ、私は奴らにまんまと……?」[lr]
 委員長に紫外線を浴びせようとする先生を、何とかなだめすかして落ち着かせる。[pcm]
 十五分ほどの説得の末、ようやく先生は納得してくれた。[lr]
 実験の準備は簡単なもので、液体窒素の入った瓶を準備室から運び出す作業だった。[lr]
 作業自体にはそれほど時間はかからなかったのだが、初めの騒ぎのせいで、終わった頃には一時間目が始まるぎりぎりの時間になってしまっていた。[pcm]
「二人とも、ありがとね」[lr]
 先生はこのままこの実験室で授業だ。[lr]
 笑顔で手を振って、見送りしてくれる。[lr]
 あの、よくわからないところが無ければ、普通に美人だし、いい先生なのに……。[lr]
「それじゃあ失礼します」[lr]
 委員長と二人、実験室を後にした。[pcm]
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