第九次ダンゲロス

人魚と鷹2P


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「……蘭丹先輩、なんの用ですか?」

「私のステージ、あなたが入ってからめっきり人が減ったわ。後輩の癖に生意気ね」

 実のところこれは欺瞞である。
 彼女の展示スペースは元々そんなに客足は良くなかった。難癖つけているだけである。

「はあ……そうなんですか。私には、よく分からないです」

「まあ、しらばっくれちゃって! そんな格好で浅ましく客を稼いでおいて!」

 言いながら蘭丹が指差す先には、姉のお下がりの、ずり下がった貝殻ビキニがあった。
 本来の役目を果たすことなく胸の下で揺れるそれをノエルは赤面しながら慌てて直す。

「し、仕方ないじゃないですか! これしかないんだから――」

「お黙りっ!」

 蘭丹が鋭く叫ぶのと同時、ノエルの身体に突如として電流が走った。

「っ!? くうっ……!」

 蘭丹の魔人能力『チェインボルト』は、遠隔地に電撃を発することができる。
 水タイプに電気技は実際効果抜群なようで、ノエルは苦しげに顔を歪め悶えている。

「あっ……! んあっ、はぐぅ……!」

「とにかく! これ以上『先輩』の私に恥をかかせたら、この程度では済まなくてよ!」

 言いたいことを捲し立てると、蘭丹は光るイリシウムを揺らしながらツカツカとその場を去っていった。
 後に残されたのは、頬を紅潮させ、腕や身体に薄っすらと電流火傷の痕をつけ、水槽の底にぐったりと倒れたノエルの姿であった。

「はあっ、はあっ……。…………ほんっと、地上ってヤなとこ……!」

 人間も、魔人も、地上の者は、やっぱりみんな嫌いだ。
 一刻も早く帰りたい。そんな思いのこもった涙が、一粒落ちた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おーい! ノエル、一緒に帰ろうぜ!」

 明くる日の放課後も、鷹絛楓は声をかけてきた。
 その言葉になんら反応せず、ノエルはぺたぺたと歩き続ける。

「シカトすんなってー! ……ん?」

 小走りで追いかけてきた楓は、ある異変に気付いてノエルの腕を掴んだ。
 ノエルはバランスを崩し危うく転倒するところであったが、なんとか持ちこたえた。

「ちょっと、いきなり何すんのよ」

「これ……火傷か?」

 楓の掴む腕には、昨夜蘭丹につけられた火傷痕があった。
 しまった、とノエルが舌打ちする。

「お前、何があったんだ?」

 しゃがみこみ問いかける楓の瞳は、今やノエルのそれと同じ高さで、真っ直ぐに
 見つめている。
 ノエルはばつが悪そうにその眼差しから目を逸らす。

「別に、なんでもないわよ」

「なんでもないわけないだろ! 話してみろ、オレがなんとかしてやる!」

「誰も頼んでない」

「頼む・頼まないじゃねえ! ダチのピンチは助ける、それがダチってもんだ!」

 誰も信じないと。自分の力で生きてゆくと。
 挫けてしまいそうな己を奮い立たせるための決意を、いともたやすく溶かされて
 しまいそうで。

「――関係ないでしょ! あんたに!」

 気付けば、ノエルは大声を張り上げていた。

 ウタ=カタを修めた人魚の声量は、魔人の常識すらも遥かに上回る程である。
 至近距離で声の爆弾を炸裂された楓は、顔を顰め、両耳を押さえ数歩後ずさった。

「……もう、放っておいて!」

 言い残し、ノエルはぺたぺたと足早(手早?)に去っていった。