第九次ダンゲロス

図書と司書

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dng9th

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ハルマゲドンも間近に迫ったとある日の夜。

異次元に存在する一十四四(にのまえ としょ)の図書館。
入口には受付が設けられ、建物内に無数に存在する本棚には十四四が集めてきた本が並べられている。
図書館は十四四が生きている限り、必要に応じて拡張されるため、本が増えても棚が埋まってしまうことはない。
そしてその図書館の一角に設けられた閲覧室。そこで十四四は室内に設けられた机と椅子に座り本を読んでいた。

「あら、十四四ちゃんきてたのね。こんばんは」

閲覧室を通りかかったエプロン姿の女性――この図書館の司書である一四四四(にのまえ ししょ)は妹の姿を認めると彼女に話しかける。
落ち着いた物腰や雰囲気等から、十四四より年上のように見えるが、彼女は十四四の双子の姉である
四四四の声を聞くと読んでいた本から視線を外し、彼女の方に振り替える十四四。

「こんばんはッス、四四四姉。まあ、ここは私の図書館っスからね」
「ところで、ここでぐらいその眼鏡外してもいいんじゃない?私以外に誰もいないんだし」
「そんなにダメっスかね。かけた理由はあれっスけど。でも、結構、自分では気にいってるんッスけどね」
「別に外したくないなら無理強いはしないわよ」

最初から答えを予想していたように苦笑した様子を見せる四四四。
それ聞いて十四四はまた読んでいた本に視線を戻す。
しばらく図書館内も沈黙が続いた後、十四四が口を開く。

「…ハルマゲドンは…もう避けられないっスよね…?」
「そうね。今から辞めるには血が流れすぎたわね。大銀河さんがいれば別かもしれないけど」

『TOUGH BOY達の九ヶ月』を止め、学園をまとめ上げたリーダー大銀河超一郎なら、この状況でも何とかしたのかもしれない。
だが、彼の部下大銀河十傑集は命を落とし、大銀河自身も行方が分からない。
あの大銀河が死んだとまでは思わないが、今になってもあられないのは止められる状態ではないかあるいは止めるつもりがないということだろう。
彼に期待するのは現実的ではないと思う。

「本音を言うなら…」

十四四が不揃いの髪をかきながらいう。

「私は気がのらないっスよね。たしかに『家庭科室事変』の件はありまスけど。
でも前は生徒会のメンバーとも仲良くしてたじゃないっスか」

大銀河によって和解した二つの勢力は『希望崎自警団』が壊滅し、その後決定的な亀裂が走るまでは当然のように交流が合った。
それに生徒会のメンバーの一人、賢楼零次は図書委員会の後輩だし、ダンゲロス子や佐倉光素――彼女のもとである存在夢追中は彼女の兄、一一の友人である。
光素は図書委員会にも取材に来たこともある。
もっともダンゲロス子は何度か死んだが、そのたびになぜか蘇っているという話だ。だから、ここで死んでもまた生き返ってくるのではないかという気しなくもないが。

「あら、じゃあ十四四ちゃんはハルマゲドンに参加しないの?」
「…四四四姉は分かっててそういうこと言うんっスね」

私のことをよく知ってるくせにと十四四は思う。

「あら、違うの?」

十四四の言葉にとぼけたような調子で四四四が問い返す。

「そんなわけがないじゃないっスか。
番長Gは私の仲間だし、番長は十三っスよ。それに八一八もいるじゃないっスか。
私は家族を見捨てたりはしないっスよ」

茶褐色のトレンチコートに黒のスーツ、ボルサリーノのソフト帽を被ったハードボイルド幼女一十三(にのまえ とみー)。
転校生を倒せると豪語する剣術少女一八一八(にのまえ やいば)。
どちらも彼女にとってとても大切な家族だ。
一十四四は本を愛する少女である。と同時に彼女は家族を愛している。失いたくはない。
そんな彼女が戦いに挑もうとする仲間を、まして家族を無視してなんてありえない事だ――と十四四は思う。
自分が前線に出ることはないかもしれないが、それでも番長Gから離れることはないだろう
そして、彼女がそんな思いを強めるようになった原因は、ほかならぬ目の前の四四四なのだ。

「私はもう嫌なんスよ…ああいう思いをするのは」
「それ私のことかしら?」
「決まってるじゃないっスか…」

四四四はかつて二人で希望崎に訪れた時、ハルマゲドンに巻き込まれて命を落とした。
顔こそ似ていないが生まれた時からずっと一緒にいて、姉である過ごしてきた。
姉を失った時、十四四は自分の大切な半身を失ったような哀しい気持ちになった。
十四四が愛する書物でさえ彼女の心を癒してくれるのだろうか。
そして、それはそんな十四四の思いが起こした奇跡だったのだろうか。それとも元から彼女の能力だったのか。
死亡した四四四の魂は彼女の図書館に取り込まれ、司書となった。

「でも、私はここにいるでしょ。それでいいじゃない」
「よくないっスよ!だって、四四四姉、ここから出れないじゃないっスか!」

いつの間にか、十四四の読んでいた本は机の上に置かれていた。
四四四が図書館の一部となった結果、彼女はこの世にとどまることはできたが、代わりに図書館が出ることができなくなってしまった。
これは能力者である十四四自身にもどうすることもできなかった。

「私は別に不自由はしてないわよ。ここなら本をいくらでも読めるし」
「不自由はしてないって…」

そんなはずはないと思う。十四四が図書館への扉を開かない限り四四四はずっと一人だ。
誰にも会えないし、服も遊びも本でさえ誰かが持ってこなければ、彼女自身は用意することはできない。

「だって、生きてたらもっと色々できたじゃないっスか!
 私は四四四姉ともっと一緒に本屋とか色々出かけたりしたかったっスよ!!」
「そうね…できたらよかったわね…」

ここに来ればいつでも会うことができるが、それでは十四四の思いにこたえたことにはならないだろう。
別に四四四自身としては出れないことを嘆くつもりはないが、妹の気持ちにこたえられないのはつらい

「それに私が死んだら四四四姉は…」

この図書館は十四四が死んでも消滅することはないが、四四四はここに閉じ込められることになる。
なぜなら、ここへの扉を開けることができるのは十四四だけなのだ。
そうなれば本当に一人ぼっちになってしまう。
そして十四四がハルマゲドンに参加するならそれは非現実的な事ではない。

「あら、でも、この図書館は異次元に存在するわけで世界とまったくつながりがないわけではないでしょ。だったら、いつか誰かが魔人能力を使ってここに来るかもしれないわよ。
 ここにはあなたの集めたたくさんの本があるんだもの。私はそれを読んでずっと待ってるわよ」
「…そんな奇跡みたいなこと」

起きるわけがない十四四と思う。
どこにあるのかもわからない図書館を探し求め、その場所を発見しさらにそこへ行く手段を持った者がいる。
そんな確率低すぎる。
そもそもそうして訪れた者が友好的とは限らないではないか。

「そうね。奇跡かもしれないわね」

あっさりと認める四四四。

「でもそんな奇跡が起きたら素敵だと思わない?あなたがここに私が残したように」
「そうかもしれないッスけど…」
「それにあなたが死ななければいいのよ。ねっ、そうでしょ」
「簡単に言ってくれるッスね…」
「私以外にもあなたが死んでも悲しむ人はいるでしょ」

一家の家族やかつて希望崎にいた図書委員の先輩のことを思い浮かべる。
しおりは今は大学生になった。今も彼女とは交流がある。きっと彼女は自分が死んだと聞けばかなしむのだろう

「……そっスね。、またしおり先輩や他のみんな一緒に本でも読めればいいっスね」
「できるわよ。それぐらい」

四四四が微笑みながら言う。十四四は机に置いた本を手に取り、再び読み始める。
図書館の夜は更けていく。


GK評:3点
ハルマゲドンのあらすじを振り返るがごとくの十四四ちゃんSS。
こうしてキャラクターの本戦に対する意気込みが語られていくというのはいいですね。

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