第九次ダンゲロス

されどリザーバーはカップ麺を食う


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「みなさんで、一緒に写真でも撮りませんか?」

ハルマゲドン開戦の少し前に夢追中、もとい佐倉光素はそう言った。報道部の彼女らしい言葉である。本来部外者の彼女に対してこれから命がけの戦いに臨もうかというときになんだと文句を言う者はいない。たとえ勝利しても恐らく何人かは命を落とすだろう。だからこそ、全員が揃っていられる今を形に残しておきたい。多くがそう感じたのである。

「ハイチーズ」

ぺんたっくすが変身した超小型カメラが、初めてパンチラ以外のモノを写真に収める。フラッシュを浴びながら、何人かは「そう言えば前にもこんな写真を撮ったな」などと思い出していた。
大銀河超一郎が健在だった頃、彼を中心に生徒会と番長グループが合同で写真を撮ったことがある。校内新聞に掲載されたその写真からは彼らが少し前まで血なまぐさい抗争を繰り広げていた組織同士であること、そして少し後にはまたそれを繰り返すことになることは想像もつかない。

もはや避けられぬ戦いを嘆く者、恐れる者、戦いの後のことを考える者、何も考えていない者。各々が内に思いを抱えつつ、現像された写真を見つめていた。

✝✝✝✝✝

「で、俺達は留守番か……」

「男は使えないってさ……僕達なんかいらないんだよ……」

生徒会室。居残り組みになった20人は食料として用意されたカップ麺を食っている。
各社の様々なカップ麺が3日分積まれており、カップ麺ばかり食っていても飽きることは無い。
ちなみに「男は使えない」発言であるが、番長グループ30人中、男は14人いるにもかかわらずスタメン10人には男が3人しかいない。
対して30人中9人しかいない女は5人も入っている。なんということか。

「もう女の時代なんだよ。ラノベの表紙だって女ばっかじゃん。野郎はお呼びじゃないの」

「ていうか無性多くね?」

使えない男たちの発する卑屈なオーラは残った女たちや無性・両性までにも伝播し、
その場がどんよりとした雰囲気に包まれる。
これでは美味いカップ麺も不味くなってしまう。

「皆さん、私たちはリザーバーです。誰かは戦いに呼ばれるのですから、今は備えましょう。男女なんて関係ありません」

「そのときに真摯に備えられる人こそ使える人だと思います」

力強い、しかし彼女らしいどこか癒しを纏ったことばに悪くなった空気が幾分和らいだ。
本来部外者の彼女だが、今では生徒会でも強い存在感を放っている。

「そうだぜヒャッハー!腹が減ってはいい糞は出来ぬって言うだろ!?」

ビッチひしめく希望崎で今更ではあるが、品の無い言葉を口走りながらダンゲロス子は火を放った。
汚物を消毒するのでは無い。
「カップ焼きそばって焼いてなくね?」と思った彼女は直に焼いてみることにしたのだ。容器ごと。
プラスチック製の容器が燃えて嫌な臭いが立ち込める。

「ゲロ子ちゃん熱い!火事になっちゃうよ!」

ダンゲロス子の側にいた狸狢ぽんぽ子が炎の熱気に悲鳴をあげる。

「ヒャッハー!炎術使いがそんなヘマするかっつーの!それよりそろそろ焼け…ぬおっ!」

まるでクイズ番組の罰ゲームのように、ダンゲロス子は足元に出現した、いや移動してきた穴に飲み込まれた。
穴の底からはダンゲロス子とクボミ、2人の悲鳴が聴こえてくる。
頭上からダンゲロス子が降ってきたクボミは、念願かなってと言うべきか、かの一一を彷彿とさせるToLOVEるに見舞われたわけだが、
哀れにも降ってきたのは美少女(?)とはいえ炎上するカップ焼きそばを手にしたダンゲロス子であり、焼死しかねないトラブルの前にToLOVEるどころでは無い。

「熱い!死ぬ!」

「助けて!誰か水を」

2人のピンチにぽんぽ子は紙パックの紅茶を開けて穴の底へと注ごうとする。
が、本体が生きるか死ぬかの事態に陥りながらも能力で生まれた落とし穴は移動を続けており、ぽんぽ子までも飲み込んでしまった。
「ひゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げながら落とし穴へと消えるぽんぽ子。
だが、その際手にしていた紅茶はぶち撒けられて穴の底のダンゲロス子とクボミ、2人の服に燃え移ろうとしていた炎に降り注ぎ、
大事に至る前に消し止めたのである。

「あいてて……助かったみてえだな……ありがとよぽんぽ子」

「う、ううんいいの……ごめんね私まで落っこちてきちゃって……」

なんとかピンチを脱したダンゲロス子は手にしたカップ焼きそばを見る。
既に容器とかやくやソースは燃えてしまい、残ったのは灰一歩手前の麺だけだ。
実験の結果出来上がったリアル焼きそばを、何故かゲロ子は満足気に見つめており、
そしてバリバリと食い始めた。流石である。

「ウメェー!ウメェー!」

「きゃっ…!」

「うわっ…」

生徒会で最もモヒカンザコに近いメンタリティを持つダンゲロス子は、
カップ麺の魔人能力の影響を最も強く受け、驚異的な脚力で穴の底から地上へと跳び上がった。
穴から跳びだして来た瞬間、丸見えになったパンツは樫尾ニコがしっかりとぺんたっくすに収めている。

「ゲロ子ちゃん行っちゃったねクボミ君、私達どうやって上がろうか……」

狭い穴の底に取り残された2人だが、その位置関係は一体何がどうしてこうなったのか、顔面騎乗位の形をとっていた。
なんというToLOVEる。
そのことに気づくと慌てて立ち上がり、顔を尻に敷いてしまったことを赤面してクボミにわびるぽんぽ子だが、
そのクボミは恍惚とした顔で意識を失っていた。

「(頼んだぞよしお君……リーダーは任せた……皆を引っ張ってくれ)」

元々生徒会長でもなんでも無い思継司がカップ麺の汁に米々かぶりが残していった米を入れ、
ラーメン雑炊にしてかき込んでいる。
その横では宇佐美うさぎがかやくをガーリーに貪っていた。

「俺とお前……食うか食われるか、タイマン張らしてもらうぜ…」

全宇宙リュウセイはカップ麺を前にポットを構え、全身に闘気を滾らせていた。
ナショナルジオグラフィックで見た、野生動物の狩りの様子。
肉食獣といえば圧倒的強者にも思えるが、狩りの対象もまた命がけで抵抗するから、返り討ちとなることも珍しくは無い。
互いの生存を賭けた純粋な暴力のやり取り。

「どうした……来ないのか?ならこっちから行くぞ……」

カウンターを警戒しつつ蓋を開け、かやくのと粉末スープの袋を裂いて麺の上にふりかける。
そしてポットの注ぎ口の真下に容器を置き、お湯を注がんとする。

「馬鹿な……この段階にまで至って反撃しないだと……」

リュウセイは困惑していた。まさかこのカップ麺は俺に食えと言っているのか。
 食われるための生命などこの世界に存在しない。動物は皆、理不尽に他を殺し、食うのである。
そしてこのカップ麺は食材という死体ではなく、紛れもなく生きているはずだ。魔人能力まであるのだから。
生きているのに、抵抗しない。俺に命を捧げんとしている。
 なんという慈愛だろう。自らの身を旅人に捧げようと火に飛び込んだ兎のようだ。

「貰うぞ……お前の命」

お湯を注ぎ、3分。蓋を開けると、湯気と共に食欲を刺激する香りが立ち上がる。

「いただき……ますっ!」

リュウセイの頬を涙が伝って落ち、スープに波紋を起こした。
そんな様子をマッチョドラゴンがうどんを食いながら冷めた目で見つめている。

「また……みんなで、こうしてカップ麺を食べられるといいですね」

床に穴が空き、ウメェー!ウメェー!とダンゲロス子がやかましく跳ねまわる生徒会室をカメラに収めながら、
光素は隣で日本ソバを啜る夢売誘子に言った。

「でも、私も戦場に行きたかったなあ……私が呼ばれればいいのに」

などと心中で呟きながら。


GK評:4点
ぽんぽ子と夢売はスタメンなのに何やってんの!?
それはそれとしてこういう多くのキャラに登場機会のあるSSは賑やかでいいですね。