第九次ダンゲロス

第九次ダンゲロス武勇伝-衿串亅編-


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『記憶力が貧弱で、逆方向にしか働かないの』

体育館裏に、男女が二人。
一人は、首元に布切れを巻き付けた男。
もう一人、女の側の風体は異様。
金色の髪、金色の目、金色の服、金色の鞄――全身を偏執的にまで黄金に染め上げた少女、衿串亅(えりくし すぺりおる)。

「……手紙をくれたのはキミか、両津君。
どうした?キミとボクはろくに話をしたこともないだろう」

両津流雨。衿串亅のクラスメートとはいえ、二言三言交わした程度の仲だ。
野暮ったく巻かれたスカーフを手放さない、陰気な男。その程度の認識でしかない。

「えっと、その……おれ……衿串の事ずっと見てて、その……」
「……その……知りたいんだ! 衿串の事」

空気が変わった――彼女は直感する。
彼は、本気だ。
衿串亅は姿勢を正し、彼を正眼にしかと見据える。鞄を握る手にも、自然と力が篭る。

「……全部、聞きたいんだ! あの技、何処から誰から知ったか――」

風にたなびくスカーフが、彼の顔を包む。
弱々しげな表情を覆い隠し、直後――ぎちぎちとした、異音。

面を隠し、冷たい目元だけを見せる男、両津流雨。

「――洗いざらい吐いて貰う。その後に貴様を殺す」

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感情の死んだような、氷の声。
両手首から先は、鋭く尖る巨大針に変じている――彼の能力『カップルニードル』の産物だ。

「成る程、部活熱心(ちょうきょうずみ)かい。道理で親睦会じゃ能力伏せてた訳だ」
「我々の目は欺けない。貴様の武技――手芸術……いや、陶芸の秘奥」

「おいおいよしてくれよ、両津クン。ボクは告白かと思ってときめいたってのに、そんな――」

軽口は布石――既にその場に衿串亅の姿は無く、彼の懐に潜り込んでいる。

「――期待外れが、あるかい!」

ふつ、と風切る音。
手に持っていた鞄が、いつの間にか巨大な鍵のような得物へと変じている。
二度の空中転を打ち、その一撃から逃れる両津。
鞄だったものから吐き出された内容物が、ばらばらと宙を舞う。

「ああもう、折角の黄金が黄土色に犯されてしまうじゃないか」

両津流雨は応えない。
着地と同時に踏み込み、恐ろしい速度で突撃。
亅も迷わず前に踏み込む。
鍵型の金色戦斧を構え、下段から振り上げる。

両津は大きく仰け反ってそれをかわすと、片手を地面に突き刺す。
奇怪な姿勢のまま、もう片腕が奇襲的に伸び迫る!

咄嗟に掲げた武器防御を、針はあざ笑う。
衝突寸前で二股に避け、斧を迂回。がら空きの側面を衝く!

「報いを受けろ、"邪悪な簒奪者(ダークスティール)"!」

両の脇下に鋭く向かった鉄の針は、悪趣味な金色の専用制服を刺し貫く――

「おいおい、ただでさえ薄い胸を狙わないでくれよ」

――事叶わず、尖端が欠け折れる!

「そんな"しみったれた鉄(ダークスティール)"じゃ、ボクはオちないぜ」


本来、金は非常に柔らかい金属である。武具としては不適切な程に。

だが、彼女、衿串亅の認識は違う。
金こそ、最強の金属。最強の前には、硬いも柔らかいも意味をなさない――!
その幼稚な信奉こそ、彼女の真の能力、『金牢完遮』。
金を至高へと押し上げる力。


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彼女は猫をあしらった純金の髪留めを解き、手遊びを始める。
そのままくるくるとその場で回転を繰り返す。
ほどけた長髪が靡き、細やかな縞模様の残像を描く。
残像は軌跡に、軌跡は道筋に、道筋は実体に――!

視界が純なる金に染まる。


そして、急制動。

髪がくしゃくしゃと乱れる。
暫くするとすとん、と収まり、辺りに金の糸が舞う――
髪と近い細さのそれは、髪そのものではなく、引き延ばされた純金糸。

「おめかししてみたのだけど、どうかな、両津クン?」

両津は応えない。
既に飛び撒かれた金糸により、全身をボロボロに刻まれた状態で、意識朦朧と佇むのみだ。

自身に纏わせるつもりではなく、最初から攻撃を狙った行動だったのだ。
回転による防具の縫製術と誤認し、阻止機動をとった彼は、見事に虚を衝かれた形になる。

「見惚れて言葉も無しかい、いけずだな……まあいいさ」

物言わぬ重症体を尻目に、衿串亅は踵を返した。

「出来れば無関係と報告してくれたまえ。キミの先輩にでも来られたら困るからね。
レッサー位階だろうキミならともかく、グレーター級と相伴あずかるなんて御免だよ、ボクは」

「――なれば、そうさせて貰おう」

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「……おやおや、容赦無いね」

頭上から響く、冷涼なる声。
屋上から姿を現したのは、人間サイズのぬいぐるみ人形。
間抜け顔のぼろ人形と侮ることなかれ。これはあからさまに手芸の産物なのだ!

恐らくは、衿串亅の実力を凌駕するほどの使い手。
そして、彼女の立ち回りも割れているとみるべきだろう。
人形は勢いよく飛び降り、音もなく着地する。

「後輩の逢瀬を覗き見なんて、野暮な真似じゃないのかい?」
「……邪なる売女にたぶらかされる様を、看過は出来まい」
「そいつはあれかい、耽美な感じのやつかい。さしずめボクは泥棒猫、ね。
大丈夫、ボクはそこそこ理解のあるつもりだよ、その手の」

言葉とは裏腹、衿串は全力で逃げる手立てをシミュレートしている。
脳内で無数の手段が悉く潰され、次、次の策を――!

「……逃げ切られぬ事実の否定は結構だが、それよりは辞世の句を考える事を勧めよう」
「やっぱりそうなるかね、嫌だな色気の無い」

遅ればせながら、知る。最早逃げ道などは無い。手芸者がそう告げたのだから。

押し黙る衿串。にじり寄る縫製人形。

――カツ、カツ


そこに分け入るは、静謐を破る、靴音。
全くの偶然ではあったが、その闌入者こそが、運命を完全に変えたといえよう。

――彼女の名は、魔山アリス狂終絶哀・闇。

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――魔山アリス狂終絶哀・闇。
かつて、学園最強の名を恣にし、現在の希望崎にもその名と籍を残す歴代最強存在。
彼女が、その重い口を開く。

「己の法(アルカイド)は己で決める。そして背信(コキュートス)に呑まれぬ事。
それは己の生き方(レーゾンデートル)を己で決める事に繋がる――」(止めて下さい、そんな物騒な……!殺しとかダメですよ怖い)

「邪魔をしないで頂きたい。我々は貴女に干渉しない、貴女も我々に干渉してくれるな」

それまで構っていた女を無視し、人形は答えた。

「あなたがそれを知るのは遅すぎた。人にとって、斯様な愚問(エニグマ)が解せないとは……」(ど、どうして分かってくれないの……?)

「手を引け、と? その女を傘下にお加えか、狂終絶哀猊下。食えぬお人だ」

「私に出来る事はこんな事だけ。
還りなさい。再び、父祖(ユミル)へ。母胎(ギンヌンガ・ガップ)へ。
こんなに悲しくなった事は初めて……」(帰ってくれないかな……怖くて泣きそう)

「……」

押し黙った着ぐるみが、決断する。

「……我々とて、これ以上に荒立ては望まん。そなたと事を構えては英語弁論部への備えも儘ならぬ」

人形は両津の体を掻き抱くと、煙のように消え去った。

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ボクを、衿串亅を救ってくれたのだ。
あの魔山アリス狂終絶哀・闇が、他ならぬ魔山アリスが。

ボクのような存在(まよいねこ)を救ってくれたのだ!
それが如何なる気紛れの産物であろうと、それが何だというのだ!

「ボク、は……」

気付かずに、涙が流れていた。歓喜の涙だ。

貴なる御手が、亅の頬に触れる。美麗なる指先が肌を伝い、優しく滴を拭い去った。



彼女と、目が合う――
ふっと魂の呑まれたように、衿串亅は気を失った。


「お休みなさい、良い夢(アーマゲドン)を」

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教室に響く、かしましい声々。
一人の少女の席に数人の少女が集まり、質問攻めを行っている。

「エリちゃん両津君に告られたっての本当なの? 噂になってるけど……」
「どうなの? もう付き合ってたり?」
「おやおや、秘密にしておこうと思っていたのだけど……参ったね」

尋ねられた少女は、肩を竦めるような仕草を見せ告げる。

「折角だけど、彼のお話は袖にさせてもらったよ」


「わー勿体無っ!両津君クールで人気なのにー」
「何で蹴っちゃったのー?もしかして……心に決めた人がいるとか!」
「えー、エリちゃんそうなのー?誰誰、クラスの子?」

鳴り響くチャイム。

「ほらほら、席に着いた方がいいぜ。次が何の授業か、忘れたわけじゃあるまい」
「あ、やばいやばい!」

慌てたように席に駆け戻る女子達。

「まあ、収穫はあったさ」

開いていく扉を見つめながら、衿串亅は独りごつ。




「――素敵な人を見つけたからね」



教室に登場した国語教師の姿を認めると、彼女はひそかに破顔した 。

GK評:3点
斧部VS手芸部夢の対決!決まり手はほとんど斧関係ないけど。
いいですねーこういうの。こういうの大好きです。
戦闘も展開も緊迫感があって実にグッド。

ま、魔山先生「狂終絶哀猊下」って呼ばれてんのか……。