第九次ダンゲロス

第九次ダンゲロス武勇伝-御厨逆手編-

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国立競技場。そこではその日、全国高等学校サッカー選手権大会の決勝戦が行われていた。
『宗理高校エースストライカー野田の強烈なシュート! おーっとしかしキーパー老林、また止めたー!』
実況が興奮したように叫ぶ。
『天才キーパー老林、本大会の決勝まで無失点。このままゴールを割らせることはないのか!』
その実況の言葉通り、キーパーである老林はこの大会、PKも含めて一本たりともゴールを許していなかった。
決勝の対戦相手である強豪・宗理高校もその苛烈な攻めによって幾度もチャンスがあったにも関わらず、得点をすることができずにいた。
「まあその無失点も今日までだが」
そう呟き不敵に笑う人物はグラウンドではなく、老林の背後の観客席にいた。
彼の名は御厨逆手。
操身術士の一族、御厨一族の一員である。金などの報酬で依頼を受けてその能力を振るうために『身繰屋』の異名を持つ御厨一族の彼がこの場にいた理由は、当然ながら依頼によるものであった。
依頼の内容は『キーパー老林からゴールを奪えるように、老林を操ってほしい』とのこと。おそらく老林の能力に危機感を抱いた宗理高校関係者からの依頼だろう。
「さて、そろそろ始めるか」
逆手は老林との距離が射程範囲であることを確認すると、周囲に気付かれないように密かに能力を発動させた。
直後、選手たちの動きに大きな変化があった。
『おおっと、一体どうしたのか! 得点が入らないことに焦れたかキーパーの老林までが前線に上がりだした!』
キーパーであるはずの老林がFWもかくやというほどに前に出てきたのだ。
突然の行動に唖然とする両チームの選手たち。だがボールを持っていた宗理高校の選手はやや戸惑いながらも守る者がいないゴールへ向けて大きく蹴る。
シュートというよりクリアといっていいようなハーフラインの向こうからの超ロングシュート。ゴールまでは直接届かずに数度バウンドするものの、最後ラインのディフェンダーが必死に追いかけても間に合わず、そのまま守る者のいないゴールに転がり込んだ。
その結果を見て逆手はほくそ笑んだ。
逆手の能力『攻めるも守るも』。それは相手の肉体、精神を操り、攻撃と防御に関する能力や価値観を一時的に入れ替える能力である。
老林はこの能力によりそのキーパーとしての類稀な能力を一時的に喪失し、さらには守備に関する意識も攻撃に転化されたためにゴールを放り出して攻め上がったのである。
どちらかと言えば間接的に他者を操る能力であるため御厨一族の中でも本当に操身術士と言えるのかと疑問に思われることもあるが、この能力は普通の操作能力と比べてばれにくいという利点がある。
キーパーである老林が攻め上がるのはあまりにも不自然な行動ではあるものの、老林の行動を直接操ったのではなく、彼の価値観を操り、それに従って老林自身が行動したため当の本人はさして違和感は覚えていないはずである。
「さて、依頼は果たしたし退散するとしよう」
騒然とする競技場の中、彼は出口へと向かっていく。
逆手の能力の効果はまだ続いているが、試合が終わるころには能力が切れて老林のキーパーとしての能力は取り戻されるだろう。もっともその頃には彼のキーパーとしての評判は地に落ちているかもしれないが。
そんなことを考えて苦笑しながら御厨逆手は競技場を後にした。
ちなみに、類稀なる天才キーパーとしての才能を全て攻撃能力に転化された老林が、ゴールキーパー不在による失点を遥かに上回る得点を叩きだし、結果宗理高校が敗北することになるのは完全な余談である。

GK評:3点
能力、キャラクターの解説として申し分なしなお手本の如き武勇伝。
オチまできれいにまとまってて魔人小噺としても完成度が高い。

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