――今日もふたりは仲良しこよし。
――きっと明日も仲良しこよし。
――いついつまでも、幸せに。
――きっと明日も仲良しこよし。
――いついつまでも、幸せに。
『3月3日』
たびびと 作
触手には、はっきりとした誕生日というものがない。
少なくとも姦崎の触手に関してはそうである。
卵生でも胎生でもなく、ふと気づけばそこに存在している。
大地と空気と時の運が重なった時に生まれる、ある種の奇跡。
それが触手という存在である。
卵生でも胎生でもなく、ふと気づけばそこに存在している。
大地と空気と時の運が重なった時に生まれる、ある種の奇跡。
それが触手という存在である。
***
「かなめちゃん、お誕生日おめでとう!」
「わあ、ありがとう!」
「わあ、ありがとう!」
二人で迎える、何度目かの3月3日。
夢追中はいつも夫に見せる最高の笑顔を、さらに一段階増したような
特別な笑顔で蝋燭の炎を吹き消した。
夢追中はいつも夫に見せる最高の笑顔を、さらに一段階増したような
特別な笑顔で蝋燭の炎を吹き消した。
直後、何本もの触手が四方八方からクラッカーを次々鳴らし、人数以上のお祝い感を演出する。
パーティシーンにおいても触手は万能である。
何しろ既に何本かの触手はクラッカーをナイフに持ち替えており、ケーキを切り分ける準備すら始めているのだ。
あの奥手だった姦がこんなに甲斐甲斐しく動いているという事実が、ふと改めて可笑しく感じ、
夢追はつい微笑んでしまう。彼女はさりげなく立ち上がった。
パーティシーンにおいても触手は万能である。
何しろ既に何本かの触手はクラッカーをナイフに持ち替えており、ケーキを切り分ける準備すら始めているのだ。
あの奥手だった姦がこんなに甲斐甲斐しく動いているという事実が、ふと改めて可笑しく感じ、
夢追はつい微笑んでしまう。彼女はさりげなく立ち上がった。
「じゃあ私はお皿を取ってくるね」
「えっ、今日はいいのに」
「えっ、今日はいいのに」
姦は一瞬止めようともしたが、夫婦の共同作業はすっかり板についてしまっている。
ごくごく自然に台所に消えた妻を、彼はそれ以上止めることはしなかった。
食卓での、まったく日常の営みである。だから彼は驚いた。
夢追が見覚えの無い小洒落た包みを持って戻ってきた時は。
ごくごく自然に台所に消えた妻を、彼はそれ以上止めることはしなかった。
食卓での、まったく日常の営みである。だから彼は驚いた。
夢追が見覚えの無い小洒落た包みを持って戻ってきた時は。
「じゃーん。プレゼントです」
誕生日を迎えた当人による謎の宣言に姦は一瞬何が起きたかわからず、とりあえず眼鏡をはずしてレンズを拭いた。
だがクリアになったレンズを通して見ても景色は変わらない。
だがクリアになったレンズを通して見ても景色は変わらない。
「……えっと?」
「プレゼント。今日は私からもあるからね」
「???」
「プレゼント。今日は私からもあるからね」
「???」
段取りを崩された姦の触手が視界の端でわたわたとうねる。
幾つになっても初々しいところのある触手である。
幾つになっても初々しいところのある触手である。
「今日はかなめちゃんの誕生日で、」
「今は私からのプレゼントの時間です。姦君、一回も祝わせてくれた事ないんだもん」
「今は私からのプレゼントの時間です。姦君、一回も祝わせてくれた事ないんだもん」
ああ、そういう事かと姦はようやく理解した。
触手には、はっきりとした誕生日というものがない。
しかし誕生日もないし、年齢というものも判然としない。一体何を祝われたらいいのだろう。
姦はまっすぐに彼に向き直った夢追の瞳を見る。
触手には、はっきりとした誕生日というものがない。
しかし誕生日もないし、年齢というものも判然としない。一体何を祝われたらいいのだろう。
姦はまっすぐに彼に向き直った夢追の瞳を見る。
「今年こそは二人まとめてお祝いしたいって、ずっと思ってたんだ」
「……かなめちゃん」
「姦君、」
「……かなめちゃん」
「姦君、」
「お誕生、おめでとう」
夢追は歯を見せて笑い、とびきりの笑顔で、おろしたての新品眼鏡を手渡した。
お誕生。
ああ、そうだよなあ。
日とか、年ではなく。それそのものを祝えることが、一番素晴らしいことなのだ。
お誕生。
ああ、そうだよなあ。
日とか、年ではなく。それそのものを祝えることが、一番素晴らしいことなのだ。
姦は二本の触手で丁寧にそれを受け取った。
彼には歯もなければ目もないが、その笑顔は十分に、愛する妻に伝わったことだろう。
彼には歯もなければ目もないが、その笑顔は十分に、愛する妻に伝わったことだろう。
***
大地と空気と時の運と、人の縁が重なった時に生まれる、ある種の奇跡。
それが触手と人との家族という、存在である。
それが触手と人との家族という、存在である。