ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第12話

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nwxss

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吠え声を上げながら、悪魔は心の中で大笑いしていた。
何しろ、召喚者直々にこの世界で暴れる許可が出たのだ。
悪魔は、契約なしではこの世界では何もできない。
契約違反を犯してウギルナルガードが粛清されたのがついこの前。
下手な真似はそのまま死を意味する。
だが、今回は違う。契約を結んだ。この世界で暴れろ、と。
まずは目の前の連中をぶち殺して、迂闊な契約を結んだ召喚者もぶち殺す。
そう、悪魔は決めていた。

悪魔は知らなかった。異世界の一部では常識であること。
悪魔には軍隊でも勝てない理由は、悪魔が魔界の力で守られているから。
その魔界の力、異世界で月衣と呼ばれる力が通用しない連中がいること。
それがちょうど目の前の4人であること。
そう、本来なら考える必要すら無かったのだ。
自分が逆に倒される可能性なんて。

 *

「サフィーちゃんは距離をとって魔力を集中!銀之介君といのり君は悪魔に突っ込んでくれ!」
戦闘の開始と共に、静が3人に命令を下す。
そして、それと同時に、移動の魔力が付与される。
「え?え?」
「い~から!一緒に来て」
突然の出来事に困惑する銀之介を引っ張っていのりが悪魔に突っ込み、
サフィーが悪魔の巨体から放たれる攻撃に巻き込まれない位置まで下がる。
「行くよ!ファイアーワークス、《サバイバルモード》!」
いのりが自らのプラーナを餌にファイアーワークスの力を限界まで開放。
そして、銀之介よりも早くいのりと静が普段なら考えられないほどの高速で行動を開始する。
プラーナをより早く行動するために開放したのだ。
「魔力の強さから考えて、こいつはアークデーモン級。こいつ相手に僕の魔法じゃ心もとない。だったら…」
高速で静は相手を分析する。
「…僕は援護に徹する!」
分析が終わると同時に静の魔法が完成する。
「…《スロウ》!」
静の魔法は悪魔の抵抗力を易々と上回り、悪魔の動きを鈍らせる。
「今だ!いのり君!」
「おっけ~!行くよファイアーワークス!」
その瞬間を見逃さず、いのりが攻撃に転じる。
ファイアーワークスの剛腕から、攻撃が放たれる。
その攻撃は鉄よりも硬い悪魔の皮膚を易々と貫く。
それと同時に。
「銀之介君!」
「わ、分かった!うりゃあ~!」
困惑しながらも放たれた銀之介の狼パンチがファイアーワークスの開けた穴に叩き込まれ、更に傷を大きくする。
「もういっぱ~つ!」
どこか楽しげにいのりが再び攻撃を叩き込み。
「ほら、銀之介君も!」
「え?あ、も、もういっぱ~つ!」
銀之介が連携して攻撃をする。
「じゃあ、後は頼んだよ!」
悪魔が動き出す気配を察して静が後ろへと下がる。
魔術師が攻撃に巻き込まれたら、死ぬ。歴戦のウィザードである静は、そのことを当然のように理解していた。

かくして。ようやく悪魔が行動を開始できるようになった頃。
悪魔はすでにボロボロだった。

(な、何がどうなっている!?)
内心、悪魔は大混乱していた。当然だ。悪魔と対等以上に渡り合う人間界の生き物など、存在しない。
絶対的な暴力のぶつかり合いで悪魔が負けるなどありえるはずが無い。
それは、人間外の吸血鬼や狼人間相手でも同様である。
それが、数万年は生きている悪魔にとっての常識だった。
その常識が悪魔の判断を間違えさせた。
悪魔のプライドに駆けて、尻尾を巻いて逃げるなど、認められなかったのだ。

悪魔がその力を振りしぼり、全力で攻撃を行う。
避けられないように高速で尻尾を振りまわし、その爪で持って2人を引き裂く。
戦車すらも破壊できるほどの一撃。
「…ぐわあ!」
銀之介が一撃で瀕死寸前まで追い込まれる。
先ほど静に傷を治してもらってなければ死んでいたかも知れない。
「やっべ死ぬ死ぬ!」
慌てていのりがファイアーワークスに全力で防御させ、プラーナを開放して防御に回す。
それでもなお、ファイアーワークスの防御を貫き、悪魔の一撃はいのりにかなりのダメージを与えた。
「いたた…」
その様子を見て、悪魔は余裕を取り戻す。あと1回、攻撃すれば奴らを倒せる。
だが、次のいのりの言葉で悪魔は凍りついた。
「と、言うわけで後は頼んだよ。せんせい、サフィーちゃん!」
悪魔は怒涛の攻撃を受けていたために忘れていた。敵は全部で4人だと言うことを。

「…《ヘイスト》」
静の魔法がサフィーに素早く動く力を与える。
「これでよし。後は…撃つだけだ。頼んだよ、サフィーちゃん」
「まかせときなさい」
何もサフィーはただぼ~っと3人の戦いを見ていたわけでは無い。
自らの中に眠る、隠された力。
それを無理やりに叩き起して使う、サフィーのとっておき。
普段は疲れるから使わない、ここぞと言うときの切り札。
ファー・ジ・アースの吸血鬼が《拘束術式》と呼ぶそれを、サフィーは準備していたのだ。
「今度こそ、一撃で仕留める」
じっくり、じっくり練り上げた強力な不可視の力。引き絞った弓のように強力なそれを更に収束させる。
不可視の力を限界まで収束させた魔法が、どれだけの威力を叩きだすか、サフィーにとっても未知の領域だった。
流石に不利を悟った悪魔が逃げ出そうと背中を向ける。だが、すべてが既に遅かった。
「…《ヴォーティカルカノン》」
言葉と共に悪魔の身体に大穴が開く。そして断末魔と共に悪魔が塵へと変わる。
かくして、悪魔は完全に消滅した。

「お、終わった…のか?」
銀之介が思わず溜息とともにその場にへたり込む。
今まで命がけの戦いと言うものをほとんど経験していない銀之介にとって、悪魔との戦いはとんでもなくきつかった。

「つ、疲れた…」
プスン
どこか間抜けな音とともにファイアーワークスがしぼむ。供給するプラーナが切れたのだ。

「ところで、そろそろ傷を治して欲しいんだけど…」
戦いが終わって自分が大怪我をしていたことを思い出したサフィーが静に回復魔法を要求する。

そんな3人の様子を見て、静が提案する。
「とりあえず、色々と話したいこととかはあるけど…今日はもう、休むことにしない?」
3人は1も2もなく頷いた。

 *

ガラガラ…ピシャン!

「みんなおっはよ~!」
今日も今日とて元気な声が飯波高校に響き渡る。
その声を聞いて、1年2組の元気娘がやってきたんだなと思ってそちらを見たみんなは絶句した。
湿布、包帯、絆創膏。いのりは全身傷だらけだった。
あのあと、とりあえずダメージの大きい2人に回復魔法をかけたところで静のMPが切れ、
いのりに回復魔法をかけることができなかったのだ。
「いや~階段で足滑らせちゃってさ。最近の階段は怖いね!」
一身に浴びている視線に気づき、照れくさそうに言ういのり。
(嘘つけえええええええええええええええええええ!!!!!!!???????)
クラスの心がひとつになった瞬間だった。
「おはよ~ございま~す」
そんなことは露知らず、教室にぐるぐるメガネのおかっぱ少女が入ってくる。
「あ、春美ちゃんおはよ~」
ここ1週間ほどですっかり馴染みになった春美にいのりは挨拶を返す。
そんないのりを春美はじっと眺め、言う。
「うんうん。昨日怪我したって聞いてたけど、お元気そうでなによりです」
「へ?春美ちゃん、どこで聞いたの?」
不思議そうな顔をして、いのりは春美に聞き返す。その瞬間、春美の眼鏡がきらりんと光る。
「ふっふっふ…私の情報網、なめちゃいけませんよ?新聞部じゃあ“聞き込み”の春美って有名なんです」
どうやら独自の怪しげな情報網で持って調べたらしい。
「そ、そ~なんだ。う、うんだいじょ~ぶだよ。明日になったら多分せんせいがなお…」
「明日?せんせい?」
「う、ううん!な、何でも無い!」
そ~いえばいきなり治ったら思いっきり怪しまれることに気づいて慌てて訂正する。
(し、しまったあ~!?しばらく包帯とか巻いとかないと!)
面倒なことになったと思ういのりであった。

あっと言う間に時間が過ぎて、放課後。
「…ってなことがあってさ~、やっぱり休んどきゃよかったよ~」
不思議研の部室でがっくしと机につっぷしていのりが静に愚痴る。
姉と違って学校を休むと言う発想が全然出てこない自分の健康優良児っぷりが恨めしい。
「はっはっは。そう言えばそうだねえ。輝明学園ではよくあることだから気にしてなかったよ」
そういって笑う静には、傷一つ無い。そもそも怪我してない。
「…なんかびみょ~に納得いかない」
ジト目で、無傷の静を見て言う。
サフィーと銀之介は自分よりボロボロだったせいか、1人無傷の静が余計に納得がいかなかった。
「仕方ないだろ?耐久力は一般人に毛が生えた程度の僕があいつの攻撃を食らってたら、今頃学校どころじゃないよ」
いのりのように凶悪な魔物に守られてるわけでも、サフィーや銀之介のように人間離れした体力を持ってるわけでもない。
そんな静が悪魔の攻撃を喰らったら、そもそも生きていないだろう。
「そりゃ~そうだけどさ…」
それでも納得がいかないいのりが言葉を続けようとした、そのときだった。

「良かった!静さん、まだ残ってたんですね!」
「いのりさん、やっぱりここにいたんですね!」
1Pカラーと2Pカラーのぐるぐるメガネ少女が同時に入ってくる。
2人は何事かとそちらを見る。
「やあ、どうも小夏さんに春美さん。何かあったんですか?」
騒々しく部室に入ってきた不思議研コンビに、静が問いかける。
「今日は隣街に買い物に行くと言っていたように思うのですが」
「そ~いえば…」
いのりも春美から聞いていた。何でも隣街でオカルト市があるとかで2人してそこへ行くと。
「はい!色々買えて楽しかったですけど、とんでもないものを見つけたので、静さんにも見て欲しくて!」
そう言うと小夏はカパッと鞄を開けて逆さにする。
中から怪しげな人形だの透明な石っころだのよく分からんものがごろごろ出てくる。
そして、小夏が一冊の黒い本を拾い上げた。
「これです!春美ちゃんが古本の中から見つけ出したんですが…」
「…ぶちょ~、それ、何の本ですか?」
その本の表紙にはよく分からん文字で題名やらなんやらが書いてある。いのりには読めない文字だ。
だが、いのりには微妙に見覚えがある気がしていた。
「はい!よくぞ聞いてくれました!」
ずずいっといのりに近寄って、小夏が解説する。
「どうやら、昔の魔術書らしいんです!由来とかは分からないけど、何でも書いたのは悪魔で、悪魔の呼び出し方が書かれてるって!」
そう語る小夏はめっちゃうれしそうだった。
「ははは…悪魔の呼び出し方…ね」
つい昨日その悪魔と戦ったいのりが乾いた笑い声をあげる。
「そんなの、きっと偽物ですよ。ね?せんせ…せんせい?」
背中を伝う嫌な予感を無視しながら、隣の静に話しかけようとして、気づく。
静の顔色がまっさおになっていることに。
(いのり君…悪いニュースだ)
2人に聞こえないように小さな声で、静がいのりに話しかける。
(なんですか?悪いニュースって)
(うん…あの本、本物だ)
(ええっ!?)
(昨日、あのアラキが使っていた魔導書と同じものだよ。少なくとも表紙は)
(じゃあ…)
(あれに書いてある通りにやったら…)
(うん。悪魔が召喚されるね。多分)
サー
いのりの顔もまっさおになった。
あんなのともう1回戦うなんて、いのりも静もまっぴらごめんだった。
「どうやらラテン語で書かれてるらしくて、まずは解読から…」
ヒソヒソ話している2人に気づかず、小夏が楽しげに言いだす。
「や、やめしょう部長!」
「そうです。その手のものは素人が適当に手を出すと危険ですよ!」
慌てて2人して小夏を思いとどまらせようとする。
「え~?」
小夏が不満そうに漏らした。
その後、小夏を説得してなんとか諦めさせるのに2時間を費やすことになる2人だったのだが、その内容は割愛する。

 *

「う~ん」
唐子は目の前の少女を見て、首をかしげた。
「なんでしゅか?」
目の前にいるのは、やっぱりあちこちに包帯をまいたサフィー。
大きなコップで、コーラを飲んでいる。
「サファイアちゃん」
「サフィーでいいでしゅ」
「じゃ、サフィーちゃん…」
「なんでしゅか?」
「サフィーちゃんってほんと~に…」
「吸血鬼でしゅよ?しょ~しんしょ~めい」
昨日、眼鏡をかけた少年を連れてった銀之介は奥の部屋でうんうん唸っている。狼の姿のまま。
回復魔法が十分かける余裕が無かったため、ボロボロのままで帰ってきて、今は狼人間の生命力で必死に治しているのだ。
そのお見舞いとしてサフィーがたずねて来たのはつい先ほど。
「いやあ、銀之介君も言ってたし、信じないわけじゃ~ないんけどさ…」
サフィーの方を見る。
ちっちゃい女の子だった。銀之介の従妹の少女よりも。
真昼間から訪ねてきた。太陽がさんさんと輝いているのに。
コーラを平気で飲んでいた。っていうかよくうどんを食べに来ていた。
ぶっちゃけ吸血鬼に見えなかった。
「…ま、確かに今のアタシは吸血鬼としては変でしゅけどね」
唐子の言いたいことを察して、サフィーが苦笑する。
サフィーにしてもほんの1週間前まで想像もしていなかった。
平気で昼間から出歩き、人間の食べ物を食べるようになるなど。
「けど、事実でしゅ。アタシは吸血鬼でしゅ。それは変わらないでしゅ」
きっぱりと言い切る。吸血鬼としての力は失われていない。
血を吸えば傷を治せるし、不可視の力だって使える。無くなったのは弱点だけ。
「ふ~ん。あ、じゃあさあ…」
納得したのか、唐子はさらにサフィーに聞く。
「吸血鬼の知り合いもいる?」
「…まあ、少しなら」
長い間追われ続けてきた吸血鬼は家族以上の群れを作らないため、サフィーはあまり他の吸血鬼というものを知らない。
ブラックウィナーがなくなってからは吸血鬼同士が連絡を取り合ってお互いに会うこともあるらしいが、サフィーはあんまり積極的に関わってはいなかった。
「それじゃ、ジルさんと森写…なんとかさんって人、知らない?」
だが、唐子が口にしたのは、その数少ない知り合いだった。

サフィーは思わず怪訝そうに聞き返す。
「ジルと森写歩朗って…コニーとトナ?」
「知ってるの!?」
「知ってるも何も…」
驚きながらサフィーは言う。
「妹とその旦那でしゅ」
「妹!?」
唐子は思わず例の写真を取り出す。
「え?だってど~みても10歳は年上…あ」
改めて写真とサフィーを見比べた唐子はきづいた。その写真に、サフィーがしっかり写っていることを。
おしゃれをして、ドレスを着ているが、この赤毛は見間違えようが無い。
「ほんと~にいた。ってことは…」
「だからマジでしゅ。っていうかどこでその写真を手に入れたんでしゅか?」
「えっとね。あたしと銀之介君の知り合いに漆野さんって人がいて…」
「漆野?漆野…ああ、花ちゃんのときの刑事でしゅか」
あの時はコニーとトナが誘拐事件に巻き込まれたとかで大変だった、らしい。
直接的にはほとんど関わって無いのでよく知らないけど。
「吸血鬼になってからは年取らないから見かけと年齢は全然あてにならないでしゅ。
これでもコニーより300歳は年上でしゅよ?」
スケールの大きな話である。
「300歳…すごい年の差だね」
唐子が目を丸くして言う。
「吸血鬼にはよくあることでしゅ」
サフィーは肩をすくめて答えた。

「それにしても…」
ふと、大人の口調でサフィーは呟く。
「狼男に吸血鬼、とどめに悪魔。一体この街で何が起こっているのかしら…」
その小さな呟きは誰の耳にも入ること無く、消えていった…

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