ここでは2006.07.05に行われた、北朝鮮によるミサイル発射行為の国際法上の問題点について考察する。

先制攻撃か、軍事演習か


同日未明に発射されたミサイル7発はいずれも日本海のロシア沿岸部の公海に着弾している。

これらのミサイルはスカッド、ノドン、テポドン2の3種で構成されていたと推定され、それぞれのミサイルの航続距離は以下の通りである。

  • スカッド:およそ550km
  • ノドン:およそ1300km
  • テポドン2:3500-6000km  asahi.com掲載記事より引用

これらのミサイルが着弾した海域と発射地点との延長線上には、日本の領土・領海は殆どかかっていない。一方で同延長線上に位置する重要な軍事的施設としては米アラスカ州の海軍基地群が挙げられるが、これらの基地は最も航続距離の長いテポドン2を以て何とか射程に捉えることができる程の遠い距離に存在する。まだ実際の航続距離試験を経ていない兵器により米国に対し、北朝鮮が先制攻撃を行うとは考えにくい。

上記の事を踏まえると、2006年の北朝鮮によるミサイル発射行為は他国への攻撃の意思を伴わない発射試験、すなわち純粋な軍事演習であると言うことができる。


公海上での軍事演習


国連海洋法条約下では、公海とは「全ての沿岸国の領海と内水、排他的経済水域、群島水域を除く広大な海洋」とされている。
公海においては全ての国・国民が「公海を自由に使用することができる」、公海使用の自由を保障されている(海洋法に関する国際連合条約87条)が、続く同条約88条においては「公海は平和的目的のために利用されるものとする」と、その使用目的について諸国の平和を物差しに制限が課されている。

一般に、公海における軍事演習は関係国への事前通報を条件とし、かつ国連憲章の武力行使禁止規定(第2条4項)に反しなければ違法とはされてこなかった。

従って、今回のミサイル発射行為の違法性を検討するに当たっては、北朝鮮が同条約87条2項の言うところの「他の国の利益及び(中略)権利に妥当な考慮を払っ」ているかがポイントとなる。


他国の利益・権利に対する考慮


朝鮮日報の報道によると、北朝鮮は自国の漁船に対してはミサイル発射の2日前より秘密裏に同海域への出漁禁止命令を出していた。
その一方で周辺諸国への通告は十分でなく、ミサイル発射に前後して同空域を複数の韓国籍航空機が通過したり、海域内に操業する漁船が存在するなどした。

仮に核弾頭を搭載しておらず、着弾の際の周辺海域への影響がさほど大きくないと想定されても、
  • 同海域は良好な漁場であり昼夜問わず、多くの各国漁船が操業している
  • アジアと米国を最短距離で結ぶ基幹航空路が近隣空域内に数本存在する
ということを考えると、北朝鮮による諸国への事前通報は著しく不十分なものであったと言うことができる。

まとめ

上記の通り、北朝鮮は十分な事前通報無しに、同海域(空域)を通過中の船舶ないしは航空機に甚大な損害を与えかねない軍事演習を行っている。
このような軍事演習行為は海洋法に関する国際連合条約88条に反する違法なものであると言えるだろう。

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最終更新:2007年04月16日 22:33