ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

外伝第02話

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だれでも歓迎! 編集

報道委員の策略

 灰色の髪が、学園世界の風になびく。
 多くの世界の人間が混在する中でも、1、2を争うほど見事なアッシュのロングストレートを風になびかせながら、その持ち主は大きく溜め息をつきながら歩いていた。
 端整な顔立ち。理知的ながらハイライトがないため『黒幕っぽい』と呼ばれることもある瞳。同年代から見れば確実に上から数えられるだろうプロポーション。
 平均よりは少し高めの身長に、暗めのシャツに黒のネクタイ。濃い目の茶に白い蔦の刺繍のロングスカート、黒のニーソックスにショートブーツ。
 銀縁眼鏡がきらりと光る、理知的な娘。
 彼女の名は、氷室 鐘(ひむろ かね)。穂群原学園高校3年生にして、『学園世界』報道委員所属の少女でもある。
 氷室はやれやれ、と肩を落とす。

「話には聞いていたが―――戦闘力がなくても凄まじい学校というのも、あるものなのだな」
「ホント。……どうしよっか、鐘。こんなの流しちゃっていいのかな?」

 そう答えるのは、氷室と同じく報道委員所属の少女、森 あい(もり あい)だ。
 森が投げてはキャッチを繰り返しているのは、一本のビデオテープ。
 それは、学園世界報道委員会TV―――GITで今度放送する予定の番組、『課外授業 ようこそ学校』の元テープだ。
 これを編集してテロップを入れたり、グダグダなところをカットしたりして番組を作るわけなのだが―――今回は、学校が悪かった。
 なにせ『銀魂高校』だ。
 明らかに学生じゃないだろお前らって連中が所狭しと出没し、それを担任は見てるのか見てないのか『俺、そろそろ着流し着たくなったから帰ぇるわ』と言い出す始末。

 その惨状を思い出しながら、氷室は頭をおさえて答える。

「仕方あるまい。私もアレを放送するのは頭が痛いが、あのグダグダを放送するのも我々のつとめというヤツだ。
 事実は面白い方がいいが、真実は面白いことばかりではないという一面だな。どうしようもない真実を面白くすることはできん」
「よくわかんないけど……アレはどうしようもないからそのまま流しちゃおうってこと?」
「うむ。汝もなかなか大人の事情に染まってきたようでなによりだ」
「うぅ……そんな大人の事情、知りたくなかったよぅ……」

 森が涙ぐむ。
 が、感情に素直なところと、切り替えの早いところが彼女の美点。
 次の瞬間には森は自分の秘密ノートを取り出す。

「えーと……次はどこだっけ?」
「次は『ごくつぅ』特集増刊号の記事のためのインタビュー録りだな」

 こともなげにそう言う氷室。

 『ごくつぅ』とは、『週間極上生徒会通信』の略称である。
 報道委員会とは、この『学園世界』の中で起きているできごとを世界中に広めるのを目的とした委員会だ。
 その委員の主な活動内容は今のところ2つ。『週間極上生徒会通信』の刊行と、毎日朝9:00から夜21:00まで放送しているGITの放送だ。

 もともとの活動内容であった『ごくつぅ』は一週間で起きたことをまとめた小冊子のようなものである。
 魔法講座から、流行の服、最新『極生』案件事情、学園世界にあるグルメマップまで。
 さまざまな情報の載る『ごくつぅ』はおおむね好評を博している。

 その『ごくつぅ』の発行も5回目を数えるくらいになってくると、報道委員会棟にさまざまな要求が寄せられるようになった。
 もっとこういう記事を作ってほしい。もっと記事を増やして欲しい。ここはこういうようにするべきだ、など。
 大抵は手前勝手な要求であるものの、中にはアイデアの素になるものもある。
 その意見の一つ、『学園世界ならではの組織が丸ごとわかるような増刊を出してほしい』というのを実現させてみよう、という意見が通ったのだった。


「そうそう……って、もうそんな時間?」
「そうだが。……嫌そうだな、あい」
「イヤっていうか……緊張するよね」

 うーん、と眉をしかめる森。
 うん? と小首を傾げながら氷室が答える。

「私の記憶が確かなら、汝はあそこに乗りこんでいったことがあったはずだが」
「あっ、あの時は植木が迷惑かけたから頭下げさせようと行っただけでっ! 別にケンカとかしに行ったわけじゃないからねっ!?」
「あそこの連中と前日に乱闘騒ぎを起こした相手を連れて、一緒に乗り込んだことは事実だろう?」
「うぅー……今考えるととんでもないことしてるよわたし―――っ!?」

 まったくだ、と言ってくすりと笑い、氷室は目の前で慌てている少女に対して少し思う。

 こうやって慌てているところを見ると、彼女はとても年相応の娘に見える。
 しかし、森 あいという少女は追い詰められるとその真価を発揮する。
 追い詰められたときの頭の回転、機転の利きは、力は強くとも絡め手の苦手な猪突猛進型の特殊能力者を相手どって手のひらで躍らせることができるくらいだ。
 危険な策士になる可能性を秘めてはいるのだが、どうにも本人にその気はない。
 資質としては実にもったいないが、彼女がその力を発揮するのは『ある一定の相手』が一緒にいる時が多い。

 これもまた『恋の力』というやつだろうか、とくすくすと笑っていると、森が不機嫌そうに頬を膨らませているのに気が付いた。

「……そんなに、楽しい?」
「失敬。
 あいのことを笑ったわけではない、信じてくれ」
「口元が笑ってるんですけど」
「私はもともとこういう顔だ。
 そんなことより、そろそろ行かねば彼らを待たせることになるぞ?」

 うぅ、とうなりながら森は氷室をしばらく睨んでいたが、やがて踵をくるりと返した。
 行くよ鐘っ! と言う彼女に、苦笑しながら氷室が隣を歩く。

 彼女たちの行く先は<A-0e>5階―――通称東棟、といった。



 ***

 『極上生徒会』管理棟内東棟5階、執行部室の隣にある来賓室。
 めったに使われることはないが、基本的に執行委員以外の人間が執行委員と話すために来た時に使われる部屋である。
 もともと『極上生徒会』の会員が寝泊りしていた名残を一番強く残し、他に比べてやや高級感ある家具の置かれている部屋に、今5人の少女たちが座っていた。

 その内の2人―――森と氷室が『来賓』という扱いで上座に座っている。
 氷室が机をはさんだ対面に座る3人の少女に向けて、軽く会釈しながら告げる。

「忙しい中、時間を割いていただき感謝する。
 先にアポイントをとった通り、今度報道委員会では『ごくつぅ特集号 -執行委員ノ全テ-』を発行する運びとなった。
 その特集記事の一つとして、執行委員たちの生インタビュー記事を載せる企画が上がり、それをキミたちに協力してもらいたい」
「お話は聞いてます。あたしたちでよければ、インタビュー協力させてもらいますね」

 そう答えるのはエルフィール=トラウム―――通称エリー。
 ザールブルグ内で錬金術士として腕をふるう錬金術士であり、執行委員としても活躍する少女である。
 その隣にいる少女が、怪訝そうな表情で報道委員に向けて尋ねる。

「別に私たちがインタビュー受けるのは構わないけどさ。
 こういうのって、普通『代表』が受けるモンじゃないの?」

 少女の名は御坂 美琴。学園都市レベル5の第三位、『超電磁砲』。
 学園都市内では群れることを嫌う彼女も、執行委員として活動することに異論はないらしく3ヶ月経った今も執行委員をやっている。
 美琴の隣のメガネ少女が、エリーのいれたミスティカティを啜りつつ答える。

「仕方ないッスよ。柊さんが一つところに留まるわけないッスからねー」

 なるほど、と呟く美琴。
 執行部室にいると確実に保証のない相手に対してインタビューを申し込むのは無謀だろう。
 保証がないというか、むしろいない可能性の方が高い。

 そんな理由か、と氷室は目を細め、森はガチガチに緊張している。
 これは緊張をほぐすイベントが必要かもしれないな、と考えながら、氷室はどこからともなく羽扇を取り出し、口元を隠したまま尋ねた。

「それではインタビューを始めるが。
 ――― 時に美琴嬢、『幻想殺し』との仲は進んだのかね?」

 みさかみことに300のせいしんだめーじ!
 みことはおちゃをふきそうになりながらたえてむせた!


 げほっ、けほっ、と盛大にむせている美琴を見て、森が氷室のえりを掴んでがくがくゆさぶる。

「かっ、かかかかか鐘―――っ!? いきなり何を聞いちゃマズそうなこと聞いてるの―――っ!?」
「うん? おそらくは、大衆が美琴嬢に向けて一番聞きたいことを単刀直入に聞いてみただけだが」
「つまり……アンタはあたしにさらし者になれ、と。そう言いたいわけね?」

 バチンバチン。
 なんだか美琴の髪の先が帯電しまくって危険すぎる音が響きだしている。スタンガンでいうなら象でも一撃コロリできそうな物騒な音である。
 そんな彼女の怒りを涼やかに受け流しがら、氷室は答える。

「いやいや。
 『執行委員はとんでもない能力を持った破壊の権化たちの集まり』という世界的な認識を改めるためには、色恋沙汰というのは一番の薬だと思うがね」
「誰が破壊の権化ですってっ!?」

 破壊の権化……、となんだか隣で落ち込んでるエリー。
 あっはっは、と笑いながら逆の隣でベホイミがクッキーをひとかじり。

「美琴さんはビーム乱射するは電撃ブチかますはで、破壊の権化って思われても仕方ないところがあると思うッスけどねー」
「あぁ、美琴嬢は『蒼雷の女帝』なんてあだ名で呼ばれてもいるな。主に美琴嬢自身が調停した学校の生徒から」
「誰っ!? 誰よそんなこと言ってるのはっ!? 焼いてやるから今すぐ出頭してきなさいっ!」

 そんなことを言われて出てくる奴はいないと思う。
 あっはっは、と笑っているベホイミに視線を向け、氷室が言った。

「余談だが。ベホイミ嬢、汝も自身が調停した学校の生徒から『赤熱の暴牛』なんて呼ばれているぞ」
「誰だコルァァァァアアっ!? 出てくるッスよっ、タコにしてやるッス―――っ!」

 ばたばたがたんがたん。
 もの凄い大乱闘が起きております。しばしお待ちください。


 ***

 10分後。
 暴れまわってスッキリしたのか、疲れたのか。
 エリーを含む執行委員3人と森がぜーはーと息を荒げているのに対し、氷室は羽扇をかざしたまま涼やかに言った。

「さて、緊張も解けたところでそろそろインタビューを始めたいのだが、いいかね?」
「ちょっと……まだ、始まってなかったっていうの?」
「なぁに、ウチの『自白剤』がやけに汝ら相手に緊張していたのでな。
 それに、美琴嬢のインタビューをするには、普通のレコーダーでは心配だろう?」

 おかげで携帯や音楽再生機なども一時隣に預けていてな、と氷室。
 確かに単体で電波障害だのを起こしたり、周囲の携帯全滅させたりする人間相手に電子機器を使ってインタビューするのは無駄になりかねないだろう。
 と、その時。
 こんこん、とドアをノックする音がした。
 氷室は言葉を続ける。

「だが、魔法製のレコーダーは品薄でな。報道委員会(ウチ)でもまだ一台しか所有していない。
 ウチも忙しくて、まだ取材中のところでレコーダーを使用していたから、それの都合がつくまではどちらにしろインタビューが開始できん。
 が―――ようやく、先の仕事も一段落したようだ」

 入るといい、とドアの向こうに声をかける。
 失礼します、と生真面目な声がして、鞄を持った中学生くらいの童顔の男の子が入ってくる。
 少年は、鞄の中から掌に乗るサイズの小さな箱を掴んで、机の上に置くと、笑顔で氷室に報告する。

「氷室さんっ、真神学園の取材終わりましたっ!」
「ご苦労、赤羽。ちょうどいい時に来てくれた。これからインタビューを始めようとしていたところだ」
「大丈夫青葉くん? いじめられたりしなかった?」

 氷室と森がそう口々に言う。
 と、エリーがその少年を指差して目を丸くした。

「アカバネでアオバって言うと……ひょっとして―――」
「あぁ、輝明学園秋葉原分校赤羽理事長代理の弟君だ。ついこの間、報道委員に入りたいと連絡があってな。真面目でよく働く、いい子だよ」
「そんな……ボクなんて、まだまだ皆さんの足を引っ張ってばかりですよ」

 頭をかく青葉を見て、なごむ空気。
 ……そして、空気が和んだのを『計画通り』と言わんばかりににたり、と笑う氷室と、それに気づいて『この女は悪魔ッスね……』と思うベホイミ。

 そんな一部の思惑を放っておいたまま、では始めようか、と氷室が言って、インタビューが始まった。
 青葉が机にレコーダーを置いて録音ボタンを押すのを確認し、氷室が仕事用の口調になる。

「今日は、インタビューのためにお集まりいただき、感謝します」
「はいはい早く始めなさいよ」
「そう言って協力的にしてくださると、とても助かります。
 では―――まずはじめに、執行部に入った経緯をお聞かせ願えますでしょうか?」

 言われ、はじめに答えたのはベホイミだった。

「あー……わたしはこう、なりゆきっていうかそんな感じッスね。
 柊さんと会って、一緒によくわかんない敵撃退する―――なんてことが3、4回あって。その後執行委員の公募があって、その時すでにわたしの名前があったっていう」
「それって……なりゆきっていうより、強制参加なんじゃ?」

 森の問いかけに、まぁそうとも言うかもしれないッスねぇ。なんて暢気に答えて、ベホイミはかるーく答える。

「ここにいるのもそんなにイヤじゃないッスし、別にいいんじゃないッスかね。
 始まりは無理矢理だったかもしれないッスけど、今は別にイヤじゃなくなってしまってる自分がいるッスからね」

 今がいいならそれでいい、と言った彼女は、笑顔だった。

 エリーが続く。

「あたしは執行委員の公募があって、それを見てお手伝いしたいな、と思ったんです。
 色んな学校の人とお話できるかもしれないですし、錬金術の効果を確認するのに何かと都合がいいかもしれないと思って」
「い、意外と打算的なこと考えてんのね、アンタ。
 わたしは―――『学園都市』が転移してきた後、すぐにちょっとゴタゴタしちゃってね。
 それを解決しに来た柊に、手伝ってやるって面倒な約束させられたのよ」

 最後に美琴がそう言うのを見て、氷室が目を光らせた。

「ほほう? その割に、君は執行委員の仕事をしている時やけにいきいきしているように見えるがね?」
「人を暴れ馬みたいに言わないでよ。単に、手加減する必要のない相手が多いから、気兼ねなくて楽だと思ってるだけよ」
「……汝はどこへ行こうとしているのかね」
「う、うるさいわねっ! それだけ毎日経験積んでもあの馬鹿には一発もあたらないから腹立つのよ!」

 結局そこか、と思いつつ、一台しかない魔法型レコーダーを壊されるのも困るので、さすがの氷室も黙っていた。
 森が、氷室が余計なことを言う前に話を進めようとする。

「あー、じゃあ他の執行委員の人についてどう思ってるか、聞いてもいいですか?」
「他のって……たとえば誰を?」
「そうだな。では、小学生魔法少女ペアという狙ったかのような属性の、穂群原(ウチ)のイリヤスフィール嬢と美遊嬢について手始めに聞こうか」

 エリーの言葉に、氷室が続けた。
 その言葉にそうだなぁ、と美琴があごに手を当て考える。

「あの2人は―――いいコンビよね。ボケとツッコミっていうか、ちょっと美遊の方に後ろを見せると怖いけど、イリヤの空気が平和ボケしてるっていうか」
「ルビーさんとサファイアさんは一度触らせて欲しいんですけどねェ。なかなか隙を見せてくれないというか……」
「フフフ、その問いはわたしに対する嫌がらせッスか。魔法少女としてやってきて後から正統派に来られて立場のなくなったわたしに対する嫌がらせッスか」

 三者三様。
 が、頑張れベホイミ。

 ともかく。最後のベホイミの言葉で暗くなった空気を無視するように、はっはっは、と笑いながら氷室が言った。

「じゃあ、次は相良氏のことでも聞かせてもらおうか」
「戦争バカね」
「爆発物のプロですよね」
「昔を思い出すッスねぇ」
「統合すると戦争バカってことじゃないですかっ!?」

 青葉、魂のツッコミ。
 というか、他に言いようはないのか。
 いやいや、とベホイミが答える。

「いい人ッスよ。基本的に戦争ボケさえなければまともな会話ができる相手ッスし」
「多少、考え方が偏ってるところはありますけど。爆薬の調合なんかは聞けば詳しく答えてくれますし」
「エリーさん。若い女性の質問内容が『爆薬の調合法』っていうのはどこか激しく間違ってるところがあると思いませんか?」

 エリーがそう言ったのにツッコむのはやはり青葉。
 ツッコミが赤羽家の人間とは思えないほど冴え渡ってませんか青葉さんや。

「若い女性ならともかく、あたしはその前に錬金術士なもんで」
「あぁ、『すっとこどっこい』というやつだな」
「じゃあ仕方ないね」

 納得した様子の報道委員を見て、ちょっと切なくなるエリーだった。
 時を同じくして、ザールブルグ近郊で蜂蜜色の髪の女性がくしゃみしたとのこと。
 それで済ませちゃうんですねぇ……なんでぼやきながら、じゃあ、と青葉が次の人物について話を振った。


「初春さんやノーチェさんは? 前線に出ることはあまりないですけど」
「初春さんは……風紀委員もやってるっていうから、すごい仕事量よね。
 けど、丁寧で細かいとこまできちんと調べて教えてくれるから助かってるわ」
「そうッスね。後方支援に関しては何にも文句ないッス。わたしの報告書も肩代わりしてもらってるッスし」
「ノーチェも丁寧ですよ。美琴さんみたいに魔法から縁遠い世界の人だと、胡散臭く見えるみたいですけど」
「ちょっとエリー、わたしだってノーチェのことは信用してるわよ。……最初は本当に大丈夫なのか気になってたけど」

 隣の部屋でくしゃみ一回。

 閑話休題。
 それまでカリカリとノートに何やら書き込んでいた森が、顔を上げて聞いた。

「あー……じゃあ、植木のことは、どうですか?」
「やはり、自分の連れ合いがどう思われてるかは気になるかね?」
「なっ、ち、ちが……っ!?」

 氷室に即座に突っ込まれて顔を真っ赤にしながら言葉に詰まる森。
 それに、ごく平然とクッキーをかじりながらベホイミが話す。

「あー、やっぱりそういう関係なんスねぇ。森さんもかわいいトコあるじゃないッスか」
「やっぱそうなんだ。ま、そういう風にしか見えないけどねあんたら」
「ち、違う―――っ! 違うんだってばっ! うきゃー!」

 森、キャラ崩壊中。
 まぁまぁ、と場を落ち着かせるのは、最年少(中学1年)の青葉である。

「森さんと植木さんの関係のことはカットするとして。
 ともかく、執行委員のお三方は植木さんのこと、どう思ってらっしゃるんですか?」

 この子が一番まともかもしれない。
 そのように促された3人は、うーん、と考えてぽん、と答えた。

「正義バカよね」
「いい子ですよね」
「わたしと猪突猛進さではいい勝負ッスね」
「ベホイミさん、自覚があるなら自重してください……」

 なんかこの光景、宗介の時にも見た気がします。
 閑話休題。
 美琴が言葉を続けた。

「うーん。
 後先を考えずに先に突っ走っていっちゃって、そのクセ退かない頑固者だからね。同情するわよ、森さん」
「ほう。それは同類相憐れむというヤツ―――」
「あぁもう、アンタって人は―――っ!!」

 氷室のえり首引っつかんでがっくんがっくんする顔の赤い美琴。
 ちなみに氷室はそんなことされながらもふははははは、と至極楽しそーに笑っている。つーか悪役笑いだ。
 朴念仁相手に恋しちゃうと大変だよね、という実例である。


 そんな光景を横目に、青葉が引きつった笑みを浮かべながら、執行委員最後の1人について言及した。

「そ、それじゃあ最後の1人について伺いますね。
 輝明学園(ウチ)の柊さんって、どんな風に思われてますか?」
「バカッスね」
「バカだよね」
「掛け値なしのバカね」
「もはや枕言葉もないんですかっ!?」

 鉄板芸かよ。

 それはさておき。
 青葉がツッコミを入れることまで鉄板な気がしてきたが、森が聞く。

「え、えーと……もうちょっと詳しくどんな感じなのか聞いてもいいでしょうか?」
「と、言われても……柊蓮司ってゆーヤツを『バカ』以外の言葉で表せって言われると言葉に困るんスよねー……」

 そう遠い目をするベホイミ。その横でうんうんと頷く美琴。
 エリーがあぁ、と手を打った。

「そうですね、『バカ』以外だと『不器用』とは言えるかもしれないですね」
「けど、そんなの執行委員のほとんど全員に言えるんじゃない? 好き好んでこんなトコにいる以上はね」
「言えてるッスねー」

 美琴の言葉に、ベホイミが苦笑い。

 『執行委員』という連中は、望んで損をしようとする集団だ。
 『学園世界』のどこかの誰かの厄介事を抱え込んで、自らの力をもってその厄介事が広まる前に片付けるトラブル解決屋。
 損か得か、と言われれば、厄介事に関わること自体が損。
 触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。危ないことには関わらないことが、一番賢い方法だ。

 けれど。
 それで、泣くかもしれない人間が出ることを許容できない欲張りの中の、一握りが彼らだ。
 意外と。そういう欲張りは多いのかもしれない。

 ふむ、と。氷室がそんな言葉を聞きながら微笑んだ。
 なるほど。執行委員という連中を常々大馬鹿者の集まりだと思っていたが、それは大きな間違いだったようだ。
 どうも、『自覚のある大馬鹿者の集まり』というのが正解らしい。
 巻き込まれているわけではなく、自分から率先して厄介事に巻き込まれようとする物好きの集団、という認識が正しいらしい。
 まったく酔狂な連中だな、と思いながら彼女は一言呟いた。

「ふむ。やはり生き方が不器用だと恋の仕方も不器よ―――」
「その話を引っ張るなぁぁぁぁあああっ!?」

 叫んだのは美琴と森だったが、その言葉にエリーとベホイミがずーん、という擬音をしょってモノクロな背景に突入してたりする。
 ……自覚があるのか、君ら。



 ***

 報道部棟に氷室と森と青葉が帰ってきたのは、日も大分傾いてからのことだった。
 あの後。事あるごとに恋愛探偵氷室がコイバナ(死語)に話を持っていこうとするのを、時に青葉が尽力し、時に皆が実力を行使しながら、なんとかインタビューを終えた。
 最後らへんは、青葉の姉の話でやけに盛り上がっていたような気がしないでもないが。
 青葉としても『困った姉です』的な感じで共感を得たのがちょっと嬉しかったかもしれない。

 実際困った姉なのである。
 ちょっと目を離すと勝手に面倒事を安請け合いしている。
 もう少し周囲の迷惑を考えてほしいなー、と思いながらも、そんなことをするようになったら姉ではなくなるとも思う。
 どうせ、言って直してくれるわけでもないし。
 ちょっと達観した少年、赤羽 青葉(13歳・中2)であった。

 ともあれ。
 彼らは報道部棟に着くと、氷室はともかくとして2人ともぐったりとしていた。
 氷室は意地の悪い笑みを浮かべながら、どうした?とたずねる。

「2人とも、やけに疲れきっているようだが。若い者がそれではいかんぞ?」
「ひ、氷室さん、元気ですね……」
「あんたが、ことあるごとに誰かが、暴れだしそうな話題、振るからでしょうが、鐘……」
「うん? あの程度で暴れだすようでは、将来が思いやられるぞ?」

 森と青葉に『この女(ひと)だけは敵に回さないようにしよう』という共通認識が生まれたのは言うまでもない。
 ともあれ。
 彼らの仕事はインタビューをして終わりではない。
 映像データはすでに編集専用チャチャⅡに任せてあるからいいものの、文章起こしを音声認識で入力させ、その後の添削作業が待っている。
 音声認識入力が終わるまでは、少しヒマともいうのだが。
 そんなヒマな時間。青葉がうーん、とぼやく。

「それにしても、これで売り上げ出るんですかね?」
「どーゆーことー?」

 机に突っ伏しながらそう言う森に、青葉が視線を合わせて言った。

「ほら、同人誌とかでも小説オンリーの本よりも挿絵ありの本、挿絵ありの本よりも漫画の方が売り上げ出るじゃないですか」
「な、なかなかコアな例えだね……っていうか『どーじんし』ってなに?」

 汗を浮かべつつの森。
 青葉の言っていることは、しかし正しい。
 文字だけの冊子よりは、文字+写真や絵の冊子の方が手を出してもらいやすい。
 それを見て、ふふふ、と笑う氷室。その口元にはいつものように、月衣や時空鞘もないのにどこからともなく取り出した羽扇が立ててある。

「なかなかいいところを突くな、赤羽。
 確かにその通り。手に取ってもらうにはまずアピール。インパクトのないポスターの映画が一般受けしないのと同じだ」
「いや、あの、映画の話はしてないと思う……」
「確かに 同好の士(わかっている人)向けならばそれでも構わんかもしれんがな、我々がすべきは大衆に向けて発信するものだ。
 手に取ってもらう、というのが第一ならば、地道なインタビュー記事だけではもの足りんのは事実だ」

 森のツッコミをスルーしたまま話を続ける氷室。青葉が心配そうな声を上げる。

「それじゃあ……」

 報道部室に嫌な沈黙が落ちる。
 ふふふ、と小さな笑い声が、氷室から漏れた。

「―――赤羽。汝は、私が発覚した弱点を克服もせずに放置しておくとでも?」

 光ったメガネを見て、森はやっぱりこの女は怒らせないようにしよう、と心に固く決めるのであった。


 ***

 後日。
 発行された『ごくつぅ特集号 -執行委員ノ全テ-』の表紙には。

『ビフォー/アフター 魔法少女たちの素顔と戦闘衣装(バトルドレス)ピンナップポスター付き!(美遊ちゃん、イリヤちゃんの2枚中1枚のみ。悪しからず)』
『超電磁砲 麗しの発射シーン! -超高感度魔導カメラで追う発射までの凛々しい横顔-』
『メガネの全て ~なぜわたしはメガネっ娘になることを選んだか~』
『ベホイミちゃん100変化! 暴れ牛と呼ばないで』
『器具とあたし エルフィールさんのオススメ ときめきハチミツ実験器具教室』
『憩いの男子シャワー室 裸祭りin 学園世界』

 などという文字が踊り。

 ……真面目に『ごくつぅ』史上最大の売り上げを誇ったという。
 写真のことについて女性陣からは許可をとっていたが、男性陣からの許可を忘れていたことに対して一部女性読者が猛抗議したのは、また別のお話。


fin

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