2013年一発目の読書会番外編は、1月12日(土)に横浜関内駅近くの喫茶店で開催されました。
課題書は昨年のエドガー賞長編賞に輝いたモー・ヘイダー『喪失』です。
さらにこの日は読書会に加えて「読書地図」の作成も計画しました。
まずは読書地図からスタートです。
「読書地図って何ぞや?」という方は、翻訳ミステリー大賞シンジケート内の こちらの記事をご覧ください。
簡単に言ってしまえば、読書をテーマにした連想ゲームですね。
この日のお題はもちろん『喪失』。ルールは「ゆるゆる」です。
地図はどのように広がっていくのでしょうか。
「読書地図は今回が初めて」という方もいらっしゃり、はじめのうちはなかなか筆が進みませんでしたが、時間の経過とともに地図はどんどん埋まっていきます。
いつしか皆さん机をぐるぐる回りながら、あれこれ悩み、記憶を辿って書名と書名をつないでいきます。
しまいにはタイトル名が思い出せなかったり、漢字を書けない方が続出……。
そんなこんなでワイワイと書き進めていくと、あっという間に制限時間の30分を迎えてしまいました。
完成した地図はこんな感じです。
間違いやこじつけ(?)はご愛嬌ということで……。
それでは、地図の中の1つのルートをピックアップしてみます。
「喪失」―MWA(長編賞)―「ラスト・チャイルド」―ハヤカワ―「利腕」―訳者(が同じ。菊池光)―「シブミ」―前日譚(とありますが「ニコライ・ヘル」で繋がります)―「サトリ」―同作家(ドン・ウィンズロウ)―「犬の力」―『このミス』1位―「愛おしい骨」―骨(ここから謎の骨ゾーンに突入)―「古い骨」―骨―「骨」―ジャン・バーク(とありますがこれも「骨」繋がりですね)―「ボーン・コレクター」―同作家(ジェフェリー・ディーヴァー)―「ウォッチメイカー」
まだまだ、ここには書ききれないほどの書名が出ました。
非常に楽しい時間になったので、折を見てまたやってみたいと思います。
続いて本題の読書会。
あらすじはこんな感じです(Amazon.co.jpより)。
当初は単純な窃盗と思われたカージャック事件。だが強奪された車の後部座席に乗っていたはずの少女はいっこうに発見されない。
捜査の指揮を執るキャフェリー警部の胸中に不安の雲が湧きだしたとき、今回とよく似た手口の事件が過去にも発生していたことが判明した。犯人の狙いは車ではなく、少女だったのか! 事件の様相は一変し、捜査に総力が注がれる。
だが姿なき犯人は、焦燥にかられる警察に、そして被害者の家族に、次々と卑劣きわまる挑発を……屈指の実力派が、MWA賞最優秀長篇賞の栄誉を射止めた力作。
冒頭にも書きましたが、課題本の『喪失』は2012年のエドガー賞長編賞受賞作。
長編部門には東野圭吾『容疑者Xの献身』もノミネートされたため、日本でも話題を呼びました。
※ちなみに、2012年エドガー賞長編部門のノミネート作品は以下の通りです。
モー・ヘイダー 『喪失』
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
アンネ・ホルト『1222』(未訳)
フィリップ・カー『Field Gray』(未訳)
エース・アトキンス『The Ranger』(未訳)
まずはレジュメを読みながら雑談タイム。
一同が驚いたのは、著者であるモー・ヘイダーの写真。
『喪失』の著者近影(恐らくエドガー賞授賞式の写真。通称「アラレちゃん」)からは想像できないほどの美人でした。
気になる方はぜひ検索してみてください。
雑談が一段落したところで、順番に自己紹介をしながら感想を語っていただきました。
内容としては、
――場面展開が上手い。グイグイ読ませる。
――日本だと馴染みがない場所が舞台になるせいか、状況描写が乏しい部分が多い気がした。
――イギリスのミステリーらしい暗鬱な雰囲気がよく出ていた。
――「Q」というキャラクターが登場したり、スリリングな話の中にも笑えるところがあった。
――結末があっけなさすぎたかな?
といったもの。しかし特に多かったのがこの意見。
――シリーズを貫く要素がわかりづらい。
そうなんです。
この『喪失』は主人公ジャック・キャフェリーシリーズの5作目。
著者のモー・ヘイダーの作品は『喪失』を除いて翻訳が2作のみ(シリーズ1作目 『死を啼く鳥』、2作目 『悪鬼の檻』。いずれもハルキ文庫、小林宏明訳)。
欠けている3作目と4作目を踏まえた設定も多く、『喪失』から読んでも問題なし! という内容ではありませんでした。その部分で戸惑った方が多かったようです。
どこかの出版社さん、ぜひこの機会に翻訳の刊行を!
続いて、その他の感想をテーマごとに分けてまとめてみます。
●モー・ヘイダーの作風について
『喪失』のみ読了という方が多いなか『死を啼く鳥』『悪鬼の檻』を読んでから参加した方もいらっしゃいました。
その方々に感想を聞いてみると、
――『喪失』は前2作に比べると非常にマイルド。だからこそエドガー賞が取れたのではないか?
とのこと。
特に『死を啼く鳥』は残虐な描写が多いようで、あまり一般ウケする作品ではないようです。
しかしそちらの方が「モー・ヘイダーらしさ」が出ているんじゃない? という意見でした。
ヘイダーってそんなにエグい話を書く人だったのか……。
また当日は、Sさんがモー・ヘイダーのインタビューを訳してレジュメにしてくださいました。
このインタビューはヘイダーが自身について、またその作風について語ったもの。
印象に残った部分を抜粋してみます。
――なぜあなたは他の人が嫌がるようなものを好んで描くのでしょう?
この問いに対してヘイダーは、
――人々のダークな側面を抑え込むのは、かえってよくないことなんじゃないかしら? 逆に激しくなるだけよ。
と答えていました。
彼女の作品の根底を流れるテーマに触れられるような資料だったと思います。Sさんありがとう!
●東野圭吾『容疑者Xの献身』との比較
やはりこの話題は避けて通れません。
最終的に「トリックなら『容疑者X』、ストーリーなら『喪失』!」という結論になりました。
そんなこんなであっという間に終了時間です。
読書地図で時間が押せ押せになってしまったのが原因で、今回はちょっと語り足りなかったかもしれませんね。
その後は2次会場がある横浜駅近郊に移動。素敵な雰囲気の居酒屋での飲み会となりました。
話題はやはり本のこと。
『喪失』の話の続きをはじめ、気になっていた作品や最近読んだ本の感想について時間を忘れてしゃべり倒しました。
結局2次会では話が終わらず、参加者全員で3次会に突入。
多くの脱線を含んだ読書トークは尽きることなく、こうして横浜の夜は更けていったのでした。
|