第3回「スイート・ホーム殺人事件」

日時 2012年9月7日(金)
場所 横浜駅近郊の某所
参加人数 20人

課題書

「スイート・ホーム殺人事件」クレイグ・ライス/羽田詩津子訳 ハヤカワミステリ文庫




告知

翻訳ミステリー大賞シンジケートのHP内に掲載された告知ページです。
こちら(外部リンク)

レポート

+ クリックで表示
読書会参加者のレポートを紹介します。未読の方はご注意ください。

・岡本のレポート
+ クリックで表示
およそ半年振りの開催となった横浜読書会。
新規に参加していただいた方々を含め、20人で開催しました。
課題書は『スイート・ホーム殺人事件』です。
カーステアズ家の3姉弟が、作家で独り身の母親のために殺人事件の捜査に乗り出し、警察を上手に引っ掻き回しながら事件の真相に近づいていくというお話。
ドタバタ劇あり、笑いあり涙あり(?)、個性的なキャラクターが数多く登場するクレイグ・ライスの一級ユーモアミステリーです。

今回は20人という大人数での開催となったため、横浜読書会初となるグループディスカッションに挑戦することにしました。
グループは物語の主人公であるカーステアズ家の愉快な3姉弟にちなんで、「ダイナ班」「エイプリル班」「アーチー班」の3つに分かれることに。
参加された皆さんには受付時にくじを引いてもらい、それぞれの班の席についていただきます。
皆さん、お気に入りのキャラクターのグループに入れましたか?

19時に読書会スタート。参加者の皆さんの顔ぶれは、「ライス大好き!」な方から「ユーモアミステリーはあまり読まない……」という方までさまざま。
はじめのうちは静かだった会場も、時間の経過とともに笑い声が飛び交うようになりました。
それでは、各班でどんな話題が出たかを振り返ってみましょう。

◆末弟・アーチー班◆
――あまりミステリーを読まない自分でも楽しめた。
――新訳のおかげで読みやすく、古さを感じさせない。
――これ以上子どもたちの年齢が高くなると、可愛げがなくなるよね……。
――登場人物が覚えにくい。
――この作品の新訳を出した理由は何だろう?
――ところどころに出てくる食事がとっても美味しそう。
――脇役ではオヘア部長刑事が良い味を出してる!
――この時代だから描けた物語だね。
――ライスの他の作品の復刊(新訳)を切望する!

◆次姉・エイプリル班◆
――読みやすい楽しい物語で、ほのぼの系ミステリーは初めてだったけど楽しめた。
――昔は子ども目線で読んでいたが、いまは母親(大人)目線で読むことができて、それはそれで面白かった。
――お母さんがバンバン煙草を吸っていたり、子どもたちだけで出歩いたりと、今ならありえないディテールがいろいろ。
――登場人物が多くて少し混乱した。
――美味しそうな料理がたくさん出てきて、戦争中の話なのに、当時の日本との差を改めて感じた。
――死亡推定時刻の曖昧さ、犯行現場を荒らしまくる子どもたちなど、ミステリー面ではつっこみどころが満載なのに、キャラクターの魅力でついつい読み進んでしまった。
――娘がストリップクラブで働いていることが脅迫のネタになるところにも時代を感じた。
――子どもならではの不便さ(お金がないことなど)と便利さ(泣いたふり)を効果的に使っているところが面白かった。
――作者(ライス)が我が子に読ませたい作品を書いたのではないか?

◆長姉・ダイナ班◆
――警察が無能すぎる。ありえない。
――ユーモアミステリーの被害者って、殺されて当然な人が多いよね。この作品だってそう。
――キャラクター小説として読めたが、ミステリとしては不完全燃焼。
――ユーモアミステリーは初めて読んだけど、印象と違って事件が複雑だった。
――ライスの本は何冊か読んだけど、ダレてくると誘拐を投入するきらいがある。
――楽しかったけど、ガチャガチャした印象が強く残ってしまった。この作品は「コージーミステリー」になるのか?
――アーチーが紫陽花の花束を渡すシーンは、何度読んでも泣きそうになる。
――ミステリーとして読んじゃいけない気がする。
――ライスのミステリーは雰囲気重視。2回目3回目で病みつきになる。まさに「くさや」のようなミステリーだ!

……などなど、班ごとに色々な話題が出たようです(ダイナ班の意見が若干厳しい?)。
ざっと意見を見渡してみると、やはり「ミステリーとして読むと細部に無理がある」という意見が目立ちます。
しかし作品全体を取り巻く「仲良し家族のほのぼのとした空気」が印象に残った方も多かったようです。
食事のシーンなんて特に、美味しそうなものがたくさん出てきますものね。

さて、その後は各班でどんな話題が出たのかを発表し、気になった部分を全体で議論する時間となりました。
まずは新訳と旧訳の違いについての話題。ちなみに、ほとんどの参加者の皆さんが読んだのは新訳版です。
以下は当日配布した資料に記載した内容と同じものですが、新旧訳で異なる部分をいくつかピックアップしてみます。

(旧訳)「あんたおじゃがをかけやしなかったじゃないか」アーチーがいいました。「おじゃがをかけたのはダイナだい」「ダイナがおじゃがをかける時間じゃないかと思って、あたしは見にいったの」
(新訳)「あんたはじゃがいもの火をつけなかっただろ」アーチーがいった。「ダイナが火をつけたんだよ」「ダイナがオーブンの火をつける時間かどうか見に行ったのよ」

(旧訳)ルークの店のクリーム・ソーダは、ホイップ・クリームをかけずに、チョコレートでなくても、二十五セントです。チョコレートにホイップ・クリームをかけると――
(新訳)<ルークの店>のミルクセーキはホイップクリームなしで、チョコレート味でなくても二十五セントだ。チョコレート味のホイップクリームつきだと――

これについては、
――旧訳はやはり言葉使いが古い。新訳のほうが読みやすい。
とか、
――旧訳は地の文が『です・ます』調だから、童話のような雰囲気が強くなっている気がする。
といった意見が出ました。
新旧の訳を読み比べてみるのも面白いかもしれませんね。

続いて、劇中で子どもたちが暗号の代わりに使う「タット王アルファベット」について。
「タット王アルファベット」とは、「文字の後ろに母音が同じカ行の音をくっつける」言葉遊びのことです。
例文を挙げると、

「ダガ・イキ・ジョコ・ブク?」「だいじょぶ?」
「キキ・ヨコ・ウク・ケケ・ンク!!」「崎陽軒!!」

となります。
実はこの「タット王アルファベット」、クレイグ・ライスの創作だと思っていた方が何人かいました(私もその1人……)。
「子どもの頃にこれで遊んでいたよ」
という方のお話を聞いて、世代によって(?)また違った読み方ができる作品なのだなと再認識しました。

その他にもさまざまな意見が出ましたが、そこはお約束。
気付けばあっという間に時間は過ぎてしまい、21時にお開きとなりました。

そこから会場近くの居酒屋に移動して、二次会がスタート。
こちらもたくさんの方に参加していただきました。
読書会で語り尽くせなかった話の続きをしたり、最近どんな本が面白かったかを教えあったり。
夜遅くまで続いたにも関わらず、楽しい議論が続いたのちに散会となりました。

こうして第3回横浜読書会は終了。
今後の課題もたくさん見つかりましたが、何とか無事に終わることが……でき……

……ハッ!

ここで運営側の痛恨のミスが発覚。こりゃあまずい。
「写真撮るの忘れてた……」

※  ※  ※

最後になりましたが、世話人の方々、名札を作成してくれたDさん、くじを作成してくれたTさん、受付を担当してくれたIさん、素敵な差し入れをくださったHさんに感謝を。
そして何よりも、当日参加してくださった皆さま、本当にありがとうございました。



おまけ

翻訳ミステリー大賞シンジケートのHP内に掲載された、第2回~第3回までの期間の活動報告です。
こちら(外部リンク)


最終更新:2013年01月19日 11:36