課題書選びが難航していた( #2レポート参照)こともあり、今回は事前にアンケートを実施。
新刊にするか古典にするかを多数決で決めることになりました。
候補は2冊。新刊代表がアーナルデュル・インドリダソン『湿地』、古典代表がジョン・ディクスン・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』(以下、『皇帝』)です。
かたや出版社イチオシの話題作、かたや本格黄金時代の名作ということで、どちらも盛り上がりそうな作品。
ここに、北欧の巨人vs不可能犯罪の巨匠による、時空を超えた夢の対決が実現したのです(言い過ぎ)!
アンケートを開始すると、早い段階で『皇帝』が数票を獲得して優勢。
「このまま皇帝がぶっちぎるか……」
と『皇帝』読書会の資料作りに取りかかろうとした矢先、『湿地』が徐々に追い上げを見せます。これで一気に戦況がわからなくなりました。
そして迎えたアンケート締め切り日。
結果はなんと『湿地』がわずか1票差で勝利!
課題図書は見事な逆転劇を見せてくれた『湿地』と相成ったのです。
手に汗握るこの名勝負は、これからも末永く語り継がれていくことでしょう……(言い過ぎ)。
そして迎えた読書会当日。
この日の横浜には暗い雨がしとしと降っていて、まさに『湿地』の読書会にふさわしい雰囲気でした。
ちなみに『湿地』の簡単なあらすじは以下(Amazon.co.jpより)。
雨交じりの風が吹く、十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思われた。
ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。だが、現場に残された三つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。計画的な殺人なのか?
しだいに明らかになる被害者の老人の隠された過去。レイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルがたどり着いた衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相とは。
世界40ヵ国で紹介され、シリーズ全体で700万部突破。ガラスの鍵賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー賞を受賞した、いま世界のミステリ読者が最も注目する北欧の巨人、ついに日本上陸。
参加者は7人。乾杯後、ひとりずつ順番に感想を述べていただきながら議論開始です。
それらをまとめると以下のような感じになりました。未読の方はご注意ください。
――書店で帯を見て、非常に期待した作品だった。北欧ものなので、どうしてもヘニング・マンケルの『ヴァランダー警部』シリーズと比較しながら読んでしまった。
――文体(センテンス)がとてもシンプルで印象的。
――トマス・H・クックっぽいかも。
――主人公の勘が良すぎる!
――とにかく雰囲気が重い。遊び心が感じられない……。
――主人公と娘の関係など、続編が気になる。
――アイスランドの社会的問題点を上手く取り入れていた。
といったものでしたが、特に目立った感想は以下の2つです。
●登場人物の多くがデュルデュルしていて、名前が覚えにくかった!
北欧の人名は独特です。登場人物の名前を一部列挙してみましょう。
- エーレンデュル
- エーリンボルク
- ディサ=ロース
- シグルデュル=オーリ
- シンドリ=スナイル
中には「この人は男性? 女性?」といったように、性別まで混乱してしまう名前もありました。
この問題については、今後北欧ミステリーが定着すれば、読者も慣れていくものなのでしょうか?
●ご当地ミステリの趣
この作品は「アイスランドのレイキャヴィク」という、我々にとって聞き慣れない土地における事件を扱ったものでした(Amazonの『湿地』のタイトルの脇には「Reykjavik Thriller」とありますね)。
エーレンデュルたちが挑むのはまさに「アイスランドならではの事件」。
遺伝子研究や日本との死刑制度の違いなど、あまり知らない国の社会情勢などに触れることができ、ご当地ミステリ感を味わうことができた方が多かったようです。
さらに今回の課題書は北欧ミステリーということで、補足資料として「ガラスの鍵賞」の歴代受賞者リストを作成しました。
ガラスの鍵賞とは、北欧における最高峰のミステリに贈られる賞で、ヘニング・マンケルや『ミレニアム』のスティーグ・ラーソン(死後ですが)なんかも受賞しています。
それらを読みながら議論を進めると、話題はやがて「警察ミステリーあるある」に。
主人公の離婚率の高さなどが挙がり、ひとしきり笑いながら時間が過ぎていきました。
さらに脱線は止まることを知らず、最終的には「どこで本を読む?」という話題に発展。
電車の中や就寝前、風呂場はもちろん、お店やトイレ待ちの行列でも読書をするというツワモノまで。みなさん、立派な活字中毒患者ですね(笑)。
「本好き」とひとことで言っても、読み方やスタイルは人それぞれ。個性が出るものだなと感心した次第です。
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