スピンオフ読書会1「アイアン・ハウス」

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日時 2012年5月11日(金)
場所 横浜駅近郊のとある居酒屋
参加人数 9人

課題書

「アイアン・ハウス」ジョン・ハート/東野さやか訳 ハヤカワポケットミステリ、ハヤカワミステリ文庫(上下巻)




レポート

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読書会参加者のレポートを紹介します。未読の方はご注意ください。

・岡本のレポート
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まず最初に「スピンオフ読書会とは何か」ということを書かねばなりますまい。
横浜翻訳ミステリー読書会では、翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイト上で大々的に告知する読書会を「本会」、それ以外のイベントを「番外編」と位置付けています。

その番外編イベントのひとつとして、食事をしながらのんびり本について語り合う場として開催しているのが「スピンオフ読書会」です。
脱線に次ぐ脱線も多いですが、本会とはまた違う愉しみがあります。

さて、そんな記念すべき(?)最初のスピンオフ読書会。事の発端は読書会メンバーで集まった飲み会でした。
尽きることのない(そしてゴールがない)翻訳ミステリ談義の中で、突如ある1冊の本の名前が挙がりました。
それこそがジョン・ハートの新刊『アイアン・ハウス』だったのです。
『アイアン・ハウス』をめぐる異様な熱気を孕んだ会話が進むうちに「よし、だったら読書会をやってみようじゃないか!」ということになり、あれよあれよという間に読書会開催の運びとなりました。

参加者はメーリングリストで募集。
「お酒の席での話だったから、みなさん参加してくれるかしら……」という言いだしっぺの私の不安をよそに、9人もの方が参加を表明してくださいました。
しかも開催に先立ち、世話人の片山さんから「訳者の東野さやかさんが質問を受け付けてくれますよ」という大変嬉しいお話が!
開催に間に合うように、気になる点を東野さんにバッチリ答えていただきました。
東野さん、片山さん、この場を借りてお礼申し上げます。

そして迎えた当日。
会場の居酒屋で案内されたのは、なんと円卓の個室。それぞれの距離も近く、読書会には最適な空間です。
さらに、メンバーのDさんが参加者全員分の名札を作ってきてくださいました。
参加者はお互いに顔を合わせるのが数回目。初対面の方もいらっしゃったので、名札があると非常に助かります。

まず『アイアン・ハウス』のあらすじを(Amazon.co.jpより)。
凄腕の殺し屋マイケルは、ガールフレンドのエレナの妊娠を機に、組織を抜けようと誓った。
育ての親であるボスの了承は得たが、その手下のギャングたちは足抜けする彼への殺意を隠さない。ボスの死期は近く、その影響力は消えつつあったのだ。
エレナの周辺に刺客が迫り、さらには、かつて孤児院で共に育ち、その後生き別れとなっていた弟ジュリアンまでが敵のターゲットに!
マイケルは技量の限りを尽くし、愛する者を守ろうと奮闘する―ミステリ界の新帝王がかつてないスケールで繰り広げる、緊迫のスリラー。

乾杯を終え、順に自己紹介を兼ねて簡単な感想を発表していきました。
それぞれのお話を伺うと『アイアン・ハウス』で初めてジョン・ハート作品に触れたという方が多く、長編4作全てを読了した方はいらっしゃいませんでした。
かくいう私もその1人で、読書会に向けて『川は静かに流れ』と課題書を急いで読んできた程度。
また、当日はポケミス派と文庫派に分かれていたので「○ページの○行目の……」という指定に難儀しました。

さて結論から書きますと、非常に厳しい感想が目立ちました。

――ご都合主義感は否めない。結末にも納得いかない。
――冒頭から途中まではとても面白かったんだけどなぁ……。

さらにキャラクターについて。

――主人公マイケルのうじうじした感じには好感が持てない。
――弟ジュリアンの影が薄い。お前は何やってたんだ!
――エレナたん可哀想。拷問シーンは読んでいて辛かった……。

こ、肯定的な感想が出ない!
エドガー賞長編賞を2度受賞、日本の年末ミステリーランキングの常連でもあるジョン・ハートの作品だっただけに、これは意外でした。
続いて著者であるジョン・ハートについてはこんな感想が。

――ジョン・ハートの作品にしては、アクションシーンが多い。銃撃バンバン、火薬ドッカン。もしや映画化を意識したのかな?
――ジョン・ハート作品では『ラスト・チャイルド』が面白いと思う。『川は静かに流れ』もなかなか良かったよ。
――でも、次回作が出たら読んじゃうんだろうな。次でジョンハートの評価が決まる!

などなど。他にも数え切れないほどの侃侃諤諤な議論が巻き起こりましたが、ここでは割愛させていただきます(笑)。
話はやがて、アメリカにおける保安官と警察官の違いや、州と郡の違いに関する興味深い考察にまで発展。
そんな『アイアン・ハウス』でしたが、読書会としてはかなり盛り上がったのではないかと思います。

議論が一段落したところで、次回の課題書の話題になりました。みなさんの意見を聞くと、

――話題の新刊でやりたい。
――これぞ名作! というような古典も取り上げたい。

という声が。「あれでやりたい」「これもいいよね」などとたくさんの作品名が飛び交う中、最終的にデイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』に決定。
その後は4月半ばに行われた「翻訳ミステリー大賞コンベンション」の話などの脱線もありつつ、制限時間の3時間いっぱいまで濃い時間を過ごすことができたと思います。

そんなこんなで無事に(と楽観視しているのは私だけ?)走り出したスピンオフ読書会。
本編開催の合間に、これからも定期的に続けていけたらと思います。
そして今思い返すと、ジョン・ハートと横浜読書会の長い付き合いは、この日から始まったのでした。


その他の話題

読書会で上がった話題など。
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  • 「チームコナリー」結成さる。M・コナリー作品群をこれから読もうとする人たちのために「この順番でシリーズを読むべし!」という読書コースを紹介していただける予定です。
  • ジャック・カーリィのジェレミー&カーソンシリーズ。第4作『ブラッド・ブラザー』から読み始めた人がけっこういました。あまり支障はないようですが、できれば1作目『百番目の男』から読むのが理想的のようです。
  • 「ほっこりできるミステリ」とは何だろう。やはりコージーミステリだろうか。

東野さやかさんへのQ&A

読書会の開催にあたり、訳者の東野さやかさんに質問を受け付けていただきました。
以下、そのお返事です。
(2)の回答は結末について触れていますので、読了されていないかたはご注意ください。
東野さん、ありがとうございました。

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このたびは拙訳『アイアン・ハウス』を課題に取りあげていただき、ありがとうございます。ハートさんの分もお礼申しあげます。

できることなら、読書会にお邪魔し、直接みなさまとお話ししたいところですが、ただいま6月に出る新刊の追い込みに入っておりまして(はい、お茶とケーキのアレです)、
なんとも微妙な時期ゆえ、残念ながら遠くから盛会をお祈りいたします。

というわけで(?)、いただいた質問にお答えします。

(1)『アイアン・ハウス』でお気に入りの登場人物は誰ですか?

これはもう、ジェサップしかいません。なにもかも知っていながら、すべてを自分の胸におさめ、アビゲイルを守る姿にしびれます。
ものすごく有能で頭もきれるのに、シャイな一面を見せるところがたまりません。この小説にかぎらず、こういう、熱い思いを胸に秘めた一途な男性に弱くて、『ラスト・チャイルド』だったらハント刑事がツボでした。

(2)『アイアン・ハウス』の結末に関してはどう思われますか?

罪はつぐなわねばならない、法を超えた存在は許せないという頭のかたいわたしには、いまも納得がいきません。
マイケルにしろ、アビゲイルにしろ、そしてジュリアンにしろ、しあわせを求めるのはかまわない。
というか、ハートさんの小説なんだから、最後にわずかでも明るい光が見えていてほしいと思います。
でも、自分のおかした罪ときちんと向き合う場面がほしかった。
まあ、マイケルたちにとって都合の悪い人がみんな死んでしまうので、どうにもしようがないのかもしれませんが、そこにご都合主義的なところが感じられます。

(3)東野さんはジョン・ハートの作品をすべて翻訳されていますが、『アイアン・ハウス』は4作中でどのような位置づけだと思われますか?

ハートさんらしさを残しながらも新境地を切りひらいたという点で評価できる作品だと思います。
これまでの静かな始まりから百八十度方針転換し、爆発シーンあり、派手な銃撃ありの冒頭には度肝を抜かれました。
組織犯罪や解離性障害などを盛り込みながら、うまく話をミスリードし、ストーリーテラーとして大きく成長したと感じます。
主人公もこれまでの線の細い繊細なタイプではなく、タフで冷静な犯罪者を選んでおり(これは成功しているとは思っていませんが)、これからどんなものを書いていくのだろうと期待させてくれます。
これが大きなターニングポイントになるのでは、と予想しています。

(4)ジョン・ハートの4作の中で東野さんが最も印象に残っているのはどの作品ですか? 理由と併せてお聞かせください。

ずばり『ラスト・チャイルド』です。
その前の『キングの死』や『川は静かに流れ』は、どちらも主人公がいじいじした感じで、いまひとつ好きになれなかったんです。
とくに『キング~』のアダムは後頭部をスリッパではたいてやりたくなるほど覇気がないし。
それに対し、『ラスト・チャイルド』はとにかく主人公の少年がいい。
けなげで一本気で、家族の苦労をひとりで背負って無理をしてしまうところに、ぎゅっと胸を締めつけられました。
妹の失踪をきっかけに壊れてしまった家族の描き方も秀逸です。
ニュースで幼い子どもが事件に巻きこまれると、犯人は誰なのかということよりも、このご家族はこの先どうなってしまうんだろう、
気持ちを強く持ってこの悲劇を乗り越えてほしいとついつい思ってしまうんですが、そういう癖のあるわたしにはぴったりでした。
事件のほうも、小児性愛者による連続殺人事件をうまくからめていて、それでいてちゃんと伏線も張ってあり、展開に無理がなく、とてもよかったと思います。

(5)ジョン・ハート作品の魅力、本国だけではなく日本でもたくさんの読者がいる理由はどこにあると思われますか?

ウェットな体質の日本人に合うのでしょうか。ハートさんは事件をきっかけに壊れてしまった家族というのをテーマにしています。
それが再生の道を歩みはじめるきっかけとして、あらたな事件という要素を導入し、話を展開させていくタイプの作家です。
事件の動き以上に、家族の変化が細やかに描かれ、そこが日本人の共感を呼ぶのではないかと想像しています。

(6)東野さんのオールタイム・ベスト・翻訳ミステリと、最近のおすすめ作品がありましたら教えてください。

オールタイム・ベストですかあ……そんなむずかしい質問を。
1冊じゃないので反則かもですが、ジョージ・ペレケーノスのワシントン・サーガ(『俺たちの日』『愚か者の誇り』『明日への契り』『生への帰還』)でしょうか。
胸を熱くさせてくれる作家です。どうしても1冊ということならば、ロバート・クレイスの『モンキーズ・レインコート』をあげておきます。
ペレケーノスもクレイスも、本当に本当にいい作家なのに、日本での評価は低すぎます。
最近のお薦めということですが、まだ新刊をほとんど読んでいなくて……お恥ずかしい。
いまのところ、ソフィ・オクサネンの『粛清』がガツンときてます。
あと、ひさしぶりに読んだミネット・ウォルターズの『破壊者』もおもしろかった。いずれも、謎の解明よりは、登場人物について語るタイプの話です。

(6)今後、ミステリを訳される予定がありましたら、差支えのない範囲で教えてください。

ローラ・チャイルズのふたつのシリーズ(お茶と探偵&卵カフェ)は当分、訳す予定にが決まっています。
ウィリアム・ランデイのひさびさの新作も担当します。

(7)ローラ・チャイルズのお茶と探偵シリーズ待ってます!

楽しみにしてくださってありがとうございます。11作目となる『ミントの香りは危険がいっぱい』が6月10日に出ます。
わたしの提案(というより、苦しまぎれの捻出といったほうが近い)したタイトルが初めて採用されました。
現在は12作目を訳しています。