まず最初に「スピンオフ読書会とは何か」ということを書かねばなりますまい。
横浜翻訳ミステリー読書会では、翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイト上で大々的に告知する読書会を「本会」、それ以外のイベントを「番外編」と位置付けています。
その番外編イベントのひとつとして、食事をしながらのんびり本について語り合う場として開催しているのが「スピンオフ読書会」です。
脱線に次ぐ脱線も多いですが、本会とはまた違う愉しみがあります。
さて、そんな記念すべき(?)最初のスピンオフ読書会。事の発端は読書会メンバーで集まった飲み会でした。
尽きることのない(そしてゴールがない)翻訳ミステリ談義の中で、突如ある1冊の本の名前が挙がりました。
それこそがジョン・ハートの新刊『アイアン・ハウス』だったのです。
『アイアン・ハウス』をめぐる異様な熱気を孕んだ会話が進むうちに「よし、だったら読書会をやってみようじゃないか!」ということになり、あれよあれよという間に読書会開催の運びとなりました。
参加者はメーリングリストで募集。
「お酒の席での話だったから、みなさん参加してくれるかしら……」という言いだしっぺの私の不安をよそに、9人もの方が参加を表明してくださいました。
しかも開催に先立ち、世話人の片山さんから「訳者の東野さやかさんが質問を受け付けてくれますよ」という大変嬉しいお話が!
開催に間に合うように、気になる点を東野さんにバッチリ答えていただきました。
東野さん、片山さん、この場を借りてお礼申し上げます。
そして迎えた当日。
会場の居酒屋で案内されたのは、なんと円卓の個室。それぞれの距離も近く、読書会には最適な空間です。
さらに、メンバーのDさんが参加者全員分の名札を作ってきてくださいました。
参加者はお互いに顔を合わせるのが数回目。初対面の方もいらっしゃったので、名札があると非常に助かります。
まず『アイアン・ハウス』のあらすじを(Amazon.co.jpより)。
凄腕の殺し屋マイケルは、ガールフレンドのエレナの妊娠を機に、組織を抜けようと誓った。
育ての親であるボスの了承は得たが、その手下のギャングたちは足抜けする彼への殺意を隠さない。ボスの死期は近く、その影響力は消えつつあったのだ。
エレナの周辺に刺客が迫り、さらには、かつて孤児院で共に育ち、その後生き別れとなっていた弟ジュリアンまでが敵のターゲットに!
マイケルは技量の限りを尽くし、愛する者を守ろうと奮闘する―ミステリ界の新帝王がかつてないスケールで繰り広げる、緊迫のスリラー。
乾杯を終え、順に自己紹介を兼ねて簡単な感想を発表していきました。
それぞれのお話を伺うと『アイアン・ハウス』で初めてジョン・ハート作品に触れたという方が多く、長編4作全てを読了した方はいらっしゃいませんでした。
かくいう私もその1人で、読書会に向けて『川は静かに流れ』と課題書を急いで読んできた程度。
また、当日はポケミス派と文庫派に分かれていたので「○ページの○行目の……」という指定に難儀しました。
さて結論から書きますと、非常に厳しい感想が目立ちました。
――ご都合主義感は否めない。結末にも納得いかない。
――冒頭から途中まではとても面白かったんだけどなぁ……。
さらにキャラクターについて。
――主人公マイケルのうじうじした感じには好感が持てない。
――弟ジュリアンの影が薄い。お前は何やってたんだ!
――エレナたん可哀想。拷問シーンは読んでいて辛かった……。
こ、肯定的な感想が出ない!
エドガー賞長編賞を2度受賞、日本の年末ミステリーランキングの常連でもあるジョン・ハートの作品だっただけに、これは意外でした。
続いて著者であるジョン・ハートについてはこんな感想が。
――ジョン・ハートの作品にしては、アクションシーンが多い。銃撃バンバン、火薬ドッカン。もしや映画化を意識したのかな?
――ジョン・ハート作品では『 ラスト・チャイルド』が面白いと思う。『 川は静かに流れ』もなかなか良かったよ。
――でも、次回作が出たら読んじゃうんだろうな。次でジョンハートの評価が決まる!
などなど。他にも数え切れないほどの侃侃諤諤な議論が巻き起こりましたが、ここでは割愛させていただきます(笑)。
話はやがて、アメリカにおける保安官と警察官の違いや、州と郡の違いに関する興味深い考察にまで発展。
そんな『アイアン・ハウス』でしたが、読書会としてはかなり盛り上がったのではないかと思います。
議論が一段落したところで、次回の課題書の話題になりました。みなさんの意見を聞くと、
――話題の新刊でやりたい。
――これぞ名作! というような古典も取り上げたい。
という声が。「あれでやりたい」「これもいいよね」などとたくさんの作品名が飛び交う中、最終的にデイヴィッド・ベニオフ『 卵をめぐる祖父の戦争』に決定。
その後は4月半ばに行われた「翻訳ミステリー大賞コンベンション」の話などの脱線もありつつ、制限時間の3時間いっぱいまで濃い時間を過ごすことができたと思います。
そんなこんなで無事に(と楽観視しているのは私だけ?)走り出したスピンオフ読書会。
本編開催の合間に、これからも定期的に続けていけたらと思います。
そして今思い返すと、ジョン・ハートと横浜読書会の長い付き合いは、この日から始まったのでした。
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