ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

早紀SS07

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 ググレカスの淡々とした数式説明を聞きながら、俺はふと窓のほうに目を向けた。
 どんよりとした雲は先刻より増して、正午だというのに教室は照明をつけなければならないほど暗くなっていた。
 天気予報では晴れのち曇りで降雨はないと言っていたし、今朝は快晴で雲一つなかったので、もちろん傘は持ってきていない。
 下校時に降らなければいいのだけれど……。
 そんなことを思いながら、黒板に目を戻す。
 ググレカスは教科書の例題の解法をかなりのスピードで殴り書きをしていた。慌ててノートを取る作業に戻る。
 相変わらず生徒の質問はない。というかされてもググレカスは「自分で考えろ!」とまったく聞かない。
 ……なんでこれで教師を続けられるのか疑問である。
 ググレカスの説明が終わったところで、ちょうど四時限目終了の合図のチャイムが鳴った。
「今日の授業はこれまでだ」
 そう言うやいなや、教科書や書類をまとめさっそく帰る準備をしはじめる。もちろん授業後でも質問を受け付けるようなことはしない。
 苦痛な授業から開放されて生あくびをしながら教科書類を机にしまっていると、ググレカスはドアの手前でぴたりと止まり、
「それと、藤宮はこのあとすぐに職員室に来るように」
 ……なんだって? とググレカスのほうを向いたらもういない。
 この無駄のなさというか短気さは通常の教師の三倍くらいはあるんじゃないだろうか。
「で、何やらかしたんだ?」
 さっそく毒男が隣に駆けつけてくる。俺はちょっと考えてから答えた。
「……知らん」
 まさにそのとおり。べつに校内の花瓶を割ったわけでも宿題を忘れているわけでもない。
 だからなおさら何の件での呼び出しなのか不安なのだ。
 とはいえ、ここであれこれ考えても仕方がないだろう。あのググレカスのことだから、早く行かなくてはさらにねちねち文句を言われるに違いない。
「んじゃ、行ってくる」
 机の上を片付けると、俺は毒男にそう言って席を立った。ため息をつきながら教室を出たところで、白衣を着た女性が歩いてくるのを見つけた。
 物理担任の日向葵である。この学校では一番若い女性教師だ。美人で仕事もしっかりこなす、と完璧に見えるが一つだけアレな部分があるのが玉に瑕。
「こんにちは」
 すこしだけ頭を下げながら挨拶をし、さっさと通り過ぎようとしたところで、先生は俺を呼び止めた。
「待ちなさい、正体不明の電波があなたに取り憑いているわよ」
 ……始まった。しかも今度は本格的に電波を受信しだしたようだ。
 リアクションに困って何も言えずに突っ立っていると、先生は腕組みをして黙考したのち、おもむろに口を開いた。
「まだ弱いモノね。これぐらいなら悪影響はないみたいだけど――気をつけなさい、これが増大すれば、もしかしたら自分だけでなく周りにも……」
 ダメだ、いったんこのモードに入るとまともについて行けない。この先生はほかにも、「宇宙人」やらなんやらの電波トークをたまに始めてしまうのだ。
「あ、あの、すみません、ちょっと緊急の用事がありまして」
 ググレカスからの呼び出しの一件もあるし、こんなことに付き合ってはいられない。というか、どんなときでも付き合いたくないんだけど……。
 俺は「すみません」と再度謝ると、ダッシュで階段へ行き駆け下りた。
 二階に下りると、真正面には姉さんのクラス。しかし今は寄り道をしている暇はないので、廊下を直進しよう――
 として、そのクラスから出てきた一人の女子生徒に目がいった。
 おお、巨乳の美人! ……じゃ、なくて、俺はその女子生徒が身体に不相応な荷物を抱えているのに眉をひそめた。
 べつに前が見えなくなるほど大きなダンボールというわけじゃない。しかしそれを抱えている三年の女子生徒は、なかなか進めず足取りも不確かだ。
 おそらく、かなり中身が重いのだろう。どうしてこんなものを彼女が運んでいるのか謎だ。
 俺は首をかしげながらも、その女子生徒を隣から追い越そうとした。
「うわっ………っと」
 ふらり、と女子生徒はこちらに体勢を崩しそうになった。俺はとっさに、左手をダンボールの下に、そして右手を女子生徒の肩に置いて、彼女を支えていた。
「あ……ご、ごめんなさいっ!」
 慌てて彼女は荷物を持ち直して、自力で運ぼうとする。一瞬の逡巡の後、俺はとある行動に出ていた。
「あ」
 本当は急いでいるのだけれども、こんな場面に遭遇しては男として黙って通り過ぎるわけにはいかないだろう。
「行き先、どこでしょうか?」
 三年であるし、初対面でもあるので、俺は先輩に丁寧な物腰で目的地を訊いた。
「……でも」
「いいから、任せてください。することもありませんし」
 きっぱりとした口調でさらりと嘘をつき、さっさと歩き出す。先輩は口ごもっていたが、やがて謝礼を述べると俺と並行して歩きはじめた。


「職員室に持っていくよう頼まれたものです。……本当にごめんなさい。あたしの仕事なのに、迷惑かけちゃって……」
「気にしないでください。……というか、これを先輩に頼むほうも頼むほうですよ」
 その言葉どおり、このダンボールの重さは女子にはキツすぎる――というか男子の自分ですら、かなり重く感じる。紙でもぎっしり詰まっているのか?
 ともあれ向かう先が同じで助かった。時間の問題もあるし、何よりも遠い場所だとたどり着く前にへばる恐れがあった。
 自ら買って出ておいてそんなことになったら、男として情けないし恥ずかしい。
「あの、お名前を教えてもらえますか? あたしは蓬山早紀です」
「藤宮稔です」
 名乗った途端、蓬山の顔が驚いたものに変わる。俺がどうしたのかと問う前に先輩が口を開いた。
「ひめっちの弟さん?」
 こちらもすこし驚いたが、しかし考えてみれば納得だ。同じクラスなんだから、姉さんと友人同士で俺のことを聞いていても不思議ではない。
 話をしてみると、果たして姉さんとは親友で、俺のこともよく話題にしてくるということだ。
 曰く、俺のことを「ひめがいないと何もできない子」だとか「シスコン気味」だとか。
 ……逆だろ、とツッコミを入れたくなったが、荷物に集中せざるを得なかったので言えなかった。先輩が鵜呑みにしていないことを祈っておこう。
「ありがとう。ここで大丈夫。あとはあたしが持っていくから」
 やっと職員室前まで来て、俺は先輩にダンボールをそっと渡した。見かけはかなり辛そうだが、さすがにすぐそこなので心配はいらないだろう。
 俺は先輩に「それじゃあ」と軽く頭を下げて先に職員室へ入ろうとした。
「あ……もしかして用事あったの?」
「まぁちょっと。気にしないでください」
 俺は肩をすくめてみせた。先輩は申し訳なさそうに目を伏せると、次に思いついたような顔をした。
「そうだ。あとでちゃんとお礼をするわ。させてもらわなきゃ、あたしの収まりがつかないしね。それじゃ、またね――稔くん」
 先輩はかわいくウィンクをしてそう言った。そんなに大したことでもないので断ろうとも思ったが、なんとなくそうはさせないとその片目の瞳が固く言っていた。
 俺は苦笑しながら了解をした。それで相手が良いのなら、べつに問題はないだろう。
「それなら、お願いしますね。じゃ、また会いましょう――先輩」
 俺は再び軽く頭を下げると、先輩に背を向けて職員室へ入っていった。


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