ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

委員長と…

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匿名ユーザー

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委員長と…


「やっぱ、この『以蔵』がお奨めだな。店内の雰囲気も彼女連れて行けるくらいお洒落だ」
「いや、お前も彼女居ないだろ」
 学校の昼休み、毒男と地元グルメ雑誌を見ながら、何処のラーメン屋が美味かったかを話していた。
「『彦斎』『半次郎』『新兵衛』も捨てがたいんだが…」
 毒男が口に出した三店舗は、いずれも行列が出来るほどの名店ではあるが
 昔ながらの殺風景な店内と、無愛想な店主のせいで客層はサラリーマンや近所のおっさんに限られる。
「あのっ」
 不意に隣の席から声がかかった。
 委員長は仲間になりたそうにこちらを見ている。
「藤宮君達は『鍬次郎』へ行った事が御ありですか?」
「「『鍬次郎』?」」
(おい、稔。んな店の名を聞いたことがあるか?)
(知らん。グルメ雑誌にも載ってないから隠れた名店なのかも知れんが)
「先週も食べに行ったのですが、とても美味しかったですよ」
「ほー、先週も食べに言ったんだ。何系?」
 普段はクールな委員長の喰いつき方に、意外だなぁと驚きながら話を繋ぐ。
「豚骨ベースに魚介系を加えたオリジナルだそうです」
「へー、美味そうだね。今度食べに行ってみようかな」
「藤宮君もきっと気に入りますよ。ただ、お店の場所が少々入り組んでいますから、判り難いかも知れません」
 眼を伏せ、項垂れる委員長の様子から察するに、話題の店は余程難解な場所にあるようだ。
「んと、それならメアド交換しない? 迷ったらメール出来るし、俺も美味しい店の情報教えるからさ」
「あ、はい。私でよろしければ」
 赤外線でメルアドを交換する。
 不慣れな感じでアタフタと携帯電話を操作する委員長は、何故か少し嬉しそうだった。
 友達と頻繁にメアド交換してないのかも知れないな。
 そういえば… 教室で委員長が誰かとお喋りしてる姿を余り見たことが無い。 
「……。なんか、ラーメンの話してたら食べたくなってきた」
「ふふっ、今から学食へ行けば、食券がまだあるかも知れませんよ?」
「いや、そうじゃなくて。委員長さ、土曜日あたりに食べに行かない?」
「えっ… 『鍬次郎』ですか?」
「迷うのも馬鹿らしいし、案内してくれると有難いんだけど」
「それはあの……。そ、そうですね。案内した方がいいですよね」
「じゃ、飯時は混むだろうから少し早めに。10:30くらいに駅のロータリーでいいかな?」
「大丈夫です。では、次の授業は移動教室なので先にいきますね」
 まだ昼休みが15分ほどあるにも関わらず、慌てて教材を抱え飛び出して行く委員長。
「昼休みくらいのんびりすればいいのに」
 なんとなく、委員長の後姿を見送る。
「稔!」
「ん?どーした毒男」
「てめえ、女の子のメアドゲットだけじゃ飽き足らず、デートの約束まで!!」
「は?」
 怒りに震えながら、何やら喚いている毒男を放置して自分の言動を振り返る。
 あ~……。ちょ!?、何してんの過去の俺!!
「落ち着け毒男! お前も土曜に来ればいいだろ。てか、来てください!!」
「行きたいけどバイトなんだよ、こんちくしょー!」
 こうして、普通に話すだけだった隣に座るクラスメイトとの初デートが決定した。 

 頭髪 切ったばかり 
 服装 体のラインが出る清潔感のある服装 
 財布 銀行に寄って貯蓄していたお小遣いを下ろした
 天候 晴れ 明日まで崩れない 
 地理 もしもの場合に備え代わりの店を記憶済み、ついでに近辺の遊び場情報も仕入れた
 時刻 土曜 10:11 余裕で間に合う

 待ち合わせ場所に向かいながら、頭の中のチェックシートに○を付けていく。
「これじゃ、本当にデートみたいだな」
 微妙に冷静になってふと呟く。
 委員長はデートだと思ってないだろうし、変に気合入れるより今日を楽しむつもりで行こうと思い直す。

 待ち合わせ場所に着いた時、委員長はもう来ていて公開中の映画ポスターを眺めていた。 
「ごめん、待たせた?」
「私が早く来過ぎたんです。まだ、待ち合わせの時間にはなっていませんよ」
「それは、早めに来てしまうくらい楽しみにしてくれていた、と言う事?」
 少し嬉しくなって学校と違う、薄っすらとナチュラルメイクの化粧をした委員長を見つめる。
「いえ、三つ編みって意外と時間がかかるから、休みの日でも少し早起きしないと駄目なんです。私は不器用なので」
 単に早起きしたから早く来ただけですか…
「あ、もちろん楽しみにしてましたよ」
 フォロー入れられても…
「ははっ、そう言えば委員長の髪って綺麗だよね」
「そ、そうでしょうか。特別な手入れはしてないのですが…」
「綺麗だよ。今日の服も黒髪が映えて似合ってるし」
「あ、その… ありがとうございます」
 俯き加減に照れる委員長の口元は嬉しそうに笑っていた。
「委員長、今日は何時まで大丈夫? 4時くらいまで大丈夫なら面白そうな映画でも見ようかと」
「藤宮君は映画がお好きなんですか?」
「映画見るのは好きなんだけど、なかなか機会が無いからさ。良かったら付き合ってもらえるかな」
「はい、いいですよ。私も見たい映画がありますので。あ、でもそれだと藤宮君が私に付き合ってもらう事になりますね」
 少し困ったように笑う委員長。
「いいよ、見るのが趣味なんだから。っと、後は歩きながら話そうか」
 さりげなく車道側を歩いて、彼女の歩調に合わせる。
「委員長の見たい映画って、さっき見ていた奴?」
「はい、『止マナイ雨ニ病ミナガラ』というタイトルですね」
「……ジャンルはホラー?」
「純愛物らしいです。あ、お嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないけど、前に純愛物見て大泣きしちゃって袖がビショ濡れになってさ」
「ふふっ、藤宮君の意外な一面ですね」
「そうかな? まあ、それ以来、こうやって厚手のハンカチを持ち歩くようになった」
 委員長は俺が取り出したタオルのようなハンカチを見て眼を丸くした後、クスクスと笑った。

 ゆっくりとした委員長の歩幅に合わせ、複雑な路地や裏道を抜けて行く
「結構歩くね」
「すみません、もうじき着きますので」
「あ、ごめん。責めた訳じゃないから…」
 俺が何気に言った一言で委員長は済まなそうに俯く。
 謝る必要が無い事や、責任を感じる必要の無い事まで背負おうとするのは、彼女の悪い癖なんだろうか?
「えっとさ。実は美味しいラーメンが楽しみで朝食を抜いて来たから腹減っちゃって」
 実際は朝食を抜かすと姉さんが五月蝿いので、有り得ない言い訳をしながら大袈裟に腹を押さえ、おどけてみせる
「それでしたら、飴などいかがでしょうか?」
「貰う貰う、飴ちょーだい」
 子供のようにせがむ仕草が可笑しかったのか、委員長の暗い影は消えていた。
 飴玉を口に含み、こちらにと差し出された小さな手の平に空いた包み紙を乗せる
「ん… 変わった味の飴だね」
「ししゃもしょうゆ味です。人気商品でなかなか売っていないんですよ」
 これは人気があるんじゃなくて、不味いから取り扱わないんじゃ… 
「あ、藤宮君。あの黄色い看板のお店です」
 指し示されたその店は雑多で不衛生な裏路地界隈には無い、ある種の異彩を放っていた。
 広い駐車場と新装開店したばかりの様な真っ白な壁、ぴかぴかに磨き上げたガラスが冬の陽光を跳ね返す
「おー、なかなか良い感じの店だね」
 早めの時間帯が幸いしたのか、駐車場も店内も俺達の他に客は居ないようだ。
「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞー」
 隣に立つ委員長とアイコンタクトし、奥の席へ
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
「あ、はい」
 お冷を運んできてくれた店員さんに返事をしつつ、メニューを手に取……
「何?これ?」
「冬の期間限定パフェだそうです」
 メニューの表紙には、たっぷりと果物や生クリームを乗せたカラフルな物体の写真と
 委員長の読み上げた文字が踊っている。
「ラーメン屋… だよね?」
「すごく美味しそうですよね。一度は食べてみたいです」
 なんだかんだ言っても、女の子は甘いものが好き。
 分かってはいるけど場所に対する違和感は無いのだろうか?
「…委員長のお奨めは?」
 理解出来ないものは流す事にした。
「そうですね。やはり、このお店の看板メニュー『鍬次郎』ラーメンが宜しいかと」
「おけ、すいませーん。注文お願いします」
 数分後、俺達の前にうまそうに湯気を燻らせる器が二つ並ぶ
「変わった器だね」
「ええ、店長さんが鹿児島の窯元で作ってるそうです」
「へー」
 犬、猫、烏、川獺、兎、牛など、デフォルメされた獣達が鳥獣戯画の如く器の周囲に描かれていた。
 何となく多機能携帯のカメラに納める。話のネタにはなるだろう
「いただきます」
 言うが早いか、眼鏡を曇らせながら麺を咥え、それを折り畳むように食べ始める委員長


 一見、音を立てずに上品に食べている様に見えなくも無いが、恐ろしいほどのハイペースで中身が減ってゆく
「い、いただきます」
 目前の食べっぷりに急かされ、慌てて箸をつける
「うっ…」
「どうかしました?」
 普通の豚骨ラーメンに見える一口めを含んだ途端、豚と魚貝系の臭みが口内に広がり
 本来、味のしつこさを和らげるはずの生姜が全力で存在を主張し他の味を征服、蹂躙する。
 得体の知れないダマを浮かべたドロドロのスープが麺に絡み、ザラザラとした不快な食感を舌の上に加え
 なんとかその味に耐え抜き飲み込むと、今度は無駄に太い麺が喉を強引に押し広げて食道に留まろうと足掻いてくる。
 これで金とるのは詐欺だろう…
「あ、いや… 好きな人には堪らない味だね」
「よかった。藤宮君も気に入ってくれたみたいですね」
 飴の時点で警戒するべきだった。
 外観がこれほど綺麗にも関わらず、昼前とはいえ一人も客が居ないのを不審に思うべきだった。
「♪~」
 上機嫌で美味しそうに豚骨ラーメン?を食べる『味覚が残念な人』を見つめる。
 食べる事に集中してるみたいなので、楽しい話をして食事を盛り上げる必要は無さそうだが…
 差し当たって当面の問題は、この激マズラーメンをどう処分するか、かな?

 何度もリバースしそうになりながら、辛うじて完食
 もうこのラーメンは匂いですら、体が受け付けないだろう。
「美味しいですね。これなら後、二杯はイケます!」
 幸せ全開の笑顔で委員長が手を上げる
「すいません、追加注文をお願いします」
 もう止めて!稔のライフはゼロよ!
 くっ、こうなったら…
「期間限定パフェを二つください」
 委員長より先に注文を口にする。
「はい、期間限定パフェを二つですね? 少々お待ちください」
 普通なら嫌われる行動だが、俺には勝算があった
 女の子はがっついてると思われたくない為、デザートを注文し難い
 一緒に注文してあげると気兼ねなく甘い物を食べられるので、気の利く男として一歩リード出来る
「あ… ふふふっ、藤宮君は優しいんですね」
 どうやら、俺は賭けに勝ったようだ。

「948円になります。ご一緒でよろしいですか?」
「一緒で」
 財布を取り出す委員長を手で制し、支払いを済ませ店を出る
「藤宮君、半分払いますよ」
「あ~じゃあ、100円だけ貰うよ。その代わり、今度一緒に食べに行くときは100円しか払わないからね」
 暫く何かを言いたそうな顔をしていた委員長が、諦めた様に苦笑した
「…約束ですよ?」
「おけ、今度は俺のお奨めに行こう」
 次の約束を取り付けた事で、少し浮かれて大胆になっていたのかも知れない
「少し冷えますね」
 寒そうに擦り合わせる委員長の手を握り、元来た道へと歩き出す
「ふ、藤宮君?」
「少しは暖かいでしょ?」
「えっと、暖かいです。でも…」
「でも?」
「ちょっと、ドキドキしますね」
 不意に気恥ずかしさを覚える。
 多分、今の俺は委員長と同じく紅潮した顔をしているのだろう。
 恥ずかしいけど気持ちがいい、今まで感じた事のない感情に戸惑いを隠せない 

 何となく手を離すタイミングが掴めないまま、映画館へと辿り着くと
『機材の修繕の為、本日休館』
 入り口に張られた紙が、ひらひらと風に舞っていた。
「あ~… 例の映画ってここだけ?」
「県内では此処だけですね」
「仕方ないから、今日は帰ろうか」
「あ、あの、もしお時間がまだ有るようでしたら、もう少しだけお話しませんか?」
 携帯で時刻を確認する。よし、あと二時間は大丈夫そうだ。
 ーポツリ
「雨?」
 いつの間にか、空には黒雲がかかり、今にも本降りになりそうな気配だった
「やべ! 委員長ごめん。今日はずっと晴れの予報だったから、洗濯物干しっぱなしなんだ!」
「あ、いえ。お気になさらず」
「じゃ、また学校で」
 挨拶もそこそこに自宅へと走り出す。
 休日は寝ているか、天気の見えない地下の薬品庫で怪しい薬品を製作している姉さんが
 気を利かせて取り込んでおいてくれる事はないだろう。
「ヨシズミめ!」
 雨脚はどんどん強くなってくる
 近道の為に横切った公園で、さかあがりの練習をしていた子供が屋根付き遊具の下に逃げ込むのが見えた
「もう間に合わないな」
 洗濯のやり直しを覚悟し、シャッターの閉まった商店の軒下に避難する
 ♪きゅっきゅっきゅっニャー
「メール?」

 『題名 黒川百合
  今日はとても楽しかったてす。
  雨に濡れて風邪など引かないようにご自愛ください
  あの約束、忘れないでくださいね。』

 流石、委員長。難しい言葉を知っているな
「っと、返信しなくちゃ」
 この後、雨が上がるまで委員長とのメールが続いた。


終わり


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