ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

先輩の作ったお弁当

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kawauson

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「晴れた日にー二人で良く走ったねー、二人乗りの自転車~、サドルが二つにペダルが四つ。ほら、高原とかによくあるやつ♪」
九暮のうだうだした授業もようやく終わり、皆が飯だ弁当だと浮足立つ昼休み。
俺ももちろん例外でなく、全校生徒の半数程がそうするように購買へと駆け足で向かっていた。
……ん? 俺は何でそんな珍妙な歌を口ずさんでいるのか?
そんなの、誰にだって意味もなく歌いたくなる時や、意味もなく海に向かって叫びたくなることもあるだろう。
それと同じことだ。多分。

「っちゃ……結構並んでるな……」

購買の前は既に芋を洗うような、とは言いすぎかもしれないが、人ごみで騒然としていた。
それもこれも九暮が教科書の染みに切れてうだうだ言いだすからだよな……あーもう。
ここで強引に入っていければ楽なのだけれど。実はこの人ごみはめちゃくちゃなように見えて実はちゃんと行列になっている。
年二回の漫画祭りのように整理係もいないのに立派だとは思うが、出遅れた時には面倒なものでしかない。
だが横入りしようものならどんな目に合うか……。

「ん? あそこにいるのは……」

特徴的な緑の髪に、大きな胸……ってどこを見てるんだ俺は!? 長岡の影響か!?
ま、まああそこにいるのは先輩に違いない。これは天の思し召しということで助けてもらってしまおうじゃないか。
「先輩!」
「……? あら、稔くん」
「はは、先輩偶然ですね!」
とかわざとらしさを演出してみちゃったり。
「ん? そうね。稔くんもお昼買いに来たんだ?」
「そうなんですよー」
と、さりげなーく先輩の後に並んでみたり。
少しは悪いと思いつつも、後ろの列の寒い視線を受け流す。
よし、これで昼飯を早めに確保だ……と考えたのだけど。

がしっ

「え」
そう甘く行かないかと、誰かに腕を掴まれる。
やっぱり怒られるかと腕を掴んだ手の主を確かめると、それは他ならぬ困り顔をした先輩だった。
「稔くん、横入りは良くないよ~?」
うっ……こういうお姉さん系の注意に弱い俺……。(主に実姉のせいで)
「や、やっぱり駄目ですかね?」
「ひめっちに言いつけちゃうぞ?」
……それはいろいろな意味でまずいです。
「せ、先輩お願いしますよ~。俺、もう腹が減ってお腹と背中がひっついて破けちゃいそうなんですよ……」
猫撫で声で甘えてみる。
……これで効果がなかったなかったら笑い物だけど。

「う……う~、も~、仕方無いなぁ、稔くんは……」


こうかはばつぐんだ!

「でも、一回だけだよ?」
「もちろんですとも! 恩に着ますよ、先輩」
調子いいんだからと先輩は苦笑し、それからは適当に歓談している内にやっと列が詰まってきた。

購買のおばちゃんが快活に「何にするんだい?」と先輩に尋ね、先輩は何を買うのだろうと後ろから見ていたのだけれど。
「えっと……何だっけ、カツサンド三つに焼きそばパン二つ、ミックスサンドも二つに……後は……三色パン一つにカニクリームコロッケパン一つください!」
「……!?」
先輩、なんて大食漢なんだ。その細い見た目とは裏腹に健啖家……いや、もう健啖家というレベルではない、フードファイターということか!
驚きながらもおばちゃんは山のように積まれたパンを先輩に渡し、「じゃ、じゃあね、稔くん」と落とさないよう必死に抱きかかえながら歩いて行く先輩を、俺はカレーパンと焼きそばパンだけを買って追いかける。

「先輩、凄い量食べるんですね」
廊下をよたよたと歩きながらすれ違う生徒の視線を集める先輩の横に並び、問いかける。
本当、見ているだけで胸やけがしそうな量だよ。
「え……? あ、やっ! 違うの! 私が食べるわけじゃないんだよ!?」
急に顔を赤くして焦りだすものだから、先輩の腕の中から数個のパンが零れおちてしまう。
「あっ!」
「いいですよ、俺が拾います」
先輩はそのままだとかがんだりできないだろうから、これくらいは当然だ。
「あ、ありがとね稔くん。でも、これは私が食べる分じゃなくて、皆に頼まれた分だから」
「頼まれた分?」
先輩は少し上向きに目をやって、頭の中で数えるように呟く。
「えっと、ケンくんに、シンくんに、ユリアちゃんに、ヅァギちゃんに……はーとちゃん、五人かな。……どうしたの?」
俺が怪訝そうな顔をしているのに気付いたのか、先輩が少し不安そうに問いかけてくる。
「いや、それパシリっていいませんか?」
「ううん、違うよ~。ただ皆用事があったみたいだし。私が買いに行くついでに、ね?」
「まあ、先輩がそういうならいいんですけどね……」
「うん、いいのよ」
いいのかな……。ま、姉さんはそういうこと頼んでないみたいだし、弟としてはちょっとほっとしてみたり。
でも、やっぱり先輩って難儀な人だよな……。

1 ほっとけないな 好感度+1
2 しかたないか  変化なし





1 ほっとけないな

「…………おっとと」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だいじょうぶ~」
ううん、どうも先輩が気になる。
やっぱり大変そうだし、手伝ってあげよう。





2 しかたないか

でも、それがこの人のサガみたいだし、しかたないのかもな。
俺は生暖かく見守らせてもらうとしよう。





合流

「あっ……!」
「え?」
先輩が、突然天啓でも舞い降りたかのようなはっとした顔をして立ち止まる。
「ど、どうしたんですか、先輩」
「はあ~」
今度は深い溜息をついて落ち込んでいる。
「自分のパン、買い忘れちゃった……」
「あー……」
意外なところで抜けてるな、この人。
「後で戻って買いなおさなくちゃ……」
「……」
先輩の元気なさそうな顔を見ていると、こちらとしては何とかしたくなってしまうじゃないか。
「先輩、俺の焼きそばパンあげますよ」
「え? そんな、稔くんのパンなのに、そんなのもらえないよ~」
「でも、戻るのも面倒でしょ? 足りないかもしれないけど……この間の膝枕と、さっき列に入れてくれたお礼ってことで」
「ん~……」
少しだけ逡巡はしていたけれど、先輩は「うん、わかった。お礼は受け取らないと逆に失礼だもんね」と、心良く受け取ってくれた。
「あ、でもね稔くん、私はこれだけでも十分足りるよ?」
「そうですか? 俺は大食いな先輩も、いいなって思っちゃったりしたんですけどね」
「え~、でもひめっちとか小さくて可愛くて細いし、稔くんもそういう子が好きなんじゃないかなって……」
比較対象として実の姉を持ってきてこないでいただきたい。
ん? しかし、なんか今の言葉って変じゃないか? まるで先輩が俺のこと気にしてるみたいで……。

「……っと、稔くんは教室そっちだよね?」
「あ、はい」
気がつけば、階段の前までやってきていた。
先輩は上の階の教室なのでここでお別れになる。
「稔くん、パン本当にありがとうね。またお礼はするから~」
「はい、また今度」
いろいろと有耶無耶になってしまったが、まあいいか。
……でも、お礼のつもりで渡したパンだったのに、それで更にお礼をしてもらうってのも変な話だな。
ま、情けは人の為ならずって言うし、永遠に続くギブアンドテイクってのもそれはそれで素敵かもしれない。
「しかし、今はそれより……」
とりあえず、カレーパンでは満たされないだろう腹をどう満たすかが問題、か。
まあ伊万里か毒男あたりから巻き上げればいいだろう……。
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