ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

姉と学食

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kawauson

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/*前パート*/
/*教室*/
「さて、今日の授業はこれまでだ。質問は一切受け付けない。あえて世俗的な言い方をすれば、わからなければググれ」
 授業終了を宣言するググレカスの言葉など誰も聞いてはいなかった。いそいそと教科書とノートを片付け、そわそわと教室の入り口を気にする生徒ばかりだ。

 4時限目授業終了のチャイム、それは学生たちのお昼ご飯、正確に言えば学食の席と、メニューの争奪戦が始まるのを告げるのである。
 うちの学食は、生徒の数に対して席も少なければメニューごとの在庫も少なく、すぐ品切れになる。出遅れれば最後、席が空くのを待ち、いなり寿司のような低ボリュームだったりうら若き学生には物足りないようなメニューを食す事となる。そう、これは戦争なのだ。ライバルを押しのけ、仲間と協力しあい、ある者は席の確保、そしてある者は食券を確保し優雅なランチタイムを満喫すべく奮戦するのである。
 もちろん、学生の中には混雑を嫌い購買で軽食を買うなり弁当を持参するなりして別の場所で食事を摂る者もいる。余談だが、購買のパン等も目ぼしいものはすぐ売り切れになるの。
 ただ、うちの学食は価格が安く、更に味が良い。
 となると、学食でご飯にありつけるのならばそうありたいと考えるのが当然な訳で。そういった理由で、毎日毎日多くの学生が詰め掛けるのである。
/*廊下*/
「さて、俺も急がないとな・・・」
 前置きが長くなったが、昼休みが始まると大抵毒男と役割分担を決めつつ戦場へと赴くのだが、今日はその毒男が見当たらない。さっきまでいた筈なのだが、探し回って時間を消費するわけにもいかないので、そのまま学食へ直行することにした。
「みずきちーー、待ってーーー」
 振り返ると、聞き覚えのある声と後姿の奴が廊下を逆方向へと疾走していた。
 まったく、廊下を走るなんて幼馴染として関心できんな。/*(※かるくみずきについても触れる?)*/

 俺も走るけど。

/*学食*/
「くそ、遅かったか…」
 時すでに遅し、学食はすでに多くの学生でごったがえしていた。
「席は…もう遅いか。適当になんか購買で買うか」
「あれ?みのるくん?」
 小動物のような愛くるしい動作でひょこっと視界に現れた姉さん。3年生は時期が時期なので、自由登校だったり早めの昼食をとってたりするのが大半なので、こんな混んでいる時間帯に姉さんと会うのは珍しい事だった。
「こんなところで会うなんて珍しいね。友達は一緒じゃないの?」
 んー、と顎に手を当てて考え込む姉さん。あれ、何か難しい質問したっけ?
「それより稔くん。お昼ごはんは?まだだよね?」
「え?ああ、うん。まだだよ。見てのとおり出遅れたっぽいから購買でなんか買おうかなって」
「購買ってパン?だめだよ。ちゃんとしたもの食べないと!席ならお姉ちゃんがちゃんととってあげるから、何か買ってきなさい」
 姉さんは背が低い。普通の背で今の台詞を言ったら頼れるお姉さんに見えたんだろうけれど、どうみてもその姿は、背伸びしてるおませな女の子のそれだった。
 その事実を告げようものならどんな仕打ちが待っているのかわからないので、とりあえず食券を買いに大勢の生徒で賑わう食券売り場へと向かうのであった。

 並んでる位置から券売機を見てみると、売り切れの赤ランプがちらほらと光っていた。
 姉さんの手前、バランスのいい定食物がよかったが、この分では俺の番が来るまでに軒並み完売御礼となるだろう。
「さて、何が残ってるかなっと」
 ようやく俺の番が回ってきた。ざっとメニューを眺めてみるが、やはり定食物は残っていなかった。
「んじゃ、ラーメン…いや、カツ丼あたりにサラダでも買うかな」
 上品な割り下によって仕上がったとろとろ半熟卵とたまねぎが、サクサクにあげられたカツと絶妙に絡み合い、学食とは思えない出来栄えを誇るカツ丼。
 結構すぐ売り切れる方なのだが、運がよかったのだろう。俺が買い終わると同時に、券売機はカツ丼が品切れであることを主張しはじめた。
 姉さんの分も何か買おうかと考えたが、既に食事をとっている可能性を考え止めておいた。
 カウンターでカツ丼とサラダを受け取り、姉さんの所に行こうとして気がついた。
「姉さん、どこにいるんだろう……」
 ただでさえ混んでいるというのに、更にあのちんまい姉が容易に見つけられるとは思えない。
 とりあえず、出会った場所付近のテーブルから捜すことにした。
「おーい、稔くん。こっちこっちー!」
 窓側から、ピョンピョンと飛び跳ねながらこっちに手を振る姉さん。人が多く普通の声では気がつかないからしょうがないといえばしょうがないのだが、周りから注目を受ける事となり、その視線はあまり、嬉しいものではなかった。
 自分の行いで注目を浴びたことに気がついた姉さんは、すこしバツが悪そうに俯き気味で席にすわる。
 姉さんに悪気がないのはわかっているし、俺のためにしてもらった行為を無碍にするほど稚拙でもないので、なるべく笑顔を繕ってフォローを入れる事にする。
「ありがとう姉さん。席取ってくれて本当に助かったよ」
「うん、ありがとう。稔くん」
 さすがに、あからさま過ぎたろうか姉さんに逆にお礼を言われてしまった。
 対面でとられていた席に座ると、姉さんはにっこりと笑いながら徐に、カバンからサンドイッチを取り出した。
「あれ、姉さんお昼まだだったんだ」
 と言うか、人に言っておいて自分は購買のパンですか…!
「うん、ここで友達と昼食をとるつもりだったんだけどね、話し込んでたら混んできちゃったの。あんまり場所取るのも悪いから、教室で食べようって話になったんだけど、稔くんと食べる事になったから、友達には教室に行って貰って、お姉ちゃんはここで席を二つ残しておいたの」
 なるほど、どおりでなかなか良いポジションの席を取れた訳だ。しかし、つまりこれは俺のせいで友達とお昼ご飯を食べれなくなってしまったんじゃないだろうか。
「ごめん姉さん。俺のせいで友達と食事できなくて」
「もう、何言ってるの稔くん。友達とはまだまだ機会だってあるし、それにお姉ちゃんは稔くんと食事できて嬉しいよ。だいたい、弟が困ってるのを放っておける訳ないでしょ。助けてあげるのがお姉ちゃんの役目なんだもの」
 えっへん、と(ない)胸を張って力説してくれる姉さん。
「それに、稔くんには普段たくさん家の事してもらってるからね、こういう所でちゃんと恩返ししないとね」
 そう、我が藤宮家では料理洗濯掃除といった、たいていの家事を俺がこなしている。
 別に母親が家事を放棄しているわけじゃない。理由は簡単、両親がただいま絶賛海外出張中なのだ。それも、長期、という言葉も付け足した。
「ありがとう、できれば家の家事をもっと手伝ってくれたほうが嬉しいんだけどね」
 社交辞令はそこそこにしてここぞとばかりに本音を言ってみる。
「この前手伝ったよ」
 ……取り付く島も無かった。
 長話もなんなので、湯気までおいしそうなカツ丼に箸をつける。
「ちゃんとサラダも買ったんだね。エライエライ」
 栄養を気にしてくれているという意味ではうれしいが、残念なことに我が家の栄養管理をしているのは俺だった。たまに幼馴染の伊万里が料理や家事を手伝ってくれたりするのだが、料理の方は何故か姉さんが俺の手料理を強く主張するので、伊万里の手を借りることは滅多に無い。
「そういえば、昨日稔くんが居ない時にお父さんたちから電話あったよ」
 お上品に、サンドイッチを一口サイズに千切って食べる姉さん。姉さんは三年生なので自由登校等の理由でたいてい俺より先に家に帰っている。
「え、そうなの?ひどいなぁ、俺最近全然話した記憶ないよ」
 別に生活にさしたる不便も感じてないが、一応不満をたれてみる。
「しょうがないよみのるくん。時差があるからこっちが暇な時は忙しいんだよ。昨日だって、あまり余裕なさそうだったし。あ、お母さんがお姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ〜って稔くんに。わかったカナ?」
 言うことを聞いて良い子にするのはむしろ姉さんの方だと思うけれど。
「……稔くん、今すごい失礼な事考えてたでしょ」
 ほんわかと猫のように自由奔放気味な姉さんだが、こういう事にはとても鋭い。

 しばらく、会話も無しに黙々と食事をとる。
 姉さんは、俺より早い段階でサンドイッチを食べ終わり、こっちをずっと眺めていた。
「ねぇ、稔くん」
 ふと、穏やかな、けれど真剣な目をして問いかけてくる。
「なに?姉さん」
「稔くんは、お父さんとお母さんが居なくて……さびしい?」
 まさか、と何時ものように軽い調子で返そうと思ったが、その真剣な眼に気圧されて、すこし真剣に考え、そしてこう答えた。
「たしかに、手紙や電話でしか会えなくなって随分経つよね。でも、普通なら寂しいって思うのかもしれないけどそんな事全然思わないんだ。こういったら薄情に聞こえるかもしれないけど、そう思わないのは、姉さんがいつも傍にいてくれて、今の生活がとても充実してるからじゃないかな」
 ちょっと恥ずかしい事を言ってしまったかもしれないけど、俺なりに考えてそう言ったので後悔しないことにする。
「そっか。それならお姉ちゃんも安心だよ」
 姉さんは、しばらくぽかんとしたような表情をしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべてくれた。
 たしかに、両親が不在なのは色々不便だけれどだからといって寂しいなんて感じたことは本当になかった。これはさっきも言ったとおり、姉さんの存在があってこそなのだろう。
 普段はグータレデーモンと化している姉さんだが、こうやって時々とても姉らしい気遣いをしてくれる。そして、その姉さんとの生活は、忙しくも、楽しいものなのだ。

 満面の笑みで俺を眺めていた姉さんだが、突然思い出したように
「あ、稔くん。そろそろ行かないと次の授業までに、食後の運動をすることになるよ」
 言われて、結構時間が経っていたことに気がついた。いつの間にか空になった丼と皿をトレーにのせ、いそいそと片付けを始める。
 「それじゃ、またね。姉さん」
 「うん、またね。稔くん」
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