ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

頼まれ委員長 5

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頼まれ委員長 5



 ググレカスからしつこく事情を聞かれたが、俺は全部を話すことはしなかった。
 まだ委員長の感覚が理解できていなかったし、ググレカスに話したところで何か解決するとも思えなかった。
「もうこんな時間か……」
 事情聴取のせいで午後の授業に出ることができなかった。
 日もすっかり暮れている。
「とっとと帰ろう……」
「とっとと帰られたら困るのよね」
 後ろから突然首根っこを掴まれた。
「し、白水……!?」
「こんにちは。お久しぶり。ごきげんよう、藤宮」
 振り返るとそこには白水が立っていた。
 気のせいではなく、表情は険しい。
「ちょっといいかしら?」
「え、まあ……いいけど」
「百合のことなんだけれど……」
 話の内容は予想通りのものだった。
 そう、委員長が『大好き』な白水が、昼の騒ぎを放っておくわけがないのだ。
「ん……あれか……」
「一体何があったのかしら?」
「委員長が手首を切ったんだ……」
「それは知っているわ。どういう状況で切ったのかを聞いているの」
 白水はいつにも増してぴりぴりとしている。
 掴みかからんばかりの勢いだった。

「まさか、クラスの人間が、百合に暴言を浴びせたんじゃないでしょうね? あの下衆ども……」
「い、いや、そうじゃない。そうじゃないよ。確かにクラスメートと話している最中だったけど」
「やっぱり! あの連中一度ならず二度までも……! こうなったらわたくしが……!」
 怒りにメラメラと燃える白水を何とかなだめる。
 この目で見たまま、委員長に聞いたままを話した。
「だから、『見たいと言われたから』って委員長は……俺もよくわからないんだけど」
「……他には何か言っていたかしら?」
「他には……みんなが快適に過ごせるように、とか」
「ふむ……」
 白水はぶつぶつと呟きながら、何事か考えているようだった。
「……百合が手首を切った時の、周囲の人間の反応は、どんなものだった?」
「いや、大騒ぎだったよ。女の子は悲鳴上げてパニックだし、男子連中も何が起こってるのか理解できてない感じだったし」
「囃し立てている人や、悪口を言っている人は居なかったのね?」
「居なかったと思うけど。ていうか、何なんださっきから。その微妙な質問は」
 こちらの質問には白水は答えない。
 屋上の寒さも気にせず、何やら深く考え込んでいた。
「ん……まあいいわ。良しとしましょう。ありがとう。それじゃあね」
「お、おい! ちょっと待てって!」
 立ち去ろうとした白水の腕を慌てて掴む。
 白水はいかにも迷惑そうにそれを払いのけた。
「何ですの。うるさいわねえ」
「聞くだけ聞いておいてそれはないだろ。俺の質問にも答えてくれ」
「……仕方ないわね。善処するわよ」
 そう、白水は大好きな委員長のことが心配で仕方ないのだろう。
 でも俺だって、負けないくらい心配してるんだ。

 聞きたいことはたくさんあった。
「委員長は……変だと思うんだ」
「何が?」
「前から奉仕的な人だと思っていたけど、今回のことでわかった。委員長は自分を蔑ろにし過ぎる」
「まあ、そういう面はあるわね。だから?」
「だから、じゃない! 普通じゃないくらい蔑ろにしてるんだよ! 自分の利益とか安全とか一切抜きで! 命すら投げ出しかねないほどに! どう考えてもおかしいだろ!?」
 怒鳴ってしまった。
 白水を威嚇したところでどうにもならない。
 でも、胸の中に怒りが渦巻いていた。
 委員長の底知れぬ思考と、それを変えることのできない自分に対する怒りだ。
「なあ、白水だってわかってるんだろ? わかってないわけは無いだろ? お前は一番近くで委員長を見てきたんだから」
「……」
「委員長に一体何があるっていうんだ? 前に何かあったのか? だから委員長はあんな風に自分を扱うのか?」
「別に……何も無いわよ」
「嘘をつくな。『一度ならず二度までも』……さっき言ってただろ? 一度は何かあったってことだろ? 委員長と、クラスの連中に。だからああやって聞いてきたんだろ?」
 白水は小さくため息をついた。
「聞いてどうするのよ」
「委員長を助ける」
「助ける、ね……」
 白水が小馬鹿にするような笑いを見せた。
「簡単に言ってくれるわね」
「え……」
「百合を助ける……助ける、か。うん、それができたら苦労はしないのよ。今頃私は素敵にハッピーライフでしょうにね」
「え、えーと、白水?」
 声が変に穏やかだった。
 ただ、表情は紛れも無く怒っていた。
「ねえ、目に見えなくて触れることもできないものがあったとして、そのどこかが壊れているとしたら、あなたはどうやってそれを直すの?」
「え? えー……それは……」

 何だろう。
 とんちだろうか?
「……どうやるんだろう」
「難しいでしょう? でも百合を助けたいなら、その答えをずっと探さなきゃいけないのよ。目に見えない、自分以外の人の『心』を相手にしなきゃいけないの」
「心……」
「……聞きたいんだけど、どうしてそんなに百合のことにこだわるの?」
 幾分か表情が柔らかくなったが、まだ白水の視線はきついままだった。
「好きなの? 百合のこと」
「好きって言うか、大切な友達だし……」
「どうして百合が大切な友達なの? どんな理由で百合を大切な友達だと思っているの?」
「それは……今までの付き合いの中で見てきたこととか、話してきたこととか……そういうのから……」
「今までの百合の態度があなたにとって好みの、心地よいものだったから。だから親近感を持っている。そういうことかしら?」
「ん……」
 嫌な言い方をするな。
「そこまで打算的に考えてはいないよ」
「不快にさせたならごめんなさい。別に非難しているわけではないのよ。ただ、これまでの百合に親近感を抱いて、百合を助けたいと思っているなら」
 白水の目が鋭く光ったような気がした。
「これから知る百合があなたにとっての『大切な友達』の基準から外れる人間だった時、どうなるの?」
「え……」
「わたくしは最後まで百合の味方でいる自信があるわ。あなたはどうなのかしらね?」
 俺にとっての委員長という存在が変わる可能性。
 考えたこともなかった。
「俺は……何があっても委員長を大切な友達だと……」
「言うのは簡単よね」
 白水は小さく息をつくと、俺の横を通り過ぎて歩み去った。
「一応、あなたにも期待はしているわよ。ほんの少しだけどね」
 小さく呟く声が聞こえ、屋上の扉が閉じる音が響いた。


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