ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

委員長の冗談 3

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委員長の冗談 3


 四時間目の技術家庭の時間は、久々に男女合同での家庭科の授業だった。
 各班六名ごとに決められたレシピをつくり、それを昼食としてみんなで食べようということだった。
 俺の班は、俺と委員長と長岡を含んだ六人。
 作る料理は鶏肉と野菜のトマトシチュー他数品。
 仲が良い分さくさくと作業は進む。
 俺と委員長はシチューの担当だったので、水を入れた大鍋を火にかけつつ、材料を包丁で切っていた。
 俺を含めた男子連中がわりと大食いな分、鶏肉は六百グラムと多めに持ってきた。
 その大量の鶏胸肉を、エプロン姿の委員長が鮮やかな手つきで次々と捌いていっていた。
「委員長、上手だな」
「え? 何がですか?」
「いや、包丁の扱いが。俺が肉を切ろうとすると、ほら……」
 筋の部分がなかなか切れなくて、途中途中で詰まりながら切ることになってしまう。
 やはり、委員長のようにうまくはいかなかった。
「ちょっとしたコツがあるんですよ」
 委員長は、笑いながら実演して見せてくれた。
「お肉は、要は筋肉なわけですから、筋繊維でできていますよね」
「うん、そうだな」
「だから、その流れを見るわけです。でたらめに刃を入れるのではなく、繊維の流れに平行な方向と、垂直な方向をきちんと見ます。平行な方向は小さな力で切れますから、とりあえず切ってしまいます」
 委員長は説明しながら、また板に乗った大きな胸肉を、細めの固まりに切っていった。
「こうなると、あとは垂直な方向に切ればいいです。垂直方向は少し力が要りますが、切る距離が短くなっている分、適当に切っても何とかなります」
 タン、タン、と、まな板と包丁のぶつかる音を小さく響かせながら、委員長は肉をさらに小さく切り分けた。
「お肉の繊維の流れさえ見れば、大抵うまくいきますよ」
「なるほど……委員長、料理上手なんだな」
「え? り、料理ですか?」
 委員長は慌てたように手をぶんぶんと振った。
「委員長、包丁包丁、危ないから」
「ああ、すみません」
 包丁を置いて、改めて委員長は胸の前で手をぶんぶん振った。
「私、料理は全然駄目なんですよ」
「え? でも今みたいに、料理のこと良く知ってるみたいだし、上手だったし……」
「私ができるのは、お肉を捌くことくらいなんですよ。それ以外はからっきしで……お恥ずかしい話ですが……」
 委員長は、どちらかというと家庭的な印象がある。
 からっきし、というのは、謙遜なのではと思ってしまうが、どうなのだろう。
「いえ、本当に、お肉を捌くのは私の唯一の得意技と言ってもいいくらいでして」
「と、得意技っすか」
「味付けなんかは、もう絶望的なんです」
「絶望的……」
 そんなにひどいのか。
 しかし、肉を捌くのだけ上手くて他が駄目とは、またアンバランスな技能に育ってしまったものだ。
「その……私は、家で料理とかをしていたわけではないので」
「そうなの? じゃあ、その包丁捌きはどこで習ったんだ?」

「こ、これはですね……」
 委員長は一瞬唇に指をあてて、困ったように笑った。
「その……昔手伝わされた名残ですね」
「手伝いって、やっぱり料理?」
「いえ、その、解体の……」
 少しばつが悪そうに、委員長は小さな声で話し始めた。
「その、大きな生き物の死体があったとして、そのお肉を処理するのはとても大変なことなんですよ」
「んー……まあ、そうかもな」
「なので、小さくする必要があるわけです。関節を外して、切り分けて、太い部分はそぎ落として、といった作業をすることになるんですね」
 委員長はいちいち関節を外す仕草や、何かをそぎ落とす仕草を織り交ぜて説明してくれた。
「小さく分けたものは、鍋でどろどろになるまで数日間煮込みます。鍋に入らないものは冷蔵庫に入れて保存して、また後で煮込むことになります。この時、臭いをごまかすために適当な味付けをしますが、本当に何も考えず、大雑把に調味料を入れるだけなんです」
「なるほど」
「最後にどろどろに煮たものを、トイレに流して終わりとなります。……こんなことをして身についた技術なので、包丁捌きは上達しても、味付けの方は全然で……」
 委員長は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「話はわかったけど……トイレに捨てちゃうの? せっかく調理したのに、食べないの?」
「そんな、食べるなんてとんでもないですよ」
 だって、と委員長は小さな声で続けた。
「その生き物って、人間なんですから」
「へ……」
 思考が止まる。
 何を言っているのか。
「えっと……人間を、切るの? 煮込んで、流すの?」
「はい」
「それを手伝ってたの?」
「はい……本当、こんなことばかり得意になって……駄目ですよね、私って」
 しょんぼりとした様子の委員長。
 あまりの話に、頭がくらくらと揺れた。
「藤宮君?」
「あ、ご、ごめん。ちょっと落ち着くから」
 委員長が心配そうに顔を覗き込んでくる。
 思わず目をそらしてしまった。
「……あの、藤宮君……冗談ですよ?」
「え……?」
 委員長の表情を見る。
 力なく、あははと笑っていた。
「すみません……料理下手が恥ずかしくて……冗談でごまかしてしまいました」
「冗談……なの? 今の全部?」
「はい。いつものジョークです。笑いでごまかそうと思ったのですが、失敗だったようですね」
 いつものジョークか。
 確かに笑えない、いつも通りのジョークだ。

「まあ、あれだ、その……真に迫ってて、刺激的だったよ」
「……お気遣いいただき、すみません」
 結局、料理の材料を切る段階だけ手伝っていたということらしい。
 相変わらず委員長の冗談のセンスは絶望的だと思う。
 まあ、それもまた委員長らしいと言えばそうなのだが。
 委員長はまた鮮やかな手つきで肉を捌いていき、俺が煮込みと味付けを担当した。
 料理は順調に進み、見事我が班は大量の鶏肉と野菜のトマトシチューにありつけた。
 しかし、赤色のシチューの中に浮く肉片を見て、つい委員長の冗談が思い起こされてしまい、いつもより食欲が湧かなかった。
 結局、せっかく作ったシチューは、長岡の腹に大量に収まることになった。



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