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『泣いた君、泣かせた俺』

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『泣いた君、泣かせた俺』


 今日の放課後は図書室でみずきの勉強を見てやることに。
「エチルアルコールはどれか分かるかみずき?」
「…分かんない」
「これな。さっき教えただろ?」
「むー…」
 別に責めたわけではないがみずきは頬をふくらませて拗ね出す。
 そのしぐさに俺は思わず苦笑いする。
 “忘れちゃったんだからしょうがないじゃん”
 “ああそうだな”
 “あ、バカにしてる!”
 “してねえよ”
 何も言わないけど、二人の心の中ではこういうやりとりが起こっていたりする。
「ここらへんはこまごましてて点が取りにくいからしっかり覚えておけよ」
「ん」
 みずきは俺の言ったことを参考書に丁寧にメモる。
 わがままで強引で、自分のやりたいことは何がなんでもやろうとするようなところもあるけど、こういう時は素直だ。
「じゃあ次は…」
「…ふう」
「ここの設問だ。やってみろ」
「…」
「みずき?」
「…」
「おいみずき」
「あ、ごめんなさい、ぼーっとしてたっ」
「ふうん」
「さあ次行こう次!」
「…いや、今日は終わりにする」
 俺はみずきの参考書をひったくって閉じる。
「え、あ、まだ…っ!」
「外、もう暗いからな」
「あ…」
 冬ってこともあるが、外が真っ暗だった。
「おら支度しろ」
「…」
 俺が帰る支度をしているというのにみずきは一歩も動かない。
 まだ帰りたくないんだろう。
「…まあちょっと休憩してから帰るか」
「え? ほんと?」
 俺の言葉にみずきは目を輝かせた。
「じゃああたしなんか飲み物買ってきてあげるよ!」
「俺も行く」
「いいよ、あたしが行ってくるから稔はここで待ってて」
「俺も行くって」
「いいから! 廊下は寒いし稔はここで待ってて!」
「あのな、図書室は飲食厳禁なんだから行ってその場で飲むしかねえの」
「あ…そっか」


 帰る支度をし、俺とみずきは校内にある自販機に来た。
「なににしよっかなー」
「あ、あたしがおごる。勉強見てもらってるし」
「別にいいぞ」
「あ…」
 俺はみずきが財布を取り出そうとするのを制し、自分で買った。
 買ったのは缶コーヒー。俺が買うと続いてみずきも同じものを買っていた。
「ふいぃ…頭使うとコーヒーが美味いな…」
「うん…」
「しかし缶コーヒーのこのサイズが気に食わん。もっとデカいのないのか?」
 缶コーヒーってなんでこんなに小さいのだろうか。
 デカいやつもあるが、味がいま一つだったりする。
「だったらもう一本飲む? おごるよ」
「それはそれで夕飯が不味くなりそうだからやめとく」
「そう…」
 二人で窓の外の暗闇を見つめながら缶コーヒーをちびちびと飲む。
 しばらくは沈黙が続いたが、それを破るかのようにみずきが口を開く。
「そういえば稔は今日夕ごはんどうするの」
「家で食うけど?」
 きっと姉が腹を空かせて待っているだろう。
「あのさ、もう遅いしどこかに食べに行かない?」
「ああ、それもいいな」
「お金はあたしが持つから」
「…いや、やっぱり遠慮しておくわ。家で姉さんが待ってるから」
 行ってもいいかなと思ったが、おごる、という言葉に少し嫌悪感を覚えて行くのをやめた。
「そっか…」
「…」
「…」
「あのさ、稔」
「ん?」
「今日はごめん。勉強教えてもらってるのにあたし身が入ってなかった」
 いつも明るい笑顔のみずきが、いつになくしんみりした面持ちで語りかけてくる。
「…そういう日もあるさ」
「分からないのを稔に八つ当たりしてた」
「気にしてねえよ」
 飲み込みが早く頭の回転が速いみずきだけど、今日は精彩を欠いていた。
 つまらないミスをしたり、分からないとふてくされたり。
 まあ、それがかわいくもあるんだけどな。
「ごめんなさい」
「謝んな」
「ごめんなさい…」
「だから謝んなって」
「ごめん…あたしのこと嫌いにならないで…」
「なるわけねえだろ」
「えへ…稔…優しいよね」
 みずきが俺の胸にもたれかかってくる。
「あのね、あたし、ちょっと考えごとしてたんだ」
「どんな考え事?」
「聞いてもつまらないよ? 本当にどうしようもないことだよ?」
「話したいんだろ。いいから話せよバカチン」
 俺の胸の中にある頭をわしゃわしゃとかく。
 照れくさそうに“やめてよ”なんて言うけど、声色がやめて欲しくなさそうで、ついつい調子に乗ってしまう。
「…あのね、稔に勉強教えてもらってた時にね、なんであたしは稔に教えてもらってるんだろうって思った」
「…」
「ちょっと前までは同じこと習って、あたしが稔に教えてたのに」
「そだな」
 みずきの手が俺の背に回って、俺を強く締めつける。
「あたしが稔に…」
 そう、数年前まで俺とみずきは同じ学年だった。
 同じクラスになれば喜びあい、離れれば悲しみ、そして同じ学校に行こうと頑張った。
 でも今じゃみずきは1年生で俺は2年生。
 病気がみずきを蝕み、病気はみずきから時間を奪った。
 あれは思い出したくもない…。
「俺に教えられるのが嫌か?」
「嫌じゃない。稔がちゃんと成長してるんだって思ったら、嬉しい」
 みずきが、ふうとため息をつく。
「でも、同じぐらい辛い」
「…」
「稔も、伊万里も、あたしの分からないこと習って、どんどん先に進んでく」
「みずき…」
「あたしが2年生になったら稔は3年生で、あたしが3年生になったら稔はこの学校からいなくなる」
「うん」
「もし、おんなじ大学に行っても、ずっと、差は埋まらない」
「…」
「あたしはもう一生稔に追いつけないんだね」
「そんなことねえよ…」
「もうあの頃みたいに一生同じクラスになれない」
「…」
「一生隣の席に座れない…」
「…」
「…っ、ひぐっ……うぁ…」
 嗚咽が聞こえる。
 …泣いてる。
「ひぐっ……み゛のぅ…やだよぉ…っ!」
「泣くなバカ…!」
「ずるいぉ…なんで先に行っちゃうの…」
「俺はここにいる」
「でもいづか…いな゛くなるんでしょ…?」
「いなくならねえよ」
「じゃあ゛あたしのことずっと見ててよ…!?」
「ああ」
「ずっとだよ…?」
「ああ」
「あたしもずっと…見てるから…」
「ああ」
 かける言葉が見つからなくて、ただ抱きしめるしかなかった。

 そりゃ、お互い進むべき進路に進んで、仕事して、いろんな出会いをして、いずれ結婚して。
 その過程のどこかできっと離れ離れになる。
 ずっと友達だ。けど、ずっと一緒にいられるわけじゃない。
 早いか、遅いかの違い。
 この歳になればそれを分かってるはず。
 じゃあこいつはなんで泣いている?
(俺がいるから?)
 俺がいることでみずきがこうして泣くなら、もし、仮に、俺がいなかったとしたらみずきは泣かなくて済んだのだろうか。
 この胸の中にいる熱の塊は、俺だから泣いてくれるのか?
 俺が遠くに行ってしまうから?
 それって俺のことが……。
 いや…その考えのおこがましさに気付き、考えるのをやめた。

 胸の中の熱の塊は冷めるまでに時間がかかったけど、帰る頃にはまたいつものように笑顔になっていた。


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