ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

タイムカプセルSS

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
< 【back】 【next】 >

タイムカプセル


「みのるー」
 廊下から聞こえる元気な声に、俺はまたかと思った。
 何でかわからないがこんなにタイミングのいいやつも珍しい。
 『お、また来たぞ』や『モテるねー』などという冷やかしを受け流しながら、俺はみずきを迎えた。
 いつの間にか後ろに伊万里もいたが、…ほっとこう。
 俺がふいっと顔を戻すと後ろから『あーなんで無視するのさー。みのりんでもあんまりだよー』という声が聞こえてきた。
「で、何だみずき?スバゲッティならこの前食っただろ。」
 俺が伊万里を無視しながら聞いた。
「お、みずきちってば意外と食いしん坊なんだね。」
 伊万里にもからかわれたみずきは頬をぷぅと膨らませた。
「違うもん。昨日掃除してたらこんなの見つけたから来たんだよ。」
 と言って俺に紙切れを渡すみずき。
 これは…
「タイムカプセルか…懐かしいな。」
 その紙切れにはみずきと一緒に埋めたタイムカプセルの場所を示した地図が書かれていた。
「でしょ?」
 不敵な笑みを浮かべながらみずきが言う。
 と、伊万里が俺から紙切れを奪い取る。
「へー、みのりんとみずきちってタイムカプセルなんて埋めてたんだね。」
「そういえばそのころは伊万里とみずきってまだ知り合ってなかったもんな。」
 その頃を思い出し、俺は伊万里へと言葉を返す。
 へー、と言いながら伊万里は紙切れを見ていた。
「この場所って…みずきちん家の小屋の近くじゃん。」
「そうだよ。ね、みのり、今日掘り出しに行こうよ。」
 みずきが袖をつかんで誘ってくる。ま、今日は何も予定ないし、断る理由もないな。
「あぁ。んじゃ学校終わったら校門で待ち合わせな。」
 みずきはにへーと笑いながら嬉しそうに帰っていった。
 気づくと伊万里がモジモジしながら俺を見ていた。
「ね、みのりん。ボクも一緒に行っちゃだめかな?」
「はぁ?何で埋めてもないタイムカプセルを掘りにいくんだよ?おかしいだろ。」
 俺がそういうと、伊万里はハッと何かに気がついたような顔をした後しょげてしまった。
 ちょっと悪いことしたかな。後でいなり寿司でも奢ってやるか。
 次の授業の準備をしながらそんなことを考えた。

「キーンコーンカーンコーン…」
 チャイムが鳴って授業が終わった。
 相変わらず伊万里はしょげたままだったが、いなり寿司を奢ったら途端に元気になることだろう。
 とりあえず俺の明日の予定は決まった。
 そんなことを考えながら下駄箱に向かった。

 俺が下駄箱で上履きを履き替えようとしていると後ろからパタパタと足音が近づいてきた。
 嬉しそうな足音だ。
 みずきか?相変わらず気の早いやつだ。
 俺は少し呆れながら振り返った。
「よう、みずき早かったな…ってえぇ!?」
 俺の予想は完全に外れた。
 目の前には嬉しそうな毒男の顔があったのだ。
 しかし、俺の言葉を聴いた途端にその嬉しそうな顔はショックを受けた顔になった。
「み、稔…。お前だけは信じてたのに…」
 毒男はワナワナと震え出し、俺はただオロオロするしかできなかった。
「今日は女とデートかよぉ!裏切り者おおぉぉ。」
 と泣き叫びながら行ってしまった。
 なんだったんだ一体?
 急に置き去りにされた俺は困るしかなかった。
 ん?泣き叫びながら…?
 気がつくと俺は下駄箱にいたほとんどの生徒達の注目を集めていた。
 このくらいの年のやつらは色恋沙汰が大好きだ。
 生徒の中には冷やかしている奴もいた。
 …まずい!ここはひとまず退却せねば!
 俺は急いで靴に履き替えると校門に向かって走り出した。
 うむ、我ながらいいスタートダッシュだ。
 …なんて感心してる場合じゃねえ!
 明日になれば俺が彼女いるらしいという噂が広まっているだろう。
 毒男も大変なことをしてくれたもんだ。
 あー頭が痛い。
 しかし、なってしまったものは仕方がない。とりあえずほとぼり冷めるまでほっとこう。
「それにしてもみずきのやつ遅いな…」
 またプリントでも頼まれているのだろうか?
「ちょっと待つか。マフラーでもしてくればよかった。」
 2月の空気は寒く、身に染みるようだった。

 しばらくするとみずきが走ってくるのが見えた。
「ハァハァ…ごめんね、みのる。…ちょっと…頼まれちゃってさ。」
 息を切らしながら喋るみずき。
「気にするなって。んじゃ行くか。」
「うん!…あっ、ちょっと待って。」
 みずきは自分のマフラーを取ると俺の首に巻きつけ、そのあとに自分の首にも巻きつけた。
 よくカップルがやっているマフラーの巻き方だ。
「えへっ。じゃ行こ?」
 ちょっとはにかむみずき。頬が少し赤い。
 多分俺の頬も少し赤いことだろう。
 寒い日だったが、首に巻かれたマフラーは暖かかった。

「あ、こんにちは」
 急にみずきが見知らぬおじさんに挨拶をした。
「おぉみずきちゃんか。久しぶり。」
 どうやら2人は顔見知りのようだ。
「おーい、みんなー。みずきちゃんが来たぞー」
 おじさんが木工所の中に呼びかけると人がぞろぞろと出てきて、口々に『久しぶりだね』や『今日も元気そうだね』と言っていた。
 その内に1人が「なあ新入りにチェンソーの使い方教えてやってくれよ」と言い出した。
 みずきはいつもの調子で「おっけーおっけー、私にまかせなさい」と言って木工所に消えてしまった。
 急にマフラーがなくなって寒くなったが、みずきが戻ってくるまで待つことにした。
「すまんね、デート中に。」
 さっきのおじさんが話しかけてきた。
 どうやら彼氏と間違われているらしい。
「違いますよ。ただ一緒に帰ってただけですって。」
 しかし、マフラーの巻き方があれでは間違われても仕方ない気がする。
「そうだったんか?てっきり恋人同士かと…」
「ははは。でも何でおじさんがみずきのこと知ってるんですか?」
 笑って軽く受け流し、疑問に思ったことを聞いてみた。
 悪い人ではなさそうだしな。
「そりゃあ、みずきちゃんは子供のころからこの木工所で手伝ってくれてるんだよ。」
 そんなことは初耳だ。
 目をパチクリしていた俺をみておじさんは笑った。
「ま、確かに女の子が手伝うような場所じゃないわな。」
 わははと豪快な笑いをする。
「みずきちゃんはな、本当によく手伝ってくれてな。あっしらも色々と世話になってるんだよ。」
「そうなんですか。」
 みずきはそんなことをやっていたのか。
 これじゃ人に尽くす為に生きてるみたいだな。
「それにな、子供のころから手伝ってるからかチェンソーやトンカチの扱いも上手でね。今じゃそこいらの若造より上手いくらいだよ。」
 おじさんはポリポリと頭をかきながら言った。
 木屑がパラパラと落ちてきたが、そんなことは気にしてないようだ。
「みずきちゃんは教えるのも上手いからよく新入りに指導をしてもらってるってわけさ。」
 なるほど。それでさっき頼まれていたのか。
 木工所の中をのぞくと数人の職人たちと一緒に笑っているみずきがいた。
「なんか楽しそうですね。」
 俺が言うとおじさんは大きくうなずいた。
「あっしらもみずきちゃんが来ると嬉しくてな。みんなみずきちゃんが可愛くて仕方ないんだよ。」
 と言って目を細めるおじさん。
 みずきは道具の扱い方を教えながら楽しそうにしていた。
 そんな光景を見て俺は安心した。
 みずきにもちゃんとした場所がある。
 それにここの職人たちはみんな優しそうだ。
「おっといけねぇ。そろそろ戻らねぇと。んじゃなボーズ」
「こちらこそありがとうございました。」
 おじさんは手を振りながら木工所に戻っていった。

 少ししてみずきが帰ってきた。
「ごめんね。ちょっと話し込んじゃった。」
 ちょっとすまなそうな顔をしていた。
「それに、何かみのるを待たせてばっかりで…」
「いいっていいって。それにしてもいい人達だな。」
 みずきは力強くうなずくとマフラーを俺の首に巻いた。
「じゃ、行こ。」
 俺の袖を引っ張りながらみずきは走り出した。
「えーと、どこだ?」
 手にある紙切れを元にタイムカプセルを探すが、小さいころに書いたメモは大雑把過ぎて作業は難航していた。
 よく見るとメモには小屋、大きい木、歩いて5歩、ココぐらいしか書かれていなかった。
 いざ始めてみるとタイムカプセル発掘任務遂行の難しさを思い知った。
 挨拶を早々切り上げて稼いだ時間もすぐに無くなりそうだ。
 見つからない隠し場所に挫けそうになっている俺をよそに隣にいるツインテールのウサギ耳はピョコピョコと嬉しそうに揺れていた。
「ね、みのる。目印に珍しい石置いたよね。」
 楽しくてしょうがないと言わんばかりの顔でみずきは振り返る。
 そういえば石かなんか置いた気がする。
「どんな石だっけ?」
 ぼんやりとは浮かぶのだが、小さいころの記憶は曖昧で役に立たなかった。
「わかんないけど、珍しかったのは確かだよ。」
 スコップを片手に持ち、ブラブラ遊ばせながらみずきが答える。
 小屋から持ってきたものだ。ちなみに俺のスコップもすでにある。
「ま、私に任せなさい!」
 自信満々で言われると少し心強かった。

 しばらく探すとそれらしき石が見つかった。
 なんとも形容しがたい奇妙な石だった。
 小屋からそれほど遠くない。それに近くには大きな木もある。
 これだ!俺とみずきは顔を見合わせると2人で喜び合った。
「さっさと掘り出しちまうか。」
「うん。」
 2本のスコップが土に埋まり、早速掘り出し作業は始まった。

 結構深く埋めたのかなかなかタイムカプセルは出てこなかった。
 初めのうちは昔話や学校の話で盛り上がっていた俺達も次第に口数が減っていった。
 途中でみずきが「ちょっと飲み物とタオル持って来るね。」と言いながら行ってしまったために、今では一人で黙々と作業を続けていた。
 汗をシャツで拭きながら一心不乱にシャベルで土をえぐる。
 制服の上着はとっくに脱いでいた。
「それにしても遅いな、みずきの奴…」
 出かけてから何分たったのだろうか?
 静かな林の中では時間の感覚が狂ってしまうから困る。運悪く時計はしていなかった。
 カツン
 今まで順調に進んでいたスコップの先端が何かに当たった。
 もう見つからないんじゃないかと半分諦めかけていた俺は急に元気になった。
 土をえぐっていく度に徐々に姿を現す金属の箱。
 懐かしい思い出の詰まった箱はもうすぐそこにあった。
 少し震えながらその箱を取り出す。
 長い年月を過ごしてきたであろう箱は所々錆びていた。
 振るとカラカラと音がする。
 ふたを開けようとしたそのとき、後ろから声がした。
「みのるー。持って来たよ。」
 振り返るとスーパーの袋を提げタオルを持ったみずきがいた。
 どうやら家に飲み物がなくてスーパーまで買いに行ったらしい。
「おーみずき。今ちょうど発掘したところだぞ!」
 そう言いながら金属の箱を高々と掲げる。
 一大任務を遂行した俺はそのまま落ち葉の上にバタリと倒れこんだ。

 気がつくとみずきの家の小屋の中で寝ていた。
 どうやらあの時倒れてしまったみたいだ。
 あれだけかいていた汗もきれいに拭かれ、頭の上には氷枕が乗っていた。
 辺りを見回すときれいに畳まれた俺の制服が置いてある。
「これは…みずきの服か?」
 頭がクラクラする匂いだった。なるほど、だから匂いが強烈なのか。
 …じゃなくて、みずきが俺を着替えさせたのか…?
 想像しただけで俺は真っ赤になった。
「あ、みのる気がついた?」
 小屋の入り口からホッとした様な声がした。
 見ると換えの氷枕を持ったみずきが立っていた。
 俺は赤くなった顔を見せまいとしながら、「ありがとうなみずき、看病してくれて。」と言った。
 えへへと笑ったみずきは、急に何にかを思い付いたのか、「ちょっと待ってて。」といいながら駆け出していった。

 小屋の外に出ると夕日がきれいだった。
 赤く照らされた林の木々は輝いていてとても美しかった。
 しばらく飽きずに眺めていたが、後ろからのお待たせという声で眺めるのをやめた。
 そして俺は腰を抜かしてしまった。
「お、お前危ねえって!しかも女の子が持つようなシロモノじゃないだろ、それ。」
 しかしみずきはキョトンとして首をかしげている。
 その手にはチェンソーを持ち、ゴーグルと手袋を装備し、腰には前掛けをつけていた。
「何で?チェンソー使うときはいつもこの格好だよ。」
 俺の驚きように少し困惑しながら喋るみずき。
「いつもってことはチェンソーよく使うのか?」
 疑問に思ったので質問してみる。
「うん。小屋の中にある椅子も私が作ったんだよ。」
 えっへんと少し得意げに言うみずき。木工所のおじさんの話は本当だったようだ。
「他にも色々作ったんだよ、これで」
 嬉しそうにチェンソーを持ち上げるみずき。
 本当に楽しそうだ。
「で、今から何作るんだ?机か?」
 俺が言うとみずきは意地悪そうに笑って「ヒミツ」と答えた。
 チェンソーを置いたみずきはどこからか丸太を転がしてくると近くにあった切り株の上に乗せた。
 手馴れた感じでチェンソーのエンジンをかけたみずきは次々と丸太を削っていった。
 たまに細かい破片が俺に当たっているが、そんなことには気づいていないようだ。
 辺り一面が木屑だらけになったとき、ようやく俺は気づいた。
 ウサギだ。
 なんとみずきはウサギを作っているのだった。
 まさかチェンソーでそんなものを作るとは思いもよらなかった。
 唖然としている俺をよそに着々とウサギへ変わっていく丸太。
 その鮮やかな腕前に息を呑んだ。
 みずきは相当チェンソーの扱いに慣れている。
 素人の俺が見てもわかった。

「はい、完成ー!」
 程なくしてウサギは出来上がった。
 丁寧に目やひげまで描きこまれて。
「ね?どう?かわいいでしょ?」
 そう聞いてくるみずきに俺は首を縦に振るしかできなかった。


< 【back】 【next】 >

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー