ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

ゆっち

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匿名ユーザー

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伊万里ノート



額に浮かぶ玉粒の汗をぬぐい、飛んでくる球を捉える。
白球と呼ばれた茶色いボールを思い切り打ち返してこの日の練習を終えた。
軟式テニス。
土のグラウンドでボールが見えなくなるまで練習。
毎日の練習で肌は焼けて、部員達の中で一番黒くなった。
けど、練習した証だと素直に喜べた。
邪魔な髪も短くして、上へ、もっと上へ。
地区大会、ダブルスで優勝。学校でも表彰された。
誰からも褒められると思っていた。
“あの人”にも。

「お前、変わったよな」

よかった。

帰ってから泣けて。


・・・・・。


季節はいやおう無しに巡り、それが一番時間の流れを感じさせる。
木枯らしが吹き抜ける11月の中旬。
「あ、みのりんだ」
「おぅ伊万里」
放課後の学校の玄関。
帰るべき時間に帰る仕度をし、こうして偶然を装い、待つのが日課。
夏が終わって部活・・・大好きだったテニスをやめた。
それからというものは帰ってからやることもなくずっと天井を眺めていた。
あれだけ遅くまで頑張っていたテニスの練習が無くなるとただ空虚だった。
「ねえみのりん、一緒に帰る?」
だからこうして玄関で出待ちのようなことをしている。
「そだな」
いそいそと靴を履き、先ほどの返事とは裏腹に先に行く後姿を追いかけた。
・・・男の子ってなんで靴を履くのが早いんだろう。
今度は履きやすい靴に変えよう。

「でね、でね、み・のりーん」
「へんな所で区切るなばか」
他愛もない話をして、意味もなく笑う。
前よりも“一緒”でいることに懸命になった。
もしかしたら卒業して、進学して、高校が別々になるかもしれない。だから。


「ところでちゃんと勉強してる?」
中学生活最後の華であろう文化祭も粛々と終わり、11月、各自高校受験モードに入った。
先生は帰りのホームルームで“進学校に受験するなら今から始めるなんて遅いぐらいだ”と、嘆いていた。
「昨日は姉ちゃんとずっとゲームやってた」
「ダメぢゃん!」
「お前はどーなんだよ」
「えっと・・・ゴハン食べてすぐ寝ちった」
緊張感がない二人。
「お、家に着いたな」
「うん」
家は隣同士。それぞれの家の前で別れる。
「じゃあな。勉強しろよ」
「みのりんもね!」
別れることを惜しみ、また明日会うことに胸を躍らせる。
あーあ、どうしてずっといられないんだろう。
とか考える。
そんな毎日。


「う・・・うぉあー・・・」
「ん・・・・・・夢・・か」
今日の寝覚めは良い。
というのも夢を見た。受験生は何かに追われる夢を見るという。
自分はと言えば・・・えっと・・・・夢って覚えてられないよね。
「よし」
ベッドから起き上がり、伸びてきた髪の毛をわしゃわしゃとかく。
そして鏡を覗き込み、白くなってきた頬を撫でる。毎日のスキンケアの賜物だ。
そんな鏡に映った自分の驚きの白さに自然と顔がニヤつく。
「酷かったんだろーな、ボクって」
日々変わってく自分が嬉しい。
部活をしているときはオシャレを全く意識していなかった。
化粧はしていないが、今は眉毛をいじるぐらいはしている。
と言うぐらい、同年代の子と比べてオシャレに無頓着だった。
「少しは・・・女の子らしくなってきたかな」
彼はどういう子が好きなんだろう。
髪の長くて大人しい子?落ち着いた年上の人かな?生意気な女の子?お姉さんみたいなタイプだったりして。
カーテンを開けて隣の家を覗き込む。

どうか、ボクみたいな子でありませんように。


ざわ・・・
今日の5限は自習。
あれほど病気には気をつけろと言っていた烏丸先生がインフルエンザで休みだった。
そんなわけでこの時間は勉強する時間・・・なわけはなく、ほとんど雑談が飛び交っていた。
「ねぇねぇ、やっぱりあの高校にする?」
「制服チョーかわいいじゃん!」
雑音の中で一人黙々と筆を走らせる。
高校生活に憧れはない。なぜみんな高校生活に期待を膨らませるのだろうか。
離れ離れになってしまうのに。
ボクは・・・みんなと離れたくないよ。
「おーっと伊万里ぃ、まじめに勉強してるじゃない?」
「ゆっち」
ゆっち。ポニーテールの明るくてかわいくて素直な子。
と言ったら「アンタに言われたくない」と怒られた。照れなくてもいいのにねぇ?
ゆっちとは1年生の時から二人でテニスのダブルスを組んで、二人で一生懸命練習し、夏には悲願の地区大会優勝を果たした。
今でも同じクラスで仲良し。
「ま、わかんないところあったら言いなさいな」
「勉強教えてくれるの!?」
ゆっちは学年で順位が三本の指に入るぐらいの勉強家。
そんな彼女、名門女子高へスポーツ推薦でテニスの強豪校に行く予定。
「わかんなかったら一緒に悩んであげるわ」
「わー、それは頼もしいなー!」
ただ、ちょっといじわる。


「んで伊万里は、“アイツ”と同じところ受けるんだよね?」
ゆっちは同じ教室内にいる男子に一瞥をくれる。
“アイツ”は勉強せず隣の席の男子と雑談していた。
「あ、あはは、アイツって誰のことっすか?分からないっすよーゆっちさん・・・」
すっとぼける。周りから見ればこれはジョークだと思われるかもしれない。
でもそんな軽々しいことではなかったり。
・・・。
「あたしは、あいつのこと許したわけじゃないからね」
憎しみを込めて彼のことを睨みつけ、舌打ちする。
「だからゆっちってば・・・」
「まあいいけど。それよりさ、はぁはぁ・・・今日はどんなパ、パンティーでいたいけなそのこ、ここ股間を隠してるのかな伊万里ちゅぁん?」
「アンタどこのオッサンすか!」
その後は雑談タイムとなった。
ああ、今日も勉強できない。


放課後、急いで勉強道具をカバンにつめ、自然ととある人物を目で追いかける。
「はぁ・・」
だけど今日は仲の良い男子達で固まって帰りそうだ。そういう時は大人しく引き下がる。
一緒にいたい。けど邪魔したくない。
それも彼の大切な時間だから。
でもそんな自分でも時々思ったりする。
いつか、誰よりもボクといる時間が大切だと思ってくれたら嬉しいなあ。
なーんて。
「―ったく、こら一緒に帰るわよストーカー!」
「あ、ゆっち。」
「ちょっと今日は本屋で買いたい本があるから付き合いなさいよ」
「・・・うん」
みのりんと帰れそうにない日は大抵ゆっちが声をかけてきてくれて一緒に帰る。
偶然?
ううん、違うって気づいたのは最近だった。
「アンタって人はどこまであたしを切なくさせるのかねぇ」
「なんか言ったゆっち?」
「なーんにも」
自分の事をよく見ていてくれて、心配してくれてると考えるとすごく嬉しい。
大事にされてるって、すごくこう・・・心が温まる。
「ちなみに本の代金はアンタ持ちね」
「ななな、なんでやねん!」
「アンタの参考書買うからよ」
「あはは、そっかぁー」
言葉のおかしさに気づいたのは買った後になってからだった。


・・・・。


(・・・くっ、きた!)
背中から冷や汗が滲み出て、めまいがする。
息が激しく乱れ、焦点が合わせられない。
ああ・・・腕が痺れたように動かない。
誰か、誰か―
(この問題教えてよおおおおおおおっっ!!)


という記憶が残る、いつぞやの悪夢(模試)が今日、返ってきた。
ダメなのは分かっていたけど・・・
「どーれどれ伊万里」
横からゆっちに結果をかっさらわれた。
「じーっ」
「ゆっちぃ、返してよぉ」
「・・・あ、ゴメン、返す」
「うん」
「・・・」
「なんか言おうよ!」
そんなに?


狙うは、家からちょっと離れたそこそこの進学校。行く理由は察してください。
しかし冷静に分析しても、この結果だと厳しい。
「伊万里さぁ、大人しくあたしと同じ高校に来なよ。伊万里ならスポーツ推薦で行けるよ」
ゆっちの学校は、偏差値は高いけどちょっとスポーツの大会で成績を残したりすると受け入れてくれるという女子高。
ゆっち曰く美人が多くてハーレムらしい。
って、そんな情報はどうでもいい。
「そこでまたさ、二人でテニスやらない?」
テニス。数ヶ月前までは大好きだった。
「・・・・・ごめんね、もうテニスは」
今となってはテニスと聞くだけで心がえぐられる気持ちになる。
ゆっちには申し訳ない気持ちが半分、もう半分はテニスへの拒絶の気持ち。
だってさ・・・。
「・・・まあいいわ。とにかくアンタ、勉強しないことには始まらないわ」
「それは肯定せざるをえないっす」
「じゃあ今日は伊万里の家で勉強会ね!いいわよね!?オッケーーーイッ!!ヒャッホー!」
こうして怪しい勉強会開催が決まった。
「いいけどゆっちってば、ちゃんと勉強教えてよ?」
「もち!」
「あと勝手にタンス開けたり下着かぶったり持ち帰ったりしないでね?」
「も・・・」
「ゆっちさん?」
「・・・」
たまらなく不安だった。


日々の暮らしを健やかで清潔に、快適な空間を作り出すお掃除。
「掃除機も使わない、安物の洗剤で済ませる、今使ってる雑巾も自前で調達させる。なーんてエコノミーなのかしら」
「あはは・・・笑うしかないよー」
学校のお掃除といえばそんなもの。
「しっかし学校の掃除ってあってないようなものに感じるわ。手抜きし放題じゃない」
「とか言いながらまじめに雑巾がけするゆっちであった」
雑巾で床を磨く作業。
冬は水が冷たくて誰でもやりたくないし、ほとんどの人は手にほうきを持っている。
「あらぁ、誰よりも早くおバケツにお水を汲んできて雑巾がけを始めた伊万里さんほどマジメじゃなくってよ?」
と、得意げに語るゆっちさん。
「へぇ~、言いつつゆっちなんて今も教室の隅々まで丹念に拭いてるのはなぜ?」
「はっ、体が勝手に!!」
「ねえねえ、素直に認めたらどう?」
「・・・・・・・・・・い、言いたいことはそれだけ?」
「な、なによぅ?」
「あたしは知っているのよ!誰も見ていないけど実は汚れの目立つノーマークな“掃除用具入れ”を伊万里が掃除しているのを!」
「なっ・・・・どうしてそれをっ!!」
「ウフフ、伊万里マスターのあたしに知らないことはないわ」
「そ、それならゆっちは教室の壁に書かれている落書きをあたかもそこが純白の壁面であったかのように一切落書きの痕跡を残さず綺麗にしてたっ!!」
「あら勘違いしないで欲しいわね。教室だけじゃないわ!ウチのクラスの“担当教室”の理科室と音楽室もよ!!」
「そんな・・・・・・負けた!!」
「おーーっほっほっほ!!どう伊万里?この勝負あたしの勝ちよ!!」
(あれ?何の勝負をしてたんだっけ)
という、とある日の一日。


・・・・・・・。

「伊万里ちゃんって数学得意だっけ?」
「あんまし・・・・かな?なんで?」
クラスの女の子に勉強のことで話しかけられた。
珍しいなー。今までまったくそんなことなかったのに。
「伊万里ちゃん最近勉強頑張ってるし、ちょっと数学で分からないところ教えてもらおうかなーって思って」
実は結構失礼なことを言われたと知ったのは後になってから。
「いやーアハハ、教えるほどじゃないっすけどぉ、どれどれ?」
得意げになってるのには理由がある。
実は数学は苦手。しかし問題に答えられる自信がほんのちょっとだけある。
なぜなら最近はけっこう勉強しているから。
「む・・・」
いや、かなり勉強してると思う。
ゆっちが毎日家に来て、時には遅くまで勉強に付き合ってくれて。
「どう?」
さすがに夜道が心配だから9時までには帰らせて家まで送るけど。
そんなゆっちに応えたいボクは、休み時間さえ無駄にしたくなくて、休み時間も勉強する。
「ごめんなさい、わかんないっす」
・・・・でもまだまだ勉強不足ってことか。


「伊万里ちゃんも分かんないかあ。誰か分かる人いないかなあ」
「あ、ゆっちに聞いてみるよ」
「え?あの・・・佐倉さんに?」
「おーーい、ゆっちぃーちょっと来てー」
窓際の席に座っているゆっちを呼んだ。
ちなみに佐倉さんってのはゆっちの名字。
え?知らなかった?
なんにせよ勉強に関してはゆっちが一番だし。
「い、伊万里ちゃん、あの、あたしはべつに・・・」
「なに伊万里?」
「ゆっち、この子、この問題分からないんだって」
そう言って問題を指差す。
「あ、あの佐倉さん、別にいいんです。他の人に聞くから・・・」
ゆっちは遠慮する女の子のことを一瞥すると、ボクをじっと見つめる。
その顔には
“空気読めよ”
とか書いてあったり。
そんなの分かってるよゆっち。
「ねえゆっち。お願い、教えてあげて」
「だから伊万里ちゃん、ちょっと」
「・・・・」
「ゆっち?」
「伊万里ちゃん、お願いだから・・・」
「・・・・・・円錐を実際に開いた図を描いてみて」
「え?あ・・・」
「それでできる弧を線で結んでみて」
・・・。


「こんな感じ。分かったでしょ?」
これで分からなければバカよ、とでも言いたげに鼻をならす。
なんでそうしちゃうかなー。
「あ、はい。あ、ありがとう・・・」
短くお礼をすると女の子はそそくさ去っていった。
まったく、そんな大層なお礼を言われるようなことでもないけど、もう少し礼儀ってもんがあってもいいと思う。
・・・教えたわけでないボクが言うのもアレだけど。
「ねえちょっと聞いてよ今佐倉さんに・・・」
勉強を教えられた女の子は、女の子のグループに混じってヒソヒソと話し始めた。
「・・・伊万里、めんどくさいことしないで」
「なにが?」
あきれたようにボクを咎めるゆっち。
「分かってるでしょ、あたしが“嫌われてる”の」
ゆっちが嫌われてる。
正確には、「”今は”恐れられている」と言ったところ。
原因がゆっちになくても。
「・・・・でももうすぐ卒業だよ?それでいいの?」
「あたしは伊万里以外信じてないから。あたしにはアンタがいればそれでいい。他のやつらになんて思われたって構わないし」
(ゆっち・・・)
不敵に微笑むその笑顔には曇りはなくて。
けど、どこかうしろ姿に影の見え隠れする少女。
それがゆっち。


※現在執筆中?



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