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< 【[[back>「かみあわない話」]]】 // 【[[next>]]】 > 3/4日(日) みのさんが先輩になんか不用意な発言するSS  ここは俺の心の中の世界。  ジョルジュの心とつながる世界。  毒男の心とつながる世界。  向日先生の心とつながる世界。  白水の心とつながる世界。  伊万里の心とつながる世界。  みずきの心とつながる世界。  姉さんの心とつながる世界。  委員長の心とつながる世界。  大勢の人の心とつながる世界。  そして、先輩の心とつながる世界。           *  稔くんはあたしとずっと一緒にいられたら、嬉しい?  それは、突き刺すような寒さの冬もようやく終わりを迎えつつあり、日ごと暖かさを増す穏やかな春に近づこうかというような時期にしては、不思議なほどに寒く凍えるような日に受けた、不思議なほどに暖かな先輩の一言だった。  有名な少年漫画の実写映画化作品が公開されたと聞いて、ネームバリューにつられて先輩と休日に遊びに出かけたついでに映画館に入って見てみたが、内容そのものは原作を中途半端に再現しただけの上に、三次元で出すには苦しい外見の登場人物を強引に表現し不自然な演技で動かしただけの、一体誰が喜ぶのかと疑問に思うような内容だった。  その退屈な映画の鑑賞を終えて映画館から出た頃には陽が沈みかけていて、夕焼けの空が徐々に藍色へと移り変わり行くまでの、残りわずかな時間に差し掛かっていた。  朝からとても寒さが厳しい。室外の寒気とそれを伴う強い風を避けようと先輩の手を引いて近くの喫茶店に駆け込もうとしたが、なぜか先輩は乗り気ではなかったようで、あえて冷たい風に晒されたままベンチに腰掛けることを選択した。どうしてですかと質問してみたら先輩の答えは少し変わっていた。少し笑いながら「陽が落ちるまで夕焼けが見ていたいの」  なぜそんなに夕焼けにこだわるのだろう。そう考えつつ寒さは耐え難いものだったが俺は頼みを聞き入れることにした。自販機でホット飲料を二本購入してから先輩と体を密着させるように腰を下ろして座り、景色を眺めつつ二人仲良く熱いカフェオレを胃に流し込んだ。そこで唐突に先輩の暖かな声が俺の心の世界の扉を開いた。 「稔くんはあたしとずっと一緒にいられたら、嬉しい?」          *  心の世界に花が咲いていた。  心の世界にとてもきれいな花が咲いていた。  その花の名前は知らない。  けど、ずいぶん前からその花は咲いていた。          * 「そりゃもちろんです」  即答でなければ返事を返すのにとても長い時間が掛かったかもしれない。数秒後にその質問の意味を深く考えてひどく照れくさくなった。  先輩は俺や他のみんなとずっと一緒にいたいと願い続けている。俺と先輩は恋人同士だから今は無理をして家に住まわせることでなんとか離れ離れにならずに済んでいるが、そう遠くないうちにこんな暮らしにも亀裂が入って終わりを迎える。だから寂しくなってこんな問いを投げ掛けてきたのかもしれない。 「でも、迷惑じゃないの?」 「全然。いえ全くそんなこと思ってないですよ」 「ホントに?」 「だって付き合ってるんですから」  俺もずっと先輩と一緒にいられたらいいなと思う。先輩だけじゃなくて姉さんともみずきとも委員長とも白水とも毒男ともジョルジュとも一緒にいられたらいいなと思う。ついでに伊万里とも。  結局それは叶えられない望みなのかもしれない。姉さんはもう俺の視界から姿を消しているのだし。誰かが姉さんの後に続く。俺はほんのちょっとの寂しさを味わいながらその誰かを次々と見送って行くのだろう。だから隣に居る先輩にだけは出来うる限り望むことをしてあげたい。花を愛でるように。 「じゃあ、あたしが稔くんとずっと一緒にいて、稔くんがしてほしいことを全部してあげるって言ったら喜んでくれる?」         *  いつの間にか花は囲むように俺の周囲に咲き乱れていた。  花の空白地帯で、俺は楽器の鍵盤の上に指を置いていた。  今にも押してしまいそうに力を込めて。  でもそれをしてしまうと、崩れてしまう。  なぜなら、透明な色をしたその巨大な楽器の材質は――。         * 「それは、どういうことですか」 「そのままの意味。何でもしてあげる。えっちなことでもいいよ」 「えっと、その」  思考が意味不明なノイズで阻害されていく。おかげで考えがまとまらない。頭に血液が上るのを実感しながら俺は何とか口を開いた。陽はもう消えようとしている。 「俺は、先輩のしてほしいことがしたいです」 「え?」 「俺も先輩と同じ気持ちですから」 「ありがと、でも気にしなくていいの。これがあたしの一番したいことだから」 「それなら」  言葉が冷たい風に流され消失してしまわないように言った。 「それなら嬉しいです。先輩がそれで幸せを感じてくれるなら、俺も幸せですから」    そして陽が消えた。         *  今思うと俺はずっと硝子のピアノに向かい合ったまま日々を過ごしてきた。  ふとした拍子で押してしまったその運命の鍵盤は、一音にしてはやけに反響を残して世界を崩していったんだ。  崩れて行く世界で強い風が吹き、愛でていた花が次々と散っていく。  巻き上げられた花びらが吹雪になって、花の色が眺めていた俺の視界を染め上げた。  急にめまいを起こしてその場に膝を着く。  意識が遠くなる。  その時、ようやく俺は知った。  きれいな花には毒がある。         * 「稔くん」 「あ、先輩」 「どうしたの?」  先輩に呼びかけられて現実に引き戻された。いつの間にか放心していたようだ。それになぜか原因不明の不快感が心に溜まっていて暖かかった気分が台無しだ。まるで夜に幸福を奪われてしまったみたいで、先程まではちょっときれいだなとしか思わなかった陽が恋しくなった。 「いや、なんでもないです。少しぼーっとしてたみたいで」 「寒いならどこか入ろっか? もう陽も落ちちゃったし。付き合わせちゃってごめんね」 「いいんです。それより、先輩はどうして夕焼けが見たいと思ったんですか」 「んー。なんか寂しくなっちゃって。これからずっと夜が続いちゃうような気がしちゃったのね。だから今のうちに見ておこうと思って」 「なんすかそれは」 「あたしもよくわかんない。不思議よね」  藍色を通り越して黒に染まった空の下で行き先もわからないまま手を繋いで歩いていく。今の夜の闇はお互いに気持ちの良いものではないようで、それなら早く朝になればいいのにと思う。先輩はこれからずっと夜が続くような気がすると言った。だからそんな先輩のための夜明けが訪れますように。 < 【[[back>「かみあわない話」]]】 // 【[[next>]]】 >
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