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**委員長の日常  「うーん……どうしたものかなあ」  授業が終わった放課後。  昇降口から外を見ると、雨がしとしとと降っていた。 「天気予報じゃ言ってなかったのになあ」  午後になって突然に降り出した雨。  強い降りではないので、帰ろうと思えば帰れるのだろうけど、冬の雨は冷たさは重々承知している。  下手に濡れて帰って、風邪ををひいては面白くない。  昇降口には、俺以外にも傘を持っていない生徒が何人か、どうしたものかと立ち往生していた。 「あ……委員長」  ふと見ると、委員長が靴を履いて、下校しようとしていた。  その手には傘が握られている。  紺色の、少し大きめの傘だった。 「さすが、委員長はぬかりないな」  どうしようかと考えてみる。  入れていってもらえたらありがたいが、さすがに相合傘は了承してもらえないだろう。  所詮俺は、隣の席に座る一男子生徒に過ぎない。  あるいは委員長のことだから、予備の傘の一つくらい持っているかもしれない。  ちょっと悩んでるうちに、すぐ脇に居た同じクラスの女子が委員長に声をかけた。 「ねえねえ委員長、傘、余分に持ってない?」 「え?」 「あたし、傘持って来てなくて。体強くないから雨に濡れるのも嫌だし……もし持ってたら貸して欲しいんだけどさ」  委員長はほんの少し考える仕草を見せた後、その女子に微笑みかけ、手に持っていた傘を手渡した。 「……それでは、これを使ってください」 「いいの?」 「ええ。私には折り畳み傘もありますから」 「ありがとー! 感謝しちゃうわ!」  委員長から傘を受け取って、女子は元気よく雨の中を走っていく。  委員長は小さく手を振って、それを見送っていた。  見事に先を越されてしまった。  もっと気軽に声をかけられれば良かったのだが……まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。  さすがの委員長も、もう一本傘を傘を持っているということはないだろう。  これは本気で相合傘を頼むしか無いかもしれない。 「委員長と……相合傘、か」  何となく甘酸っぱい気持ちになってそわそわしてしまう。  いや、まあ、別に妙な下心があるわけでもないし、頼んでみるのはありだろう。  委員長が傘を広げたあたりで、こう、それとなく。  今度こそ覚悟を決めて、委員長が傘を広げるのを待った。 「……」  が、待てども委員長は折り畳み傘を取り出さない。  ぼんやりと、雨の降る灰色の空を見上げていた。 「あの……委員長?」 「あら、藤宮君。どうしました?」 「その、よければ、傘に入れて欲しいんだけど……。傘、持ってきてなくて」 「まあ……」  委員長は困ったように笑った。 「すみません。私もちょうど切らしてしまいまして」 「え?」 「どうしたものかと考えていたところなんですよ」 「え、でも、さっきあの子に、折り畳み傘があるって……」 「恥ずかしながらあれは嘘です。実は持っていないんですよ」  照れたように言う委員長。  いや、恥ずかしながらとかそういう問題では無い気がする。 「持ってないのに貸しちゃったの? 何でまた……」 「つい、貸してしまいました」 「つい、ですかい」  にこりと微笑む委員長。  つくづく人の良さが半端じゃない。  というよりも、流されやすさを心配するべきなのかもしれない。  委員長は、丁寧に頭を下げてきた。 「ということで、お役に立てなくて申し訳ありません」 「いや、そんなのは全然いいよ。元々俺が勝手に頼んだことなんだし」 「それでは……私はそろそろ行きますね」 「え?」  降りしきる雨の中に、委員長は足を踏み出した。  髪が雨粒に濡れて深みのある色に変わり、真っ白な制服には染みが広がっていく。  俺は慌てて委員長の後を追った。 「委員長!」 「あら、どうしましたか?」 「……いや、一緒に帰ろうと思って」 「え? あの、私、傘は持ってませんよ?」  心底驚いたように委員長は言ってくる。  俺はそんなに傘に飢えているように見えたのだろうか……。 「いや、それはさっき聞いたから」 「傘を持っていないのに、一緒に帰りたいんですか?」 「うん。いや、委員長が嫌ならいいけど」 「……理解に苦しみますが……」 「え?」 「いえ……それで良いのでしたら、御一緒しましょうか」  雨に降られているというのに、委員長は急ぐわけでもなく、何事も無いようにいつもの様子で歩いた。  俺たちは二人で濡れながら帰った。
< 【[[back>委員長とクラスの男子]]】 【[[next>委員長の日常 2]]】 > **委員長の日常  「うーん……どうしたものかなあ」  授業が終わった放課後。  昇降口から外を見ると、雨がしとしとと降っていた。 「天気予報じゃ言ってなかったのになあ」  午後になって突然に降り出した雨。  強い降りではないので、帰ろうと思えば帰れるのだろうけど、冬の雨は冷たさは重々承知している。  下手に濡れて帰って、風邪ををひいては面白くない。  昇降口には、俺以外にも傘を持っていない生徒が何人か、どうしたものかと立ち往生していた。 「あ……委員長」  ふと見ると、委員長が靴を履いて、下校しようとしていた。  その手には傘が握られている。  紺色の、少し大きめの傘だった。 「さすが、委員長はぬかりないな」  どうしようかと考えてみる。  入れていってもらえたらありがたいが、さすがに相合傘は了承してもらえないだろう。  所詮俺は、隣の席に座る一男子生徒に過ぎない。  あるいは委員長のことだから、予備の傘の一つくらい持っているかもしれない。  ちょっと悩んでるうちに、すぐ脇に居た同じクラスの女子が委員長に声をかけた。 「ねえねえ委員長、傘、余分に持ってない?」 「え?」 「あたし、傘持って来てなくて。体強くないから雨に濡れるのも嫌だし……もし持ってたら貸して欲しいんだけどさ」  委員長はほんの少し考える仕草を見せた後、その女子に微笑みかけ、手に持っていた傘を手渡した。 「……それでは、これを使ってください」 「いいの?」 「ええ。私には折り畳み傘もありますから」 「ありがとー! 感謝しちゃうわ!」  委員長から傘を受け取って、女子は元気よく雨の中を走っていく。  委員長は小さく手を振って、それを見送っていた。  見事に先を越されてしまった。  もっと気軽に声をかけられれば良かったのだが……まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。  さすがの委員長も、もう一本傘を傘を持っているということはないだろう。  これは本気で相合傘を頼むしか無いかもしれない。 「委員長と……相合傘、か」  何となく甘酸っぱい気持ちになってそわそわしてしまう。  いや、まあ、別に妙な下心があるわけでもないし、頼んでみるのはありだろう。  委員長が傘を広げたあたりで、こう、それとなく。  今度こそ覚悟を決めて、委員長が傘を広げるのを待った。 「……」  が、待てども委員長は折り畳み傘を取り出さない。  ぼんやりと、雨の降る灰色の空を見上げていた。 「あの……委員長?」 「あら、藤宮君。どうしました?」 「その、よければ、傘に入れて欲しいんだけど……。傘、持ってきてなくて」 「まあ……」  委員長は困ったように笑った。 「すみません。私もちょうど切らしてしまいまして」 「え?」 「どうしたものかと考えていたところなんですよ」 「え、でも、さっきあの子に、折り畳み傘があるって……」 「恥ずかしながらあれは嘘です。実は持っていないんですよ」  照れたように言う委員長。  いや、恥ずかしながらとかそういう問題では無い気がする。 「持ってないのに貸しちゃったの? 何でまた……」 「つい、貸してしまいました」 「つい、ですかい」  にこりと微笑む委員長。  つくづく人の良さが半端じゃない。  というよりも、流されやすさを心配するべきなのかもしれない。  委員長は、丁寧に頭を下げてきた。 「ということで、お役に立てなくて申し訳ありません」 「いや、そんなのは全然いいよ。元々俺が勝手に頼んだことなんだし」 「それでは……私はそろそろ行きますね」 「え?」  降りしきる雨の中に、委員長は足を踏み出した。  髪が雨粒に濡れて深みのある色に変わり、真っ白な制服には染みが広がっていく。  俺は慌てて委員長の後を追った。 「委員長!」 「あら、どうしましたか?」 「……いや、一緒に帰ろうと思って」 「え? あの、私、傘は持ってませんよ?」  心底驚いたように委員長は言ってくる。  俺はそんなに傘に飢えているように見えたのだろうか……。 「いや、それはさっき聞いたから」 「傘を持っていないのに、一緒に帰りたいんですか?」 「うん。いや、委員長が嫌ならいいけど」 「……理解に苦しみますが……」 「え?」 「いえ……それで良いのでしたら、御一緒しましょうか」  雨に降られているというのに、委員長は急ぐわけでもなく、何事も無いようにいつもの様子で歩いた。  俺たちは二人で濡れながら帰った。 < 【[[back>委員長とクラスの男子]]】 【[[next>委員長の日常 2]]】 >

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