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「稔くん、もっといいとこ……行こうか」  放課後。  いつものように昇降口で待っていてくれた先輩が、俺と落ち合うなりにそんな事を言うのだ。  イイとこというのは、やはりイイ所なのだろうか。  俺と先輩が恋仲になってのは最近のことだ。キスぐらいはするが、肌を重ね合わせたことなど未だない。  しかし最近の若者は性に開放的であるという。  温室育ちの先輩までもがその例に漏れない、とでもいうのか。  普段わりかしおしとやかな彼女からは想像もつかない。  だけれども、こんな積極的なところも新たな魅力かもしれない。  ごくりと無意識に生唾を飲む。  どうやら俺も健全な男子のようだ。  あーだこーだと言いながら、内心こんなにも期待してしまっている。  胸の鼓動が速くなっていくのがわかる。  身体が熱い。  自分でもわかるくらいに、先輩の身体を舐めるように見てしまっている。  小さな肩。大きな胸。細くなった腰。肉付きのいい、しかし決して太くはない腿。  喉が、渇く。 「――ちょっと、聞いてる!?」 「え? あ、ああ。聞いてるよ」 「嘘だっ! ……もういい、嫌って言っても連れて行くからね」  言うが早いか、先輩は俺の手を引っ張って歩き出す。  おい。待て。アグレッシブにも程があるだろう。  ああ、ほら。  すれ違うたびに生徒たちの視線がこっちに集まっているじゃないか。  それにイイ所へ行くんじゃないのか。校舎に戻ってもイイ場所なんてひとつもないぞ。  それともアレか。  まさか学校で――なのか。  流石にそれはいかんだろう。  今の状況でさえ端から見た連中には、どんなことを言われるのかわからないっていうのに。  こんなところで事に及んでいることが知られてみろ。  それこそ単なる噂話どころじゃあなくなる。 「ねえ先輩。やっぱり学校っていうのはまずいんじゃ」 「知らない」 「し、知らないって――」  好奇の視線を感じなくなったと思ったら、いつの間にこんな人気のないところへ……!  どうやら先輩は本気らしい。  手を引かれる俺のことなど見向きもせず、階段をつかつかと上っている。  ああもう、人っ子一人いないじゃないか。  それなのにどこまで上っていくんだ。  ここまできたら、もう戻れないのかもしれない。  腹を、くくるか――? 「着いたよ」  少しさびついた扉を開ける。  奥へ踏み出すと、視界が開けるのと同時に朱色が目を覆った。 「ここなら二人っきりだよ」  そういって先輩は微笑んだ。  なるほど。  確かにここならば――普段は立ち入り禁止にされている屋上ならば、邪魔は来ない。 「ここは、立ち入り禁止だって、ずっと前に習いませんでした?」 「言ってたねぇ」 「駄目じゃないですか」 「……たまには、悪い子でもいいじゃない」  先輩の顔が、少し、歪んだ気が、した。  だけれども、それ以上は思考することは出来なかった。  細い腕が、首に絡みつく。 「ねぇみのるくん」  距離が縮まる。 「もっと悪いこと、しようか?」  そして二人が重なった。
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