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委員長の名前 - (2008/09/27 (土) 14:53:55) のソース

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**委員長の名前 

 あー、明日から三学期か……。 
 だるいなあ……。 
 冬休み最後の日。 
 空は真っ青に晴れてるけど、俺の心はまさに曇り空だ。 
 たぶん全国の学生が同じ気分なんじゃなかろうか。 
 一昨日から慌てて取り組んだ宿題は、終わりそうな気配ではあったが、さすがにそろそろ精神力の限界だ。 
 少しくらい散歩してもばちはあたらないだろう。 
 ああ……冬の空って何か綺麗だよなあ……。 
「ん……?」 
 公園の脇を通りかかる。 
 見知った人影があった。 
「委員長……?」 
 うん、間違いない。 
 委員長だ。 
 俺のクラスの委員長が、ブランコに座って、ぶらぶらと揺られていた。 
「委員長!」 
「……あら」 
「俺だよ、オレオレ!」 
「そんな繰り返さなくても知ってるよ。藤宮稔君」 
「ご、ごめん。知り合いに会えたのが何となく嬉しくて」 
「そっか。良かったね」 
 委員長はにこりと笑う。 
「委員長……あの……ちょっとした疑問なんだけど……何で制服なの?」 
 休みの日だというのに委員長は学校で見慣れた制服姿だった。 
「え? だって、生徒手帳に書いてあるでしょ? 『家族等保護者無く外出する時の服装は、制服とすること』って」 
「……そんな化石みたいな校則守ってる人、初めて見たよ。さすが委員長だな」 
「委員長、か……」 
「ん?」 

「知らない人が私たちの話を聞いてたら、私、イイン・チョウさんって名前だと思われちゃうのかな?」 
「へ、い、いや、それはさすがに……」 
 無いと思うが、これは冗談なのか? 
 笑うところなのか? 
「藤宮君、私の名前、わかる?」 
「え、そりゃあ……」 
 ……ん? 
 んー……そういえば委員長のこと、委員長としか呼んだことないぞ。 
 この数ヶ月間ずっと委員長だ。 
 みんなも委員長のことは委員長って呼ぶし、担任も……。 
 やばい。 
 ど忘れだ。 
「えーと、あれだろ、ほら……」 
「黒川だよ」 
「そうそう! それ! 黒川!」 
「……」 
「……ごめん」 
 最悪だ……クラスメイトの名前をど忘れするなんて。 
 気を悪くしたかな……? 
 するよな、普通。 
「気にしないでいいよ。みんなそんなもんだと思うし」 
「いや、ごめん……」 
「むしろそれだけ委員長が板についてるってことだよね。嬉しいよ」 
 委員長は笑ってそう言った。 
 怒りもしないし、落ち込んだ様子も無い。 
 ホント出来た人だよな、委員長……。 
 少し話をして、公園を後にした。 

「委員長! 宿題写させてくれ! 一日ノート貸してくれ!」 
「俺も!」 
「私も!」 
 始業式の日、委員長の周りに何人かのクラスメイトが集まっていた。 
 どうも宿題が終わっていなくて委員長を頼っているらしい。 
 俺は昨日までに必死で終わらせたというのに……けしからん。 
 いや、そうじゃなくて、委員長に悪いと思わんのだろうか。 
 委員長のノートを借りた連中がそれぞれの席に散っていた後で、委員長に声をかけた。 
「委員長、いいのか?」 
「何が?」 
「だって……ノート貸して、委員長もそれだけ提出が遅れるわけだし。委員長も宿題やってなかったって思われるぞ」 
「ん? 言われてみるとそうだね」 
「……断れないんだったら、俺が断ろうか?」 
「別にいいよ。いつものことだし、何とも思ってないから」 
「でも……」 
 委員長は不思議そうな顔で俺を見てきた。 
「藤宮君、どうしてそんなに気にするの? 藤宮君のことじゃないのに」 
「え、いや、だって……友達のことだし、気にするのは当然だろ」 
「藤宮君の友達にとっては、私が貸してあげたほうが都合がいいんじゃないの?」 
「いや、違うって。友達ってのは委員長のことだよ」 
「え?」 
 委員長はまた、心底不思議といった顔で見てきた。 
 こ、これはまさか……。 
「う、その……俺たち、友達だと思ってたんだけど」 
 俺の一方的な思い込みか? 
 だとしたら恥ずかしすぎる! 
 いや、それ以前に悲しすぎる……。 
「友達って……そ、そんな無理してくれなくていいんだよ?」 

「俺は無理なんてしてないけど……」 
「そ、そうなの?」 
 委員長、本気で狼狽しているようだ。 
 俺、そんなに変なこと言ったか? 
 委員長は腕を組んで、少し考え込んだ。 
「藤宮君、私の名前、わかる?」 
「黒川だろ」 
 つい昨日のことを忘れるほど俺も馬鹿ではない。 
「下の名前はわかる?」 
「……わかりません」 
「ほら。気持ちは嬉しいけど、そんな興味のない人間に無理して付き合うこと無いよ。青春の貴重な時間を無駄に使っちゃうよ?」 
 何だろう。 
 俺が委員長の心配をしていたはずなのに、謎の気遣いをされてしまっている。 
「ちょっと待ってくれって。興味が無いわけじゃないよ」 
「でも……」 
「名前がわからないのは悪かったと思うけど、それだけでその人をどう思ってるか決まるわけじゃないだろ」 
 というか……。 
「……そういえば委員長、昨日俺の名前、全部呼んでたけど……それって俺に興味があるってこと?」 
「ん?」 
 委員長は唇に指先をあて、小首を傾げた。 
「んん? そんなわけはないんだけど……そういえば何で覚えてたんだろうね」 
「そんなわけないっすか」 
 ちょっと落ち込んだぜ。 
「そうだね。名前を覚えてるかどうかと、その人に興味があるかなんて関係ないか」 
 言って、委員長は手を差し出してきた。 
「黒川百合です。適当によろしく」 
「ああ、よろしく」 


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