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伊万里09 - (2008/09/27 (土) 17:48:05) のソース

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 思い出はいつまで思い出でいられるんだろう。
 思い出せるから思い出であって本当は覚えておきたかったこともたくさんあったんだ。
 けど消えてしまったものはもう思い出せなくて結局無かったことになってしまっている。


 11月の初め、マフラーと手袋が欲しい季節。
 さてどこにやったかと部屋をしていると
「みのりん、なにしてんの?」
「部屋の整理」
 土曜日に部屋の整理をしてると伊万里が遊びに来た。
「ボクも手伝おうか?」
 俺が手をひらひらさせるとつまらなさそうにベッドに座り込んだ。
「ねえひまだよみのりん」
「そうだな」
「終わったらどっか行こ」
「いいよ」
「それってどっちのいいよ?」
「…」
「遠慮しておくの方のいいよ」
「今なんで考え込んだのよ」 

 掃除が終わって公園に来た。
「昔よくここで遊んだよね」
「ああ」
「鬼ごっこぶらんこかくれんぼ缶けり砂遊びサッカーキャッチボール」
「なんでもお前にやらせたな」
「なんでもみのりんにやらされたね」
 今や狭く感じるこの公園に幼いころの二人の姿がよみがえる。
「おかげでお前体育の成績良かっただろ」
「女の子としては恥ずかしかったけどね」
 こいつはいつも体育だけ成績がマックスだったんだっけ。
「あの頃お前の方が体力あったんだよな」
「うん」
「逆上がりもお前が先にできたし鬼ごっこはお前を捕まえられなかったし」
「鬼ごっこはボクにちゃんと追いついてたじゃん」
「お前がわざと追いつかれてたからな」
「…」
「俺が気付かないと思ってたのかよ」
「ごめんね」
「実のところほとんどの遊びで伊万里に負けてたんだよなあ」
 それが悔しくて俺が勝つまで付き合わせてた。

「みのりんはどの遊びが一番好きだった?」
「砂遊びかな」
「珍しいね」
 ピラミッドか富士山しか作らなかったけど。
「そういえば砂場に落とし穴を掘ってお前を落とそうとしたっけ」
「その頃のみのりんってボクのことよくいじめてたよね」
「そりゃだって……」
「…」
「お前だってわざと落とし穴にはまったりしてただろ」
「そうだったかな?」
「いいや。じゃあお前が好きだった遊びは?」
「ボクはやっぱり鬼ごっこかな」
「なんで?」
「鬼さんがずーっと追っかけてきてくれるから」
「…」
「…」
 もう冬だというのに暖かい風が吹く。
「あ、あのさ」
「なーに?」
「い、今俺が落とし穴掘ったら、はまってくれるか?」
「今度はなるべく深いのを掘ってよね」
「ああ!」
「みのりんは今かけっこしたら追い付いてくれる?」
「今度は自力で捕まえてやるよ」
「うん」 

 思い出はいつまで思い出でいられるんだろう。
 思い出を、誰かが覚えていて自分が覚えてないと悲しい。自分が覚えてるのに誰かが覚えていてくれないと悲しい。
 でも、俺も大切な人も一緒に覚えてることがあると、ああ本当に大切なものは残っててくれたんだなと思えて、すごく幸せな気分になれた


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