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早紀SS09 - (2008/09/27 (土) 12:09:52) のソース

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*先輩小説「入れ食いカーニボー」

 最近雪が降ったのはいつだったか。
 あまりの嬉しさに雪合戦もしたし、雪だるまも作ったような。
 それでも、嬉しさより厄介事の方が大きかった記憶もある。
 靴がグショグショになるわ電車は止まるわ交通が渋滞するわ、挙句、目の前で車がスリップして事故まで起こったりして。
 そう思うと雪にいい思い出なんてなかったかもしれない。
「今年も雪降らねえのな」
 でも降ったら降ったで喜ぶんだろうな。
 窓の外は快晴。天候が荒れる気配すら感じなかった。
「雪?みのりんってばボクにばっかり雪ぶつけてくるからヤだよ」
 雪にいい思い出がない奴がまた一人・・・しかも人的要因で。
「お前よく覚えてるな」
「みのりんはもしかして忘れてる?」
「・・・」
「あー、ボクが泣くまで雪ぶつけたくせに忘れてるんだ!ひどいよー!」
 否定も肯定もしない。
 覚えててあえて口にしないだけ。
 認めたくねえけど覚えてしまってるもんは、もう黙っていっそ無かったことにしよう。
「みのりんがぶつけてくるから他の子まで調子に乗ってぶつけてくるし・・・」
「・・・」
「でも、みのりんってば、そのあとみんなの雪だまからボクのことかばってくれたんだよね。あれは嬉しかったかも・・・」
「そんな小学3年のころの話覚えてるわけねえだろ」
「覚えてるじゃん!」
 おっとヤブヘビだったぜ。
「あ、でも好きな子をいじめたくなる、みたいな?それもみのりんなりの愛情表現だったりして…」
「ははは、じゃあ今度雪降ったら伊万里に雪だるまごとぶつけてやるよ」
「それ小学生の時にやったじゃん」
「・・・・」
 それは素で忘れていた。
 どうやら俺の思考回路は小学生のままらしい。
「で、図書室まできて勉強してるってのに何で雑談ばっかしてんだよ俺らは」
「あれー?」
「学年末テストまで時間ねえっつうに」
 放課後の学校の図書室で伊万里と二人で勉強している。
 これが終われば晴れて高校も三年に進級。
 しかしこの学年末テスト、範囲が狭いためかやたら難度の高い問題を出してくる。前年はそうだった。
 1年のころに地獄を見たため、こうして今は余裕を持って勉強に励んでいる。
 家でやれって?無茶言うなよ。
「家には悪魔が棲んでるからなー。あいつが勉強させてくれねえんだ」
「あれは恐ろしいよね・・・いつになったら倒せるんだろ」
「俺、伝説の装備をそろえてもムリだわ」
「長時間握ってても疲れないシャーペン、消しあとのつかない消しゴム、頭のよくなる教科書、秀才くんから写させてもらったノート・・・」
「回復アイテムに夜食な」
「あー無理っす!それだけ揃えてもぜったい倒せないー!」
「必須アイテムのやる気が二人そろってないだけじゃない?それと教科書は頭をよくするものじゃないでしょ・・・」
 パンっ、という本を閉じる音と反比例した静かな声が近くの机から声が聞こえてきた。
「あ、早紀先輩だ」
「いたんだ」
 三年の、蓬山早紀先輩。
 どうやら図書室で本を読みに来たらしい。いつもは高貴なオーラを放っている早紀先輩から気配すら感じなかった。
「あなたたちホント仲いいわね・・・ずっと勉強しないでしゃべってたじゃない」
「そりゃ返す言葉がないですね。あ、ちなみに仲はそんなに良くありませんよ」
「ひどいよみのりん!」
「さっきからよくそんな会話ばっかり続けられるね?」
 つまりそれぐらいから居て、それぐらいから話を聞いていたわけだ。
「なんか勉強できなくて。どうしたらいいかな早紀さん?」
「えぇ?だってそんなの、一人で勉強すればいいじゃない」
「一人だと悪魔が現れるんです」
「あなたたち二人だと二人分の悪魔が現れてるけど?」
「た、確かに・・・」
「ど、どうしようみのりん・・・」
「・・・・はぁ。なんか頭が痛くなってきた」
 オーバーなくらい頭を抱えるしぐさを見せる。
 つまりそれぐらいアホっぽい会話だったらしい。
「先輩は何をしてるんですか?」
 俺は“早紀先輩”って言うけど伊万里は“早紀さん”って言う。
 遠慮ないなって思うけど女の子同士って大概そうだよな。なんでだろ。
 男が仲のいい上級生に“○○くん”って言うノリなのかな。
「あたし?待ち合わせだよ」
「へえー、誰と」
「言っても分かんないと思うよ?」
「そんなの言ってみなきゃ分からないっすよ」
「ちょ、ちょっとみのりん」
 伊万里に横肘つつかれた。
(みのりん、もしかして待ってる人って彼氏かもしれないよ)
(そんなわけ・・・)
 ない、とは言えない。
 そりゃこんだけ美人で表面上性格が良いなら寄ってくる男なんて数知れないだろう。
 いや表面上な。
(でもわざわざ図書室で待ち合わせすんのか?普通)
(じゃあもしみのりんがボクと、つ、つき・・・)
(つき?)
(・・・ううん、みのりんが早紀さんと付き合ってて、一緒に帰る待ち合わせしてたら、どこで待ち合わせする?)
(俺が?先輩と?)
 あまりにもかけ離れてた例えだったのでよく思いつかなかった。
 けど考えれば考えるほど早紀先輩って人気者だからな。待ち合わせなんかしてたら否応なしに目立つだろう。そういう 好奇の目線、ってなー・・・気持ち悪いんだよな。
(教室・・・は目立つな。校門なんてもってのほかだし)
(だから図書室で人気が無くなるの待ってさ、二人でひっそりと帰るんだよ)
 まあ、この図書室、普段からあんまり人がいないってのは待ち合わせの好条件かもしれない。俺たちがこんだけしゃべ ってられたのも人がそもそも人がいなかったからだ。
 まったく図書室冥利に尽きるぜ。
(なるほどなー。じゃあ図書室も妥当か)
「ねえさっきから二人でなにヒソヒソ話してるの?」
「いやいやなんでもございませんよ、では俺らは勉強に勤しむのでどうぞごゆっくりー」
「ふうん?」
 俺たちに興味を失ったのか、早紀先輩は再び本に目を落とした。
(しかし先輩がなー)
 なーんだ、上っ面だけよく見せてるあの先輩も青春してたんじゃねえか、と思うと・・・・
 なんだこれ。黒いものがふつふつと・・・
 いいじゃん、先輩が誰と付き合っても。俺には関係ないだろ?
 嫉妬?そうか嫉妬だ。先輩が誰かと付き合ってるから「あの先輩に先を越された」って思ってるんだ。
「みのりん、そろそろ真面目に勉強しよっか?」
「ああ・・・」
 結局おれたちが帰るまで先輩の“彼氏”は現れなかった。
 遅くまで残ってたのに。
 ・・・。
 ・・・。

 最近雪が降ったのはえっと・・・いつでもいいや。
 泣くまで女の子に雪だまをぶつけていた鬼畜な俺ももう忘れてしまいたい。
「今日も早紀さんいるね」
「そうだな」
 今日も伊万里と図書室で勉強。
 早紀先輩もあいかわらず寡黙に本を読んでいる。
「また彼氏を待ってるのかなあ」
「彼氏って決まったわけじゃねえよ」
 伊万里が言う、先輩の待ち人とは“彼氏”らしい。
 まあ、よっぽどのつながりがなければこんなに遅くまで残ったりはしないだろう。
 それが彼氏だって言うならば納得できる。
「・・・」
「ねえみのりん」
「・・・なんだよ」
「気になる?」
「馬に蹴られて死んでしまうから気にならない」
「いろいろツッコミたいけど、別に気にするぐらいなら邪魔するわけじゃないんだからさあ」
「そうだけどよ」
 実際のところどうなんだろう。本当に彼氏か?
「気になるなら聞いてみれば?」
「バカ言うな。なんか俺が聞いたら先輩に気があるみたいで不快極まりない」
「ボクが聞いてあげよっか?」
「ふ、ふうん?お前も気になるのか。へえーほおー。なら聞いた方がいいんじゃないの?ま、俺はどっちでもいいんだけど?」
 どんなヤツだよ俺は。
「早紀さーん」
 うわコイツ速攻聞くのかよ。
「ん?どうしたの?」
 読んでいた本から目を離し、近くにいる俺らに目を向ける。
 お、俺は関係ないよ!!伊万里が聞きたいって言ってるだけだから!
 とでも言いたげに教科書をひたすら黙読する。
「誰を待ってるんですか?」
 しかも直球?もう少し探りながら行けよ。
 あーこりゃ失敗だな。もうしーらねっと。
「前にも言ったけど分からないと思うよ?」
「それでも聞きたいんですよー」
 知らないフリ知らないフリ。
「うーん、いいけどあのね伊万里ちゃん、実はあたしが待ってるのは・・・」
「はい」
(ゴクリ・・・)
「妖精さん」
「どんだけっ!!」
「みのりん?」
 あ、しまった。
「あはは、やっぱり藤宮くん、あたしのこと気になってたんだ」
「からかわないでくださいよ、人のいい顔して実は性悪なのがバレちゃいますよ?」
「もう藤宮くんだって、いっつもそうやってからかってるじゃない」
 からかってるんじゃなくて本気で性悪だって思ってるんだけどな。
 その笑顔の下に何を考えてるやら。
 しっかし、あーあ一気に萎えたわ。どうでもいいわこんな人。
「でもでも、本当のところはどうなんですか?」
「え?まあ・・・友達・・・を待ってるだけよ」
(おい伊万里ぃ?彼氏っつったのはどの口だぁ?)
(痛い痛い!みのりん!)
 足をグリグリ踏む。だから言っただろ、彼氏なわけねえって。
 彼氏じゃないって聞いて内心、すごくホッとしていた。
「で、なんで友達を待ってるんでですか?」
「図書室で受験勉強教えて、って言われたから」
 ああ・・・・。
 そういや先日もクラスメイトに勉強教えてて途中で帰った、って言ってたっけ。
 また面倒なこと引き受けたもんだ。
「その人なんで来てないんですか?ボク最近ここにいますけど、それらしい人見かけないですよ」
「分かんないよ。急な都合とかあるんじゃないかな」
 進行形ですっぽかされてる、ってことだよな。でも健気にも来てるんだ、先輩は。
「“なんで来ないんだー”って聞いてみないんですか?携帯電話ぐらい持ってるでしょ?」
 伊万里よ、さっきからやたら食いつくな。
 俺なんかもうどうでもいいっていうのに。
「あはは・・・そうだよね、普通」
「当たり前ですよ。・・・だって、こっちが準備オッケーでいつまでも待ってるのに、ずっと来てくれないって、すっごく寂しいじゃないですか」
「伊万里ちゃん・・・」
 なんのこと言ってるんだ?
「・・・」
 一気に湿っぽくなったな。この俺の一番嫌いな空気。
 なんか話題ねえかな・・・話題・・・
「あ、そういや先輩の携帯電話のアドレスと番号知らなかったっすよねー。良かったら教えてくれませんか?」
 携帯電話の話題が出たからちょうどいい。
「あ・・・あたし藤宮くんたちに教えてなかったよね」
「あ、ボクも聞きたいでーす」
「お前どうせ大した連絡取らないだろ」
「うるさい。みのりんなんて、女の子のアドレスやっと5つめぐらいじゃん。ボクとひめ姉とゆっち入れて」
「て、テメーなんでそれ知ってんだよ!?」
 ゆっちって佐倉な。分からなければどうでもいいよ。
「フフ、ほんとどこまでも仲いいわね」
 ・・・。
「じゃあ、あたし今日は用事があるし帰るよ。それで、もしあたしの友人らしい人が来たら・・・・」
「今日は体調がすぐれないから帰ったとか適当なこと言って代わりに謝っておきますよ」
「あはは、うんありがとう。じゃあ勉強頑張ってね」
「はい」
 ガラガラ・・・
「早紀さん帰っちゃったね」
「ああ」
「なんか、不幸な人だよね」
 その不幸を、自ら背負い込んでる。
 面倒なことが好きなように見えて・・・でもそれが本心かよく分からない。
 いつも笑顔で引き受けてるから、みんな気づいてないだけかもしれないけど、もしかしたらすっげー辛いかもしれないんだぜ?
「みのりん、思ったんだけどさ」
「なんだよ」
「早紀さんに勉強教えてもらえばいいんじゃない?」
 ・・・ああ、そりゃ盲点だった。
 これ以上面倒事増やしてあげたくないけど、次会ったらちょっと頼んでみるか。


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