「殺してやる殺してやる殺してやる。絶対に、絶対にだ」
「お、おいばかやめろ、服を着てくれ。破廉恥だぞ」



概要


 ルル・ソレイア / ダーカー戦災孤児。14歳。

 家族を惨殺したダーカーに強い憎悪の念を抱き、アークスを志すもフォトン適性がない為それも叶わず。
 対ダーカー自警集団(エイダスト)の一つに所属し、そこでおのが裡にある憎悪を慰める日々を過ごす。

 非常に優れた平衡感覚を持ち、その素質に着目したとある企業が、ある兵装の試験運用者としてこの少年を抜擢した。
 インスタンスフォトナー計画の第一号者。

 フォトン未適性症にくわえ、軽度の地殻不適合症でもある彼だが、兵装の実効性を確かめるべく、近々ナベリウスへの降下が予定されている。
 積年の恨みを晴らす手段がようやくにして舞込んだのだ。

 自身の身が、どれだけ ” そこ  ” に立ち向かえない身体なのだとしても、少年は、頷くより他がなかった。


背景


+ 憎悪の結晶
憎悪の結晶


 ダーカーの市街地強襲から、アークス管制がこの事象を緊急事態として取り扱うまでには各々時間差があり、襲撃の規模によっては、
 その地域の防衛力に委任する場合もままあると言う。

 三年前。

 少年が在住していたエリアが襲撃を受け、緊急事象としてアークスの救援が到達するまでに要した時間は72時間。
 逃げるものは逃げ、死ぬべきものは死に、生きるものが居ない廃墟と化した後であった。

 ここまでの時間を要した理由として、当時はある企業と政府の癒着があげられていた。

 事実、居住者の説得、立ち退き、世論の誘導など、再開発には数年を要すると言われていた件のエリアであるが、このダーカー襲撃を
 機に翌年には計画のほぼ八割を完遂していた。

 救援の遅延はそうした理由から意図されたものではないのかという噂が、当時はまことしとやかに囁かれていたのだ。

 しかし、この風評は拡散され、真実を調べられることはなく、再開発されたエリアも浄化処理(クリーニング)を充分に施され、
 現在は一線級のシティとして、繁栄の一途を遂げている。

 他者の耳には遠い出来事として記憶に残らぬ事柄でも、少年の心にはこの風評がどのような影をおとしたのか。
 また、既得権益に躍起となったものたちの走狗と化したアークスが、少年の目にどのように映ったのか。

 それでもなお、胸を灼く苦渋を圧して少年は、アークスの門戸を叩いたのだ。
 かように毒を飲む思いで希求した願望でさえ、フォトン未適性の断を下され、叶わぬものとなり……。

 その胸に去来するものは想像を絶して余りあるだろう。

 なお、ダーカー襲撃の渦中に於いて、少年のみが通りすがりのフォトン適性者の手によって助けられ、一命を取り留めている。
 重症の身で霞む視界のなか、最後に網膜が紡いだ映像は、炎と瓦礫に埋もれた姉が、ダカンの鋭い爪によって胸を貫かれる場面であり、
 家族を見捨て、自分のみを助けたこの救援者を、少年はいまもまだ恨んでいる。

 そしてなによりも無力な自分自身を。



+ 狼は生きろ、豚は死ね
狼は生きろ、豚は死ね

 「豚に飼い慣らされるが本望と言う訳か。滑稽だな」

 家族を失い、身寄りの亡い少年が生きる為に最下層区域を根城としたのは、さほど珍しい話でもない。
 だが、かような場所に堕ちてなお、悪徳に身を染めずにいられたのは、上記の台詞を発したとあるパン屋の女主人の存在が過分に影響を及ぼしている。

 あらゆる社会的正義、庇護から逃げ出した少年が、自身の力のみで生きていくには現実は厳しく、また周囲の目にとっても少年はあまりにも無力で、
 己が欲望を満たす贄以外の何者でもなかった。



 その日、少年ははじめて殺意を実行した。



 見目を買われ、甘言に惑わされ、男婦として陵辱されるその間際。
 手にしたナイフは憎悪の体現であり、肉を刺す感触は快楽そのものだった。

 あっけない。とてもあっけない出来事。

 どこを刺せば命に届くのか判らぬまま刺した。自身を癒す為に刺した。みずからを潤す為に刺した。
 ひとしきり哄笑を発し、なにもかもに疲れた。いまだ傷のない胸にナイフを突き立てようとしたその時だった。

 閉ざされていた筈の、いまは開かれた扉に背をもたせた女が上記の台詞を発したのは。

 困惑に陥った少年が選んだ結論は目撃者の封殺だった。

 しかし、いかにナイフを振るえど刃は女をかすめない。ほどなくして少年は女に抑え込まれた。
 弱者の辿る、当たり前の末路に少年は晒された。

 女は問うた。貴様は負け犬か、と。
 少年は吠えた。違う、俺は負け犬ではない、と。

 女は問うた。弱者を慰みとし、その屍肉を食むのが貴様の本懐か、と。
 少年は吠えた。その道理を突きつけたのは誰か、と。

 女は説いた。他でもない、それが貴様自身の選択なのだろう? と。
 少年の手からナイフが落ちた。

 女は戒めを解き、震える少年の指に血に濡れたナイフをふたたび握らせた。

 女の凜とした声が少年の耳を刺す。

 己が裡にある信仰を問え。そしてそれに従え。
 貴様は豚か、狼か。

 少年の身を穢そうとした男は刺された痛みにうずくまり、震えていた。救命を請う嘆願だけをその口は紡いでいた。
 男が纏うていた尊厳は、その体を為していなかった。それは弱者以外の何者でもなかった。

 その姿を見ても、もうなにも疼かなかった。
 あれほどまでに脳髄を痺れさせていた支配欲さえ、いまではネズミの鳴き声よりもなお小さな響きにしか感じられなかった。

 少年の手からナイフが滑り落ちた。それを拾う必要はないことを、少年は心のどこかで自覚する……。


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 ダーカー襲撃の際にはエイダストとして現場に馳せ参じるかたわら、現在は女主人のはからいで彼女が経営するパン屋にて生計を立てている。
 生来の器用さはここでも遺憾なく発揮され、客足は上々、宅配先の娼館でも見事に可愛がられ、おかげで売り上げは右肩上り。
 女主人も良い拾いモノをしたとご満悦。

 もっとも、思い込みの強さが災いし、トラブルも絶えないのが玉に瑕、であるが。

 なお、余談であるが少年が刺したこの男も、現在は少年の働くパン屋の常連として足しげく通っていると言う。

 理由は言わずもがな。

 その事実に辟易とする少年であるが、この男がある界隈では非常に名の知れた富豪であり、少年を通じて、かれが所属するエイダストの強力なスポンサー
 となるのだから、まったく世の中、どう転ぶかわからないものである。



補足


エイダスト(ADAST)
+ 概要
概要

 ADAST(Anti D-Arkers Special Team)。フォトン未適性者によって構成された対ダーカー集団の総称であり、オラクルの非公認組織。
 おもに市街地でのダーカー襲撃に際しての迎撃を任ずる。

 戦術はシティ各所に設置された機銃、隔壁などを駆使したダーカー群の分散、閉鎖。装甲車、二輪車を用いた誘導など。
 定点に設置された捕獲装置を用いた群体の一斉転送――『移送(ポスト)』。
 ウィークレスウェポンを用いたうえでの対象の構成分解――『反転(ターン)』。

 襲撃エリアに在住する艦民の避難誘導もかれらが請け負っている。

 フォトン兵装を一切使えない為、実質はアークスの救援がくるまでの ” 時間稼ぎ  ” でしかなく、その為、正規のアークスからは
 『エイダー』と蔑称されることもままあり。

 時間稼ぎが時間稼ぎとして機能するならまだしも、火急速やかにアークスの救援がのぞめない区域では、かれらの活躍が艦民の
 人命救助に多大な貢献を果たしているのは紛う事なき事実である。

 たとえ、その結果として襲撃地のダーカー転移侵蝕率が飛躍的に向上する事になろうとも。
 詳細は別項を参照されたし。

+ 発祥
発祥

 市警団から派生、艦民の互助組織として、匿名掲示板で有志を募り、果ては二次元ノベルの愛好家たちが
 熱に浮かれて……等々、エイダスト発祥の諸説は様々にあるが、いずれもがシップ内にダーカーが姿を
 現わしはじめた時期をその発祥としており、意外にもその歴史は古い。

 当初はかれらこそが対ダーカーのスペシャリストとされてきたが、ダーカーにフォトンによる兵装が効果的であると
 判明して以後、フォトン兵装に特化した集団――アークスたちがその地位を担うこととなり現在に至る。

 ダーカーを討伐するのならアークスに。

 それはもはや当然の論調であり、エイダストそのものは、もはやアークスになりきれなかったフォトン未適正者の
 受け皿としてしか機能していない。

 とは言え、前述の通り、アークスの救援が到着するまでの艦民の人命救助に多大な貢献を果たしているのは
 紛うことのない事実である。

+ アークスとの関係性
アークスとの関係性

 ダーカーのメカニズムについてはいまだ衆目の知るところではないが、アークスの白兵戦闘がそのまま汚染エリア
 全体の浄化に繋がっているのは広報にて語られる通り。

 それに対し、エイダストの戦術は、眼前の脅威を退けるのに有用でこそあれ、汚染濃度の寛解(かんかい)に寄与する
 ものは一切なく、むしろその濃度をより濃くしてしまう事が判明している。

 かれらの活躍によって転移深化(アドバンスリスク)したエリアも多々あり、その為アークス隊員、および管制からは
 忌み嫌われているのが実情である。故に、かれらのことを「エイダー」と称し、侮蔑するものも少なくはない。

 次に、なぜそのような事になってしまうのか。
 その戦術の詳細を記載していく。


戦術詳細

+ 待機
待機

 一定数の群体を隔壁によって隔離し、アークスの救援を待つ戦術。
 これがもっとも理想的な方法とされ、管理局勧告のもと、できうる限りこの選択を採るよう義務づけられている。

 よほど功を奏しなければ誘導部隊はダーカーの群体と共に隔壁内に閉じ込められてしまうのが大半であり、
 かれらが決死隊と呼ばれる理由はここにある。

 生存率は当然ながら極めて低く、そのなかで生きながらえている者は英雄視されている。

 なお、飽くまでもこの戦術が有効なのは、アークスの救援がのぞめるエリアに限ることをここに
 追記させていただく。各自、その意味を考えて頂きたい。 

+ 移送(ポスト)
移送(ポスト)

 大規模な捕獲装置によって対象を転送する戦術。
 大型の歩行種ダーカー(ダーク・ラグネなど)、および歩行種の群体(ダカンなど)に対して有用。

 エリアごとに異なるが捕獲装置の基礎はあらかじめ各所に設置されており、この装置の起動には時間を要し、発動に
 際してもそれなりの時間を要する。また、発動は一瞬であり、移送適用の範囲は非常に限られている。

 その為、誘導部隊は対象を適用範囲から逃さぬ為に接近を余儀なくされ、当然のことながら、発動時には適用範囲
 から離脱しなければならず、通信班との連携が非常に重要となってくる。

 この戦術に限らず、かれらのあらゆる戦術は通信班との連携を余儀なくしたものばかりであり、アークスが個人の
 活動性を重んじるに対し、かれらは集団のそれを念頭に置いていることもまた、かれらの特色と言えるだろう。

+ 反転(ターン)
反転(ターン)

 ウィークレスウェポンにより弱化喪失した対象の深部にアンカーを打ち込み、対象を構成以前の状態に戻す戦術。

 当然のことながら、対象の強度、規模が大きくなればなるほどアンカーの磁力、および必要到達深度は深くなり、
 必然的にこの戦術が有用となる対象は小型~中型までのダーカーに限定される。また、単一戦術であるので、
 対象が群体の場合は他の戦術を採ることとなる。

 なお、この戦術は討伐による浄化ではなく、対象の組成結合の解除でしかないので、対象を構成していた因子は
 周囲に固着することなく残留したままとなる。

 残留した因子はD因子の濃度をより強くする一因になることもあれば、周囲の因子と結合、侵蝕転移し、より強度の
 高いダーカーとして再構成される場合もあり、その為、これらの因子が再活性化するまでの間、エイダストたちは艦民
 の避難、および 別の戦術フェイズへの移行を強いられることになる。

 ウィークレスウェポン、およびアンカーの詳細については別項を参照されたし。(未記入)

+ 殲滅(シュート)
殲滅(シュート)

 最終戦術。火器の破壊力によって対象を物理的に殲滅する方法。当然のことながら対象の破片、D因子は
 周囲に散りばめられることとなり、エリア一帯の侵潤度は飛躍的に増加する。侵蝕深化を促すもっともな原因であり、
 現在はこのような手段は法的にも禁止されている。

 なお、最終と銘打つだけあって、群体の誘導、隔離に専念していた部隊への配慮は一切行われない。
 文字通り、囮ごと対象を無力化する手段なのである。


インスタンスフォトナー計画
+ 概要
概要

 フォトン貯蔵ユニット、及びフォトンの制御システムを外部に置き据える事で未適性者でも
 対ダーカー浄化兵装の使用を可能とするべく発足された計画。

 実効性が認められる反面、扱いには非常にリスクが高く、また、その威力も適性者のフォトン兵装には
 とうてい及ばないことから、机上の暴論と揶揄される事も多々ある。

 すでにいくつかの未適性者専用の兵装は開発され、装備の性質に見合う試験運用者も抜擢されている。  

 以下はそうして開発された兵装の詳細である。


高磁力アンカー / 超硬質ブレード  --  試験運用者 ルル・ソレイア
+ 高磁力アンカー
高磁力アンカー

 ワイヤーの先端にくさび形のフォトン放出機構を備えた装備。

 この先端部分を用いてダーカーを刺突し、対象を浄化するのが主な基本戦術であるが、それとは別に、先端には
 非常に強力な磁場発生装置を兼ね備えており、これにより空間、物体への接着が可能で、ワイヤーによよる牽引、
 それによる使用者の急速な移動を可能としている。

 腰に装着された二基のフォトン貯蔵ユニット。

 各基より一本ずつ。計二本のワイヤーによる牽引、及びフォトン貯蔵ユニットより噴射する小型ジェットを兼用する事で
 中空を視野に入れた立体的な移動を想定しており、機動力に関しては、アークスと肩を並べるまでに至った。

 とは言え、依然として移動の制御には使用者の運動性能に依存するしかないのが現状であり、
 現在、試験運用者の使用データーを基に制御OSの開発に試行錯誤しているのが実情である。

 なお、通常時はこの二本のワイヤーを駆使して戦術を展開するが、非常時、又は群体出現時に於いては
 各基より四本、計八本のワイヤーを用いた一斉浄化も可能。

 そして、この八本のワイヤーを駆使した立体移動は、対象への接近、離脱を高速で繰り返すことも可能であり、
 その際の殲滅力は語るまでもなく。しかし、肉体に掛かる負荷があまりにも大きい為、可能でこそあれ、
 開発陣営からはこの種の行動はあまり推奨されていない。

+ 超硬質ブレード
超硬質ブレード

 元はアークスシップの装甲として開発された鉄鋼であったが、この鉄鋼が非常に硬質でかつ、フォトンの
 浸漬(しんせき)率が高い事から、この装備の素材として採用された。

 ブレード、と銘打つだけあって形状はソード状のもので、刀身は工作器具のカッターと酷似している。

 それが数枚、フォトン貯蔵ユニットに納められている形となっており、使用時には銃把にも似たグリップと
 結合し、対象に振るわれることになる。

 アークスの兵装と異なり、使用者の肉体を媒介としてフォトンを流動させるものではない為、貯蔵ユニットによって
 浸されたフォトン粒子は加速度的に空間に拡散される事となり、ものの数秒もしないうちにただの刃となってしまう。

 故にこの兵装がダーカーに対して有効なのは抜刀してすぐのものであり、一太刀を見舞えば見舞うほどこの威力は
 激減してしまう。それを防ぐ為にも使用者はすぐに納刀し、刀身部位をフォトンに浸漬しなければならないのだが、
 刀身部位が充分にフォトン粒子を帯びるまでには当然ながら時間を要し、長期間の戦闘には必然的に複数の刃が
 必要となってしまう。

 また、そうして幾度も高密度のフォトンに浸さなければならない為、刀身自体の劣化は非常に早く、決して
 コストパフォーマンス的に優れているとは言い難い。


地殻不適合者
+ 概要
概要

 先天的に惑星環境に適合できないヒューマノイド。
 惑星降下時、心身ともに過剰なストレスがかかり、見舞われる症状は幻覚、恐慌、呼吸困難、筋硬直など場合によっては死に至ることもある。

 惑星間航行船団の歴史は、重力に縛られたヒューマノイドがそこから個を開放するまでの物語でもあるが、この成功は同時にこのような弊害を
 生み出す結果にも繋がった。

 現在、アークス入隊の際にフォトン適性検査と共にこの検査もおこなわれているが、職務の性質上、該当する人物がアークスを職業として選ぶ事は
 まずなく、そのため、件の検査はあまり重要視されていない。



雑記


+ 戯言いろいろ
戯言いろいろ
テキストをただコピペしただけ。おかげですんごく見辛くなった。
最終更新:2015年04月07日 02:17