第二世代アークスが誕生してから六年。
成長を遂げた彼らをしても、物量で勝るダーカーに対して効果的な戦果を挙げられずに居た。
この頃、アークス上層部は旧式化の進む戦略OSのアップデートを開発局(研究所とも呼ばれる)に打診。
旧世代、第二世代のアークスでは過酷な実験に耐えられないと判断され、実験用に500名のキャストを生産する事が決定する。
同様に他種族での実験も人道的観念から中止された。
キャスト達には最新技術が惜しげなく投入され、従来整備面や安全面等から採用が見送られた装備が標準装備される。
元より彼女達に安全性や、生存性は全く重視されていなかった。
それでもこの頃は、実験体を失いたくない開発局の意向も有り、ある程度の生存性は残されていた。
A.P.216/11/01、実験開始から一ヶ月が経過する。
三番艦ソーンで誕生した彼女は、射撃制御と身体制御の実験グループに組み込まれ、A.P.210に誕生した第二世代アークス達を圧倒、"特異体"と呼ばれるまでの成果を挙げる。
実験開始から二年が経過し、第三世代アークスへの研究も、戦略OSのアップデートと共に進んでいた。
彼女達には、「2.5世代アークス」としての立場が与えられた。
名前すら与えられないまま、過酷な実験に投入される彼女達にとって、ようやく生きる理由を勝ち取った瞬間でもあった。
同年12/30、彼女が正式にリサと命名される。彼女を担当していたオペレーターの愛娘の名前である事を、彼女自身は知らない。
この頃、既に何名かの2.5世代が機能停止しているという噂がキャスト達の間で流れる。
三年に及ぶ実験は、徐々に伸び悩みつつあった。
2.5世代達の試験結果に頭を悩ませ始めた開発局は、同年06/01より2.5世代アークスに初のアップデートを施す。
このアップデートは、三年以上に及ぶ実戦で得られたデータを元に、新バージョンとなるOSへのアップデートだった。
翌月、一般アークスとの共同作戦に於いて、ダーカーとの戦闘により二体のレイキャシール実験体が機能停止に陥る。
偶然居合わせた開発局のスタッフにより、機能停止の原因は詳しく調査され、やがて06/01に施したバージョンアップが原因だと判明する。
通常のアークスに与えられるOSと異なるそれは、成果を求める余り、本来最も重視すべきであった生存性、何重にも保護されるはずの生命維持管理を、重症を負っても戦闘を最優先するよう書き換えた結果だった。
既に噂となりつつあった事件の拡散を恐れた開発局は、二名のレイキャシールとスタッフを秘密裏に処分した。
・A.P.219/12/31 仲間達
新しい年を控えたその日、各アークスシップでは巨大モニター前に集うアークスや一般市民の前で、有名なアイドルによるライブが執り行われた。
ライブの最中、巨大モニターに息も絶え絶えな女性の姿が映る。
「私の犠牲で、彼ら2.5世代が救われるならどうなってもいい」
「こんな理不尽な実験があってはならない、どうかこれを」
大きな銃声と共に映像が反転、ライフルを携えた数名のアークスが画面に映りこむ。
そこにいたのは開発局の人間と、見覚えのない装備を携えたアークス達だった。
同時刻、アークスや一般市民が閲覧できるネットワーク全体に、2.5世代の情報と06/01のアップデートに関する詳細がアップロードされる。
既に2.5世代は一般にも認知されていたものの、本来の目的などは告知されていなかった。
事態は、混迷を極めていた。
翌日、アークス上層部は開発局の解体、新型戦略OSの開発中止を大々的に発表した。
多くの2.5世代達は帰る場所を失い、それ以降の足取りは不明とされる。
後の調査で、A.P.216に誕生した500名の2.5世代は、06/01の悲劇より前から既に限界を向かえ、大多数が機能停止や死亡していた事が判明。
大きく数を減らしながら、27名が生き残った事だけが伝えられている。
リサ自身は、実験による影響を予想していた。
彼女自身、実験で何度も死ぬような思いをし、整備も補給もままならないまま出撃を繰り返していたからだ。
いつかこんな日が来るだろう、と思っていた。
しかしモニターに映ったのが、どうして彼女だったのか。
私に名前をくれた、唯一の家族がどうしてあんな目にあったのか。
唯一理由を知る彼女は、もう居ない。
大切な人と戦う理由を失いながら、彼女は生き残った。
六年の間、彼女は一人で戦い続けていた。
そんな彼女にも転機が訪れる。
単身出撃したアムドゥスキア、浮遊大陸深部。
磁晶龍「クォーツドラゴン」と呼ばれ、多くのアークスを苦しめた大型龍族に襲われる二人のレイキャシールを、彼女は助けた。
「磁晶龍の名が泣くぞ」
「奮い立つか?なら私を殺してみせろ」
数秒の内に左翼の結晶を砕かれ、龍は激昂して彼女を狙う。
それでも彼女は攻撃の手を緩めず、やがて致命傷を負った龍は何事か叫びながら空へ飛び去った。
まるで模擬戦を見ているようだった、とこの時の二人は後に語る。
やがて意識を失った二人を、彼女はソーンへと連れ戻した。
走り寄るメディカルスタッフに応急処置が済んでいる事、起きた事を端的に伝え、彼女はその場を跡にした。
彼女が誰かを助ける事、誰かの為に自分があの地獄のような日々で得た技術を伝える。
それに価値を見出した瞬間だった。
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