小鳥「小鳥お悩み相談室?」


小鳥「小鳥お悩み相談室?」


執筆開始日時
2013/01/07


概要


何事においても、人は知らないことに対して恐怖を抱く傾向にある。
 知らない土地然り、知らない言語然り、知らない人然り……。

 その無知の度合いが強ければ強いほど、恐怖心もそれだけ強く大きくなる。

 私は今、恐れとまではいかないけれど、
 ごく身近な人に対して、ある種の抵抗ないし苦手意識を持っている。

 顔を合わせることが多くある彼女のことを、実はよく知らない。
 というより、彼女を掴めていないと言った方が正確かもしれない。

 だから私は、意識的にしろ無意識的にしろ、彼女を避けている節があった。
 必要以上に話しかけたりはせず、あまり積極的に関わろうとはしていなかった。

 決して嫌っているというわけではないし、お互いに悪い印象は持っていないと思う。
 ただ、彼女には独特の存在感があるというか、独特のオーラがあって、
 そのオーラゆえに、きっとこの狭い事務所でたった二人きりになったりすると、
 彼女は素知らぬ顔でいつも通りだとしても、私の方は気まずさを感じてしまうかもしれない。


 某月某日、某時刻、某芸能事務所

 雲ひとつ見当たらない快晴の空に太陽が一つ。
 今日は機嫌が良いのか、全身からぽかぽか陽気を放出している。

 名も知らぬ小さな鳥が2羽、仲良さげに囀り合いながら飛び回っている。
 これからいつもの電線に止まって、お話したり、歌を歌ったり……。

 視線を落とし、町並みを眺める。

 それは目まぐるしく動く都会にしては変化が少ないように思えた。
 人工物も自然物も、有機物も無機物も、全てが穏やかな午後を演出している。

 私はアイドルを多く抱える芸能事務所『765プロダクション』で事務員として働いている。

 この事務という仕事は、パソコンに向かってカチカチカタカタと資料作成をしたり、
 多機能ボールペンを回しながら、計算機に翳した手を忙しなく動かしたり、
 かかってきた電話に、付け焼刃的に上品さを貼り付けた“よそ行きの声”で応対したり……。

 とかく移動範囲の狭く、大した動きの無いようなものが多い。

 たまに立ち上がってストレッチを始めたり、事務所内の掃除をしてみたりと、
 お尻から根っこが生えてきそうな身体を無理やりに動かしたりはする。

 だけど所詮は雑居ビルの狭苦しい一室。
 大した息抜きも出来ずに、お尻の形に窪んでしまったオフィスチェアーに逆戻り。
 冷めたコーヒーを飲み干して、その香りを溜息と共に吐き出すだけ。

「…………」 

 年の所為か独身の性か、最近独り言が多くなってきたとはいえ、
 事務所に居るとき、基本的には黙ったまま仕事をしている。

 でも頭の中では常に饒舌で、自転車操業気味の経営状態に困窮し頭を抱えたり、
 あるいは、所属アイドル達を動物に例えるとしたら……とあれこれ考えを巡らせてみたり、
 はたまた、宇宙人は居るのだろうかと妙にマジメになって考え込んだり……。

 妄想、空想の類は尽きるところを知らず、それは机上に積み上がった書類も同じこと。


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最終更新:2013年01月10日 23:49
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