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「まずはあたしがやってみせるわね――」

 水面を乱した糸に喰いついてきたのは、やはり雑魚だった。

 何も驚くことはない。まだ時期としては早いぐらいなのだから、狙った大物が掛からなくても仕方がないのだ。――とはいえ、小物とて釣ってしまったからにはちゃんと引き上げてやらないと。

 立ちあがりざま手にした長い棒を軽く振り回す。

 よし、準備は整った。

 今日の釣りは聊か騒がしいことになりそうだった。

「――――!」

 雑魚も群れれば何とやら。目の前には今夜釣れた大漁の―――。

「ギシャァオァ――!!」

 触れた先から失われていく鈍い感触。先程あった重みはあっさりと消え去る。

 軽く周囲を見渡す。赤い目が一つ、二つ、三つ――――。

 二つで一セットのそれがおよそ二十はあるか。いや、今は十八だ。

 数えている最中にも、あたしの腕は動き、鈍い感覚を覚えさせる。舞のように足を動かし、棍が円を描く。

 ただの雑魚でしかないソレは奇怪な声を放ち塵となる。

 そう、これはただの釣りなんかではなく――。

「なるほど、だいたいの相手の動きは理解した」

 隣でニヒルに笑う彼女を視界に収めた時――敵の数が十を切った時、一陣の風が吹いた。

「グギャア――!?」

 銀色の線が脳裏に焼き付き、無意識に瞬きした後、目前の魍魎を確認しようとするが、数が合わない。

 ――三匹減ってる?

 代わりに、雑に切られた彼女の前髪が風に揺られ、赤い目に反射して鋭物が輝きを放つ。

 二つの現実を頭に叩き込んでようやく理解に至る。

「速い――!」

 なんのことはない。あたしの眼の前にいた魍魎は死神に目をつけられたのだ。

 両儀式という名の、生きているなら神様だって殺す少女に―――。

 ここに来た運を呪うしかない。鬼切と死神の前に現れたからには一匹たりとも逃さない。あたしは式の視線に頷くと、襲ってくる魍魎の鉤爪を横に跳んで避け、相手が次の動きに入る前に咽喉元を棍で勢いよく突く。また一体消え去った。

 さて、鬼退治はあたしの方がプロなのだから負けてはいられない。棍を握る手に力を入れて振るう。

 式と数を競うようにしてやってみればそれはほんの刹那の時であり――。

「なんだ、もう終わりか」

 不服そうに言う彼女がちょっと可笑しくて笑う。

「お疲れ様」

 棍を一振りし、彼女の肩を叩く。

「でもさすがは若が認めただけのことはあるわねー」

 実際のところ、あれを敵に回した場合の事を考えるとヒヤリとする。なにしろ、意識していなかったとはいえ、初撃の動きは全くあたしには視えていなかった。

「人ならざる者の相手をするのは初めてじゃないしな」

「ふーん?」

 鬼を狩る、というのも正確には初めての出来事ではないらしい。ただ、狩った鬼は魍魎みたいな式神の類ではなく、もっと人に近い存在――吸血鬼と呼ばれる人の血を吸う鬼だったようだ。

 その中でも真祖と呼ばれる種とも戦ったことがあるらしいが、結果は引き分けに終わったらしい。彼女の自身の言葉を使えば、「あんなメチャクチャな存在があっていいのか?」というほどその真祖は強かったそうだ。

 式をそうまで言わせる存在となれば、鬼退治を生業としているあたしとしてはどう反応すればよいのか。できれば一生戦いたくはない相手である。

「ま、それでも表向きは式も一般人のレッテルを貼られる人間なわけだ」

 あたしと同じく“高校生”という配列に入れられている式。それはあくまで表の顔であっても、…あったとしても偽りというわけではなく。だがその中途半端さはあたしと式の弱みなのかもしれない。高校なんて義務教育ではないのだし、意外にも鬼切というのは職業として成り立っている。給料もでる上に、保険なんかもかなりの額(あまり笑えないが)で、別に在学することに必要性があるのかと問われれば難しい事であった。目下、あたしが高校に通う理由なんておそらくは楽しいから、という私的感情に他ならなかった。だが、目の前の彼女はどうだろう?楽しいから、という理由で高校に通うようには見えない。むしろいつものように「メンドくさい」といってサボりの常習犯になりそうな空気さえある。

「…そうだな」

 普段から遠くを見つめる目が少し、また遠くになった気がした。彼女はいつだって遠くを見つめている。今より先を見つめている気がする目は、あたしにとって新鮮だった。正直魅せられているといっても過言ではない。底が見えない黒い瞳。今まで何人の人間が魅せられてきたのか想像も出来やしない。

「……夜が明けるな」

 丑三つ刻も過ぎ、鬼の踏み石もまたすこしずつ潮が満ち始めてきていた。これから後に来ることはまずないだろう。

「そーね。とりあえず仕事はこれにて終わり。帰って一風呂浴びるとしましょ」

 式の歩幅に合わせてゆっくり歩く。

「先に入っていいよ。オレは後で済ませる」

 一緒に入ろうという前に言葉は遮られた。一緒に寝てるし、裸を見られて恥ずかしがるようなタイプともあまり思えないわけだけど。はて、なんでだろう?ここにきて数日たった今でも一度たりとも一緒に入ったことはなかった。

「一緒に入ったほうが効率よくない?」

「別に効率とかどうでもいいだろ。急ぎじゃないし」

「あたしは式と一緒に入りたいんだけどなー」

 わざとらしく拗ねてみる。隣で式が今日何度目かの溜息を吐いた。

「今日はいいだろ?また今度な」

 その言葉を聞くのも何度目か。せめて言葉に色を付けたらどうだろうか、式。とはいえ、あまり引きずるのもよくないのは確かだ。

「しょうがないなぁ。じゃ次は一緒にね」

 微かに呆れながら笑う式の姿を軽く見やりながら大きく伸びをする。四六時中温泉につかれるという待遇は本当にありがたい事だった。






後書き
書いたのは書いたけど、出すべきか悩んでいた式の魍魎との初戦闘です。

別にこれがあってもなくてもさほど問題ないんですよね(爆
時間軸としてはまだ青城の子たちが来る前です