第九次ダンゲロス

ガン&ソード


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前回>長い注意

ハルマゲドンを直前に控え、魔人達もそれぞれ思い思いに決戦前の一時を過ごしていた。
軍師と頼られる特に切れ者の魔人達は、最後の最後まで生徒会側の打ってくるであろうあらゆる策の検討とその対処の確認に余念がない。
一方、戦闘力や能力で自らの役割を全うすることが求められる魔人達の多くは、残されたわずかな時間を自らのパフォーマンスを100%発揮するための調整にあてていた。
瞑想に耽る者、趣味や休息にあてる者、いつも通りのトレーニングに励む者。
とはいえいつも通りと言っても、そこには決戦直前の独特の緊張感というものはある。
今回のスタメン魔人剣道部二年、一八一八(にのまえやいば)と、その後輩、刹那織至斬(せつなしいきり)が向き合う武道場にも張りつめた空気が流れていた。

流れていたのだが――

「うわああああん、八一八ちゃあん、至斬ちゃあああん」

突如素っ頓狂な声が道場にこだまし、真剣な空気はもろくも崩れ去る。
その声の主は魔人剣道部三年、平将華(たいらのまさか)のものであった。
ドタドタと大きな音を立てて駆けてきた彼女は、得物を構えていた至斬の小さな体躯に横っ飛びで勢いよく飛びついた。
至斬は完全に虚をつかれた様子で、押し倒さんばかりの勢い(いや、実際に押し倒されていたのだが)の将華のされるがままになっている。
将華は将華で、さながら想い人に勇気を振り絞って告白したものの、にべもなくフラれて逃げ帰ってきた傷心の乙女のようであった。

『またか……』
至斬の向かいに構えていた一八一八(にのまえやいば)は、突如目の前で繰り広げられている百合百合しい光景を前に、嘆息した。
一族における魔人の割合が99%を超える一(にのまえ)家の血筋である彼女もまた、魔人である。それも、かなり強力な。
その戦闘力、特に攻めの剣技に関しては間違いなく魔人全体を見渡してもトップクラスであると言えたし、切り札と呼べる必殺の能力も有している。
まだ実際にそのカードを切ったことはないが……。まだ見ぬ得体のしれない怪物を倒すこと、それが彼女の大きなモチベーションでもあった。

そんな彼女もまた、卓越した剣捌きであらゆる攻撃を受け流してしまう将華の剣術を自らのそれとは異質の稀有な才能と認め、尊敬しているのだが……。

将華が時々「こうなる」ことを彼女は実体験として知っていた。

去年のミスダンゲロスのこと。
参加者が全員貧乳になるという痛ましい事件が起きたことは多くの生徒の記憶に新しい。
元より本命視され栄冠に輝いた月読十萌が、生来の貧乳だったのは不幸中の幸いであるが、いやそれは幸いなのだろうか、ともかく――
水着審査前に全参加者の胸が平らと化し、そしてその場でいち早く棄権したとされるのが平将華である。
話では更衣室から泣きながら走り去り、そのまま一週間行方不明になったという。
希望崎女神貧乳化事件、その真犯人こそ彼女であろう、というのが彼女と親しき者達の暗黙の共通見解であった。

巨乳を見ると見境がなくなる。
それでも去年の学園祭まではこんなことはなかったはずなのだ。
おっぱいへの憎悪とそれを平らにする悦び、それを知ってから彼女の中の大切な何かが壊れてしまったのだろう。

「この大事な時にどこ行ってたんですか」

落ち着きを取り戻した至斬が持ち前の怪力で将華を引っぺがしたようで、座り込んでえぐえぐしている将華に八一八が母親のように問いただす。
これではまるでどちらが上級生だかわからない。

『普段は凛としててかっこいいんだけどなぁ……。』
八一八は威厳のかけらもない目の前の将華に複雑な気持ちになっていた。
至斬は至斬でこんな将華を見るのはどうやら初めてのようで、目を丸くして先輩を見つめていた。
そもそも将華は普段基本的に誰かを「〇〇ちゃん」とフランクに呼んだりはしない。

「んぅ……生徒会」

やっとのことで将華が声を絞り出す。

「殴りこみですか……誰のところに?」

八一八にはおおよそ見当はついていたが。

「……まいまいかぶり」

やっぱりか。
米米かぶり。生徒会隋一のダイナマイト☆バディであった。
稀代の米食主義者、いや、食すだけではない、米愛者である。多分米真拳とか使えるという噂だ。
糸目の美人で、人好きのする性格らしい、彼女自身はそれ以上に米好きだが。
ともあれ、彼女が豊満なバストを持っているということは有名であったし、
そんな彼女が敵対する生徒会にいると聞いて将華は居ても立ってもいられなくなり、独断専行に走ったわけだ。
というか噂とかそんなことは関係なく状況証拠として、将華はお米塗れであった。

「個人的な感傷によるハルマゲドン前の小競り合い……」

それはいけないと言おうとした、その時。

「そいつはいけねぇなァ? 子猫ちゃん」

八一八に先んじるようにえらいダンディな口振りで、しかし萌え萌えきゅんなロリボイスが響いた。

「十三」
「とみーちゃん?」
「番長!」
魔人剣道部女子三名が三者三様の声をあげた。

視線の先にはトレンチコートに漆黒のスーツ、帽子はボルサリーノで決めたえらいダンディな佇まいの……
幼女であった。

一十三(にのまえとみー)。
一八一八と同じく一の血族であり、大銀河亡き後の希望崎学園番長である。だが幼女だ。
どんな状況でも感情に流されず、常にクールでハードボイルド。だが幼女だ。
どんな危機も苦境もものともせず、常にユーモアを忘れない。だが幼女だ。
シガレットチョコを好み、休日は水割りダブルカルピスを一杯やって過ごす。だが幼女だ。
気の利いた友人からはマギーと呼ばれる。だが幼女だ。
数多くの雌猫ちゃんと一夜限りの関係を築くが、束縛はしない大人の関係である。だが幼女だ。
幼女でさえなければ吹き替えは中田譲治がぴったりであろう。だが現実は非情にも幼女だ。

ともあれ、これだけ頼りがいのあり皆に信頼される幼女も他にないであろう。

十三は将華の目の前に歩み寄ると、右手の親指と人差し指でピストルの形を作った。
そのまま彼女の顎に手をかけ、クイと持ち上げる。
二人の目線が合った。二人の顔は5センチほどの距離になる。

接吻をされる――そう反射的に思った将華はそっと目を閉じた。しかし、十三はそうはしなかった。

「子猫ちゃんの能力は俺の為だけに使ってくれ、おまえが他の女に嫉妬するような様は見たくねぇ。」

耳元で囁いた。将華は気恥ずかしさと切なさで胸が焼けるように熱くなるのを感じた。

「それが出来るような大人の女になるまでヴェーゼはお預けだ子猫ちゃん……アデュー」

十三はそれだけ言うと踵を返し、将華から離れていく。

「か、必ず生きて戻ってきてください! 私良い女にきっとなりますから! だから……!」

後姿に祈りにも似た想いを叫ぶ将華。
すると十三が振り返り、再び手でピストルをつくると、

「バン!」
と将華に向けて一発。どこまでもダンディな幼女であった。
十三の背中を見送りながら、将華はハートを射抜かれる思いがした。

将華は十三が豊かな胸を手に入れないことを心から願った。

同時に未だに若干の違和感が残る下腹部を撫でながら、かぶりも貧乳にさえすることができれば、仲良くなれるのではないかと感じていた。
彼女が、自身の性癖が貧乳好きなレズであるという自覚を得るのはずっと後のことである。


GK評:5点
陣営の垣根を越えたSSコラボレーション!
これは熱い!
よしおに負けじとハードボイルド幼女番長のキャラクターも掘り下げられてますなー。
ハルマゲドン勝利の凱歌はどちらの頭上に鳴り響くのか!