第九次ダンゲロス

人魚と鷹3P


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◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「……言い過ぎた、かな」

 業務を終え、水の中を漂いながら、数時間前のことを省みるノエル。
 鷹絛楓は悪い子ではない。
 それどころか、こんな自分を心配してくれる、とても優しい少女だ。分かってる。

 でも、強くなると決めたのだ。
 好奇の視線にも、悪意ある電流にも、あらゆる艱難辛苦にも負けない。
 不浄の大地に身を堕とさず、背筋を伸ばし一人で戦い抜く覚悟を、自分は――。

「ふ、ああっ!? あっ、ぐうっ……!」

 黙考を切り裂く、突然の電流!
 遅れて響くヒールの音。
 そして近づくは、垂れ下がるイリシウムに照らされた半魚人の顔――蘭丹である。
 今日の展示も客足が悪かったのだろう、あからさまに不機嫌な表情をしている。

「渡良瀬さん、私昨日言ったわよね? これ以上『先輩』の顔に泥を塗るなって」

「そんっ……こと、言ったって……! あっ、やあっ!」

 口答えは許さないとばかりに、少女の言葉を電撃が遮る。
 両肩を掻き抱き顔を真っ赤にして痙攣するノエルを、蘭丹はじっとりとねめつける。

「私が先輩で、あなたが後輩。後輩は先輩を敬うものでしょう?
 そこをあなたは、ひとの客を奪って、何様のつもりなの? 恥を知りなさい!」

 イリシウムに描かれた『先輩』の文字をぴかぴか光らせて蘭丹が詰め寄るが、
 当のノエルにその言葉は届いていない。

(なんでっ……私が何したって言うの……! お姉ちゃんも、こいつも、どいつも……!)

 電撃の責めに混濁する意識の中、じっとりと滲む汗も、零れた涙も、全て水に消える。
 誓ったはずの、打ちたてたはずの覚悟が揺らぐ。
 肉体も精神も、最早限界なのだ。

「助けてっ……! 私を、助けてよ――――鷹絛っ!!」

「でりゃあああああっ!!」

 ノエルの無意識の慟哭とほぼ同時、激烈な飛び蹴りが、蘭丹の背に突き刺さった。

「グワーッ!?」

 蹴り飛ばされた蘭丹は、絶叫と共に館内の廊下を転がってゆく。
 そして蘭丹を襲撃し、ノエルの危機を救った者――リーゼントに短セーラーの少女は、
 水槽の中にノエルの姿を認めた。

「大丈夫か、ノエル」

「はあっ、はあっ……! あんた、なんでっ……!」

 突然のインタラプトにより、ノエルは電撃の責め苦から解放された。
 やっとのことで吐きだした言葉に、その少女――鷹絛楓は、さも当然のように答えた。

「言ったろ? ダチのピンチは助ける、それがダチだってな!」

 そう言って、ニカッと笑うのであった。
 なお、閉館後のこの場所に彼女が現れたのは、次のような理由によるものである。

 鷹絛楓は持ち前の超直感でノエルの言動に違和感を覚え、彼女が去った後、
 気付かれぬよう尾行していた。
 逆立ち歩きのノエルの歩みは遅く、簡単に追いつき、この水族館まで辿り着けた。

 そしてノエルの水槽をそれとなくマークしていたのだが、あろうことか彼女は
 監視中に眠ってしまったのだった! なんという都合の良い睡魔か!
 彼女が目を覚ましたのは、ちょうど蘭丹がノエルをいびっているところであり、
 友達想いの彼女は一も二もなく割って入ったのであった。飛び蹴りで。

「あ、あなた誰よ! いきなり何をするの!」

 起き上った蘭丹が喚きながら汚らしく唾を撒き散らす。
 一方の楓は胸を張り、威風堂々と叫ぶ。

「オレは鷹絛楓! こいつのダチだ!」

 言いきるのと同時、彼女は蘭丹に向け拳を突き出し、

「お前がノエルの火傷の犯人だな! タイマンはらしてもらうぜ!」

 双眸に闘志を漲らせ、蘭丹へと突き進む!