第九次ダンゲロス

第九次ダンゲロス武勇伝-石川発貴編-


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夕刻。橙に染まる、希望崎大時計塔前。
切迫した空気が肌を切る。無音の世界で、ただ時計の絡繰りががしゃり、と唸りを落としていた。
希望崎自警団の面々は軒並み傷つき、倒れ伏している。死屍累々であった。
「畜生……こんな、こんなッ……!」
「馬鹿っ、喋るな……!」
まだ、意識のある者も数名。さすがに天に名高い自警団、といったところだろうか。圧倒的力を前に最早虫の息ではあるが、そこにいる誰もが、此度の行く末を確と見つめようとしていた。
聳え立つ時計塔の下、二人の人影――明瞭なコントラストが影を落とし、その表情は窺い知れない。
「……大銀河さん、あんたは……!!」
絶対の信頼を置いたはずのリーダーを見つめる瞳には、戸惑いの色が混じっていた。眉間は焦燥に皺が寄り、胸は溜飲に焼かれていた。立てた膝が崩れ落ち、苦い土の味が口の中を広がる。然れどそれでも、視線は変わらない。遠のく意識を必死に繋ぎ止める。
今、彼らに出来るのは、見届けることだけであった。

突如――、静寂を裂いて轟音鳴り響く。

「……!!」
それは、時計塔の鐘の音。六時零分の訪れを意味していた。
来たる約束の刻。開戦の狼煙。
「遂に……動くのか……!」
いつの間にか橙の空には青が混じり、世界の輪郭は黒に染められはじめていた。


大銀河が、動く――。


確かな意志を持って、一歩を踏み出す。
正面の影が僅かに身構えるが、意にも介せず、更に、一歩。
その表情には、かつてない覚悟が伺えた。


そして……ついに互いの拳の届く間合いへと踏み入る。
息を大きく吸いこむ。全身の筋に力がこもる。
渾身の一擲……!!


「と、十萌ぇッ!! お前……あれだ……ミスコン、出てみろッ!!」

それは不必要に大きな声で、目の前の少女――月読十萌が、その肩を小さく揺らし、怯む。
俄然前のめりな入り出しになってしまった大銀河だが、喉元過ぎればなんとやら、少しすればいくらかの落ち着きを取り戻し、続く言葉を紡いだ。
「……俺に、遠慮すんな。ちらほら話題にはなってるみてーだが、実際お前、どうなんだよ。出たいのか?」

そう、希望崎学園祭ミス・ダンゲロスコンテスト。その開催が発表されるやいなや、学園での月読十萌参戦への期待は徐々に高まっていった。彼女自身友人からしきりに出場を薦められていたのだが、なんとなく大銀河に断りを入れずに出るのは悪いような、といって、断りを入れるのもそれはそれで変な話のような気がしてしまい、問題を先送りにした状態でいたのだ。
詰まるところ、二人の煮え切らない距離感が故に生じた問題である。快刀乱麻の大リーダーは、こと月読十萌に関しては、異様に奥手であったのだ。

「……あの、えっと、超一郎さんは……どうなんですか?」
「お、俺はミスコンには出れんぞ」
「そ、そうじゃなくて! その……」
言葉に詰まり、十萌の目が泳ぐ。大銀河の顔を見れば視線が合い、思わず伏し目になる。
「……あ、ああ、そういう事か」
少しばかりの沈黙の後、大銀河も十萌の様子を察したようだった。襟を正し一息つく。
「俺は、その、最初にも言ったろう。出てみろ、って」
「あ……」
顔を上げる十萌。見れば、大銀河の目は十萌の比ではない程に泳ぎまくっていた。――余談ではあるが、マグロは泳ぐのを止めると窒息死するという。余談だ。

「……そういう事だよ。俺も、正直楽しみにしてんだ。嫌じゃねえってんなら、まあ……えー、なんだ…………出ろよ。な」

瞬間、辺りが歓声に包まれる。地に伏していた自警団の面々が、返事を聞くと同時に咆哮し、がばり、と身を起こしたのだ。
「いよっ!リィィダァー!!よく言ったー!!」
「ひゅー!ひゅーひゅー!」
「殴られ損にならなくてほんに良かったでぇー!!」
「十萌ちゃんが悩んでることを知っていながら自分からは何も動くことのできないへたれリーダー(笑)なんておらんかったんや!!」
「小学生みたいな純朴ピュアハート!そのちっちゃな身体もソゥキュート!ちょっと情けなくてそこが愛くるしいなよなよマイリーダー(笑)なんて言ってすんませんでしたあああ」
時計塔に据え付けられたスピーカーから、カーペンターズのイエスタデイワンスモアが流れ出し、団員たちが次々と大銀河たちの下へ駆け寄っていく。
訪れる夜をはね除けるような、騒々しく、気持ちの良い大団円であった。


そして輪の中から外れ、その場を後にする少年が一人。
十萌を抱え暑苦しい団員を蹴散らしていく大銀河を一瞥し、満足そうに口元を緩めていた。


AD2016年9月、学園の象徴・時計塔前での出来事。




石川 発貴(いしかわ はつき)。
周囲に無理矢理発破をかけ、行動を起こさせる男。事態を影から動かす暗躍者。
様々な事象の影に彼の存在がある。

彼は、『後一歩の勇気』を後押しする。しかしその力を明かすことはない。
自らの意思で『一歩を踏み出すことが出来た』経験は、その一歩の大きさを実感させるから。更なる一歩の糧となるから。
彼はその経験に、水を差すことをしない。

そしていつか??そしていつか、自身が『一歩を踏み出すことが出来る』その日を、今か今かと、待ち望んでいる。


GK評:3点
ダ、ダンゲロスで爽やかな青春が展開されている……!
こんなジュブナイルな日常をハルマゲドンで失ってしまった石川くんの心中やいかに。