Digital Command Controlとは
DCC入門者がDCCに求めるもの、それはおおむね次の2点に集約されるだろう。
- レイアウトのレール上に多数の列車を配置し、個別かつ自由に走らせる。
- 車両に多くの機能(ライト・サウンド・ギミック等)を搭載、制御する。
どちらも鉄道模型ファンが永年夢見てきたものの、従来の制御方式ではなかなか果たし得えるものではなかった。ところが1980年代に入り、マイコン技術が花開いていわゆるデジタル時代に突入すると、この夢も実現しうるものとなりはじめた。初期のデジタル制御こそ他のデジタル製品同様に混迷したものの、やがて淘汰が進み、より洗練されて進化を続けることができたのが、このDCC方式であった。
本項では、現在鉄道模型デジタル制御の主流となったDCCを、システム全体から概観的に解説してみたい。
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当サイトの文字ばかりの解説はわかりにくいという方に、いくつかDCC入門記事掲載サイトをご紹介。ちゃんと図版付きで解説されています。
本項の目次
DCCの定義
DCCとは、デジタルコマンドコントロール(Digital Command Control)の略語であり、コマンドコントロールとは特定の鉄道模型車両に命令を与えることで個別に操作する技術を指す。よってDCCの一般的な語義としては、鉄道模型車両に対しデジタル信号による命令を与え、個別に制御するための技術および装置・システム全般を指すことになる。この意味ではデジタル列車制御(Digital Train Control)等の用語とほぼ同義となるが、近年では特にNMRA(全米鉄道模型協会)が標準規格化したデジタル制御技術および装置、システムを指すケースがほとんどであり、当サイトでも特に注釈のない限り、後者のNMRA DCCを指すこととする。
なお、当サイトでは前者の意味で使う場合には「デジタル制御」と表現し、従来のアナログ制御と区別する。また「アナログ・コマンドコントロール」についてはほとんど普及もなかったことから、特に略さず称する。
DCCの歴史
詳細は
別項(こちら)
従来の技術では難しかった多列車同時運転やライトの明滅等の機能搭載を実現するため、デジタル技術を応用して鉄道模型を制御しようという試みは、すでに1978年前後には始まっており、過去に多くの製品が発表されてきた。
Dynatrol(当初はアナログ・コマンドコントロール),
CTC-16(アナログ)と
RAILCOMMAND(開発メーカー
CVP),
KATOデジタル,
Zero 1(
Hornby),
MTC(Airfix社),
FMZ(
Fleischmann今でもTWINシステムとして残る),
Rail-Lynx(赤外線制御のもので、現在も販売)等、数え上げればきりがない程で、次世代の鉄道模型制御という夢は世界中で模索され続けた。
ところが、各メーカーの製品相互に互換性はほとんどなく(一部は当初から互換性を考慮されていたものもある)、性能的にも満足できないものであったことから、結局どの製品もあまり普及が進まなかった。しかし1980年代の終わり頃、ドイツの
Lenzレンツ社が、すでにメルクリン2線式として実績のあった自社のデジタル制御規格を
NMRA全米鉄道模型協会に提示、これがNMRA主導による標準化作業を経て、1994年にデジタル制御方式の標準規格として採用されることとなった。さらにこれを欧州の
MOROP欧州鉄道模型連盟でも
NEM欧州鉄道模型標準規格として採用、事実上の世界標準としてのDCCが成立するに至り、世界中のメーカーがDCC規格に準じた商品を開発・発売を開始、これが市場に受け入れられて一気に普及することとなった。
その後日本では、鉄道模型大手の
KATO社が独自のKATOデジタルを放棄して米国
Digitraxデジトラックス社製品の輸入販売を開始、これに先んじて輸入商社の
熊田貿易も、
Lenz社DCC製品の輸入販売を始めた。DCC以外の規格によるデジタル制御は現在日本では販売されていない(メルクリン製品を除く)ことから、日本でもDCCが標準規格として(普及度はともかく)認知されるに至っている。
現在、DCC以外に広く一般的に使われているデジタル制御方式としては、ドイツの
メルクリン社〈及び
Trix社)製品に使われるいくつかの規格(
mfxや
SELECTRIX等)があるが、これら以外の方式や規格はほぼ淘汰されつくしており、市場で見かけることもほとんどなくなった。
従来のアナログ制御との違い
従来方式(特に直流2線方式=
DC方式)では、コントローラ(
パワーパック等とも呼ぶ)は線路にかける電圧を制御し、その電圧は車両の車輪を経由して車両内蔵のモーターに伝って、これを回転させる。この線路電圧を変化させることで車両の速度を増減させ、車両の進行方向は電圧の正負によって決まる。要するにレールをリード線の一部としてコントローラが直接モーターを回転制御しているわけである。線路電圧は特に符号化(デジタル化)されることもなくアナログ信号のままコントローラから送られるので、従来の制御方式をアナログ式またはアナログ制御と呼ぶこともある。
この方法では、普通は一対のレールにはひとつの電源電圧という情報しか載せることができない。このため、同一線路上のすべての車両は同じ電圧で走ることになり、個別にコントロールすることはできない。(高周波等による個別コントロールの試みもあったが、車載装置が大きくならざるを得ない、同時制御台数があまり増やせない等により、一般化しなかった)
DCCでは、コントローラ(DCCでは
キャブもしくは
スロットルと呼ぶ)の操作入力内容はDCC信号に符号化され、線路に電源として供給されている交流電流を搬送波として、線路に送られる。各車両には
車載デコーダと呼ばれるマイコン(超小型のコンピュータだと考えればいい)が搭載されており、これが線路から受信した信号を解釈(デコード)して、モーター回転数等を制御する。(デコードのための装置=
デコーダ)
すなわち、従来方式ではコントローラで直接車両のモーターを制御している(レールは単なるリード線)のに対し、DCCではコントローラはあくまで車両に対して送る信号を入力する端末装置に過ぎず、電力線兼信号線であるレールを介して信号を受信した車載デコーダが、車両を自立的に制御しているということであり、これが従来方式との最大の違いである。たとえて言うなら、従来方式はおもちゃのリモコンのようなものであり、DCCでは各車両に超小型のロボット機関士を積んでいるようなもの(現在はあまり賢いロボットではないが)。
DCCをはじめとするデジタル制御方式では、このような一見回りくどい制御方法をとることにより、従来方式では難しかった多列車同時運転や車両への機能搭載を実現しているわけである。
DCCの原理
鉄道模型をDCC化するのに欠かせない装置は、
キャブ(コントローラ)、
コマンドステーション、そして
デコーダである。
DCCの真髄は、このコマンドステーションとデコーダ間の通信にある、といっても過言ではない。コマンドステーションはDCCシステム全体を司る中央制御装置であり、デコーダはコマンドステーションから送られる命令信号に従って動作する出力端末。従来方式では電源電圧という単純な情報しか車両に送ることができなかったのに対し、DCCでは多様な情報を車両(正確には車載デコーダ)に送ることができるが、これはコマンドステーションとデコーダの通信に依存している。同一の線路上で多数のデコーダと通信できるのは
信号多重化と呼ばれる技術を使っているためで、DCCに使われるのはPAM方式である。
原理を説明するためDCCの動作を順に追ってみる。
まずキャブの操作(ダイヤルによる速度や進行方向の決定、ボタンによるライト明滅、汽笛吹鳴等)は入力信号として、コマンドステーションに送られる。これをコマンドステーションはデコーダへの命令信号として組み立て、DCC信号に変換する。DCCシステムでは線路には電源用として常に交流(日本ではNゲージ、HOゲージとも12ボルトが一般的)が流されているが、コマンドステーションはこの交流を周波数変調し、コントローラの操作入力をデコーダへの
命令パケット(パケットとは小包の意味だが、ここでは一まとまりのDCC信号のこと)として線路に送る。線路はDCCにおいては電力線と信号線を兼ねているので、その意味ではDCCは電力線通信をしているとも言えよう。
前述のとおり、各車両には
車載デコーダと呼ばれるマイコン装置が搭載されているが、それぞれのデコーダには固有番号である「
アドレス」が設定されている。コマンドステーションの送るパケットにはこの
アドレスとデコーダへの命令(キャブの操作内容等)が含まれており、線路から
パケットを受け取ったデコーダはまずアドレスを確認、そのパケットが自分宛のものであればその操作入力内容を解釈・実行に移る。
キャブの操作でもっとも重要なものは速度と進行方向の決定であろう。
デコーダは
コマンドステーションから送られた信号を解釈してこの操作内容を判断し、線路電源からモーター駆動用の電流を生成して車両内蔵モーターの回転を適切に制御する。つまりデコーダが車両の進行方向・速度を制御しているというわけである。
なお、一般的なデコーダはこのとき
PWMという擬似的な電圧制御によりモーターを駆動しているが、これはPWMがマイコンにより制御しやすいからという理由のほかに、低回転からモータートルクを得られるというメリットもある。
モーター駆動以外の各種機能は
ファンクションと呼ばれる。最も一般的なファンクションは
前照灯のオン・オフであり、他にも多様な
サウンド(汽笛等)やパンタグラフの昇降といった
ギミックのファンクションもある。これらの操作入力もDCC信号として送られ、
デコーダが受信・解釈し、各機能を制御する。ただし、それぞれの機能がもともとその車両に備わっていなかったり(ライト非搭載車両等)、デコーダにファンクションを制御する能力がなかったりすれば(モーター専用デコーダもある)その操作は無視される。
車載デコーダとアクセサリデコーダ
これとは別に、電動ポイントなど、レイアウトに設置された
アクセサリ・
ギミックを制御するためのデコーダもあり、
アクセサリデコーダ(英語では
Stationary Decoderとも)と呼ぶ。ただアクセサリデコーダは、車両制御にDCCを導入したからといって必ずレイアウトにも導入する必要があるわけではなく、ポイントは従来のアナログ用ポイントスイッチで制御する等、従来の電気設備をそのまま使うことも、なんら問題なく可能である。
フィードバック・双方向通信
キャブ(コントローラ)を入力端末、
コマンドステーションを制御装置、
デコーダを出力端末としたとき、情報の流れはキャブからデコーダへの一方通行となるのが一般的である。しかし、出力端末であるデコーダの動作状況を知る(線路上にあるデコーダの
アドレスを知りたいとか、
ポイントデコーダの変換方向を知りたい等、いわゆる
フィードバック)ことも必要であったため、デコーダから制御装置であるコマンドステーション、さらにはキャブとの間の
双方向通信機能が求められた。
もちろん従来のアナログ制御方式にはフィードバックなど望むべくもないことから、従来方式の置き換えとして発達してきたDCCには、元来双方向通信機能は極めて限定的にしかなく、デコーダの動作をモニタリングする方法すらなかった。(同じ信号を連続して送信することで、デコーダや通信の一時的な異常・トラブルに対応するようにしている)
このため、
Digitrax社(
トランスポンディング)、
Lenzレンツ社(
RailCom)等が独自にフィードバック機能を開発、さらに現在では、Lenz社の規格をもとに
NMRAが双方向通信(
BiDi)として標準化作業を進めている。
双方向通信によるメリットはおおむね次のとおり。
- レイアウト上にある車両のデコーダアドレスを知ることで、現在運転できる列車を、キャブの画面上で簡単に選択できるようになる。
- 車載デコーダの動作状態を受け取り、正常に機能していることを確認できる。
- デコーダプログラムの際、同じコマンドを連続送信する必要がなくなり、迅速・確実化できる。
- 車両の速度等動作状態を知ったり、特定のブロックを走行している車両のアドレスを知ることで、パソコンソフトや追加機器と連携により自動運転や信号・閉塞制御等が簡単・確実になる。
- アクセサリデコーダから情報を得ることで、ポイントの開通方向等、レイアウト上にある装置類の動作状況がわかる。
逆にデメリットとしては、双方向通信機能を導入するためにはデコーダやコマンドステーションの置き換えや装置の追加を要すること、導入による得られるメリットが必ずしも全てのユーザーに必要なものではないこと、すべてのデコーダが双方向通信した場合にノイズの多い線路経由の通信で十分な性能を維持できるか不安が残ること等があげられる。
このことから、現時点では双方向通信はまだまだ普及しているとは言い難く、将来についても未知数である。
最終更新:2007年08月29日 18:14