StartlineのNR280Hの設定重量は、12360kgということになっています。
これは、他社の大型路線バス車両と比べ、2t強軽い数値となっています。
これは適当な数値ではなく、以下の計算を経て設定された数値です。

※以下の計算はこのバスを物理的に成り立たせるための作文であり、実際のバスの設計が
以下のように行われているわけではありません。

バスの総重量は、空車時の重量+定員分の重量(一人当たり55kg)で算出します。
そして、バスのアクスルやタイヤには設計上の重量制限があり、当然ながらそれを
超えることはできません。
逆にいえば、重量制限を超えないようにバスを設計する必要があります。

Startlineシリーズの前輪には、一般的に大型路線用に用いられる275/70R22.5-148/145Jよりも小さい
265/80R19.5-140/138Jというタイヤが使われています。
このタイヤは、幅265㎜、偏平率80%の19.5インチタイヤという意味です。
なぜ小さいタイヤを使っているかというと、タイヤハウスを小さくし、床面積を稼ぎ、またタイヤハウス上の
座席の高さを下げるためです。
そして19.5の後ろの140/138Jというのが、タイヤの許容重量を示す「ロードインデックス」
というものです。



140/138とは、それぞれシングルタイヤ/ダブルタイヤとしてつかった時の許容重量を示す数値です。
バスは大抵前輪シングル、後輪ダブルとなっていますので、前輪/後輪と言っても良いでしょう。
上記リンクを調べると、Startlineの前輪の許容重量は、2輪合わせて5000kgということになります。①
一般的な大型路線車用のタイヤでは2輪合計で5800kgですから、タイヤが小さい分許容重量も
小さくなっていることが分かります。
つまりその分、前輪にかかる負荷を減らさなくてはなりません。
ちなみに後輪は、Startlineも他社路線車と同じく275/70R22.5を採用しています。こちらは4輪で許容重量
13600kgとなっていて法律で定められた1軸10tよりも余裕があるので、前輪ほど神経を使わなくて済みそうです。




冒頭に述べたように、バスの重量は空車時の重量+定員分の重量です。
空車時の前後の軸重配分は、バスの場合3:7程度となります。②
従って、たとえば空車時の重量が10tのバスの場合、前輪に3000kg、後輪に7000kgの負荷がかかる計算です。

これに定員分の重量がプラスになります。
前の頁でご紹介したNR280H都市型の定員が72名でしたので、55kg×72名=3960kgが定員分の重量になります。
本来であればこの分をモーメント計算して前輪・後輪に振り分けるのですが、ここでは暫定的に前後に均等にかかるものとします。

そうすると、前軸にかかる定員分の負荷は3,960kg÷2=1980kgとなります。
先ほどの①の計算で前輪2輪の許容重量は5000kgとなっていますが、10パーセント(500kg)の余裕をみるとして、
空車時の前軸に許容される負荷の最大値は、5000kg-500kg-1980kg=2520kgということになります。

この2520kgという数値は、正直言ってかなりシビアです。
②をそのまま当てはめると、空車時の車両重量は2520kg÷3×10=8400kgとなります。
冒頭の12360kgsは、8400kg+3960kgによって導かれた数値となります。
参考までに、いすゞの大型ノンステの最新規制適合車LKG-LVは空車時で10600kgです。
すなわち、Startlineが前輪に19.5インチタイヤを装備するためには、エルガよりも2200kgも軽くなければならないのです。





★以下、余談★
結局、前輪を小さくしたいがためにさまざまなコストをかけなくてはなりませんでした。
  • 燃料タンクの後輪直後への移設(前輪負荷が下がり、後輪負荷が上がる)
  • ホイールベース短縮による車体補強の見直し
  • 側面・バンパー・屋根など、外板材質を鉄からFRPに変更
  • 室内装備の徹底的な軽量化(座席の軽量化など)
  • ホイールのアルミ化
など

差別化は商品を売るための武器となりますが、行き過ぎた差別化は自分自身の首を絞めることにも
なります。
長尺車への対応や特殊仕様への対応の必要から、オプションで22.5インチ前輪仕様を設けざるを
えませんでした。

★★以下、更なる余談★★
実際のバスの開発においては、前輪よりも後輪の軸重制限クリアに大変苦労しているようです。
なぜなら、バスはリアエンジンで走行用の機器が後部に集中しているためです。
しかも最近の度重なる排ガス規制で、尿素SCRやDPFの搭載などを余儀なくされ、バス車両の
後部は重くなる傾向にあります。
先ほど例に挙げたいすゞのエルガでも、ここ2回の排ガス規制強化によって、1t近く重量化しています。
(しかも、積んでるエンジンも同じ!)

すると、床面積を減らすことで定員を減らさなければならない場合が出てきます。
後ろの軸重を減らす必要がある場合、後部の座席を減らしたり、わざと段差を設けて人を立てなくしたり、
といったことが行われます。

バスを乗り比べる機会があったら、後部の室内に注目してみましょう。
後部に不自然な段差があったり、わざと座席が減らされたりしていたら、それは定員減らしのための
苦肉の策で、メーカーの設計の苦労が垣間見えることでしょう。


最終更新:2011年06月22日 01:12