LKG-NR280H ノンステップLE1 ラッシュ型
エンジン UDトラックス製 GH7TA(245PS)
トランスミッション 機械式AT ESCOT-ⅴ 12速

Ansin社では、2010年10月より施行されたポスト新長期規制に適合した
大型路線バスシリーズのStartlineを発売します。
意匠に大きな変更点はありませんが、各部の改良や仕様変更に伴い、
寸法などの変更が生じています。

主な変更点は以下の通りです。

①小排気量エンジンと機械式ATの採用による更なる燃費低減


従来から搭載していたUD製のMD92TJの廃止に伴い、
新たに中型トラック用として開発されたUD製のGH7エンジンを採用しました。
また、新型エンジンの出力・トルク減少を補うため、トランスミッションを多段化。
機械式の12速ESCOT-Vを採用して1段あたりの守備範囲を狭め、トルクのおいしいところを使ってクルマを動かします。
従来のトルコンATと比べ伝達ロスの少ない機械式ATとすることで、更なる燃費向上を狙います。


①の変更に伴うトランスミッションの長大化により、リアオーバーハングが150mm長くなり、3300mmとなりました。
その分ホイールベースが短縮され、短尺車で4550mmとなっています。

②車内後部の室内高を拡大


段上げとなる中扉以後の居住性を改善する為、後部の室内高を200mm拡大し、車内後部でも2000mm以上の
室内高を実現しました。これにより、中扉以後への乗客の移動を促します。
外観上は車両全体の高さが上がっているように見えますが、中扉以前の天井にはパッケージ式の
クーラーが埋め込まれているため、従来車の車内高と殆ど変りません。
また、屋根上の出っ張りもないため、全高も従来車と同じ3050mmです。

また、上記の理由で側面窓上の寸法が拡大した事に伴い、そのスペースにキャラクターラインを追加して
できるだけ違和感のないようにしています。


屋根からみた、埋め込みクーラーの様子


車内後部から見ると、クーラー埋め込みによる車内への出っ張りが確認できます。

③床面高の見直し

ノンステップバスの車内の段差を改善すべく、ノンステップエリアの床面高をあえて高めることにしました。
従来車の350mmより30mm高い、380mmとなっています。
但し、乗降口高さは従来車と変わらず320mmですので、ドア付近に若干の傾斜(約5度)が
生じています。
これらは低床化の流れに逆行する事ですが、車内の段差をさらに改善でき、なおかつコスト面で
現実的なアプローチがないために行われています。


ノンステップエリアの床面高を上げた事で、車内後部への段差も若干少なくなっています。
200mmの階段を2段上がると、完全フラットな床にアクセスできます。


前輪上の座席へも、150mmの段差でアクセスできます。
また、ドア付近の通路に若干の傾斜が付いていることもわかります。




開発秘話

①試作車の仕様について


  • 座席配置
新たに設定された「ラッシュ型」を採用しています。
今回からホイールベースが短縮されていることで、必然的にノンステップエリアが狭くなっています。
なので混雑する路線では、段上げ以後の通路も乗客に使ってもらわなければなりません。
その為、座席を減らしてでも通路を広く取った仕様を用意することとしました。

  • 中扉グライドドアの選択
中扉をグライドドアにした場合、引き戸にするよりも構造が強固にできます。
ボディーに戸袋部分の余計な穴を開けずに済むからです。
これによって、ホイールベース間の補強を削減できるので、車内高が上がって重くなった車体を
僅かながら軽くすることができるのです。
但し、これは設計部のエゴであり、営業部からは不満が噴出したというのは秘密です。
実際の受注時には、引戸仕様の対応も可能とする予定です。


②サイマル開発のワナ 
近年の商品開発では開発期間の短縮などの理由から、本来は順番をつけて開発するものを
同時に並行して開発します。
例えば、エンジンの開発が終わってからボディーの設計に入るものを、
「エンジンはこうなる」という前提のもとでボディーの設計とエンジンの開発とを同時に行います。
そうした開発手法は「サイマル開発」などと呼ばれています。
Ansin社でも、当然そうした方法で開発が行われています。
しかし、「エンジンがこうなる」という前提条件が崩れると、それは全体の設計に影響を与えることになるのです。

Startlineでは、従来車にUDトラックス製のMD92TJエンジンを搭載していました。
10月からのポスト新長期規制においても、そのエンジンを使用する前提でバス全体の開発が進んでいたのです。
車体は、通路の高さを確保する為に後部の車体高を上げることが決まっていました。
車体高を上げることは当然重量のアップにつながるわけですが、MD92TJの性能の高さでそれをカバーするつもりだったのです。
このエンジンは9.2リッターの小排気量ながら、最大出力300ps・最大トルク1324N・mを発生する大変パワフルなエンジンでしたから。

ところが、規制の直前になってMD92エンジン自体の製造中止が決まりました。
大きな前提条件が崩れてしまったのです。

代わりに登場したエンジンの中で、何とか路線バスに載りそうなサイズなのが、GH7エンジンでした。
このエンジン、排気量7リッター、最大出力245ps・・・最大トルクに到っては716N・mと、MD92の半分強しかありません。
もちろんスペックだけでエンジンが決まるわけではありませんし、普通の路線バス車両に積むなら問題ないレベルかもしれません。
しかし、新しいStartlineの重い車体に積むには、いささか力不足でした。

それでも代わりのエンジンが調達できるわけはなく、そのエンジンを使ってバスを走るように仕立てなければなりません。
その結果、12段というバス用としてはとんでもなく多い段数のトランスミッションが採用されることとなったのです。
※12段といっても、常に12段すべてを使うわけではなく、状況に応じて適切なギアが選択されます。

機械式ATはバス用としては珍しいですがトラックでは広く普及しているシステムですし、
トルコンATでは避けられない動力の伝達ロスもないため、燃費の低減に寄与します。

そんなこんなでシャーシ周りの設計はほぼやり直しとなり、車両の登場が規制の施行よりも数ヶ月遅れることになりました。

さてさて、説明がとんでもなく長くなりましたが、製品案内の更新などはこれからちまちまやっていこうと思います。
GH7エンジンの実力はいかに??

最終更新:2011年01月01日 18:43