開発経緯

久々の復活となったフルフラットモデルのNR292。
バスの低床化をメインテーマとする当サイトにとっては、思い入れの強いモデルです。
現在普及している前中扉間ノンステップ車は、ツーステップ車の駆動系を使いながら一部床下の
ノンステップ化を実現した割り切り仕様です。
フルフラットモデルと比べデッドスペースが少なく専用の駆動系が不要なため、ノンステップバスの
全国的な普及の立役者となりました。
しかし、約30ある座席のうち、ノンステップエリアから座れる座席は7席程度。
座席に座るためには結局段差を越えなければならない現状に、筆者はずっと疑問を抱いてきました。

一方国産初期のフルフラットモデルでは、各社さまざまなアプローチで低床化に挑戦しました。
UD・日野・いすゞは横置きエンジン+アングルドライブを採用、ふそうは縦置きオフセット搭載を選択。
UDは西工一本化後にふそうに似た縦置きオフセットへと変更されました(ふそうとオフセット方向は逆)。
しかし後部通路幅がせまく、特に横置きエンジンはデッドスペースが多かったことから詰込みが効かなかったようです。
また、座席に座るにはよじ登らなければならなかったことやATの性能の問題などもあり、課題が多かったようです。
ノンステップバス標準仕様に適合しなくなったことやコスト等の問題から、フルフラットモデルは抜本的改良がなされない
まま各社のラインナップから消えていきました。



今回のNR292は、以下の点を目標に開発されています。
①座りにくい座席をなくす。
②全座席のうち半数以上を、段差なしで着席可能にする。
③後部通路幅を広げ、車内前部に人を滞留させない作りとする。
④車内後部に至るスロープは、できるだけ緩やかな角度とする。
⑤市場にあるパーツをできる限り活用する。



それでは、それぞれがどのように実現されたのかを見てみましょう。


前輪上の座席は、長いフロントオーバーハング(2600mm)により1段の段差で着席可能です。
※この点は、従来のstartlineシリーズと変わりません。


中扉前に設置されていた座席は、横向きから前向きに変更され、居住性が向上しました。
また、立席エリアの拡大にも貢献しています。
それに伴い、燃料タンク位置が左前輪上に変更されています。


LE1同様、中扉を前に寄せるレイアウトにより中扉直後の座席は段差なしで着席可能です。
また、今回全長(ホイールベース)を250mm延長したことにより、後輪上となる2・3列目の座席配置にも余裕ができました。
画像のように、1段の段差で着席可能です。


後輪にはstartline hybridで実績のあるスーパーシングルタイヤを採用し、通路幅を840mmに拡大(以前のフルフラットモデルより250mm拡大)しました。
これにより後部の人の流れが大幅に良くなります。
また、後輪部通路のスロープは左ハンドル用のリアアクスルを流用できるため専用部品を使わずに済むため、
今回は左寄せとしています。


NR292の開発においては、後ドアの設置不可・メンテナンス箇所の増大・専用タイヤの採用・全長/ホイールベース延長などのデメリットを許容して
上記の改良を行っています。
捨てるものを減らすには、技術の改良を待つしかありません。
現在のansin社にとって精一杯のバス。それがNR292なのです。


最終更新:2015年07月17日 01:40