労働法

〔体系書〕

  • 菅野和夫『労働法』弘文堂(2010年4月・9版)……労働法全分野にわたる、実務法曹必携の最も権威ある体系書。最近は厚生労働省関係者も改訂に関わるようになった。結論はおおむね穏当で、多くの論点で判例を部分的ないし全面的に肯定する。とはいえ、全体を通じて理論書としての高度な学問的水準を維持しており、単なる実務の手引書ではない。とくに団体的労使関係法の分野では硬質な解釈論を展開する。文章自体は分かりやすく、読みやすいが、いかんせん分量があるので、初学者がこの一冊だけで労働法を理解し、あるいは菅野説を味わうのはかなり困難だろう。辞書として利用する人が多いが、受験対策上重要と思われる個所はできるかぎり精読しておきたい。
  • ☆水町勇一郎『労働法』有斐閣(2012年3月・4版)……判例をベースとした豊富な設例を用いて労働法を解説する「教科書」。序章において大きく紙幅を割いて,歴史的・社会的背景から労働法・判例の解釈や変遷を社会学的に分析している点に特色がみられる。内容は平易で,おおむね通説的な解釈に終始しており,非常に分かりやすい。組合関係法はやや薄いが,司法試験には充分な情報量があり,学生はもとより法務担当者にも人気があるようである。ただし,版を重ねるごとに厚みを増しており,試験直前にさっと通読するのは難しい分量になってきている。
  • 浅倉むつ子・島田陽一・盛誠吾『アルマ労働法』有斐閣(2011年8月・4版)……アルマにしては比較的厚い。通読用。
  • 西谷敏『労働法』日本評論社(2008年12月)……立場的にはリベラル。憲法から説き起こし、労働者の権利と自己決定を尊重するスタンス。まず判例を紹介した上で、その射程を論じ、あるいは正面から批判した上で、自説を展開する。主たる読者としてロースクール生をかなり意識していると思われ、菅野と比べると記述はあっさりしており、とりわけ組合法はやや舌足らずとなってしまっている感がある。なお、『労働組合法』有斐閣(2006年11月・2版)は学界を代表する本格派の体系書であり、判例・菅野説と西谷説との間の諸論争はつとに有名である。菅野労働法と共に、労働訴訟に携わる実務家にとっては必携の体系書であると言ってよい。
  • 荒木尚志『労働法』有斐閣(2009年7月)……個別的労働関係法を労働保護法と労働契約法に二分し労働契約法を体系に取り入れている。理論派の基本書だが結論は判例・菅野説に近く安定感がある。専門の労働時間、労働条件変更法理についての記述は詳しい。原論文は「論点講座・新労働法講義(1)~(24)」(法学教室連載・307号~330号)。
  • 土田道夫『労働契約法』有斐閣(2008年7月)……労働契約法時代を見据えた雇用関係法の体系書。組合関係法は扱っていない。非常に詳細であり、実務的に問題となる点や裁判例の動きなども見据えて丁寧に論点を分析している。辞書。
  • ☆土田道夫『労働法概説』弘文堂(2012年4月・2版)……労働法全分野を概観。概説&判例ベースの事例を使用した論点解説というスタンダードなスタイルの教科書。「企業・労働者・雇用社会の最適な利益調整」という視点から事例を丁寧に分析している。人事で使用される文書例、図、グラフの使用、くだけた表現など働いたことがない学生でも労働法のイメージが掴みやすいように配慮されている点が特色。個別事例の利益分析が丁寧な点は試験向きだが、自説の主張がやや強い。
  • 中窪裕也・野田進・和田肇『労働法の世界』有斐閣(2011年3月・9版)…定番の概説書。8版から横書きに変更し内容にもかなり手が加えられた。1人の人間が会社に雇用されてから解雇されるまでに問題となる法律を解説するという独特の体系をとっている。記述が全体的に薄くややとっつきにくい面もあるが、問題点は網羅的に取り上げている。まとめ用
  • 山川隆一『雇用関係法』新世社(2008年4月・4版)
  • 盛誠吾『労働法総論・労使関係法』新世社(2000年5月)
  • 下井隆史『労働基準法』有斐閣(2007年11月・4版)……労働契約法草案まで対応。
  • 山口浩一郎『労働組合法』有斐閣(1996年3月・2版)
  • 小西國友『労働法』三省堂(2008年8月)

〔入門書・概説書〕

  • 水町勇一郎『労働法入門』岩波新書(2011年9月)……労働法全分野を概観した入門書。新書サイズなのでさっと読める。章ごとのはじめに書かれたミニコラムでは水町教授の菅野教授に対する熱い愛が感じられる。
  • 森戸英幸『プレップ労働法』弘文堂(2011年3月・3版)……まずはここから。入門書ではあるが、はしがきに「新司法試験対策としては本書でも充分」とあるように、重要論点の多くを拾い上げてそれなりに論じている。
  • 野田進編『判例労働法入門』有斐閣(2011年4月・2版)……判例・裁判例の立場をベースにした概説書。重要判例をシケタイのように引用しつつ労働法全体を解説している。入門書だがまとめ用としての方がむしろ有用。
  • 両角道代・森戸英幸・梶川敦子・水町勇一郎『リーガルクエスト労働法』(2009年3月)……新進気鋭の筆者4人による学部生向けの概説書。章末には演習問題(解答なし)もついている。コラムも充実しており、内容的には他のリーガルクエストシリーズに比べても悪くない出来栄えだが、筆者の一人である水町勇一郎教授の体系書と位置づけが被っている。しかし厚くなり続ける水町との差が出てきた?
  • 下井隆史『労働法』有斐閣(2009年4月・4版)……とても薄い。一冊で労働法全分野を概観している。労働契約法、労基法08年改正に対応。
  • 奥山明良『基礎コース労働法』新世社(2006年7月)
  • 安枝英のぶ・西村健一郎『労働法』有斐閣(2009年4月・10版)……プリマシリーズ。コラムの類はなく、プレップのような「読みやすさ」もない。本書の特長は、条文・判例・行政解釈中心の、淡々とした明快な叙述である。労働契約法対応。

〔実務書〕

  • ☆山口幸雄・三代川三千代・難波孝一編『労働事件審理ノート』判例タイムズ社(2011年11月・3版)……東京地裁労働部の裁判官が主要紛争類型の要件事実を解説した著書。第3版では労働災害事件を追加。
  • 日本労働弁護団『労働相談実践マニュアル』日本労働弁護団(2009年12月・ver.5 補訂版)……実務で頻出の相談につき、労働者側の立場から基本的な知識と立証方法を網羅している。東京地裁労働部でも評判がいい。基本的には判例に沿っているため、裁判所で認められる限界を取るという意味で使用者側からも便利である。
  • 岩出誠『実務労働法講義(上)(下)』民事法研究会(2010年1月・3版)……上下巻併せて1600頁を超える大著。使用者側の立場から実務上生じる労働法の問題を網羅している。問題もついているので,見た目ほどの情報量はない。
  • 大内伸哉『労働法実務講義』日本法令(2005年11月)……非常に分厚いが、個々の問題を深く掘り下げて論じているため、網羅性はない。改訂予定。
  • 渡辺弘『リーガルプログレッシブ9・労働関係訴訟』青林書院(2010年2月)……東京地裁労働部の裁判官が裁判例を利用して労働法の典型論点を解説した本。東大ロー卒業生や修習生を対象にした勉強会をベースにしているため、荒木労働法や百選の頁数が振られている。基本は判例ベースだが、判例の射程を経営者有利に解釈する傾向がある(特に解雇権濫用法理)。
  • 菅野和夫・安西愈・野川忍編著『実践・変化する雇用社会と法』有斐閣(2006年3月)……実務的かつ先端的な設例に対する回答集。法律上の措置だけでなく、事実上の措置も含む。判例・裁判例の立場を重視しており、判例が固まっている論点では学説は完全スルー。はっきりとした判例がないような事例についての処理がわかる。実務家向けの本だが、意外と内容は平易であり法科大学院生でも使える。

〔コンメンタール〕

  • 金子征史・西谷敏編『基本法コンメンタール 労働基準法』日本評論社(2006年5月・5版)……基本法コンメンタールシリーズに共通することであるが、サイズが大きいため情報量は意外に多い。個別紛争処理制度・派遣法・パート労働法の概説もついている。
  • 東京大学労働法研究会編『注釈労働基準法』有斐閣(2003年4月,2003年10月)……詳細な注釈書。
  • 荒木尚志・菅野和夫・山川隆一著『詳説労働契約法』弘文堂(2008年12月)……労働契約法の制定に関わった研究者らによる注釈書。労働契約法の規模がかなり縮小されたため、実質的な注釈は100頁程度になっている。最も信頼できる労働契約法の注釈書である。
  • 中谷敏・道幸哲也・中窪裕也編『新基本法コンメンタール 労働組合法』日本評論社(2011年9月)……30年以上の時を経て改訂された労働組合法のコンメンタール。労働組合法に関する近時のコンメンタールとしてはほぼ判例しか書いていない厚生労働省が出しているものしかなく、実務で参考になる唯一のコンメンタールである。

〔判例集〕

  • 村中孝史・荒木尚志編『労働判例百選』有斐閣(2009年10月・8版)…労働契約法に対応して改訂。収録判例が120件に削られた。最もスタンダードな判例集であり、司法試験の問題に使われるような基本判例は網羅している。実務家にも評判がいい。
  • 唐津博・和田肇編『労働法重要判例を読む』日本評論社(2008年5月)……労働契約法対応。23の労働法重要判例を解説。一般的な判例の読み方についての案内が役に立つ。関連裁判例も多数掲載。
  • 野川忍『労働判例インデックス』商事法務(2010年10月・2版)……見開き2頁で160の判例を解説。事件の概要・事案・図・判旨が2頁の4分の3を占め、コメントは短め。参考文献欄には百選7版、菅野8版・水町2版、有斐閣・弘文堂のケースブック等の頁数が摘示されている。学者が書いた予備校本という評価がぴったりである。
  • 大内伸哉『最新重要判例200労働法』弘文堂(2011年4月・増補版)……類書最多の221判例を収録。事案と判旨を中心しているためコメントは短めになっている。インデックス同様単独著者が執筆しているため見解は安定しているが、重要判例にも1頁しか割かれていないためやや物足りなさを感じるのも事実である。

〔ケースブック〕

  • 荒木尚志他編『ケースブック労働法』有斐閣(2008年4月・2版)
  • ☆菅野和夫他編『ケースブック労働法』弘文堂(2012年3月・7版)……毎年改訂されている。女工哀史の引用から始まり、百選掲載判例と最近の裁判例をそれなりに網羅している。

〔演習書〕

  • 水町勇一郎編著『事例演習労働法』有斐閣(2011年2月・第2版)……労働契約法対応の事例問題集。会社法事例演習教材などと似たスタイルだが、全問にヒントと答案例が付いている。これについては、第2版で全問に出題趣旨と解説も追加されることになった。なお、初版では答案例が解説を兼ねているためやや冗長なところもあり、また法的三段論法に則っていない失格答案も散見されるが、概して丁寧なため初学者にも使いやすい。
  • 土田道夫・豊川義明・和田肇『ウォッチング労働法』有斐閣(2009年10月・3版)……労働契約法対応の定番演習書。法学教室連載の単行本化。冒頭にテーマに沿った短めの事例を示して、テーマについての概説と事例への解答を示している。但し、事例への解答部分はわずかであり、むしろ論点集としての性格が強い。
  • 石田真・豊川義明・浜村彰・山田省三編著『ロースクール演習労働法』法学書院(2010年1月・2版)…労働契約法対応のやや長文の事例問題集。31問の基礎編と8問の融合問題からなる。全ての問題に法科大学院生による答案がつけられており、教授・弁護士らによる答案に対する駄目出し&問題解説がされている。問題の難易度は全般的に高めで、解説も労働法の知識を一通り持っている人間を対象にしていることが明らかなため、初学者には厳しい。しかしその分事例に対する分析は丁寧であり、新司法試験対策としては有効である。
  • 大内伸哉編著『労働法演習ノート』有斐閣(2011年11月)……評価待ち。
最終更新:2012年05月23日 10:43