行政法

〔基本書〕

  • 田中二郎『新版行政法上・中・下』弘文堂(1974年4月~1987年2月)……かつては、行政法で通説といえば、おおむね田中説を指した。現在では、本書は「古典的名著」と称され、田中説は「伝統的通説」と位置づけられる。実務上の影響力は今なお強い。元東京大学名誉教授、最高裁判所裁判官。
  • 塩野宏『行政法I・II・III』有斐閣(2009年3月・5版,2010年4月・5版,2006年4月・3版)……通説の地位を得つつある。試験対策としてはやや網羅性に欠ける面があるが考察は深い。増刷の際に改訂された百選番号に対応させたり、新判例の追加をしたりしているので発行年月日に注意。田中二郎の娘婿。元東大教授。
  • 宇賀克也『行政法概説1・2・3』有斐閣(☆2011年3月・4版,☆2011年3月・3版,2010年3月・2版)……横組。章のはじめにポイントを摘示したり、重要度によって文字のサイズを変えたりと教科書として工夫されている。判例の網羅性が高くわかりやすいが、自説の結論をはっきりと示していないところもある。伝統的通説に関する記述を「塩野参照」とするところがある。塩野Ⅲとは異なり地方自治法については宇賀『地方自治法概説』有斐閣(☆2011年3月・4版)にて別個扱う。
  • ☆櫻井敬子・橋本博之『行政法』弘文堂(2011年7月・3版)……通称「サクハシ」。主要な論点について、判例・学説の現在の到達点を簡明に記述する。総じて理由付けが脱落しがちという短所もあるが、斜め読みをしてもすぐに結論にたどり着けるので、ロースクール生の間では定評がある。組織法についても一応の言及があるほか、行手法や情報公開・個人情報保護法制などについてもある程度の分量をもって触れられており、収録判例数も多いので、本書一冊で十分な択一対策が可能である。ヴィジュアル面にも若干の工夫が凝らされており、読みやすい。ちなみに櫻井先生と橋本先生は夫婦である。
  • 稲葉馨他『リーガルクエスト行政法』有斐閣(2010年9月・2版)……試験委員らによる教科書。サクハシと並びまとめ用の本としてシェアを伸ばしている。薄い本だが結構高度な内容を含んでおり、初学者が利用するのは難しい。
  • ☆原田尚彦『行政法要論』学陽書房(2011年3月・全訂7版補訂版)……簡にして要を得たという言葉がぴったりの基本書。公務員試験では長年シェアNo.1を維持し続けている。自説を主張している部分も少なくないが、判例・通説との区別はきちんとなされており、問題点への分析は鋭く、論旨が明快で、文章もとても分かりやすい。総じて、初学者にも推奨できる一冊である(逆に言えば、この程度の本ならば初学者も読みこなせなければならない)。判例の収録数がやや少ないため、本書のみでは新司法試験対策として情報量が足りないことは否めないが、まとめ用の本としても有用である。
  • 芝池義一『行政法総論講義』『行政救済法講義』有斐閣(2006年10月・4版補訂版,2006年4月・3版)……前京大教授。1冊本として『行政法読本』有斐閣(☆2010年12月・2版)。取消訴訟の訴訟物など、「議論の実益が乏しい」として、省略してしまっている有名論点が若干あるが、隙のない良書。理論的に精緻で、網羅的。特に異端説を採っているわけでもなく、通説・有力説にはしっかりと言及しているので、安心感がある。独自説は少なめ。芝池や塩野が採用した学説が、今日の通説になっている。芝池の独自説があるとすれば、従来の学説が論じてこなかった点を埋める箇所。たとえば、ある行政手段ではこの点が論点になるのに、従来の学説は、他の行政手段においては、そのようなことを問題としてこなかった。しかし、他の行政手段でもこのようなことは問題となるはずだ、といったふうに。あるいは、従来の学説はこの理論の長所だけを挙げてきたが、実は短所もあるから、慎重な考慮が必要になる(たとえば、形式的行政処分の拡張)など。このように、学説の間隙を埋める際には、当然独自の解釈が必要になるので、独自説を採っているが、基本的には異端説は採っていない。
  • 藤田宙靖『行政法I(総論)』青林書院(2005年12月・4版改訂)、『行政組織法』有斐閣(2005年11月)……元東北大法学部長。元最高裁判事(2010年退官)。行政法Iは行政救済法を含む。はしがきには「法学教育において重要なのは体系を呈示すること」とあり、(1)伝統的通説を紹介、(2)従来の議論の意義・有用性・各種の問題点を紹介、(3)近時の有力学説を紹介、という順序を通じて、行政法学(総論)の基礎理論とその到達点とを解説している。口を尽くした丁寧な説明を特徴とするが、その一方で論点落ちも目立ち(とくに行訴法関連は薄い)、収録判例数も少ない。とくに、最高裁判事就任後の判例はほとんどカバーしておらず、メインの基本書としてはかなり使いにくいものとなっている。個別法の仕組み解釈が求められる司法試験対策に直ちに繋がる訳ではないが、行政法理論の基礎的・体系的な理解を得るための参考書としてなら今でも大変有用である。なお、藤田Ⅰと対をなし行政組織法・行政作用法各論を扱う遠藤博也『行政法Ⅱ(各論)』青林書院(1977年11月。遠藤は1992年に他界。絶版)は古いが、行政作用法各論分野の数少ない体系書であるとともに、行政庁の危険管理責任論の提唱など学説形成に大きな影響を与え続けている、名著。
  • 小早川光郎『行政法上、行政法講義下I・II・III』弘文堂(1999年6月,2002年11月,2005年11月,2007年8月)
  • 高木・常岡・橋本・櫻井『行政救済法』弘文堂(2007年11月)……逐条解説のコンメンタール調。書名にも関わらず行政手続法も掲載されている。区切りごとに判例が載っている。
  • 大橋洋一『行政法I─現代行政過程論』有斐閣(2009年5月)……行政過程論の立場の意欲的な基本書。
  • 阿部泰隆『行政法解釈学I・II』有斐閣(2008年12月,2009年9月)……通説・塩野説を理解した人向けのAlternative体系書。著者の弁護士としての経験談が豊富に盛り込まれており実務家にとっても示唆的。
  • 南博方・高橋滋編『条解行政事件訴訟法』弘文堂(2009年2月・3版補正版)……実務家用の注釈書。「青写真」変更大法廷判決にも対応。
  • 南博方『行政法』有斐閣(2006年7月・6版)……最後のまとめの一冊として。
  • 橋本博之『要説 行政訴訟』弘文堂(2006年4月)……薄い。まとめ用に。
  • 宮田三郎『行政法の基礎知識(1)~(5)』信山社(2004年8月~2006年6月)……講師と学生の対話形式により行政法全分野を概観する入門書。
  • 西埜章『国家補償法概説』勁草書房(2008年11月)……通説・判例も程よく記述されている。特にもう少し国家補償法を学ぶ人にお勧め。
  • 山村恒年編著『実践判例行政事件訴訟法』三協法規(2008年2月)……判例を豊富に引用しているのが特徴、有益な実務書。
  • 佐藤英善編『実務判例逐条国家賠償法』三協法規(2008年3月)……上記と同じく判例を豊富に引用しているのが特徴。

  • 司法研修所編『行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』法曹会(2000年2月・改訂版)……裁判官用行政訴訟実務マニュアル。行訴法改正に未対応。現在改訂中?

〔入門書〕

  • 藤田宙靖『行政法入門』有斐閣(2006年11月・5版)……口語体の定評ある入門書。
  • 石川敏行『はじめて学ぶプロゼミ行政法』実務教育出版(2000年2月・改定版)……公務員試験用ではあるが、行政法の世界への導入としては新司法試験対策としても十分有用な1冊。イラストや例示で主に総論の知識を分かりやすく解説してくれる。ただし救済法の記載は少なめで、一応改正救済法にも触れているが改定が望まれる。

〔判例集・ケースブック〕

  • 『行政判例百選I・II』有斐閣(2006年5月,2006年6月・いずれも5版)……収録判例数が多すぎる。救済法の一部の判例では、解説に「平成16年改正によって意義を失った」といったことが平気で書かれており、250件超という大幅なリミットオーバーを考えると、編集方針にいささか疑問を感じなくもない。とはいえ、択一対策のためには一通り潰しておくことが必要なのも確か。
  • 橋本博之『行政判例ノート』弘文堂(2011年1月)……最高裁判例を中心におよそ200件を収録。すべての判例にその要約(多くて数行)と簡単なコメントが付いている。択一対策に最適の一冊。収録順序はサクハシに完全に準拠しているので、同書の利用者にとっては一層使いやすいだろう。
  • 芝池義一編『判例行政法入門』有斐閣(2010年3月・5版)
  • 大橋洋一ほか『行政法判例集 総論・組織法』有斐閣(2006年11月・2版)
  • 野村創『事例に学ぶ行政訴訟入門-紛争解決の思考と実務』民事法研究会(2011年5月)
  • 高木光・稲葉馨編『ケースブック行政法』弘文堂(2010年3月・4版)……弘文堂ケースブックシリーズの優等生。行政法学者が総力を結集した現行のベストな教科書。百選よりも判決文が長めに記載されているほか、各章冒頭の判例の概観もうまくまとまっており、むしろ判例集としてかなり使い勝手がよい。収録判例数は約160件。下級審裁判例もちょくちょく混ざっている。


〔演習〕

  • 曽和俊文・金子正史編『事例研究行政法』日本評論社(2011年4月・2版)……良質の長文事例問題に丁寧な解説を付したもの。ロースクールで出題された問題を集めており、学生に誤解や間違いの多かった箇所について特に指摘をしている。
  • 高木光・高橋滋・人見剛『行政法事例演習教材』有斐閣(2009年4月)
  • 吉野夏己『紛争類型別 行政救済法』成文堂(2010年8月・2版)……岡大ローの実務家教員による演習書。紛争類型別となっているので具体的紛争類型をイメージしやすい。
  • 大貫裕之・土田伸也『行政法 事案解析の作法』日本評論社(2010年9月)……法学セミナーの連載を書籍化したもの。
最終更新:2012年05月23日 10:15