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本編(年表以外)第弐話」(2008/07/15 (火) 03:19:11) の最新版変更点

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<p>本編第弐話です。</p> <hr /><dl><dt><a><font color="#0000FF">786</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:20:02 ID:???</dt> <dt>・・・ロシア海軍の保有する、ただ一隻の原子力空母―――もっとも事実上、というだけで、その艦種は重航空巡洋艦となっていた<br /> それが、ベーリング海という、構造体攻撃とはあまり関係のない海域に、巡航ミサイルを発射可能な艦艇を引き連れて出現していた<br /> それに迷惑する一部の人々がその動きに気がついたころ、ほとんど形だけのIUEITA本部にある、使われることの無い一室を借用し、全権委員たちが集まっていた<br /> パソコンの起動音と同時に、真っ暗な部屋の中にいる、数人の人間の体が、ゆっくりと浮かび上がる<br /> 全員、それなりに年を食っているようで、腕には皺がある者も多い<br /> 「―――聞いたか?」<br /> 「ああ、聞いたよ、こりゃまた大変なことになってきたらしいな」<br /> ようやく薄暗くなった部屋の中で、スーツに身を包んだ数人の男たちが壁に寄りかかったり、机を石にしたりしながら、思い思いの姿勢で楽にしている<br /> 不思議と椅子に座っている人間はいなかった<br /> 「佐藤……だったか? 異例だからな、あの男は」<br /> 長身の男が、ネクタイピンの位置を微調整しながら、その発言に賛同する<br /> 「まぁな―――執行官と委員を兼任。しかしなんと言っても身元が確りとしているんだ、血が繋がっていないと言っても、家柄だとかで親戚が相当数―――」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a787" name="a787"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">787</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:20:32 ID:???</font></dt> <dt>「妹もいるとか言っていたな」<br /> 低い声で要らぬ補足しつつ、組んでいた腕を解き、さらに話を続ける<br /> 「そのしっかりとした身元を作ったのは、あの男自身というよりも、日本政府のほうだろう、ゴーストを作るのは逆に向こうだと面倒だとかで」<br /> 「もっとも、そもそも異例なのが日本政府だからな―――」<br /> 吐き捨てるように言ってのけた割には、あまり悪意の感じさせない言葉が続く<br /> 「―――中国政府の穴埋め…もとい、中国政府より必要だったから日本政府が加わっているわけだが…」<br /> 話が脱線していることに気がつき、壁に寄りかかっていた一人が声を出す<br /> 「そろそろ本題に戻ろう」<br /> 壁に寄りかかり直して話を続ける<br /> 「あの男が異例だとか、そんなことはどうでもいい……やつのやろうとしていることが問題だ」<br /> 「そうだな、まだ“D”計画の続きをやろうとしている」<br /> 「その通り…」<br /> 感情がこもった声ではなかったが、多少怒りの成分を含んでいるようだった<br /> 「どれだけの予算を捻出することになったことやら……それだけならまだしも、代償が大きすぎる<br />  マンハッタン島どころか、全世界にひろがるネントワークに高度な電子機器。軍民間の衛星に、これでもかという人類側の情報とを引き換えにしたんだ」<br /> 「そして得られたものは何も無い」<br /> 「そうでもない、審判の結果は聞かされていないが、どうやら彼らのほうは裁定をすでに下したらしい」<br /> 少し笑いながら諭すような声を出した男が、持参したノートパソコンの操作を行う<br /> ディスプレイの明かりに照らされて見えた彼の顔は、どうやらラテン系の人間らしい<br /> 「後は彼…彼ら、というべきか―――の進めている、“A”計画の具合にもよるが、“D”計画の続行はある意味必要だろう」<br /> 「……あの連中がいっていたことを知っているか?」<br /> 「なに?」<br /> わざとらしく間をおいて話し始めるので、聞く方の男はもう一度パソコンに向き直っていた<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a788" name="a788"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">788</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:21:47 ID:???</font></dt> <dt>「曰く―――この仕事に宗教的な考えだとか、哲学的な考えだとかを持ち込むと、どうも面倒な方向に転びそう―――だそうだ」<br /> 「確かに、あの男……いや、あの連中はそういう方向に肩まで浸かっているな」<br /> 悪そうな笑みを浮かべるが、悪意はないようだった<br /> その証拠に、次には肯定的な台詞を吐く<br /> 「だが、そうでもしなければ仕事にならんだろう、あくまでやつらに勝つために、そういう趣向のシナリオも用意している……そうでもしなければならない相手だ」<br /> 「経典の類の内容を再現してくるなどという馬鹿な真似をするとすれば、それは奴らの方だ―――」<br /> 黙って話を聞いていた別の男が、年のためかしわがれた声で忘れかけていたことを掲示してみせる<br /> 「―――我々と学者連中が、この一年足らずの間に導き出した仮説にのっとればな」<br /> EIEやIUEITAなどの各種機関が公に創立される前から、空から降ってくるであろう存在を感知していた国連<br /> そして、それらが地球に及ぼした微弱な影響や、その行動を下に、その目的やそれ以降の動きを、ある程度予測しておく必要があった<br /> 実際に落ちてくるまでは何とも言えない状況ではあったが、その予測が現実となりつつある現状を前にして、この男の声もこわばる<br /> 「……もっともだな、大体、仮に目の前に本物の神が降りてきても、跪くことすらしないような人間しか、この仕事には参加していないことだし」<br /> 嫌味の様にも聞こえなくなかったが、本人は自身の言葉を他人がどう受け取るかよりも、襟元の形が気になるらしい<br /> 第一、彼の言うように、宗教を信じているというだけでこの役職につくのは難しかった<br /> 「まったく……映画に出てきたような科学技術に頼るエイリアンたちが、地球を焦土にして去っていくほうがずっと楽だというのに…」<br /> 「あれは神だよ、能力的にも性質的にも、そういって差し支えないのだ、くそ!」<br /> 明らかに何かを危惧するといった声で、必死とも取れる内容の文章を吐き出す<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a789" name="a789"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">789</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:22:21 ID:???</font></dt> <dt>「神か…計画の秘匿名称の由来事態、相手が神だと認めているようなものだな」<br /> 「アメリカのな……キリスト教徒といい、イスラム教徒といい、どちらも邪魔ばかりする」<br /> 「仏教は?」<br /> 「さあな―――敬虔な仏教徒というのを見たことが無い」<br /> 「そういう意味では、“A”計画という秘匿名称……というか、あれは計画の意味そのままか」<br /> まだ続けようとしたところで、別の誰かが代弁する<br /> 「確かに、宗教的なものは感じさせないな」<br /> 「“控訴者達(Appelat`s)”計画か……案外、あの連中ならどんな判決が下ろうとも、不服としないかもれないな」<br /> それをまた誰かが笑う<br /> 「元から我々は、どのような判決が下ろうとも、控訴なんぞする気はさらさら無い」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a790" name="a790"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">790</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:23:11 ID:???</font></dt> <dt>「計画名が“最後の審判(Doom)”だしな、誰がつけたんだ、こんな名称?」<br /> 本当に不思議そうな声を上げる<br /> 屈み込んだせいで、彼の浅黒い顔がパソコンのディスプレイに照らされる<br /> 表情は特になかった<br /> 「仮説が正しいとしたら―――おそらくは、そのとおりなのだろうが―――やつらの行動は絞られてくる<br /> 「となると、場合によってはこちらの攻撃への報復を行い、最悪全面核戦争による殲滅戦もありうるが―――」<br /> 続けようとしたところで、パソコンの前の男が口を開く<br /> 「それは無いだろう、彼らが火器を持ち出さなかったことがそれを証明している」<br /> 「ただ可能性は十分にある」<br /> 「とりあえず、アメリカとロシアを捨てて様子を見ることになったが―――」<br /> やるせない表情を見せる数人の同僚の顔を見て、多少言葉にオブラートをかぶせればよかったと後悔するかのように、一瞬口を閉める<br /> 「―――とにかく…まぁー、忙しくなるな」<br /> 結局曖昧な言葉で締めくくって次の人間に発言権を譲る<br /> 「国連軍の類があればいいんだが」<br /> 「国連軍? そんなもの無い方が良いさ、あったら“戦争”だ!」<br /> ポケットから手を出しながら、一人の老人が声を荒げる<br /> それに驚くことすらしない委員たちは、諭す風でもなく、呟くように話を進める<br /> 「安心しろ、これは戦争ではない、それは何も知らない連中がやることだ」<br /> 「不謹慎かもしれんが、我々がするのはただのゲーム。ルールは簡単、有るのは勝利条件のみ!」<br /> 若干誇るような口調で喋る<br /> 表情もそれに合わせて変化しているのだろうか?<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a791" name="a791"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">791</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:24:10 ID:???</font></dt> <dt>「その勝利条件も簡単だな、人類という駒が“残って”いれば良い」<br /> 「そのあたりは専門外だがな、我々の仕事はあくまで国家の総意を動かすことだ、どういうことをやるかは連中が決める」<br /> 「にしては、やつら自身、忙しなく動き回っているがな」<br /> 要するに、お互いの領分を互いに侵しあい、いざこざを繰り返していることに他ならない<br /> 人類が一致団結するなどという妄想は、彼らの脳に欠片も無いのだろう<br /> 「兵隊の数はこちらの方が圧倒的だが、イリーガルの数においては向こうが多い」<br /> 「奴らについても連中のほうがよく知っている、我々は所詮政治的なもの―――それも、人類同士のことに関してだ」<br /> 人と人との関係が、その共通の敵である者たちと人類の関係よりも、遥かに複雑で解きにくいものだ<br /> そう言いたげな彼は、ここに敵が干渉してきた場合のことを考えてか、憂いの表情を浮かべる<br /> 「あいつらに政治も何もないだろう」<br /> 「そう願いたいものだ」<br /> 「いっそのこと、全面戦争のひとつでも起こしてくれればよかった」<br /> 「勝てるなら良いが、どうせだったら出来るだけ機会が多いほうが良いと思うがね」<br /> 嬉しそうに脈動する声を聞いて、腹を立てたように低い声が聞こえる<br /> 「ギャンブルではないぞ、政治とは」<br /> 「政治じゃないだろう、これはむしろギャンブルに近いゲームだ、例えるならポーカー。ワンペアであがっても良いし、一思いにきってしまっても良い」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a792" name="a792"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">792</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:24:46 ID:???</font></dt> <dt>しばらく誰も口を開こうとせず、妙な間が続く<br /> 「………ワンペアすら出来ていないのが現状だ」<br /> 「というより、カードすらない」<br /> 「配られていないのか、配られたのに無いのかすらわからんが―――」<br /> 「急ぐ必要があるな、計画はやはり続けるべきだろう」<br /> 一瞬の沈黙<br /> しっかりとした議場でも起こり得るのに、まして議長のいない話し合いの場では、当然のように訪れるものだ<br /> 「決を採ろう」<br /> ノートパソコンを片付けながら、男が声を上げる<br /> 「計画続行を黙認するか、アドミラル・クズネツォフを動かすか……」<br /> この程度の会話を済ませただけで決を採ってしまうなど、全権委員と言えるのだろうかなどと考えるものもいたが、あくまで確認程度の意味合いしかない会議だった<br /> 「動かす必要はないだろう」<br /> 少しの間もおかず、前者に賛同する声が上がる<br /> 「だな、黙認すべきだ」<br /> 「空母を動かしたところで、フランスの一件と同じことになるだけだ」<br /> 「ヤクーツクで何かがあっても、奴らがすべて消してくれるだろうし、その後に続く核攻撃の影響もある―――」<br /> 「何も漏洩しはしない―――か…その通りだな」<br /> 「前者に賛成する」<br /> 「私もだ、黙認しよう」<br /> 「ははは、いっそのこと協力してみればどうだね?」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a793" name="a793"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">793</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:25:08 ID:???</font></dt> <dt>ふざけ半分の声だったが、決を取っていた男は生真面目に答える<br /> 「彼はそのうち嫌でも日本に帰ることになる、その間は我々がことを進めよう」<br /> 肩をすくめて見せ、すぐに全員が目礼を済ませてろくにない荷物をまとめるか、服装を正しつつ、扉へとゆっくり歩き出す<br /> 国連に設立された、人類最高意思決定機関の試作品、その基幹を担うはずであった中国を除く常任理事国と先進各国から選出された全権委員<br /> 本来その直接管理下に置かれ、その手足となるはずであった執行官と各種機関<br /> わずか一年足らずの間に計画され、ほんの数日で組織されたこれらの機関は、国連という枠組みをはずれ、各々の意志で動き始める<br /> 人類の為に―――その意思は共通のものではあった<br /> だが、どのような手段を用いるべきか、それは必ずしも一致してはいなかった<br /> そして、一部の機関の動きが、別の機関にとっての、公意義で言う敵となりうる要素であることは明白となりつつある<br /> だが、宇宙からの来訪者の動きよりも、それが味方と呼ぶに近いものであることも明白であった<br /> 人類の為に―――いったい何が最良の選択となりうるか、何のために其れを成すか、それすら未だ決めかねられている<br /> 彼らはそれぞれの思惑と、そういった個人の感情よりも優先される、それぞれの仕事を抱えて、会議室を後にしていった<br /> 問題なのは、保存か保管か現存か…はたまた存続か―――<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a794" name="a794"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">794</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:26:05 ID:???</font></dt> </dl><p><―――盗聴終了></p> <dl><dd><a id="a795" name="a795"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">795</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:27:17 ID:???</font></dt> <dt>―――鉛色の空から、大粒の水滴が地面に向かって叩きつけられて来る<br /> もはや車どころか、人通りすら殆ど見なくなったアメリカ合衆国の首都近郊は、軍用車両が時折姿を見せるだけの、ゴーストタウンといった様相を呈している<br /> 「録音は終わりましたか?」<br /> 車の中はいたって静かだった<br /> 運転手も乗客もスーツ姿で、どこかの会社の重役と、それを運ぶ取引先の人間を思わせた<br /> 軍用車両の中であることを感じさせるのは、せいぜい併走している装甲車の姿程度だろうか<br /> 「いいのですか? 公式のものではないといえ、全権委員たちを盗聴するなど―――」<br /> 「いいんです。もとはといえば私も全権委員の一人ですし、なまじ、佐藤を名乗っているのだから会議の内容を聞かせてもらうくらいは…」<br /> 「盗聴はそれ自体が罪を問われますが」<br /> 「…相原君」<br /> 「盗聴は警視庁勤務のころに君もやってたでしょうに、偉そうな事言わないでください」<br /> 「………」<br /> 佐藤がイヤホンを外して車に備え付けられている受信機に戻す<br /> 「それで、どう致しますか、盗聴器の回収は―――」<br /> 「いえ、必要ないでしょう……彼らは分かっていて盗聴器のチェックをしていないんだ」<br /> 「はぁ……」<br /> それでも心配でしょうがないといった表情の熊谷を横目に、佐藤はなにやら携帯をいじっている<br /> 「―あっ、どうも……久しぶりです。暫くしたらそちらに……おや、もう準備は終わった。それはまた………では後ほど―」<br /> ピッという聞きなれた電子音を最後に、誰も口を開かなくなる<br /> 佐藤は電話の内容を反芻しながら、なにやら考え込み<br /> 相原は黙ったままノートパソコンのディスプレイを眺めこんでいる<br /> 熊谷はといえば、ハンドルを握る手以外、微動だにしない<br /> 「―――あ、熊谷君…そこらへんの売店か自販機で、缶コーヒーとサンドイッチか何か買って来て下さい」<br /> 「申し訳ありませんが……開いている店を探すこと自体が至難かと」<br /> 別段残念そうでもない表情の佐藤だったが、いやな予感がするといった風の熊谷の反応は無駄にはならなかった<br /><br /> 「ドーナッツでもいいので探してください、まだ便が出るのに時間はあるので」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a796" name="a796"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">796</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:43:06 ID:???</font></dt> <dt>これまでのおさらい<br /><br /> ―――宇宙から何か落ちてきて困ってる<br /><br /> 全権委員`s、ジャックとヨシュアの皆さん→「もういい加減面倒くさくなってきた」<br /> 人類最高意思決定機関(仮名すら無し)→「その本来のたいそうな名前も、最初から最後までお飾り」<br /> 佐藤→「こんな仕事になるはずじゃなかったorz もう帰りたい9<br /> 執行官`s+書記or秘書官`s→「右に同じ」<br /> 教授`s→「研究はしたい」<br /> 国家元首`sと愉快な仲間たち→「○○国が…我々の祖国が……」<br /> 軍人→「敵は宇宙人だ!」<br /> イレギュラーな軍人→「人間の敵は、所詮人間だ!」<br /> イリーガルな軍人→「この捕虜って人体実験に使うらしいよ」<br /> 被験者のみなさん→「私は何か…されたようだ……」<br /> EOLT(低度個体)→「………」<br /> EOLT(高度個体)→「―――」<br /> EOLT(高度すぎて人と話せる個体)→「……話す相手すらいませんね」<br /> OMNI(製作者)→「   」<br /> 神様→神は沈黙するのみ<br /></dt> <dt><br /></dt> <dt><a><font color="#0000FF">797</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:52:46 ID:???</dt> <dt>組織構成<br /><br /> 「   (名称無し)」<br /> ↓        ↓   ←上がないので、委員会と国連は=じゃない<br /> 「全権委員会」「国連」<br /> ↓        ↓   ←全権委員は実際この辺、国家の代表程度<br /> ↓       「国家」<br /> ↓            ←このあたりに執行官その他<br /> 「各種計画推進機関」←頑張る<br /> ↓<br /> 「末端機関」      ←名前すらないのにとてもよく頑張る<br /><br /></dt> </dl><p><a id="a798" name="a798"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">798</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 16:03:36 ID:???</font></dt> <dt>役職<br /><br /> 全権委員:偉いことになってる人たち、国家とすっかり仲良くなった国連の人なので権限は絶対。一番多い苗字or名前<br /> ジャックとヨシュア:国連のリモートコントロール型手足。聖書に由来したりと、凝った偽名<br /><br /> 執行官:特務から一般まで、いろいろな人間の自立型手足、よく勝手に動くので迷惑この上ない。偽名、佐藤さん<br /><br /> 政府首脳部:一番可哀想な役職。実際の名前を捻るor適当、たとえばエドワーズ大統領→エドワード大統領<br /> 軍上層部:一番犠牲者が出る役職。実際の名前を捻るor適当<br /><br /> 書記・秘書官:執行官専属の部下、最低一名で通常は二名付く。偽名、相原や熊谷、命名規則は特に無し<br /> 教授:執行官などとつるんでいろいろと頑張る人たち。偽名、命名規則は特に無し<br /> 担当官:各種事件や計画にくっ付いて来る。偽名、種類によって命名規則が存在<br /> 事務官:事務担当の割には現場へ出張ってくる。偽名、命名規則はあってないようなもの<br /> 武官(?):そもそも全員がこれみたいなもの、下っ端で使い道の少ないSP。名前を呼ばれることすらない<br /><br /></dt> </dl><p><a id="a799" name="a799"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">799</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 16:09:16 ID:???</font></dt> <dt>マルタンは全権委員、チャーリーはエシュロン担当官<br /> 佐藤は外務省出なこともあり、何かの手違いで委員と執行官を兼任、国家と国連の両方に振り回される<br /><br /><br /> そんなところ<br /><br /> 役人根性とは言っても、この状況を前にラリっている感は否めない<br /></dt> <dt><a><font color="#0000FF"><br /> 841</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:10:57 ID:???</dt> </dl><p><“ロジャーズ1”より“スチーム・リーダー”。下の連中はポイントL4を通過したぞ><br /><br /> <了解“ロジャーズ1”、引き続き警戒と監視を続けてくれ><br /><br /> ・・・ニューヨーク―――あまりに変わり果てたその姿は、今いったいどこに自分がいるのか、そこに住んでいる者でさえ確信が持てないのではと言うほど、ひどい有様だった<br /> ビルは崩壊し、電柱は捻じ曲がり、高速道路は裏返しにされ、アスファルトは捲れ、戦車や乗用車は潰れ、道はそれらの破片や残骸で覆い尽くされていた<br /> そして目に付くものの中でもっとも強烈なのは、死体の山―――ばらされた人形にぼろきれを掛け、その上にケチャップをぶちまけた様な何か―――は<br /> 腐った魚の内臓に似たヘドロから、魚のそれに数倍し、嗅覚に壊滅的な打撃を与えるであろう、下水道の中のような腐臭を漂わせ、寝そべっているかのように街中に広がっていた<br /> それは、障害物を避けるために時折進路をくねらせながら、制限スピード未満でノロノロと進む軍用車両の中に、ゆっくりと浸透してきていた<br /> 〈“ロジャーズ1”から“ベイビーズブレス”。状況を報告しろ〉<br /> 上空を飛行する航空機からの通信は、これ異常ないというほどの感度で、車両群の内、先頭を進む一両の運転席に響き渡る<br /> あまりに凄惨な光景と、過ぎ去った地獄を象徴するさまざまなオブジェクトを目の前に、ガムを噛む口の動きを止めたままの車両乗員は、その問いに答えない</p> <p><a id="a842" name="a842"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">842</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:11:53 ID:???</font></dt> </dl><p>上空を飛行する航空機…米空軍の最新鋭戦闘機であるF-22ラプターは、その巨大な翼で大気を切り裂きつつ、彼らの上空を飛行していた<br /> そのパイロットは、応答が無いことを不審に思い、機体を左に大きく傾け旋回、監視対象の車両群を視認する<br /> なんら異常が無いように思えるその姿を確認し、ほっと胸を撫で下ろし、叩き付ける様な声で再び運転手を呼び出す<br /> 〈聞こえねぇのかッ! ベイビーズ(赤ん坊共)――――!!〉<br /> 我に返った運転手は慌てて無線機に目をやり、そのすぐ後に、本来それに出なければならないはずの助手席の兵士に声を掛ける<br /> 「…早く出ろ、ダニー」<br /> 反応は無く、口を開けたまま、外の参上をぼうっと見ているままだった<br /> 〈おいッ! どうなってる!! 何かあったわけじゃねぇだろ!?〉<br /> 「ダニエル上等兵ッ―――!!」<br /> ほぼ同時に二人から怒鳴りつけられ、ハッと我に返り、無線機を手に取る<br /> 慌てているせいで呂律が回らない彼の声が、F-22機内に響く<br /> 〈こっ、こちら“ベイビーズブレス”、な、何も異常は――ない、何も――――無い、問題ない―〉<br /> その上、ガムが口の中にいることもあり、声は聞き取りにくいものだった<br /> それを聞くロジャーズ1こと、F-22のパイロットは、司令部には聴こえないのを良いことに、罵声のひとつでも浴びせようとして口を開き、すぐに思い止まる<br /> 「っ…了解―――」<br /> 今まで不審そうにそのやり取りを聞いていた随伴機のパイロットが質問を投げかける<br /> 〈こちら“ロジャーズ2”、いいんですかね、極秘任務をあんな連中任せで〉<br /> 「知らんな…まぁいいさ、無線での私語はこれで止めるぞ少尉」<br /> 〈了解しました、中尉殿〉<br /> 陸海空問わず、戦域を支配する者―――地球最強の猛禽類<br /> アメリカ合衆国の先進戦術戦闘機、世界最高の技術と資金の結晶、最強の道具にして最高の芸術品<br /> しかし、それに搭乗するパイロットは、せわしなく周りを見渡し、明らかに何かに怯えていた<br /> 地球最強の猛禽が、果たして地球外から飛来した存在に、打ち勝つことができるのだろうか?<br /> その事だけを考え、彼らは宙を舞っている…</p> <p><a id="a843" name="a843"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">843</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:14:22 ID:???</font></dt> </dl><p>―――“ベイビーズブレス”隊、ポイントL4通過から14分後<br /><br /> ・・・景色は変わり始めた、不思議とこの一体だけは、建物に損壊が少なく、道路にも砲撃であけられた穴はない<br /> もちろん偶然ではない、この都市の一区画は、事前の取り決めによって砲撃されないように、決められていた<br /> ある場所を―――ある者を守るための取り決め、別に兵力を配置するわけでもなく、ただ砲撃や爆撃をしないだけだったため、何の問題もなくどの部隊も受け入れた<br /> もっとも、この場所の存在に気づいた、あるいは予測していた中隊規模の敵が、そこを足場にして、延べ一個師団を消滅させた事実もあるのだが<br /> その中を、今までの数倍のスピードで次のポイントへ向かう車両の群れは、全部で僅かに5台、先頭車両には重機関銃と通信アンテナが付いていたが、残りはただのハーフトラック<br /> とても“敵”と戦闘が出来る様な編成ではなかった<br /> そして、その車両に乗っている兵士たちの装備も、とても“敵”に対抗できるような物ではなかった…一人を除いて<br /> 「重装弾狙撃銃(ペイロードライフル)か……すげぇ銃持ってるな」<br /> その一人の装備に疑問を持ったひとりの兵卒が、当たり前の反応を示す<br /> 25mm対物小銃(ライフル)、対施設・対航空機、あるいは資材破壊用の、装甲車の側面装甲すら場合によっては撃ち抜く、歩兵が携帯可能な小火器<br /> しかも、予備弾倉から僅かに見える“砲”弾の帯の色―――<br /> 「おまけに強化装薬弾か……何を撃つつもりだ? やっぱりあのモンスター共か?」<br /> 冷やかすような口調だったが、表情は至って険しかった<br /> もっとも、それを聞く男の顔は、険しいどころか、無表情極まりなかった<br /> 反応は無かったが、それでも質問を続ける<br /> 「その銃を持ってるってことは、特殊作戦軍だろ。あんた……所属どこだ? デルタか? シールズか?」</p> <p><a id="a844" name="a844"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">844</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:21:35 ID:???</font></dt> </dl><p>「止さないか上等兵。彼は国防総省から派遣されてきたのだぞ」<br /> 小隊長は、男の気分を害さないかと気に掛けながら、控えめの声で注意する<br /> 「分かりました、中尉」<br /> 上等兵はすぐに上官に対する態度に切り替える<br /> 国防総省から派遣されてきたこの男の階級は分からない、だから別にどのような接し方をしてもいい<br /> だが、国防総省から派遣されたからこそ、そう悪い扱い方も出来ない<br /> 彼への対応の仕方について、階級の低いものは基本的に前者、階級の高いものは後者の考えにいたる事が多かった<br /> 幸い、男のほうはどちらに対してもろくな反応を示さなかったので、特に問題は起きていなかった<br /> 本当に訳の分からない男だった<br /> ただ、国防総省からお墨付きで送られてくるようなエリート武官で、身体能力洞察力、とにかく異常だと言う事だけ分かっていた</p> <p><a id="a845" name="a845"></a></p> <dl><dt><a><font color="#0000FF">847</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:25:01 ID:???</dt> </dl><p>「中尉殿! ポイントL5、目的地です」<br /> それを聞くと同時に、全員が銃を抱き寄せ、ずれていたヘルメットの位置を正す<br /> 「OK! GO、GO、GO、GO!」<br /> 車両が停止すると同時に一人の下士官が大声で叫びたてる<br /> 注意もそれに続いた<br /> 「散開しろ! 動きを止めるな、第3分隊は裏を固めろ!!」<br /> バタバタと足音を立てながら数十人、二個小隊ほどの兵士たちが、目的地となる、20階建てほどのビルに向かって走っていく<br /> さして高いビルでもなかったが、周りには不思議とそれより高いビルもない<br /> いや、有ったのかもしれないが、すべて消えてしまったのだろう<br /> そう、すべて消えてしまった、もはやニューヨークに“跡地”の二文字が着きそうな、ゴーストタウン、いや、もっと酷い様相を呈している<br /> そんなことを気にも留めずに、兵士たちは建物への突入準備を整える<br /> 今まで“敵”と遭遇はしなかったが、建物の中に潜んでいないとも限らない<br /> 実際は、地下鉄など地下に居るのだが、そんなことを知る由もない彼らは、あらゆる可能性を考慮し、警戒している<br /> もっとも、それが無駄なことだと言うことは、薄々感づいているだろう</p> <p><a id="a848" name="a848"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">848</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:25:58 ID:???</font></dt> </dl><p>数十万の将兵―――合衆国陸軍と周辺州兵に絶望的な被害を与え、海兵隊、海軍と空軍の地上要員も、僅か2回、時間にして数時間で死傷させた<br /> 更には数百万の民間人を虐殺<br /> それも事故に近い形で殺されたものだけでこの数値<br /> 彼らがその気になって進攻して来れば、兵力の大半を一失した米軍は、数千万単位の虐殺をただただ見守ることになるだろう<br /> それを、僅か数万、あるいは数千の個体を投入するのみで可能とする、総兵力100万の地球外起源生命体群<br /> そんなものとの戦闘になれば…いや、戦闘にすらならないだろう<br /> 彼らが襲ってくれば―――例え最小・最弱クラスの個体一体であっても、小隊程度はものの十数秒、下手をすればそれ以下で皆殺しにされる<br /> …そのためには散開し、分隊ひとつが1秒で粉砕されても、移動に5秒ほど時間をロスしてもらう様、しなければならない<br /> 例え一人でも生き残って、持ち帰らなければならない<br /> そういう任務だった</p> <p><a id="a849" name="a849"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">849</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:27:29 ID:???</font></dt> </dl><p>「貴方はここに残って下さい」<br /> 中尉の声を聞いて、男はようやく口を開く<br /> 「私が行かなければ意味がないだろう」<br /> 「ですが…危険です。このロケーションは、何が原因で連絡を絶ったのかも分からない場所で、しかも―――」<br /> 「奴らが居た」<br /> 面倒そうに声を割り込ませ、話を省略させる<br /> 「そうです。明らかにこちらの意図を知って、2回目は予測してここに来ていました。その過程で、すでに対象が死亡している可能性も…」<br /> 思い止まらせようとしたものの、まったく躊躇せずに男は返答する<br /> 「行かせてもらう」<br /> 「……分かりました」<br /> 仕方なく折れた中尉は、それでも心配げな口調で、出来るだけ単独で行動しないように告げる<br /> そこまで慎重になる理由は単純だ、兵士たちの中では、上を飛ぶF-22のパイロットを除いて、知っているのは彼だけだった<br /> (あの白衣やスーツ姿の連中、この男が死ねば…!!)<br /> 自分の行く末考えて、中尉は微かに汗をにじませる<br /> その表情の変化を見逃さなかった男は、いい加減にしろとばかりに口を開く<br /> 「私ではない、あの女だ」<br /> 「え?」<br /> 突然の発言に、思わず間抜けな声を漏らしてしまう<br /> 「私が死ぬことは重要ではない、問題なのはあの女だ、あの少女一人のためのものだ」<br /> 「?…それはどういう…」<br /> 「天然物と、養殖物のでは価値が違うだろう…私は作られたものだが、あの少女は一年前に“発見”されたものだ」<br /> 「は…ぁ…」<br /> どこか遠くを眺める男の顔を見て、自分が知らされていないことに対する疑問と不安を感じる中尉<br /> (さっぱり訳がわからん……何かいやな予感がする。そもそも、このロケーションでは何が起こったのかすら…どうすれば―――)<br /> わからない、が、とりあえずは与えられた命令を遂行するまでだ<br /> 彼はそう思い、男に「それでは」と、一言わかれを継げ、指揮車両へと駆け寄り、ビルの設計図に目をやりつつ、部隊配置の指示を出し始める<br /> 助手席に居た兵士など、残っていた数人も、その後に続いた</p> <p><a id="a850" name="a850"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">850</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:31:08 ID:???</font></dt> </dl><p>―――ポイントL5にて突入部隊展開開始。前線指揮所“スチーム・リーダー”<br /><br /> 小規模な野戦陣地といった前線指揮所のひとつに、今回の作戦の指揮官たちは集まっていた<br /> テントの中にはいくつかの折りたたみ式の机が置かれ、その周りを椅子が覆っている<br /> もっとも、椅子に座るのはPCや無線機の操作を行うオペレーターだけなので、警備兵と同じく、指揮官たちも立ち尽くしている<br /> 「作戦は順調のようですな、少佐殿」<br /> 「ああ。ただ、この後どうなるかが重要だがな」<br /> 机の上に広げられた二枚の地図―――作戦領域周辺を含む、50km四方を移した地図と、目的地をクローズアップした、中尉たちの持っていたものと同じ地図が置かれている<br /> 前者にはルートと各ポイント、それに上空哨戒機と周辺警戒を行う分隊が書き込まれ、後者はビルと、その周辺―――配管や水道などの構造が書き込まれている<br /> 「ケイト、セキリティが作動した形跡は有るか?」<br /> 「駄目です、セキリティは完全に死んでいます。それと、監視カメラは外部のものがかろうじて機能している程度で、まったく状況を確認できません」<br /> 白黒の砂嵐ばかりが表示される画面を見ながら、オペレーターは首を振る</p> <p><a id="a851" name="a851"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">851</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:32:14 ID:???</font></dt> </dl><p>「さて、一体何が起きたのかな」<br /> 「反乱の類…は、考えられませんからね。被験者が壊れたのだとしても、警防一本で止められる」<br /> 大尉の階級章をつけた、副官らしい男の声に、少佐は無言でうなずく<br /> 「となると、やはり“奴ら”の攻撃でしょうか?」<br /> 「何か引き付ける“者”があった……いや、居たのかも知れんな」<br /> そういって、少佐以外の3人の士官は、互いに目を見合わせ、緊張をあらわにする<br /> 「とにかく、そういったものが有るとすれば、連中が再び攻撃を掛ける可能性が十分にある」<br /> 少佐の意見に肯きながら、一人が地図を指差し、現状を再確認する<br /> 「要するに、セキリティがすべて死んでいる今、このビルのどこに何が在るか、居るか、まったく検討も付かないと言うことです」<br /> 「これだけ状況が悪いと分かっていたら……もう1個小隊は付けておくべきだったか」<br /> 「いや、佐藤殿はこの件に関しては嫌にご熱心だ、F-22を回してくれたほどだしな」<br /> サー・サトーなどと言う嫌に間延びした、発音しにくい名前を口にする<br /> 本人はこの略称を嫌がっているのだが、佐藤執行官(エクシュキューシュナー・サトー)の名を、こういった場で使うことは無い<br /> 「あの女の事だろう、アレはそれだけの価値がある者らしいからな」<br /> 「シベリアの方で進めているらしい“何か”と、関係が?」<br /> 今まで発言していなかった、四人目の士官が、設備・人員をヤクーツクに集めていたことを思い出して口を開く<br /> 「いや、あのことと、件の被験者は別物らしい…そもそも、あの少女がここまで重要視される理由は、純粋な適正の高さではないからな」<br /> 「例の能力で?」<br /> 大尉が声を低くする<br /> 「そうだ……あいつだけは、秘匿名称としてのそれではなく、真の意味での“ESP”だからな」</p> <p><a id="a852" name="a852"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">852</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:33:55 ID:???</font></dt> </dl><p>吐き捨てるように言う少佐の目には、明らかな憎悪の感情が見て取れた<br /> 初期の検体の特徴を、それら全てに共通するものだとして、不適当な呼称を与え、浸透させてしまう<br /> まったく合致しないと言うわけでもないから使われ続けているが、こういった辺りにお役所仕事としか言いようのない現状が垣間見える<br /> 取り仕切るのも役人で、仕切られるのも役人<br /> 専門的な知識を持つものは当然のように信用されず、引き込まれるか使い捨て―――“消す”などという、非効率的な行動に走っているわけでもないが<br /> 「仕方ないでしょう、時間がなかったのですから…ほんの一年間でこれだけのことをする必要があった、むしろここまで上手く言っているのは奇跡に近い<br />  それとも、非人道的なこの件に関しての不満ですか?」<br /> 耳障りなスーツ姿の女の声に、士官たちは振り向く<br /> 中肉中背で足が長く、胸のサイズ以外はスーツを着ることに関してマイナスになる要因はなく<br /> また、タイトスカートではなくパンツタイプで、睨むような目つきといい、組んだままの腕といい、より気を強く見せるという意味でも、マイナス要因はない<br /> さっきまで入り口で携帯をいじっていたはずのこの女が、する必要もない弁明を、しかもはっきりとこちらが明言したわけでもないのにして来た<br /> ということは、どうせ何かを続けるつもりだろうと、士官たちは若干警戒する<br /> だが少佐は、ここまでして来たのだから、無視を決め込んでも無駄だろうと、遭えてそれに答える</p> <p><a id="a853" name="a853"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">853</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/03/20(木) 19:35:35 ID:???</font></dt> </dl><p> 「両方だ、担当官。どうかしている組織体制といい、上流階級の子女から余命いくばくもないホームレスまで強制的に実験材料にするやり方といい、この仕事に関することにはな」<br /> この話は半分近く嘘だった<br /> そう言った事に、あからさまな嫌悪感を示すような人間は、基本的に計画・作戦には参加していない<br /> 「この組織体制は急遽編成されたものであり未熟ですが、時間的にも、現在これ以上は望めません。被験者に関しては、軍の人間以外、強制的に計画に参加させた者はおりません<br />  不満や疑問があるというのでしたら、すでに送付させて頂いた資料に目を通し、こちらの状況や、このような行動を取るに至る経緯と、諸般の事情を理解していただき<br />  その上で、意見を筋道の通ったものとし、しかるべき機関・組織へ正式な―――」<br /> 「“ベイビーズブレス”、展開配置および突入準備、完了しました」<br /> 無表情に淡々と話す担当官は、同じく淡々と、しかし脈同感のある燐とした声の為に発言を中止する<br /> 「突入許可を求めています」<br /> 「今から20秒後に突入しろ」<br /> 「20秒後突入」<br /> オペレーターの復唱が聞こえるころには、全員が特に何かが写っているわけでもないモニターと無線機のほうを向いている<br /><br /> 「15………10……5、4、3、2、1―――突入―――――」</p> <dl><dt><a><font color="#0000FF">888</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 19:55:16 ID:???</dt> </dl><p>―――数分前、ポイントL5“ロケーション・チャーリー”<br /><br /> 《第3分隊も正面から行け、第5分隊は非常階段から3階に突入しろ…第6分隊の工兵共は下水で作業だ、全隊配置急げ》<br /> 〈こちらフリント。中尉殿、正面口のロック解除コードを〉<br /> 《フリント少尉、C4をセットしておけ》<br /> 〈了解、中尉殿〉<br /> 〈こちら正面口突入隊。中尉殿、嫌に静かです…探り撃ちを入れてみては?〉<br /> 《ビビるな、何か重要なものがあるかも知れないだろう、その何かが壊れたら困る》<br /> 〈おい、なんだあれ―――ああ畜生! なんだよもう!!〉<br /> 《オープン(全周波数)で私語をするな馬鹿ヤロウッ!!》<br /> あまり関係のない問答を交えながら、中尉は地図に印をつけつつ無線機に怒鳴る<br /> ビルを囲む形で、目立たぬよう展開していた各分隊が、指示を受けるごとにひとつまたひとつと突入ポイントに向かう<br /> いやに慎重な行動に出ているものの、すでに、ほぼ突入準備は完了していた<br /><br /><br /><a id="a889" name="a889"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">889</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 19:56:45 ID:???</font></dt> </dl><p>〈こちら第6分隊、地下端末にアクセスコードを入力。いつでも接続できます〉<br /> 下水で作業中の、工兵で編成された第6分隊…何故か、これだけはオープンではなく、専用周波数を使っていた<br /> その上、この通信を聞いているのは中尉のみであり、胸のポケットから資料を引っ張り出して、一人で受け答えをしている<br /> 「セキリティは死んでる…接続できる状態のままにしておけ」<br /> 〈了解〉<br /> 無線機で中尉以下、数人の下士官たちが受け答えと、地図への記入などを行っているが、あまり楽しい作業ではないようだった<br /> 「何といいますか、やはり勝手が違いますね、中尉」<br /> 中尉と同年代と思われる中年の少尉が、頭を掻きながら愚痴を言い始める<br /> 「普段ならATMをぶち込んで穴を開けたら、高性能爆薬か黄燐弾投げ込んで終了なんですが……」<br /> 一兵卒からの叩き上げを思わせる裂傷の痕の有る顔と、落書きとしか言いようのない、マジックで施したダイナマイトのエンブレムに合った発言だった<br /> 「勝手は変わらない、ドアを開けて索敵をして、何が起こったのか調べる。湾岸で敵が居たはずの家屋の中をあら捜しするようなものだ」<br /> 「まるでS.W.A.T.ですな」<br /> 自嘲っぽい笑いを浮かべている少尉に、中尉は嘲笑を返す<br /> 「我々があの役立たずどもと一緒だと?」</p> <dl><dd><a id="a890" name="a890"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">890</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 19:57:31 ID:???</font></dt> </dl><p>「はははっ、我々は座っている訳にはいきませんからな」<br /> 控えめの笑いを聞き終えた後、再び表情を切り替え、本題に戻る<br /> 「どうします?」<br /> 「アクセスコードを入力してもセキリティが死んでいてはな……探りを入れたいところだが、そういう装備もない―――」<br /> とは言っても、爆発物などのトラップがあるわけでも、待ち伏せが居るわけでもあるまい<br /> そう考え、少し間を空けてから指示を出す<br /> 「―――さしあたって、突入準備は完了した…と、伝えろ」<br /> 「了解」<br /> 無線で指揮所に向かって、突入準備完了の旨を伝える<br /> それを見ることもせず、中尉の方は別の無線を使って時計合わせを行う<br /> 「時計合わせ、1232時…………スタート」<br /> 「20秒後突入」<br /> 時計合わせ終了と同時に、少尉が指揮所からの指令を伝える<br /> それを聞き、真剣な表情で腕時計を見つめながら手に無線機を握り、しばらくしてそれを口元に運ぶ<br /><br /> 「―――全隊突入ッ!!」</p> <dl><dd><a id="a891" name="a891"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">891</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:00:10 ID:???</font></dt> </dl><p>各分隊長の持つ無線機に、突入の指示が届き、それを聞いた分隊長、あるいは数人のそれを束ねる人間が合図を出し、分隊を動かす<br /> いっせいに各分隊が行動を開始しただろう、ある分隊は正面から、ある分隊は裏口から、ある分隊は非常口から、6個分隊計75名が突入し始める<br /> 部隊は通常の12名編成の小銃分隊2個、それに士官―――といっても、“准”が付くものも混じっている―――が一名同行している分隊が3個、それと工兵分隊1個だった<br /> 地下に向かった工兵分隊を除いて、後者がいくつかの分隊を束ねるか、独立した部隊として行動している<br /> 「第3分隊、先頭を先に行け。第2分隊は俺の後ろ、残りは制圧まで待て」<br /> そのうちの正面から突入する隊―――全3個分隊37名のそれ―――は、動かなくなった自動ドアに付けた、ガムのような爆薬に埋め込んだ信管を作動させ、爆破する<br /> 「よぉし! 行けぇッ!!」<br /> 兵士たちは一斉に立ち上がり、正面入り口の両側にいる二つの分隊のうち、外から見て左側で待機する第3分隊が、中腰で中に駆け込む<br /> ダットサイト付のM4A2自動小銃を、顔のすぐ前で構え、ヘルメットを深くかぶった兵士たちの表情は伺いにくい<br /> だが、戦場で感じる昂りと緊張以外にも、恐怖に似た―――いつものそれとはどこか異質な―――感情から、目を見開き、必要以上に周りを注視している<br /> 今までのそれとはまったく違う存在と敵対している…という恐怖なのか、それともまったく別の“何か”なのか、そんなことを脳内で反芻しているものもいた</p> <dl><dd><a id="a892" name="a892"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">892</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:01:15 ID:???</font></dt> </dl><p> やがて正面入り口から廊下の突き当たりまでと、受付のような場所を確保した第3分隊はいったん動きを止め、それを見た正面口突入部隊の小隊長でもある少尉が腰を上げる<br /> それに続いて一人ずつ腰を上げ、先に侵入した分隊よりはゆっくりとした動きで正面入り口から奥へと進む<br /> 「クリアだ」<br /> 少尉がそう小さく言うと、後ろから続いてきた兵士たちが第3分隊員の肩を叩き、叩かれたものは次へと進み、叩いたものがそのポジションに就く<br /> そうしたことを繰り返していくうちに、徐々に人手が足りなくなるが、あらかじめ指定いておいた部屋の確保が終了すると同時に動きが止まり<br /> 「クリア」<br /> 「クリアっ!」<br /> 「クリア」<br /> と、各分隊をさらに細分した班の長が口に出す<br /> その声を聞いた入り口付近の兵士が手で合図をし、残りこと第1分隊が流れるように動き出す<br /> 「1階入り口付近制圧」<br /> 無線兵が中尉たちのいる指揮車両に一言告げる<br /> 〈3階非常入り口付近、および階段制圧〉<br /> 〈東口付近、および階段制圧〉<br /> 他の突入隊からの声が聞こえてくる<br /> 《一階の制圧完了を確認。警戒しつつ、上階を制圧せよ》<br /> 中尉が先刻とは別人かのような声で指示を伝えてくる<br /> 「正面口突入隊了解」<br /> 〈第4分隊了解〉<br /> 〈第5分隊了解〉<br /> 各隊が返答し終わった後、中尉は一間置いて、多少こわばった声で指示を追加する<br /> 《なお、工兵隊は現在下水道にて電源復旧作業中だ。3階までの制圧が完了した後、電源回復まで待機せよ》<br /> 〈〈了解〉〉<br /> 「了解」<br /> 無線機を戻すのを見て、少尉がゆっくりと近寄り、口を開く<br /> 「どうだ?」<br /> 「工兵が作業に手間取っているようです…ね……このまま3階まで行って待機です」<br /> 少尉は簡単な身振りで「呆れた」ということを表し、それを返答として他の部下に指示を伝える<br /> 「東口から入った連中と合流しだい上に上がるぞ、ジェイク伍長とコーネリアス軍曹の班はここに残れ。ただし、制圧が完了するまでは警戒を怠るな」<br /> 「了解」</p> <dl><dd><a id="a893" name="a893"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">893</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:02:02 ID:???</font></dt> <dt>「了解しました」<br /> 返答を聞くと同時に分隊長と視線を交わし、分隊長は行動再会の旨を伝える<br /> 再び流れるような動きで、兵士たちは一部屋一部屋確認しつつ、階段から上階を目指す<br /> 「少尉殿…」<br /> 動揺を隠しきれないといった様子のコーネリアス軍曹が、心配そうに少尉に声をかける<br /> 「ああ、考えるまでも無く異常だ」<br /> 何を言いたいのかを悟った少尉は、本題に入らせようと唐突に切り出す<br /> コーネリアスもその対応を予測していたようで、いたって普通に応答する<br /> 「調べてみるともっと異常ですよ…これは」<br /> と言って、コーネリアスが足元の何かを足で突く<br /> 「死体を足蹴にするな」<br /> 「すみません」<br /> 足元にある、どこか当たり前のように転がっている幾つもの死体…死後一日程度だろうと思われるが、色は僅かに紫色が混じっているものの、どす黒く染まっている<br /> 死臭こそするが、腐臭はしない、ハエの一匹もたかってはいない―――そもそも、昆虫…いや、虫の一匹すら見かけない<br /> 「で? どう異常なのだ、軍曹」<br /> 「はい、この死体はすべて窒息…まるで溺死したかのような状態です。絞殺でもガスによって死んだのでもなく、息ができずに死んだ」<br /> 「………」<br /> 足元の死体は、目と口をだらしなく開き、死から逃れようとした形跡は見て取れない<br /> 奴等なら、こういう殺し方ができるのだろうか?<br /> 「それと、他に数名が自殺しています」<br /> 通路の突き当たりの椅子に座っている、頭から血を流している白衣の女の死体を見ながら、コーネリアスが言うのを見て、ため息交じりに少尉が質問する<br /> 「他も拳銃自殺か? それとも服毒か?」<br /> 「拳銃自殺も一名います。が、残りは全員壁に頭を打ちつけるか、自分で首を絞めて死亡しています」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a894" name="a894"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">894</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名(ry</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:02:41 ID:???</font></dt> </dl><p>少尉が目を見開き、次いで足元の死体を見て、軽く頭を抱えながら納得する<br /> 「ああ、驚かん、驚けんよ、こんな者がすでに出てきているし―――」<br /> 「前例がある」<br /> 発言が遮られた事と、自分の部下の声で無いと感じた少尉が、あわてて振り向き、コーネリアスは銃に手をかける<br /> 「―――あ、あなたは…」<br /> 正面入り口の階段に足を乗せながら、男は再び口を開く<br /> 「前にもこういったことが起きている。それだけ言いたかった…」<br /> ペイロードライフルの引き金に指を乗せ、本当にいつでも撃てるようにしているこの男の顔を見て、少尉は思わず姿勢を正す<br /> 「す、すみません。声をかけようと思ったのですが」<br /> おどおどとした様子で、男の後ろにいる兵が弁解する<br /> 「構わん……どうします? このまま我々と―――」<br /> 「いや、3階に行かせてもらう、そこにだけ用事がある」<br /> もうすでに少尉の目は見ずに、階段へと通じる廊下のほうを見据えているので、“用事”について追求することもあきらめてしまう<br /> 「では2名同行させます」<br /> 「………」<br /> 男の沈黙を了解とした少尉は、コーネリアスに軽く目線を流し、2名をピックアップさせる<br /> そのやり取りも無視して男は歩き出すが、ほんのわずかの遅れも無く、2名の兵卒がその後ろに続いた<br /> その姿が通路の曲がり角で消えるのを確認した少尉は、いやに鋭い目つきで部下のほうに向き直る<br /> 「軍曹」<br /> その一言で、軍曹は少尉の質問内容を理解した<br /> 「はい、無線の周波数はこちらのものに合わせてありましたので―――」<br /> 盗み聞きの準備は万端だと言うことまでは口に出さなかった</p> <dl><dd><a id="a895" name="a895"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">895</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">(ry</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:03:08 ID:???</font></dt> </dl><p>「こいつ等のようにはなりたくないからな」<br /> 前言を無視して、今度は自分の足で、床の上に寝そべる、きれい過ぎる観すらある死体の頭の辺りを突く<br /> この異様な状況のせいもあり、警戒心を覆い隠そうとする少尉の表情は、どこか焦りのそれを感じさせている<br /> (焦っている? 何を? あの男は、我々とはまったく別の―――!)<br /> そこまで考えて、少尉は根本的な問題をついつい掘り起こす<br /> そもそもあの男はいったい何者なのか?―――その疑問は好奇心へとベクトルを変えていき、同時に情報の少なさから不安を感じる<br /> (中尉も怯えていた。あの男…いや、あの男が来た意味を知ったとたん、そうなった)<br /> では、いったい何のために着たのか? その来た目的…その何かが、中尉たちを怯えさせている<br /> となると、その前例と言うのが気がかりになる…前例と同じ状況に恐れを抱いていた、ということなら、中尉たちは―――<br /> 「何か知っているのか……」<br /> コーネリアス以下、部下数名が少尉の様子に気がついて、何事かと注視する<br /> (…となると、考えたくは無いが―――)<br /> 考えたくは無いが、つい考えてしまいそうになり、その意思のとおり、無意味な感情を煽る思考を破棄する<br /> にらみつける事で、何でもないと部下に無言で告げ、ガムを口に放り込んで軽く音を立てながら噛む<br /> 忌々しげな表情を隠そうともせず、簡単な配置を指示して、後で遺留品やらから重要な物品を探し出すことを考えながら壁にもたれ掛かる<br /> 上の階からかすかに破裂音が聞こえた<br /> 鍵の閉まったドアを吹き飛ばしたのだと、少尉はゆっくりと理解した</p> <dl><dd><a id="a896" name="a896"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">896</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">ry</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:03:45 ID:???</font></dt> </dl><p>―――施設2階、上階進行隊による制圧中<br /><br /> 金属片が撒き散らされ、思いっきり鐘を打ち鳴らしたかのような金属音が、唸るように響き渡る<br /> ドアの爆破が成功し、部屋の中に押し込まれた扉が壁にたたきつけられたことを意味していた<br /> 吹き飛ばされるドアの傍らに待機していた数人の兵士が銃を構え、靴底で床を叩き付けながら部屋に飛び込んでいく<br /> 「クリアーッ!」<br /> 先頭の兵士が手を軽く挙げてそう叫ぶ<br /> 司書室のような所だったが、女が一人、血液を撒き散らすようなことをしていた、その痕跡を、部屋一面に残して死んでいる以外、そこには何も無かった<br /> 女の首にはペンが数本刺されていて、手の位置とさし方からして、自分で刺したものだった様だ<br /> あまりの光景に目を顰めながら、兵士たちはその部屋を後にした<br /> 「くそッ! なんなんだここは!?」<br /> 先頭の兵士が出た先で、また別の兵士が悪態を付く<br /> 「どいつもこいつも自殺か、あのわけの分からない死に方のどちらかだぞ! どうなってるッ!?」</p> <dl><dd><a id="a897" name="a897"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">897</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆3Dpmcw7Gkg</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:05:46 ID:???</font></dt> </dl><p>「私語をするな兵長ッ! 次の部屋を探索すれば終わりだ!」<br /> 横で周囲を警戒していた下士官が、彼を怒鳴りつける<br /> 兵長が冷や汗をぬぐって配置に戻った後は、何事も無かったかのように廊下の突き当りまでを進み始める<br /> 通路の両脇にある部屋は、病室に似ている部屋と、小さなマジックミラーと機材のケーブルでつながっている以外は壁越しに隣接する、監視部屋のようなものがセットになって並び<br /> 病院と警察の尋問部屋が一緒にでもなったかのような、どこか奇妙な雰囲気をかもし出している<br /> 無機質な壁紙と、ところどころ姿を表す剥き出しのコンクリートに塗料を塗っただけの壁<br /> つるつるとして埃ひとつ無いが、どこか小汚いと思わせる、模様とも傷ともつかないものが付いている床<br /> そしてこの部屋の様相…だが、軽くシーツなどが乱れているなどするだけで、特に不自然な点が見られない<br /> 1階はロビーのような空間と、病院のナースセンターのような場所などがあった以外、とくにおかしな部屋は無かったが、ここまで急激な変化に見舞われると、さすがに困惑してしまう<br /> そして、幾多の戦場で死体を量産し、量産された彼らですら、目を疑うほどの、奇妙な死体たち<br /> しかも急過ぎた、兵士たちは動揺を隠しきれず、気は立ち、明らかに動作は硬かった<br /> 「よし、何も無い」<br /> 無意識のうちにだろうが、一人が小さく声を出す<br /> 何も無かったのだ、ただ死体が当然のようにあり、それ以外はまったくあらされた形跡も無く、資料などが散らばっている程度だった<br /> しかしそれすらも、彼らが死ぬ際に動いたものではなく、ただ単純に“アレ”が落ちてきた際の衝撃か、付近での戦闘の衝撃などでそうなっただけのように思えた<br /> まったく抵抗どころか、苦しんだ様子も無く、椅子にもたれ掛かりながら、あるいはたったまましに、そのまま倒れこむかしている死体ばかり、事実そうなのだろう</p> <dl><dd><a id="a898" name="a898"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">898</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し三等兵</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:06:11 ID:???</font></dt> </dl><p>警戒しつつもう一度もとの場所に戻り、分隊のほぼ全員がその曲がり角に集まる<br /> ふと通路の壁にかけてある掲示板に目をやると、わけの分からないことが書き綴られた資料が掲示されている<br /> また、壁が途中から腰の高さのところまでしかない部屋があり、その中を覗くことができたが、やはりわけの分からない資料と書類、ファイルの山がある<br /> そして見慣れない景気もちらほらと目に留まり、PCの画面は待機状態になっている<br /> 「………」<br /> 兵士の一人がその書類の山の中から、日誌のようなものを拾い上げる<br /> 彼は“被験体行動記録日誌”のタイトルを確認した後、もう一度机の上に戻し、ページを開く<br /> 日付はほぼ一年前から始まっており、パラパラとめくると、一ヶ月ほど置きに、数日から数週間の間、この日誌はつけられているらしい<br /> 読んでみれば「言動」と「行動」についてまとめた物らしい<br /> 周りに目を配れば、似たようなものがいくつかあり、健康観察のそれと思わせる、カルテの山を閉じたようなファイル―――日誌もあった<br /> 記録者はID番号表記なので、死体のIDカードを調べなければ、誰が書いたものなのかは分からない<br /> 流し読みすらせずにめくっていき、記入が途切れたのでこれで終わりかと思って閉じようとした<br /> これまでの動作はほんの一瞬のことだったが、閉じようとしていてあるページを開いてしまった瞬間、その動きが止まる</p> <dl><dd><a id="a899" name="a899"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">899</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">七誌上級太陽</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:10:08 ID:???</font></dt> </dl><p>――― 年 月 日<br /><br /> 記録者 :<br /> 記録番号:<br /><br /> 状況  :<br /> 内容  :<br /><br /> 空が落ちてくる<br /><br /> 分析  :</p> <dl><dd><a id="a900" name="a900"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">900</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:23:59 ID:???</font></dt> </dl><p>…それ以外は何もかかれてはいなかった<br /> ただ「空が落ちてくる」の殴り書きだけ、それ以外に何も無かったのか、書く余裕が無かったのか、おそらくは後者だろう<br /> その前にまともに書き込まれていたページの日付を見て、彼が呟く<br /> 「アレが落ちてきた日か…」<br /> そういった直後、彼の腕を誰かがつかむ<br /> 「!」<br /> 思わずあわてて振り向いた彼の目の前に、階級が幾つか上の下士官が立っている<br /> 「どうした、慌てる所を見るとやましい事でもしていたかバーンズ上等兵?」<br /> 「いえ、軍曹殿。自分はただこれを覗いただけで―――」<br /> 弁明しようとするバーンズの肩を叩くように押して、会話をそれっきりにする<br /> そのやり取りをいらいらしながら見ていた分隊長は、自分たちが探索していた場所の向こう側の通路から走ってくる兵士の顔を見て、自分から近づいていく<br /> 「どこにも生存者はいません」<br /> 兵士は軽く敬礼をしながら、若干悔しそうに言った<br /> そういう感情を表に出させるほど、悲惨な死に方をしている者が居たと言う事だろうか<br /> 「ああ」<br /> 焦りと、あまりの状況からくる不安による興奮で、そう答える分隊長の息は、多少荒い<br /> そういった気分を如何にかしようと、ヘルメットを脱いで、軽く汗をぬぐう</p> <dl><dd><a id="a901" name="a901"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">901</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:25:26 ID:???</font></dt> </dl><p>「とにかく、この階の探索は終了だ、上の階に上がる」<br /> 「了解」<br /> 言葉通り了解し、きれいにフォーメーションを維持しつつ、流れるように配置を交代し、ポジションを確保しながら階段へと向かう<br /> 「准尉殿!」<br /> 不意の呼びかけに、分隊長でもあり、上階の制圧へ向かっている隊の事実上の指揮官である男は思わず身構える<br /> 見てみれば、階段の脇で一人の部下が控えめに手を振っているのが見えた<br /> その後ろから、いやでも気にせざるを得なかった男と、少し後ろに続いて2名の兵卒が上がって来る<br /> 「あなたは―――」<br /> 頭を抱えたくなりながら准尉は思わず説いただす<br /> 「なぜここに? いくらなんでも危険です。あなたは別に来ずとも…」<br /> 「私の仕事がある」<br /> きっぱりと言い切る男に対して、これ以上どうにも反論ができない准尉は、渋々と了解する<br /> 「わかりました。ただ、あまり一人では動かないように頼みます」<br /> 「………」<br /> 何か言ってくれと言わんばかりの表情の准尉に、一人の下士官が声をかける<br /> 「行きましょう」<br /> 「…ああ」<br /> 准尉が声を出すと同時に、兵士たちはまた先刻までの動きを再開する<br /> 准尉と取り巻き数名が動くのと同時に、男と随伴の兵卒2名も階段を上り始め、3階へと向かう</p> <dl><dd><a id="a902" name="a902"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">902</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:26:34 ID:???</font></dt> </dl><p>―――施設地下、工兵分隊による復旧作業中<br /><br /> 施設の地下に広がる空間…地下水路、もとい下水道に、工兵で編成された一個分隊が配置されていた<br /> 彼らは二手に分かれ、一方は地下室にあたる場所で各種端末と配線を弄繰り回している<br /> もう一方はと言えば、下水道を通って、セキリティの作動の形跡が無いかどうかの確認に回っていた<br /> と同時に、彼らは作動の形跡こそ無いものの、明らかに“何者か”が、そこを通った痕跡を発見する<br /> 「なんだ……?」<br /> 彼らはフェイスマスクを被り、赤外線に“敵”が写らない事と、ゴーグル越しだと、細かなものは見えないことから、片目用の暗視ゴーグルを付けている<br /> 武装はH&KのMP5PDWにサイドアームのベレッタM92F、両方ともサイレンサーが装着されていた<br /> 「足跡……ですか?」<br /> 彼らの目の先には、薄暗い下水道が広がり、戦闘の影響で明かりがろくに灯されていないため、暗さは奥に行けば行くほど増していた<br /> その地面や壁、天井―――普通は足の着かないはずの場所にも、埃や汚れ、ところによっては塗料が、人のものではない足の形に落ちている場所があった<br /> 「足―――というのが正しいのかどうかは知らんが、何かがここを通ったことは確かだ」<br /> やはり―――そう思って無線を手にしようとしたところで、分隊長はおかしな点に気がつく<br /> (なんだ?…なぜ、ここまできれいな足跡が……?)</p> <dl><dd><a id="a903" name="a903"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">903</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:27:14 ID:???</font></dt> </dl><p>泡立つ汚水から飛び散る、あるいは配管の隙間から零れてくる水滴<br /> だと言うのに、この“跡”はきれいすぎる…現に、今こうしているうちにも少しずつではあるが消えていっている<br /> それは、自分たちの足跡と同じほどの状態―――<br /> 「まだ居る!?」<br /> 分隊長ではなく、その隣に居た無線兵が大声を上げる<br /> それを聞いて、残りの分隊員はいっせいにあたりに銃口を走らせる<br /> 「戻るぞ、警戒しろ」<br /> その一言で全員が作業を投げ出し、分隊長を先頭とした2列縦隊を作って走り出す<br /> 視界の横を通り過ぎる配管やネズミの死体…そして、ねじれ、決して直線ではないものの、途切れることなく続く足跡<br /> まるで道しるべかのようなそれを追いかけ、途中まで走ったところで、彼らは何かの音を耳にする<br /> C4爆薬で金属製の何かを吹き飛ばした音―――最初はそう思い、足を止めようとはしなかった<br /> だが、明らかにその音には何かが重なっていた<br /> きっかり同時に聞こえたその別の音の発生源は、なぜか彼らの進む方向から聞こえたようだった<br /> それだけならばここまで警戒しないだろう、ただ、音の伝わる速度まで考え、きっかり同時に、重なり合ってひとつの音に聞こえるようにして、その音は鳴らされていた<br /> そのせいで、分隊員の半数以上は気がついてはいない、握りこぶしを上げ「止まれ」の合図をする分隊長を不審に思ったほどだ<br /> どう考えても、ばれないように誤魔化されている…つまり、音を出した者からして、我々にばれてはならない何かが起きたらしい<br /> その事はもちろんだが、何よりここまできれいに音を重ねるようなことが、“奴ら”以外にできようか<br /> そう考えることによって、分隊長以下数名は激しい恐怖に感情を支配される<br /> 分隊長は、隣に居る一人の兵卒にもう片手で指示を出し、ライトで前方20m程の所にあるドアを照らさせた<br /> そうして丁字路の分岐点に照らし出されるのは、壁に埋め込まれるようにして作られていた、薄汚れ、若干さび付いた鉄製のドア<br /> その先には小さな部屋があり、上に―――施設の1階に上がれるようになっていた<br /> 何もおかしな点は無い…そう思った矢先だ</p> <dl><dd><a id="a904" name="a904"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">904</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:28:03 ID:???</font></dt> </dl><p>「…な゛」<br /> 思わず息を呑み、目を見開く<br /> 「こ、これは…!?」<br /> ドアと床の隙間、その僅かな空間から、赤黒い色をした絨毯がはみ出ていた<br /> はじめから充満していたものとは異質の、鉄臭い臭気を漂わせながら、ゆっくりと這うようにしてそれは丁字路を占領し始める<br /> 瞬く間に、彼らの視界に入っている空間に、赤いラインが出来上がった<br /> 幸いなことに、彼らの歩く通路は丁字路の縦線の部分―――一段高い橋によってそことつなげれていたため、絨毯に汚染されることは無かった<br /> 分隊長は手を開き、同時に軽く「来い」の合図をして、ゆっくりと付いて来るように伝える<br /> もう何人かの兵士は、激しい震えに襲われ、銃口を、赤い絨毯の上に浮かんでいるかのような、開けてはならないと思わずにはいられない“扉”に、真っ直ぐとは向けられずにいた<br /> 数十秒、いや、数時間にも及ぶように思えた長い時間をかけ、彼らは数歩前進する<br /> 怯えながら、それでもなお危険へと進む8人の兵士、彼らの人数はそれだけだった<br /> 残りはあのドアの向こうにいるはず…どのような状態でそこにいるのかは、漠然として入るが見当が付いていた<br /> 分隊長が何度目かの、足を地面に下ろす動作を終えた瞬間、鈍い音が響く<br /> 何であるかを認識する前に、兵士たちは短機関銃のグリップを握り、ストックを肩に食い込ませる<br /> その正体はドアが開く金属音…それだけではないような気もしたが、それを考える余裕はなかった</p> <dl><dd><a id="a905" name="a905"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">905</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:29:02 ID:???</font></dt> </dl><p>「 ! 」<br /><br /> 再び「止まれ」の合図をし、銃口をドアの隙間に向ける<br /> まるで彼らの進み方のようにゆっくりと開く“扉”…その先に見えたものは、彼らの同僚であった<br /> 「カ…カールッ!?」<br /> 顔を見て確認したのではなく、向かって右の二の腕に巻きつけている十字架のアクセサリーを見ての言葉だった<br /> そういえば本物の十字架を手に入れる金もないほどの男だったな―――そんなことを思い出しながら、顔を確認しようとする<br /> 右肩が見えた、首が見えた、左肩が見えた…おかしい、顔はどこに?<br /> 通り過ぎた? 通り過ぎる?<br /> 「そんな…」<br /> 通り過ぎるわけがない、首の位置は動かない、あるとすれば<br /> 「取れてる?」<br /> 無線兵が情けない声を上げた<br /> 同時に分隊長は、あの時ドアが開く音に混じって聞こえたのはこの音だったのかと、妙にスッキリとした気分になった<br /> まるでまだ生きているかのようにカールの肉体はドアを開ききり、寄りかかる物がなくなってもその場に立ち尽くしていた<br /> 小規模な噴水のようにして血液を撒き散らすその木偶じみた死体は、嫌に滑稽に見えた<br /> どれほどその状態が続いただろう?<br /> 彼のものと思われる首がころころとやって来て、絨毯の敷かれた道から汚水の川へと転がり落ちたあたりで、ほぼ全員、口を開くこともできなくなっていた<br /> そして、死体の背後で光る“何か”<br /> それが目であることは少し考えればわかりそうな気もしたが、分からなかった<br /> 地球上の生物のそれとは違う、見たことのない目だったためではない、放心状態のためでもない、そこにそれが“在る”事にすら気がつけなかった<br /> 確かに目に映っているのに、それを意識することができなかった…まるで都市の電柱か車のように、森の中の木立のように、そこに居た</p> <dl><dd><a id="a906" name="a906"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">906</font></a>名前:<font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/04/11(金) 20:30:24 ID:???</font></dt> </dl><p>「あっ……ああぁ…!!」<br /> 一人の下士官が震える口で何かを声に出そうとする<br /> もしかすると、口に出そうとしている言葉を思いつかなかったからそんなことを言ったのかもしれない、それとも無意識のうちに、だろうか?<br /> 分隊長はそんなことを嫌に冷静に考えている自分に驚き、少しした後、冷静に考えられるほど、その声で脳の機能が戻ったことに気がついた<br /> 「う………ぁ…―――――っ!!」<br /> 誰かが、頭のない人の形をした肉の塊の、その後ろにある、“何か”に銃口を向け、続いてほぼ全員が、引き金に手をかけつつ照準を光る目を持った物体に合わせる<br /> 咆哮を上げようと、思いっきりトリガーを引こうとしたときだ<br /><br /> ぼっ<br /><br /> 妙な音とともに、カールだった物は、すっと縦に割れ、その動きについていけなかった空気の力で弾けて飛び散った<br /> 雷鳴にも似た爆音が響き、軽い衝撃が伝わる<br /> その影響で、ライトを手にしていた兵士は、思わずそれを取り落とす<br /> がしかし、残りの兵士は微動だにせず、その血と肉片が目に入ろうとも瞬き一つせず、一斉にリアサイトの中の標的に発砲し始める</p> <dl><dd><a id="a907" name="a907"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">907</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">(ry</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:31:00 ID:???</font></dt> </dl><p>「お―――おぉおっ―――ッ!!!」<br /> 「ああぁあっぁああっぁぁぁ―――――ッ!!!!」<br /> 叫び声に鈍い銃声が重なっていき、水路中に響き渡る―――遅かった<br /> その音が発砲主の耳に入り、知覚されるより先に、彼らが“敵”あるいは“撃つべき存在”だと認識した“何か”は、撥ねる<br /> 撥ねた“何か”が天井を滑るが、誰もその動きを視界に捉えることも、ほんのわずかな足音を聞き取ることも出来なかった<br /> 血と肉片が地面にたたきつけられるのと、ほぼ時を同じくして薬莢が水路に落ち、水面にほんの一瞬だけクレーターを形成する<br /> 強化装薬弾だったため、銃声は通常より激しかったが、その高音域はほぼすべてサイレンサーでカットされ、上階にまで響くことはなかった<br /> また、彼らの肉体が砕ける音も聞こえることはなかったはずだ<br /> “何か”が滑った跡を示す、熱を帯びた赤い曲線が兵士たちの頭上に差し掛かる<br /> コンマの後に零が付くのではないかと言うほどの一瞬の間に、重力も、人間の知る歩行法も無視して歩み寄って来た<br /> それは降りることもせず、天井から、細長く、伸縮性のある触手をそっと、ゆっくり―――とは言っても、人間にとっては、知覚できないほどの速度で―――近づける<br /><br /> みちゃ</p> <dl><dd><a id="a908" name="a908"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">908</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">(ry</font></a></strong>投稿日:2008/04/11(金) 20:31:20 ID:???</font></dt> </dl><p>金属と珪素で出来たその槍は、まるで羊羹に楊枝を刺すかのように、彼らの肉体へと滑り込み、何の抵抗もなく貫通する<br /> そのまま槍は、邪魔な肉を引き裂き、骨格を砕き、臓物を掻き分けて、側面からするりと、流れるように抜けた<br /> 肉体が崩れる速度がついていけなかっただけなのだが、まるでチーズをナイフで切ったかのように、兵士たちの体は、幾つかに分けられる<br /> 半秒もせぬうちに、思い立ったかのように頭は弾け、手足は胴から離れ、胴自身は内容物を内側に留めることも出来なくなる<br /> 一瞬にして握りつぶしたトマトの様になってしまった兵士たちと、ズタズタにされてしまった装備<br /> 辛うじて原型を留めている部分も、血と汚物に塗れてしまい、潰れたそれと見分けがつかない<br /> 彼らの持つ短機関銃が生み出した、何十個目かの薬莢が落ちるのと同時にそれらは壁や天井に叩き付けられた<br /> 一部霧状にまでされて吹き付けられた赤い液体に、下水の一角は完全に隙間なく塗装される<br /> 運良く水路に転げ落ちなかったライトは、その光景を照らし出すスポットライトへと、その役割を変えてしまう<br /> 今まで動いていたすべては壊れ、かすかな血の滴る音をかき消す、水の流れる際のそれだけが響き渡る<br /> 工兵たちを皆殺しにした“何か”も、一切の音を出さずにそこから消え去っていた</p> <dl><dt><a><font color="#0000FF">959</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/05/24(土) 20:15:53 ID:???</dt> </dl><p>―――地上3階、隔壁爆破<br /><br /> 重たかった<br /> 発見される危険を冒してまでキログラム単位のC4を使い、ロックを開けたほどの金属製の扉なのだから当然だが<br /> よほど大事なものがあると、ほぼ全員が見ていた、「どうせ今までのものは余興だろう」と言うことくらいは薄々感づいていたのだ<br /> 病室があって、看護婦の死体があっても患者の死体が無い廃病院なんぞ、そうあるものではないだはずだ<br /> 24人の兵士が丁字路で、立ちながら、膝を付きながら、匍匐しながら、少しずつ拡大する隙間の向こう側に、銃口を合わせていた<br /> それともう6人、彼らは扉を必死に引き開いている<br /> 残りの兵士は周辺を警戒するか、無線機を弄繰り回していた<br /> 中に何かあったら、犠牲になるのは自分たちだと、気が気でない6人の下っ端―――階級・人間関係の両方において―――は、慎重に力をかけていく<br /> 隙間が人間の身長ほどになったところで、中に危険なものはないととりあえず気が付き、静かに胸を撫で下ろす<br /> 「…行け」<br /> 隙間が倍ほどになったところで、少尉がそう声を出す<br /> 軽く頷いて、4人1班がゆっくりと動き出す<br /> 〈内部に侵入…〉<br /> 隙間を通り抜けたところで、先頭の二人が左右上下を見渡し、警戒<br /> 残りの二人がゆっくりと前に進み始め、入り口のところで周囲を警戒している二人の肩を叩く<br /> これを受けて、その二人も、上半身の姿勢を固定したまま、先頭の二人に続き、奥へと進む<br /> 少し行って曲がり角に到着すると、動きを止め、膝を付いて後続を待つ<br /> それを見て、扉を必死に開いていた6人の兵士が、先に行った4人よりも若干大きめの足音を立てながら駆け出す<br /><br /><br /><a id="a960" name="a960"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">960</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/05/24(土) 20:16:19 ID:???</font></dt> </dl><p>〈異常なしです…〉<br /> その声を聞いた少尉は、さらに後続2名を出し、様子を見る<br /> 内部に進む、ちょうど1個分隊相当の兵士たちは、この金庫の中かのようなエリアをくまなく見渡す<br /> ちょうど十字型に通路があり、左右の通路は、自分たちの進んできた前後―――縦の通路の倍の長さがあり、部屋数は計8<br /> 全てに鍵がかかっていると思っていたが、一部の扉は開けっ放しになっている<br /> うち半分の中に見えるのは、今まで見てきた、囚人のいる部屋が病室になった刑務所の面会室、ないし危険な重犯罪者の尋問室と言った風体だった<br /> ただし、部屋の中の機器は数段上のもので、CTスキャン用の機械や脳波測定器のようなものまであり、警備員用と思しき、ゴム弾入りの散弾銃まで置いてあるほど<br /> 残りの半分、そういった部屋を向かい合う形の部屋は、ただの病室か官房、それに囚人監視・記録室が合わさったような部屋と、金庫室のようなものがセットになっていた<br /> それらの部屋に入り、中をすみずみまで見渡していく兵士たち<br /> そこら中に監視カメラが光っている<br /> 病室と向かい合う部屋には、すべモニター設備が整っていて、それらのカメラを通じてこの箱の中全てが見渡せた<br /> そうして行く過程で、一つ気が付いたことがある…その内のただ一室だけが、鍵が掛かっている<br /> 〈目標確認〉<br /> 〈了解。進入し、対象を確保せよ〉</p> <dl><dd><a id="a961" name="a961"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">961</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/05/24(土) 20:16:44 ID:???</font></dt> </dl><p>男の指示に基づいた、短いやり取りの後、兵士たちが間を置かずに動きだす<br /> 一人が中腰で扉のノブ側に付き、もう二人が同じようにその反対側に付く<br /> ほぼ同時に、3人が扉と反対側の壁に沿って並び、5人が二手に分かれて扉側の壁―――扉に張り付く一人と二人の後ろ―――で、銃口を扉に向けて待機する<br /> 本来、こういった隊形で突入しはしないのだが、場合が場合で、中に何が居るかは最良と最悪どちらかのみと、見当が付いているだけにこの形になった<br /> 足元の死体をどかし、ドアノブ側の兵士が、携帯端末を使ったピッキングを始める<br /> コードを接続し、ロックの開閉を制御している簡単なプログラムにアクセスし、書き換えてはいけないところを捏ね繰り回す<br /> ピッ<br /> そんな電子音が聞こえ、皮膚を通して、扉の向こう側の空気が少し抜けてくるのがかすかに感じられた<br /> 兵士が顔を見合わせ、軽く動作の確認をしあう<br /> 視線を扉に戻すと同時に、無駄のない滑らかな動きで扉を押し開き、バタバタと靴底を鳴らしながら中に流れ込む<br /> 手に持つのは回転弾倉式の自動擲弾銃と、MP5のPDWモデル<br /> 初弾は普通の銃弾ではなく、市販されているようなものではない特製のウッドチップ弾と、暴動鎮圧用ゴム弾<br /> その後に装填されている弾は人を殺せるものだが、殺意を抱く必要のないものが中に居ることを期待しているのが伺えた<br /><br /> ―――そして、中には最良の結果が待っていた</p> <dl><dd><a id="a962" name="a962"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">962</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/05/24(土) 20:17:37 ID:???</font></dt> </dl><p>―――部屋の外で周辺を警戒している兵士は水音を聞いていた<br /><br /> ぴちゃぴちゃ<br /><br /> ニューヨーク中の水道管や配水管―――建物の中のものまで当然のように砕けているのだから、そこらからずっと聞こえてきていた<br /> 当たり前のことなので、耳を凝らしはしなかった<br /> よく聴いてみれば、それには突然近くで聞こえ出した音も混じっていると気づけたはずなのに、だ<br /><br /> 気づかない方が良かったと言えば、そのとおりなのだが―――</p> <dl><dt><a><font color="#0000FF">964</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/05/24(土) 21:15:29 ID:???</dt> <dt><br /> 見るものにプレッシャーを与える、真っ白い室内、踏み込んだ兵士たちの服装は、対照的に暗色が多かった<br /> 照明の淡い光を反射して黒光りする短機関銃と擲弾銃は、そこに転がっている一人の少女に向けられる<br /> 「対象確保………居ました。魔女が一匹―――――」<br /> 安堵感を感じた矢先に、兵士たちは今まで以上にある種の恐怖を感じることとなる<br /> 恐怖とは、思考の対象に興味を感じながらも、対象が何なのか、理解できないことへの不安から来る<br /> そして、目の前にその対象が居る<br /> 最初期にして最高級の被験者<br /> 一部狂気じみた計画の最重要試料であり、それら計画に参加する狂った科学者たちに神格化すらされている<br /> 俗に被験者たちがESPの秘匿名称で呼ばれるようになった原因である、国連の政治屋たちをもって“魔女”と言わしめた少女<br /> 少佐たちの言う「何か引き付ける“者”」とは、無論彼女のことだ<br /> ロシア政府協力の元、シベリアにこの魔女を上回る適正値の被験者たちが配備されたと言うこと、それらが魔女と呼ばれていないことも聞いていた<br /> 要するに、彼女が高く評価されるのは、被験者とされるのに必要な適正値ではなく、“ESP”のほうだと…<br /> このこともあって、中尉はその脅威性を十分認識しており、部下もある程度聞かされていた<br /> 「これ、が…?」<br /> これ―――とは、無論目の前の少女のことだ<br /> 目を開けたまま寝ている…というよりは意識を失っている―――その目は影の差さない深い青、光の入った薄い藍、それこそはめ込まれた宝石のような、一切の濁りの無い色<br /> 肌の色は、度を過ぎないといった感じの色白―――長いことこうしている所為だろう、血色は悪いが、斑の無い綺麗な肌<br /> 伸ばしっぱなしにされている黒髪―――よく手入れされていたのだろう、纏まりのある髪は一つの塊のようでいて、一本一本作りこまれていた<br /> 壁に背をつけながら両手両足を投げ出して、頭をもたげているそれは、まるで人形だった<br /> 壊れた人形ではなく、箪笥の上に少し乱暴に置いてあるような、生気の有る―――どこか使い込まれた観の有る人形<br /> そんなものが、目の前に転がっていた・・・</dt> <dd> <dl><dd><br /><br /><br /><br /></dd> </dl></dd> </dl>
<p>本編第弐話です。</p> <hr /><dl><dt><a><font color="#0000FF">786</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:20:02 ID:???</dt> <dt>・・・ロシア海軍の保有する、ただ一隻の原子力空母―――もっとも事実上、というだけで、その艦種は重航空巡洋艦となっていた<br /> それが、ベーリング海という、構造体攻撃とはあまり関係のない海域に、巡航ミサイルを発射可能な艦艇を引き連れて出現していた<br /> それに迷惑する一部の人々がその動きに気がついたころ、ほとんど形だけのIUEITA本部にある、使われることの無い一室を借用し、全権委員たちが集まっていた<br /> パソコンの起動音と同時に、真っ暗な部屋の中にいる、数人の人間の体が、ゆっくりと浮かび上がる<br /> 全員、それなりに年を食っているようで、腕には皺がある者も多い<br /> 「―――聞いたか?」<br /> 「ああ、聞いたよ、こりゃまた大変なことになってきたらしいな」<br /> ようやく薄暗くなった部屋の中で、スーツに身を包んだ数人の男たちが壁に寄りかかったり、机を石にしたりしながら、思い思いの姿勢で楽にしている<br /> 不思議と椅子に座っている人間はいなかった<br /> 「佐藤……だったか? 異例だからな、あの男は」<br /> 長身の男が、ネクタイピンの位置を微調整しながら、その発言に賛同する<br /> 「まぁな―――執行官と委員を兼任。しかしなんと言っても身元が確りとしているんだ、血が繋がっていないと言っても、家柄だとかで親戚が相当数―――」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a787" name="a787"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">787</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:20:32 ID:???</font></dt> <dt>「妹もいるとか言っていたな」<br /> 低い声で要らぬ補足しつつ、組んでいた腕を解き、さらに話を続ける<br /> 「そのしっかりとした身元を作ったのは、あの男自身というよりも、日本政府のほうだろう、ゴーストを作るのは逆に向こうだと面倒だとかで」<br /> 「もっとも、そもそも異例なのが日本政府だからな―――」<br /> 吐き捨てるように言ってのけた割には、あまり悪意の感じさせない言葉が続く<br /> 「―――中国政府の穴埋め…もとい、中国政府より必要だったから日本政府が加わっているわけだが…」<br /> 話が脱線していることに気がつき、壁に寄りかかっていた一人が声を出す<br /> 「そろそろ本題に戻ろう」<br /> 壁に寄りかかり直して話を続ける<br /> 「あの男が異例だとか、そんなことはどうでもいい……やつのやろうとしていることが問題だ」<br /> 「そうだな、まだ“D”計画の続きをやろうとしている」<br /> 「その通り…」<br /> 感情がこもった声ではなかったが、多少怒りの成分を含んでいるようだった<br /> 「どれだけの予算を捻出することになったことやら……それだけならまだしも、代償が大きすぎる<br />  マンハッタン島どころか、全世界にひろがるネントワークに高度な電子機器。軍民間の衛星に、これでもかという人類側の情報とを引き換えにしたんだ」<br /> 「そして得られたものは何も無い」<br /> 「そうでもない、審判の結果は聞かされていないが、どうやら彼らのほうは裁定をすでに下したらしい」<br /> 少し笑いながら諭すような声を出した男が、持参したノートパソコンの操作を行う<br /> ディスプレイの明かりに照らされて見えた彼の顔は、どうやらラテン系の人間らしい<br /> 「後は彼…彼ら、というべきか―――の進めている、“A”計画の具合にもよるが、“D”計画の続行はある意味必要だろう」<br /> 「……あの連中がいっていたことを知っているか?」<br /> 「なに?」<br /> わざとらしく間をおいて話し始めるので、聞く方の男はもう一度パソコンに向き直っていた<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a788" name="a788"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">788</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:21:47 ID:???</font></dt> <dt>「曰く―――この仕事に宗教的な考えだとか、哲学的な考えだとかを持ち込むと、どうも面倒な方向に転びそう―――だそうだ」<br /> 「確かに、あの男……いや、あの連中はそういう方向に肩まで浸かっているな」<br /> 悪そうな笑みを浮かべるが、悪意はないようだった<br /> その証拠に、次には肯定的な台詞を吐く<br /> 「だが、そうでもしなければ仕事にならんだろう、あくまでやつらに勝つために、そういう趣向のシナリオも用意している……そうでもしなければならない相手だ」<br /> 「経典の類の内容を再現してくるなどという馬鹿な真似をするとすれば、それは奴らの方だ―――」<br /> 黙って話を聞いていた別の男が、年のためかしわがれた声で忘れかけていたことを掲示してみせる<br /> 「―――我々と学者連中が、この一年足らずの間に導き出した仮説にのっとればな」<br /> EIEやIUEITAなどの各種機関が公に創立される前から、空から降ってくるであろう存在を感知していた国連<br /> そして、それらが地球に及ぼした微弱な影響や、その行動を下に、その目的やそれ以降の動きを、ある程度予測しておく必要があった<br /> 実際に落ちてくるまでは何とも言えない状況ではあったが、その予測が現実となりつつある現状を前にして、この男の声もこわばる<br /> 「……もっともだな、大体、仮に目の前に本物の神が降りてきても、跪くことすらしないような人間しか、この仕事には参加していないことだし」<br /> 嫌味の様にも聞こえなくなかったが、本人は自身の言葉を他人がどう受け取るかよりも、襟元の形が気になるらしい<br /> 第一、彼の言うように、宗教を信じているというだけでこの役職につくのは難しかった<br /> 「まったく……映画に出てきたような科学技術に頼るエイリアンたちが、地球を焦土にして去っていくほうがずっと楽だというのに…」<br /> 「あれは神だよ、能力的にも性質的にも、そういって差し支えないのだ、くそ!」<br /> 明らかに何かを危惧するといった声で、必死とも取れる内容の文章を吐き出す<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a789" name="a789"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">789</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:22:21 ID:???</font></dt> <dt>「神か…計画の秘匿名称の由来事態、相手が神だと認めているようなものだな」<br /> 「アメリカのな……キリスト教徒といい、イスラム教徒といい、どちらも邪魔ばかりする」<br /> 「仏教は?」<br /> 「さあな―――敬虔な仏教徒というのを見たことが無い」<br /> 「そういう意味では、“A”計画という秘匿名称……というか、あれは計画の意味そのままか」<br /> まだ続けようとしたところで、別の誰かが代弁する<br /> 「確かに、宗教的なものは感じさせないな」<br /> 「“控訴者達(Appelat`s)”計画か……案外、あの連中ならどんな判決が下ろうとも、不服としないかもれないな」<br /> それをまた誰かが笑う<br /> 「元から我々は、どのような判決が下ろうとも、控訴なんぞする気はさらさら無い」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a790" name="a790"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">790</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:23:11 ID:???</font></dt> <dt>「計画名が“最後の審判(Doom)”だしな、誰がつけたんだ、こんな名称?」<br /> 本当に不思議そうな声を上げる<br /> 屈み込んだせいで、彼の浅黒い顔がパソコンのディスプレイに照らされる<br /> 表情は特になかった<br /> 「仮説が正しいとしたら―――おそらくは、そのとおりなのだろうが―――やつらの行動は絞られてくる<br /> 「となると、場合によってはこちらの攻撃への報復を行い、最悪全面核戦争による殲滅戦もありうるが―――」<br /> 続けようとしたところで、パソコンの前の男が口を開く<br /> 「それは無いだろう、彼らが火器を持ち出さなかったことがそれを証明している」<br /> 「ただ可能性は十分にある」<br /> 「とりあえず、アメリカとロシアを捨てて様子を見ることになったが―――」<br /> やるせない表情を見せる数人の同僚の顔を見て、多少言葉にオブラートをかぶせればよかったと後悔するかのように、一瞬口を閉める<br /> 「―――とにかく…まぁー、忙しくなるな」<br /> 結局曖昧な言葉で締めくくって次の人間に発言権を譲る<br /> 「国連軍の類があればいいんだが」<br /> 「国連軍? そんなもの無い方が良いさ、あったら“戦争”だ!」<br /> ポケットから手を出しながら、一人の老人が声を荒げる<br /> それに驚くことすらしない委員たちは、諭す風でもなく、呟くように話を進める<br /> 「安心しろ、これは戦争ではない、それは何も知らない連中がやることだ」<br /> 「不謹慎かもしれんが、我々がするのはただのゲーム。ルールは簡単、有るのは勝利条件のみ!」<br /> 若干誇るような口調で喋る<br /> 表情もそれに合わせて変化しているのだろうか?<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a791" name="a791"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">791</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:24:10 ID:???</font></dt> <dt>「その勝利条件も簡単だな、人類という駒が“残って”いれば良い」<br /> 「そのあたりは専門外だがな、我々の仕事はあくまで国家の総意を動かすことだ、どういうことをやるかは連中が決める」<br /> 「にしては、やつら自身、忙しなく動き回っているがな」<br /> 要するに、お互いの領分を互いに侵しあい、いざこざを繰り返していることに他ならない<br /> 人類が一致団結するなどという妄想は、彼らの脳に欠片も無いのだろう<br /> 「兵隊の数はこちらの方が圧倒的だが、イリーガルの数においては向こうが多い」<br /> 「奴らについても連中のほうがよく知っている、我々は所詮政治的なもの―――それも、人類同士のことに関してだ」<br /> 人と人との関係が、その共通の敵である者たちと人類の関係よりも、遥かに複雑で解きにくいものだ<br /> そう言いたげな彼は、ここに敵が干渉してきた場合のことを考えてか、憂いの表情を浮かべる<br /> 「あいつらに政治も何もないだろう」<br /> 「そう願いたいものだ」<br /> 「いっそのこと、全面戦争のひとつでも起こしてくれればよかった」<br /> 「勝てるなら良いが、どうせだったら出来るだけ機会が多いほうが良いと思うがね」<br /> 嬉しそうに脈動する声を聞いて、腹を立てたように低い声が聞こえる<br /> 「ギャンブルではないぞ、政治とは」<br /> 「政治じゃないだろう、これはむしろギャンブルに近いゲームだ、例えるならポーカー。ワンペアであがっても良いし、一思いにきってしまっても良い」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a792" name="a792"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">792</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:24:46 ID:???</font></dt> <dt>しばらく誰も口を開こうとせず、妙な間が続く<br /> 「………ワンペアすら出来ていないのが現状だ」<br /> 「というより、カードすらない」<br /> 「配られていないのか、配られたのに無いのかすらわからんが―――」<br /> 「急ぐ必要があるな、計画はやはり続けるべきだろう」<br /> 一瞬の沈黙<br /> しっかりとした議場でも起こり得るのに、まして議長のいない話し合いの場では、当然のように訪れるものだ<br /> 「決を採ろう」<br /> ノートパソコンを片付けながら、男が声を上げる<br /> 「計画続行を黙認するか、アドミラル・クズネツォフを動かすか……」<br /> この程度の会話を済ませただけで決を採ってしまうなど、全権委員と言えるのだろうかなどと考えるものもいたが、あくまで確認程度の意味合いしかない会議だった<br /> 「動かす必要はないだろう」<br /> 少しの間もおかず、前者に賛同する声が上がる<br /> 「だな、黙認すべきだ」<br /> 「空母を動かしたところで、フランスの一件と同じことになるだけだ」<br /> 「ヤクーツクで何かがあっても、奴らがすべて消してくれるだろうし、その後に続く核攻撃の影響もある―――」<br /> 「何も漏洩しはしない―――か…その通りだな」<br /> 「前者に賛成する」<br /> 「私もだ、黙認しよう」<br /> 「ははは、いっそのこと協力してみればどうだね?」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a793" name="a793"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">793</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:25:08 ID:???</font></dt> <dt>ふざけ半分の声だったが、決を取っていた男は生真面目に答える<br /> 「彼はそのうち嫌でも日本に帰ることになる、その間は我々がことを進めよう」<br /> 肩をすくめて見せ、すぐに全員が目礼を済ませてろくにない荷物をまとめるか、服装を正しつつ、扉へとゆっくり歩き出す<br /> 国連に設立された、人類最高意思決定機関の試作品、その基幹を担うはずであった中国を除く常任理事国と先進各国から選出された全権委員<br /> 本来その直接管理下に置かれ、その手足となるはずであった執行官と各種機関<br /> わずか一年足らずの間に計画され、ほんの数日で組織されたこれらの機関は、国連という枠組みをはずれ、各々の意志で動き始める<br /> 人類の為に―――その意思は共通のものではあった<br /> だが、どのような手段を用いるべきか、それは必ずしも一致してはいなかった<br /> そして、一部の機関の動きが、別の機関にとっての、公意義で言う敵となりうる要素であることは明白となりつつある<br /> だが、宇宙からの来訪者の動きよりも、それが味方と呼ぶに近いものであることも明白であった<br /> 人類の為に―――いったい何が最良の選択となりうるか、何のために其れを成すか、それすら未だ決めかねられている<br /> 彼らはそれぞれの思惑と、そういった個人の感情よりも優先される、それぞれの仕事を抱えて、会議室を後にしていった<br /> 問題なのは、保存か保管か現存か…はたまた存続か―――<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a794" name="a794"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">794</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:26:05 ID:???</font></dt> </dl><p><―――盗聴終了></p> <dl><dd><a id="a795" name="a795"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">795</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:27:17 ID:???</font></dt> <dt>―――鉛色の空から、大粒の水滴が地面に向かって叩きつけられて来る<br /> もはや車どころか、人通りすら殆ど見なくなったアメリカ合衆国の首都近郊は、軍用車両が時折姿を見せるだけの、ゴーストタウンといった様相を呈している<br /> 「録音は終わりましたか?」<br /> 車の中はいたって静かだった<br /> 運転手も乗客もスーツ姿で、どこかの会社の重役と、それを運ぶ取引先の人間を思わせた<br /> 軍用車両の中であることを感じさせるのは、せいぜい併走している装甲車の姿程度だろうか<br /> 「いいのですか? 公式のものではないといえ、全権委員たちを盗聴するなど―――」<br /> 「いいんです。もとはといえば私も全権委員の一人ですし、なまじ、佐藤を名乗っているのだから会議の内容を聞かせてもらうくらいは…」<br /> 「盗聴はそれ自体が罪を問われますが」<br /> 「…相原君」<br /> 「盗聴は警視庁勤務のころに君もやってたでしょうに、偉そうな事言わないでください」<br /> 「………」<br /> 佐藤がイヤホンを外して車に備え付けられている受信機に戻す<br /> 「それで、どう致しますか、盗聴器の回収は―――」<br /> 「いえ、必要ないでしょう……彼らは分かっていて盗聴器のチェックをしていないんだ」<br /> 「はぁ……」<br /> それでも心配でしょうがないといった表情の熊谷を横目に、佐藤はなにやら携帯をいじっている<br /> 「―あっ、どうも……久しぶりです。暫くしたらそちらに……おや、もう準備は終わった。それはまた………では後ほど―」<br /> ピッという聞きなれた電子音を最後に、誰も口を開かなくなる<br /> 佐藤は電話の内容を反芻しながら、なにやら考え込み<br /> 相原は黙ったままノートパソコンのディスプレイを眺めこんでいる<br /> 熊谷はといえば、ハンドルを握る手以外、微動だにしない<br /> 「―――あ、熊谷君…そこらへんの売店か自販機で、缶コーヒーとサンドイッチか何か買って来て下さい」<br /> 「申し訳ありませんが……開いている店を探すこと自体が至難かと」<br /> 別段残念そうでもない表情の佐藤だったが、いやな予感がするといった風の熊谷の反応は無駄にはならなかった<br /><br /> 「ドーナッツでもいいので探してください、まだ便が出るのに時間はあるので」<br /><br /><br /></dt> <dd><a id="a796" name="a796"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">796</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:43:06 ID:???</font></dt> <dt>これまでのおさらい<br /><br /> ―――宇宙から何か落ちてきて困ってる<br /><br /> 全権委員`s、ジャックとヨシュアの皆さん→「もういい加減面倒くさくなってきた」<br /> 人類最高意思決定機関(仮名すら無し)→「その本来のたいそうな名前も、最初から最後までお飾り」<br /> 佐藤→「こんな仕事になるはずじゃなかったorz もう帰りたい9<br /> 執行官`s+書記or秘書官`s→「右に同じ」<br /> 教授`s→「研究はしたい」<br /> 国家元首`sと愉快な仲間たち→「○○国が…我々の祖国が……」<br /> 軍人→「敵は宇宙人だ!」<br /> イレギュラーな軍人→「人間の敵は、所詮人間だ!」<br /> イリーガルな軍人→「この捕虜って人体実験に使うらしいよ」<br /> 被験者のみなさん→「私は何か…されたようだ……」<br /> EOLT(低度個体)→「………」<br /> EOLT(高度個体)→「―――」<br /> EOLT(高度すぎて人と話せる個体)→「……話す相手すらいませんね」<br /> OMNI(製作者)→「   」<br /> 神様→神は沈黙するのみ<br /></dt> <dt><br /></dt> <dt><a><font color="#0000FF">797</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 15:52:46 ID:???</dt> <dt>組織構成<br /><br /> 「   (名称無し)」<br /> ↓        ↓   ←上がないので、委員会と国連は=じゃない<br /> 「全権委員会」「国連」<br /> ↓        ↓   ←全権委員は実際この辺、国家の代表程度<br /> ↓       「国家」<br /> ↓            ←このあたりに執行官その他<br /> 「各種計画推進機関」←頑張る<br /> ↓<br /> 「末端機関」      ←名前すらないのにとてもよく頑張る<br /><br /></dt> </dl><p><a id="a798" name="a798"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">798</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 16:03:36 ID:???</font></dt> <dt>役職<br /><br /> 全権委員:偉いことになってる人たち、国家とすっかり仲良くなった国連の人なので権限は絶対。一番多い苗字or名前<br /> ジャックとヨシュア:国連のリモートコントロール型手足。聖書に由来したりと、凝った偽名<br /><br /> 執行官:特務から一般まで、いろいろな人間の自立型手足、よく勝手に動くので迷惑この上ない。偽名、佐藤さん<br /><br /> 政府首脳部:一番可哀想な役職。実際の名前を捻るor適当、たとえばエドワーズ大統領→エドワード大統領<br /> 軍上層部:一番犠牲者が出る役職。実際の名前を捻るor適当<br /><br /> 書記・秘書官:執行官専属の部下、最低一名で通常は二名付く。偽名、相原や熊谷、命名規則は特に無し<br /> 教授:執行官などとつるんでいろいろと頑張る人たち。偽名、命名規則は特に無し<br /> 担当官:各種事件や計画にくっ付いて来る。偽名、種類によって命名規則が存在<br /> 事務官:事務担当の割には現場へ出張ってくる。偽名、命名規則はあってないようなもの<br /> 武官(?):そもそも全員がこれみたいなもの、下っ端で使い道の少ないSP。名前を呼ばれることすらない<br /><br /></dt> </dl><p><a id="a799" name="a799"></a></p> <dl><dt><font color="#FFFFFF"><a><font color="#0000FF">799</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2008/01/27(日) 16:09:16 ID:???</font></dt> <dt>マルタンは全権委員、チャーリーはエシュロン担当官<br /> 佐藤は外務省出なこともあり、何かの手違いで委員と執行官を兼任、国家と国連の両方に振り回される<br /><br /><br /> そんなところ<br /><br /> 役人根性とは言っても、この状況を前にラリっている感は否めない<br /></dt> <dt><a><font color="#0000FF"><br /></font></a></dt> </dl>

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