獲得とは、ヒトのこどもが自然に言語を話せるようになること。「言語を獲得する」という。自然に、というのがポイントで、大人になってから勉強してできるようになることは獲得とは言わない。学習とか習得とか言う。この獲得と習得は、全然違う。まず私達が勉強して外国語とかを習得する経過を見てみると

発音練習をする
単語を暗記する
文法事項を暗記する
例文を暗記する
練習問題をとく

という、涙ぐましい努力が必要だ。一方、こどもの言語獲得は違う。

一番違うのは「文法事項云々」で、こどもには「これの文法はこうで、こうして、こういうことになる」なんて説明をしない。文法事項一覧表を見せるわけでもない。こどもが耳にする言語には限りがあるし、こどもが何か間違えてもまわりが必ずしも訂正してくれるわけではない。それでも獲得できる。それは、私達ヒトの頭の中に「言語器官」という言語を創り出す器官があるからだ、と考えられている。

発音練習は、やっぱり発音の仕組みを説明したりはされない。しかし生まれてから1歳くらいのこどもが発するバブバブ言うやつ(喃語 なんご)とかその後の過程で発せられる声は、一種の発音練習(あるいは発音の調整?)であるとも考えられている。

単語や例文の「暗記」は、少なくとも私達が受験勉強のためにした「暗記」とは違う。ただ「覚える」ということは行われている。言語獲得を行っている時期のこどもは、スポンジが水を吸うようにいろいろ覚えていく。

しっかり覚えて、慣れるために練習問題をとくということはしない。覚えたものが正しいか確認するために練習問題をとくということもしない。しかしこどもは実際に獲得している最中の言語を使うことで慣らし、修正を加えている可能性もある。



そういうわけで、こどもが母語/第一言語を獲得する過程と、大きくなってから第二言語や外語を勉強するのはだいぶ違う。しかし、だからといって

①こどものうちに色々な言語を聞かせておけば楽にマルチリンガル(多言語話者)になれる
②おとなになってからの勉強も、こどもと同じように勉強するのがいい

とは言い切れない点にも注意。

①マルチリンガルにするためには、継続的にその言語を維持させる努力も必要。フツウの生活の中で「色々な言語を聞く」環境を維持するのは、楽なことではないはず。

②「こどもが言語を獲得するように、言語を勉強するのがいい」という言語教育方法もあるにはある。でも、やっぱり全く同じようにとはいかない。どうしてもおとななら文法事項の解説を読んで理解したり、せっせと暗記したり、そういう作業が必要。むしろそういう作業をしたほうがスマート。



ちなみに、何歳までに言語が獲得できるか、という問題も微妙。若ければ若いほど言語は容易に獲得できる、というのはある程度確かだけれども、それは本当に「獲得」なのか、楽なのかはよくわかっていない。
こどものほうが早く言語を覚える理由は

おとなみたいに忙しくない
おとなみたいに遠慮しない
(おとなだと恥ずかしがったりして、積極的に言語を使おうと出来ない人もいる)

みたいな事情もある。これは頭の中の言語器官がどうのこうのという問題ではない。

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最終更新:2013年06月15日 10:50